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評論(56)

LV3「2050年のわたしから」

金子勝著/講談社/1200円

2050年のわたしから
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副題が「本当にリアルな日本の未来」。イラスト:ヤマザキマリ。

2005年における現実の統計を使って、その平均的傾向をグラフ上でずぅっと2050年まで延長してみるとどういう世界になっているか、ということをシミュレーションした本。だから少子化もこの減少率を保って45年続くので、0.11になっている。巨人戦の視聴率は0%。国民年金の納付率は20年前にゼロ。大卒就職率ゼロ。農家もゼロ。商店街もゼロ。日本は落ちぶれきり、アメリカも落ちぶれ、中国がナンバーワンの世界…。

もちろん単純計算なのでありえない数値なのだが、この本では2005年に20歳である主人公を狂言回しに2050年の社会をわりとドラマチックに報告しているので、意外とリアルで怖いのだ。

第三章では、そうならないための逆シミュレーションもしてくれる。第四章では著者の論説も展開されている。だから救いもあるし、読み終わると「あぁ脅かして安心させて自説を主張するプレゼン・パターンね」と気づくのだが、でもまぁこのうちのいくつかは本当にそうなってもおかしくない感じではある。

意外とさらっと読めてしまって物足りないが、現代日本について問題意識をわかりやすく持つためにはなかなか良い本。頭を整理し、問題点を絞るのに有益。

2007年3月17日(土) 18:02:52・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV5「木を植えよ!」

宮本昭著/新潮選書/1100円

木を植えよ!
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名著「魂の森を行け」で半生と生き方とその活動を丹念に描かれた宮脇昭が書いた本である。

その破格な人生、そして切実なる森への想い、鎮守の森を守る活動など、実は「魂の森を行け」を読んだ方がよくわかる(感想はこちら)。まだ読んでない方はそちらを先に読んだ方がよい。で、「魂の森を行け」を読んだ人は100人が100人、宮脇昭自身の言葉に触れたくなるであろう。そういう意味ではTOO MUCHなほど触れられるこの本は貴重だし、欲望を心底満たしてくれる。

過激な題名を持つこの本は、哲学や提言というより実践的プロモーションな本である。
とにかく四の五の言わず木を植えよ。理由と背景はこれこれだ。木の選び方はこれこれだ。やり方はこれこれだ。「そんなこと自分では難しい」と思っている人にはこういう方法もある。とにかく植えよ。すぐ植えよ。と、畳みかけてくる。その畳みかけの激しさはちょっとウットリくるほどだ(文章が激しいというわけではない)。

「ヒトは『森の寄生者』の立場でしか、持続的には生きていけないのです。これは、人類が地球上で生き延びる限り永遠に続く冷徹な事実なのです」

……この言葉に少しでも引っかかる人は必読だ。

2007年2月 8日(木) 19:24:12・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界 , 教育・環境・福祉 , 実用・ホビー , 評論

LV2「他者の苦痛へのまなざし」

スーザン・ソンタグ著/北條文緒訳/みすず書房/1800円

他者の苦痛へのまなざし
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大雑把に言えば、戦争写真論である。
戦争の苦痛と戦争写真によって伝えられる映像の苦痛、その直接性と間接性の差に起因する様々な問題を具体的な写真例を取り上げながら(本書に写真は一枚も載ってないが)論じていく。スーザン・ソンタグの論はチョムスキーなどよりも読みにくいという印象があったボクだが、この本はわりと平易でわかりやすかった。ただし、比較的当たり前な論の展開だなぁと思ったのも事実。ひとつひとつ命題をつぶしていっているあたりは、きっと必要なのだろうけど、一般読者としてはわりと退屈かもしれない。

第五章で指摘されている「アメリカに奴隷制の歴史博物館がないのはなぜか」「写真を見ることでわれわれが攻める権利をもっていると信じている対象は誰なのか」というあたりの論展開、そして第六章の、死体や暴力を受けた肉体、苦痛の映像などが性的興味を喚起するという出発点からの論展開が興味深かった。

というか、この本の秀逸な部分はその題名が大きい。いい題名だなぁ。原題は「Regarding the pain of others」。

2004年1月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV3「永遠の文庫〈解説〉名作選」

斉藤愼爾編/メタローグ/2000円

永遠の文庫「解説」名作選
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ボクたちが中学生高校生だったころの文庫が手に入らなくなってきた。
つまり30年くらい前の古典的文庫群。もちろん小説は再販されたりしてこれからも生き残っていくことが多いだろうが(絶版も多いだろうが)、痛いのは、再版されると解説も変わること。文庫にはさまざまな名解説がある、名文がたくさんあるんだけどなぁ…などと思っていたら奥さん! こんな本が出たですよ!

この本はその「文庫の解説を取り上げた」という切り口がすばらしい。実際に読み始めると、わりとマニアックな小説を取り上げているので鼻白む部分もあるのだが、さすがに選ばれているだけある名文揃い。評論上級者が本編に負けないように書いているせいか、迫力すら感じる。そしてなんだか学生時代の向学心まで戻ってくるような懐かしさすら感じた。

向田邦子の「父の詫び状」を解説する沢木耕太郎や、池澤夏樹の「スティル・ライフ」を解説する須賀敦子、野坂昭如の「エロ事師たち」を解説する澁澤龍彦など、聞いただけで読んでみたいでしょ? 解説とはそういう名文がいっぱい溢れている宝庫であることをわからせてくれるいい本なのである。

2003年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV2「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」

村上春樹・柴田元幸著/文春新書/740円

翻訳夜話2 サリンジャー戦記
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うーん。前作の「翻訳夜話」でお腹いっぱいかな、ボク的には。あっちの方が数倍面白かったし、知的興奮があった。

今回は「サリンジャー戦記」ということで、村上春樹が訳した「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の訳出裏話になっているのだが(他にもサービス原稿いっぱいなのだが)、なんだか(厳しく言えば)言い訳と苦労話と自慢が感じられてちょっと鼻についてしまった。著者は両者ともに尊敬しているボクだが、これは蛇足だったのではないかなぁ。「キャッチャー」に(著者との契約で)訳者あとがきを載せられなかった村上春樹が、せっかく書いた原稿の行き場を作りたくて対談もつけてしまった、みたいな見方すらしてしまうボク…。

もちろんサリンジャーマニアなボクだし、著者両者ともに好きなので、内容自体を楽しまなかったかと言われるとウソになる。
あぁこういうことだったのか、とか、なるほどなるほどー、とか、でもさぁ、とか、いっぱいあって十二分に楽しんだ。でもね、やっぱ蛇足だと思うのです。柴田元幸も、村上春樹を前にすると妙に軽薄でイヤ(笑)。つか、好きな素材が揃いすぎていて、なんか気分的に天の邪鬼になってしまったかも。そんな複雑な気分デス。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論 , エッセイ

LV5「一九七二」

坪内祐三著/文藝春秋/1800円

一九七二―「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」
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著者に指摘されるまで意識もしなかったが、確かに1972年というのは時代の変わり目だ。前書きにも書いてあるが「はじまりのおわり、であり、おわりのはじまり」なのだ。ここまで顕著に時代の境目ってあるのね、とまずそれにビックリした本である。

1972年に何があったか、例をいくつか上げよう。
札幌オリンピック。連合赤軍浅間山荘事件。横井庄一グアム島で発見。沖縄返還。佐藤栄作引退。田中角栄「日本列島改造論」発表。「四畳半襖の下張」発表。日本プロレス中継終了。「ぴあ」創刊。日中国交回復。カンカン・ランラン到着。ローリングストーンズ幻の初来日。森昌子新人賞……まぁ詳しくは本書をお読みいただくとして、これらひとつひとつの事件がすべていろんな事象の境目になっているのである、という分析を細かく緻密に著者は書いていく。
それらがこじつけに感じられないのは著者の筆力のおかげでもあるのだが、実際そうなのだろうと納得が行くもの。1972年あたりに中学高校大学を過ごした人たちには実感をもって「あぁ、あそこが曲がり角だったのか」と肌感覚でわかることだろう。個人的には浅間山荘前後の記述の掘り下げ方が少々くどいもののいろいろ発見があって面白かった。

ちなみに坪内祐三の本は読後感がいつも尻切れトンボである。
彼自身三部作と言っている「靖国」「慶応三年生まれ七人の旋毛曲り」そしてこの「一九七二」もその感があり、厚さを倍にしてもいいからキレイに満足させてほしいと読後に思った(この本も400ページ超でいい加減長いのだが)。きっと著者としても収拾つかなくなっちゃうのだろう。テーマも素材も膨大ゆえに。

2003年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 評論

LV5「魂の自由人」

曽野綾子著/光文社/1500円

魂の自由人
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たまに曽野綾子が読みたくなる。
真面目で平明で敬虔で、そしてあくまでも自由なその言説を、たまらなく読みたくなる。そう、彼女の魅力は何ものにもとらわれまいとするその自由な精神なのだ。などと思っていただけに、その魅力をひと言で言い切った題名の本を書店で見つけたらそりゃあ買うのである。この本は「魂の自由人」であるために、どう生きていけばいいかを著者が丁寧に説いた平明かつ有益な本である。

いわゆる「生き方を書いた本」についてはボクはわりと眉に唾つけて読むタイプなのだが、どうも曽野綾子とは相性がいいらしく、とっても共感する部分が多い。特に今回の本は、目新しい言説はないのだが、自分の不自由さに窒息しつつあった状況にもはまり、とても感じるものがあった。短いエッセイだが、熟読玩味していかにして自由を獲得するかをしっかり考えたい一冊。

2003年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV4「最後の波の音」

山本夏彦著/文藝春秋/1600円

最後の波の音
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しつこくイジワルに(でも目は笑って)世の中とは人間とはをボクたちに教えてくれていた昭和のおじいさん、山本夏彦が2002年10月23日に87歳で死去した。著者の本は近年のものは結局ほとんど読んでいるのかな。これはその最終作。癌と闘いながらの執筆であった。

近年の作品をだいたい読んでいるヒトには「はいはい、そのお話もすでに伺いました」 が多い本。
それはここ数年の出版作には常につきまとっていたお約束みたいなものなので特に不満はない。それを承知で買っているし、しつこいジジイというスタンスを楽しんでもいたから。と、思っていたら巻末にそういうしつこさは「寄せては返す波の音と思え」とあった。そうか……でも、しつこく寄せる波の音は、もう二度と聞こえない。こんなに淋しいことはめったにない。淋しさのあまり彼が通ったという銀座の「Jolly」に行って酒を何度か飲んだ。でも波の音は聞こえない。

最後に、著者から学んだことの最大は「ふまじめ」ということだとボクは思っている。誤解を恐れず、自分の中だけでのまとめを言えば、著者の言説はこのひと言に集約されるとさえ思う。これからも精一杯ふまじめに生きようと思います、先生。

2003年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV5「なにも見ていない」

ダニエル・アラス著/宮下志朗訳/白水社/2600円

なにも見ていない―名画をめぐる六つの冒険
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副題は「名画をめぐる六つの冒険」。
帯は「いまもっとも注目される美術史家によるスリリングなエッセイ。文献学的な方法論を越えた新しい絵画解読法を提唱する」。

うはは。文献学とか解読法とか言われるとちょい難しい専門書的な感じだ。でも絵画素人のボクでも楽しく読めたから大丈夫。なにが楽しいって「見る」ということの本質がここに書かれているから。
絵を見るのに美術史的知識もなにもいらない。そういうのを持っている人は結局「なにも見ていない」ことが多いのだ。よーくこの絵を見てご覧? ほら、こんな風に画家は描いているんだ。美術史的にはこう解釈されているが、そんなのなにも見ていない。先入観を捨ててよーく見てご覧?……簡単に言えばこういう感じ。

ボクたちはどんなことについても目では見ず脳で見ることが多い。
道端のタンポポでも「あ、タンポポか」とわかった時点で見ることをやめてしまう。もう見知らぬ花としてよーく見るという行動は起こさない。絵もいっしょ。「あ、受胎告知か」とわかった時点で見ることをやめてしまう。見ているようでなにも見なくなる。でも、そんなことではなくてちゃんと見てみる。遠近やリアリティや絵の端の風景までよーく見てみる。大画家が描いた絵でもおかしいところはおかしいと思ってみる。そうするとこんなにいろいろ見えてくる。

実はこういう態度自体が人生を楽しむコツというか真髄だったりすると個人的には思っているので、この本は意義深かった。文体が妙に気取っていて、いらない工夫とかをいろいろしているのが読みづらいが、わからないところはさっと飛ばしてでも読む価値あり。実に示唆に富んでいる。

2003年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 評論

LV5「テレビの黄金時代」

小林信彦著/文藝春秋/1857円

テレビの黄金時代
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テレビの黄金時代を主観・客観双方からきっちり眺められるのはこの人しかいないかもしれない、と思わせる著者が書いたテレビ青春記。
テレビ番組作りに濃く参加しつつ雑誌を運営し、常にテレビ界とは距離を置いていた著者だからこそ書けるテレビメディア史でもある。そしてもちろん、お笑い芸人やバラエティを見る著者の目も当代一流。そんな人が書いたテレビの本だもの、おもしろくないわけがない。

ある意味、テレビ番組発達史として貴重な文献でもあるが、ここは素直にアマチュアの集まりだったテレビ創成時代〜黄金時代を読み物として楽しみたい。特に九ちゃんを作っていく過程やバラエティに命をかけた男たちの物語が面白い。番組をどうやって作ってきたか、人間模様はどうだったのか、顧みて今のバラエティはどうなのか、など、興味は尽きない。ボクよりちょっと上の世代(リアルタイムでテレビ創成時代を見ている世代)には特にたまらない記述が続くだろう。

贅沢言うなら、写真をもう少し入れて欲しかったかな。シズル感が全然違っただろう。1857円という定価だもの、写真くらい欲しい感じ。

2003年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像 , 評論

LV5「コンピュータのきもち」

山形浩生著/アスキー/1500円

新教養としてのパソコン入門 コンピュータのきもち
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副題「新教養としてのパソコン入門」。
帯には「なぜパソコンはこんなに世話がやけるのか? コンピュータには使い方の知識だけでは片付かないもっと大事な考え方があります。それがコンピュータのきもちです」。うしし。コンピュータのきもちだって…‥おたく臭っ。だいたい入門書なんていまさら読むかいな。などと思いつつ、なぜか本屋で手にとり、ちょっと立ち読みし、すっとレジに持っていってしまったボク。

実は名著です、これ。
エッセイっぽいやさしい語り口調につられてすぅっと読みすすんでいくと、普通人でも自然とコンピュータおたくの発想法に近づけるようになっている。いや、そう、あなたはおたく発想などしたくないだろう。でも本の冒頭で「コンピュータはおたくによって作られた」という衝撃的な事実が明かされていることでわかるように、おたく発想が出来ないとコンピュータが何を考えているかがわからないのだ。永遠にコンピュータを使いこなせない。使いこなしたいなら、おたくたちがどう発想してコンピュータを作ったか、そしてどう育ってきたかを知らないといけない。知っておきさえすれば、かなりの疑問が氷解する。なかなか画期的な本なのだ。

なんつうか「アメリカ人はこういうときこういう発想をします」とかよく聞くじゃん? ボクたちはアメリカ人とつきあうとき、彼らの言語法と発想法を頭の中で整理して彼らにわかるようにコミュニケートする。そうしないと永遠にわかりあえない。それと同じような発想整理をコンピュータに対してもしてやろうということ。よりコンピュータとのコミュニケーションがスムーズになってくる。トラブル・シューティングの時にも、きっと威力を発揮する。

ええ、ボクはコンピュータ入門者ではありません。それでも、読んでいろんなことが頭の中で整理された。初心者にはもっと有用だろう。特に「コンピュータってわけわからない!」とコミュニケーションを投げてしまっているアナタ! とってもお気軽な本なので、一読をオススメします。

2002年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:実用・ホビー , 評論

LV3「報道は欠陥商品と疑え」

鳥越俊太郎著/ウェイツ/750円

報道は欠陥商品と疑え
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題名が内容のほとんどすべて表している。
報道はもともと完成された商品ではないのだ。欠陥がありがちな商品なのだ。そこに気づかせてくれただけで、この本の存在意義がある。そういう視点を与えてくれてありがとう、という気分。

そう、マスコミ報道の多くは「欠陥商品」なのだ。人件費の安い国が粗製濫造している、3日持てばまぁいいや製品なのだ。そりゃそうだ。毎日新しい素材が納入されて、素材研究する間もなくそれを加工し出荷しないといけない。とにかく紙面・電波を埋めないといけない。クオリティ管理など無理である。そんな工場で作られた商品に文句を言う方がバカだ。バカではあるが、工場側も謙虚さが足りない。欠陥商品が混じっているのに謝りもせず、いや「国民が望んでいるのだ」と逆に威張り、商品を出し続ける傲慢さ。これがメーカーだったらとっくにつぶされている。

マスコミの煽動が戦争を導くことも過去にあった。国民もこの欠陥商品に心を奪われやすい。常に「欠陥商品かも」と疑ってマスコミ報道に接しないとヤバイのだ。もちろん、志の高い報道もちゃんとある。有用な情報もたくさん流れている。でもそれらを見分けるのは相当鍛えられた人でも難しいのが現状だ。我々はまず無批判に報道に接するのをやめることから始めよう・・・
と、いろいろ考えさせられる本なのだが、実は内容はそんなに濃くはない。でも、表題の言葉をしっかり理解するために、読んで損はないだろう。

2002年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV1「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか?」

棚沢直子・草野いづみ著/角川ソフィア文庫/600円

フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか?
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6月にフランスに行き、その印象を不定期日記につづったら、やけに受けた。フランス特有の価値観に改めて感じいった人が多かったのだ。で、ある人から「日記を読んでこの本を思い出しました」とメールをもらったので読んでみた一冊。

ちょっと厳しすぎるかなと自分でも思ってはいる。というのも、資料としてとてもよく出来ているし、結論としての分析もとても面白いから。ただ、もうちょっとミーハー的な「フランス恋愛価値観のいろいろ」を読みたかった感じなので、そういう意味ではがっかりしたかも。だって恋愛観の歴史的必然性や宗教的裏付けを追うのにほぼ8割使ってしまっているんだもの。それらを読んでいるうちに、フランス人の恋愛について知りたかったワクワク感が、なんだか大学の研究室のほこりくささでかすんでしまったみたいな感じになったから。ちょっと惜しいなぁ。テーマは最高なのに。

2002年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV4「何もそこまで」

ナンシー関著/角川文庫/476円

何もそこまで
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友達には絶対なりたくないけど敬愛していた作家、ナンシー関。
ボクが週刊文春を毎週読んでいた頃と、彼女がいきいき連載していたころが重なるので、ある時期のボクの人生にとって欠かせないパーツであった。彼女が今年の6/12に亡くなると同時に、日本の芸能界&テレビ批評は終わりを告げたと言ってもいい。時代の空気をお茶の間から掬い取り、ある毒としてテレビや芸能人にぶつけていた彼女だが、単なるテレビ批評に終わらず、それが時代評論としても普遍性を持っていた点が偉大だったと思う。あの時代の空気のつかみ方、表現の仕方は舌を巻くしかない。タレントの肝をひと言で表現するように、時代すらも彼女は乱暴に言ってのけていた。

この本はその週刊文春での連載をまとめたもの。
おなじみの筆致、おなじみのテイストでつづられる。消しゴム版画作家としてのすばらしさもあるが、こうして過去の著作を読んでいるとまぁ惜しい人を亡くしたものだと嘆息する。もっともっと読みたかったなぁ。他にもたくさん本は出ているのだが、なんだか読む気にならないくらい著者を惜しんでいる。

2002年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論 , 映画・映像 , 写真集・イラスト集

LV4「文壇アイドル論」

斎藤美奈子著/岩波書店/1700円

文壇アイドル論
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「どんなにいい製品でも需要がないところに供給はない。彼らがアイドルであるなら当然その背後に彼らをスターダムにのし上げたジャーナリズムと読者の存在がある。彼らがどのように語られ評され報じられたかを見ることでアイドルのアイドルたるゆえんを探ってみたかった」という意味のことを、この、ナイフの切れ味が今一番鋭い文芸評論家は書いている。
で、著者に取り上げられあっちこっちから切られまくってしまう文壇のアイドルは登場順に、村上春樹、俵万智、吉本ばなな、林真理子、上野千鶴子、立花隆、村上龍、田中康夫、なのだ。ね、面白そうでしょ?

で、実際に面白い本である。
まずアイドルがどう語られ評されたかの例を上げつつその傾向をざっくり切り分け、交通整理し、そのアイドルの本質はなんなのかを浮かび上がらせていくのである。「村上春樹ってゲーセンじゃん」「吉本ばななってコバルトじゃん」みたいな感じ。一般読者にはここらへんの「総括」が一番面白い。

が、この本は「一般読者向け」な部分と「評論家向け」な部分がある。本質を見ず時代に媚びた文芸評論を続ける評論家たちへの厳しい評価と嘲笑が裏テーマ(本テーマ)だからだ。アイドルたちを通した時事文芸評論家論でもあるわけ。このテーマがこの本を実に魅力的にしている。マーケティング的アイドル論だったら二流評論家でも出せるだろうが、斎藤美奈子ならではな部分はまさにこの、同業者へのブラック・ナイフの鋭さ具合にある。

2002年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV0「響くものと流れるもの」

福田和也、柳美里著/PHP研究所/1400円

響くものと流れるもの
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副題「小説と批評の対話」。
批評家福田和也と純文学者柳美里の対談。どちらの激しさもそれなりに認識していたボクなので、このふたりの対談というだけで即買い。激しい言い合いと深い理解と豊かな結論がそこにあるのでは、と期待した。

結果的には、なんか「お隣同士の主婦が高級レストランでお互いを妙に褒め合っている図」みたいな印象。
彼らがもともとその文学的見地から大喧嘩していたという事実から、編集者はこのふたりの和合対談自体を「事件」としているようであるが、そんなことあずかり知らぬ読者にはその辺の劇的さが伝わらず、妙な内輪受けしか感じない。そう、事情がいまひとつ読めてこないのがまず不親切。昔の大喧嘩コラムは再録されてはいるのだが、その辺の消化具合は本対談では触れられず、いったい何を目的に何をふたりで解き明かしたいのかボンヤリしたまま最後まで行ってしまう。

いったい何が響くもので何が流れるものなのか、福田が怒り柳が猛った昔の感情はどう解決されたのか、読みが足りないのかもしれないが、ボクにはボンヤリとしか見えてこない。当代一流のふたりの対談にしてはそこそこの面白さしかない残念な作品。

2002年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 評論

LV5「からくり民主主義」

高橋秀実著/草思社/1800円

からくり民主主義
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おもしろい。
別に民主主義のウソについて語っている堅苦しい本ではない。
著者曰く「からくり_民主主義」ではなく「からくり民主_主義」なのだそうだ。民主とは国民が主役ということ。国民みんなが主役なら主役はいないのと同じではないか…というところから、著者は「みんなというカラクリ」に迫っていく。それは細かいことを「国民の声」として声高にクレームする新聞投書欄から、小さな親切運動、統一協会の若いカップル、諫早湾干拓問題などまで及ぶ。ホントにそれは「国民の声」であり「みんなの思い」なのか? だいたい「みんなの思い」って何なのだ? 全員が同じことを思うならオウムや統一協会とどこが違う? 何かおかしくないか? と、じっくり悩みながらまだるっこしく追っていくのだ。
そう、そのまだるっこしさが著者の特性でもありおかしみでもある。大まじめに取材してまだるっこしく悩むあたりがとってもおかしい本なのである。

はっきり言うとつまらない章もある。でもおもしろい章は抜群。マスコミが作り上げたわかりやすい構図(悪者vsいい者)のからくりも見えてくる。諫早湾のことなど、まったくマスコミに洗脳されていたよ。最後のほうの章がテーマずれを感じるが、全体としてとても印象深い本だった。

2002年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV5「まれに見るバカ」

勢古浩爾著/洋泉社/720円

まれに見るバカ
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章立てをご紹介すると、第一章 バカはなぜ罪なのか 第二章 バカ本を読む 第三章 現代バカ著名人列伝 第四章 現代無名バカ列伝 第五章 わたしの嫌いな10のバカ言葉 第六章「あとがき日付」一言バカの諸君 第七章 バカを寿ぐ、である。

実に面白そうではないか。
んでもって著者はなーんにも遠慮せずバカをバカと呼び、バカにし切り捨てる。しかも上から見てバカにするのではなく、下から仰ぎ見てニャンニャンじゃれついてバカと呼ぶのでもなく、しっかり同じ地平に立ってバカにする。しかも「こういう本を出している自分が一番バカでして」みたいな自虐やおもねりがない。それが一番潔く気持ちよい。

バカ本、現代バカ著名人列伝のあたりは、遠慮がない分、実に鋭い書評・人物評になっており、特におもしろい。
無名バカ列伝も良い。社会をバカという切り口で切ると実に爽快だということがわかる。ただ、バカにバカというバカはバカに違いない的な二重三重四重構造に時たま著者が陥り、読者もなにがなんだかわからなくなってしまうところがあるのだが、まぁバカ本だからそれもいいか。細かく異論がある向きもあろうが、勢いがあってボクは気に入った。

2002年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV3「文章読本さん江」

斎藤美奈子著/筑摩書房/1700円

文章読本さん江
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数多く出版されている「文章読本」というジャンル。近代以降に限っても、谷崎、川端、三島に始まり有象無象の「〜の書き方」に到るまで「文章読本界」と名前を付けてもいいくらい大量に出版されている。そしてその「業界」にいままで批評のメスを入れた人はいなかった。
そこに現れたる斎藤美奈子。奔放でクレバーな辛口書評で知られる著者が文章読本界をごめんあそばせとばかりにドシャドシャ斬って捨てる。そして斬って捨てるのみならず、じゃー文章読本とは何なのか、いや、文とは何なのか、まで突っ込んで分析していく。引用あまたの労作であるが、押したり引いたり、実に多彩なテクニックを使って、読者を飽きさせない。

なにしろこれまで出た文章読本のジャンル分け、分析、批評批判がまずよく出来ている。
で、読み進むに従ってあまりの多種多様さゆえ「文章とはいったいなんなのだよ」と読者は途方に暮れるのであるが、巻末に著者はちゃんと答えまで用意しているからスッキリする。「文は人なり」ではなく、「文は服なり」というひとつの答え。例えば文章家はこの現代に裃を着ろと説くし、新聞記者タイプはどぶねずみ色スーツの無難な服を着ろと言う。で、彼らがたまに軽妙な文章を書こうとすると、カジュアルフライデーのださいオヤジみたいになる……と、スパーッと見事に斬った挙げ句、その後の現代文章分析まで、ほんの数ページで見事にすべてを括っている。

引用が多く飽きる読者もいると思うが、文章に興味がある向きは我慢して最後までたどり着くことをオススメする。ちょっとシニカルで芳醇な時間が過ごせ、そしてそして、すべての文章読本を読了した気持ちにすらなる。そういう意味ではお得な本だ。

2002年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV2「世界は『使われなかった人生』であふれてる」

沢木耕太郎著/暮しの手帖社/1300円

世界は「使われなかった人生」であふれてる
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いい題名である。で、題名からはわかりにくいが、実は映画評コラムを集めた本である。
「暮しの手帖」という渋くも良質な雑誌に連載中のものから30編選んだものだ。著者も書いているが、これは映画評というよりは映画に触発された著者のエッセイという感じで、映画の筋は追ってくれるが、映画に密着して話しが進むわけでもない。それがボクにはちょうどいい距離感であった。

本編に入る前の短文がいい。映画を想うとき語るとき、我々は「ありえたかもしれない人生」というスタンスをとることがよくある。ありえたかもしれない人生をそこに見るのだ。でもこの本は「使われなかった人生」というスタンスをとることでもう一歩踏み込んでいる。「『ありえたかもしれない人生』には、もう手の届かない、だから夢を見るしかない遠さがあるが、『使われなかった人生』には、具体的な可能性があったと思われる近さがある」と。で、「使われなかった人生」がいかに我々の間に溢れているかを語っているのだ(ここらへんは本文を読まないとちょっと伝わりにくいかも)。

ただ、使われなかった人生、というスタンスが30編もの映画評にきっちり活きているかと言われるとそうでもない。そのスタンスを活かした狙いのエッセイ、というわけではないのだ。題名やはじめの短文がいいだけに、そこにちょっと不満が残るのは確か。

2002年2月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像 , 評論

LV3「怒りのブレイクスルー」

中村修二著/ホーム社/1600円

怒りのブレイクスルー―常識に背を向けたとき「青い光」が見えてきた
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不可能と言われた青色発光ダイオードの画期的発明で、いまノーベル賞に最も近い技術者として著名な著者が書いた半生記と日本告発の書。

彼はいま日本を捨ててカリフォルニアに住んでいる。胸が圧迫されるような閉鎖感に満ち満ちた日本で、その状況を疑いもせずサラリーマンとして働き続けた半生、徳島の片田舎の小さな会社でたった一人で成し遂げた数々の研究開発のブレイクスルー(現状打破的飛躍)、会社とのケンカ、報酬の少なさ、そして、日本への絶望と海外雄飛……ノーベル賞に最も近い男と言われるにはちょっと記述が幼く、構成もスッキリしてなく、イイタイコトも分散してしまってはいるが(編集者の責任だと思う)、彼の心の奥からの怒りは真っ直ぐに伝わってくる。

彼ははっきり書いている。「外から眺めてわかったこと。それは、日本がむしろちっぽけで、くだらない国だという事実でした。社会の価値観も画一的。しかもそれを無理矢理に押しつけてきます。人を見かけで判断し、肩書きが幅をきかせています。民主主義が機能せず、真の意味の自由はありません……」 そしていま著者は会社を相手に20億円の賠償訴訟を起こしているらしい。
確かに例えばイチローの技術に対する対価に比べて世界的発明の対価はお話にならないくらい低すぎる(特許料2万円のみ!)。企業は技術者を優遇すると言いながら搾取しかしていない現状。著者はむしろ温厚な家畜的サラリーマンであった。その著者をここまで怒らせてしまった日本というシステム。

著者も、そして例えばイチローも、日本というシステムを憎んでいる。もう日本には帰ってこないだろう。同じ時期に読んだ「コリア驚いた! 韓国から見たニッポン」と共に、かなり落ち込まされた。が、著者の本意は「もっと怒れ!もっとキレろ!」である。諦めてしまうことこそ、一番愚かな結論なのだろう。

2002年1月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 科学 , 評論

LV4「トンデモ本の世界R」

と学会著/太田出版/1480円

トンデモ本の世界R
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トンデモ本シリーズの最新作である。相変わらず痛快であるし、情報を鵜呑みにせず何事も疑ってみるという「知性の第一歩」をあらためて認識させてくれる本である。

UFO本や宇宙人本、超能力本が特に取り上げられがちのトンデモ本の世界であるが(もちろんそれらは定番として取り上げられているが)、この本では、小林よしのりの「戦争論」や週刊金曜日の「買ってはいけない」をはじめ、大藪晴彦や落合信彦、果ては三島由紀夫までトンデモ本として取り上げられている。

論旨は明快。活字や映像を信じがちな自分たちの意識に猛省を迫られる。と同時に、このトンデモ本解釈自体がトンデモである可能性もちゃんと持たないといけないことにも気付かされる。つまり「自分の知性でちゃんと調べ、信じたこと以外、ぜ~んぶ疑ってかかれ」ということだ。情報に溢れているこの世の中を生き抜いていくに必要な最低限のリテラシーなのかもしれない。大変だけどねー。

2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論 , 科学 , 雑学・その他

LV4「アフガニスタンの診療所から」

中村哲著/筑摩書房/1200円

アフガニスタンの診療所から
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ちょっと有名になってきた中村哲医師。
らい(ハンセン氏病)根絶治療にたずさわり、難民援助のためにアフガニスタンに診療所を開設し、他のNPOがどんどん引き上げる中もひとり踏ん張り、現地スタッフを育成して農村医療・らい治療にチカラを尽くす日本人医師である。そんな著者の現地からの肉声がまとめられている(93年初版なので今回のテロにはもちろん言及されていない)。

過度に謙虚になったりもせず、過度に自己顕示になったりもせず、ちょうどいい距離感でまとめられた良書だと思う。
ただ、どうしても「本人はわかりすぎるくらいわかっていること」の説明が略されてしまっていたり「どうせこの悲惨な現状は文章では伝わらない」と諦めていたりする部分があって、読んでいる側としては歯がゆい思いをするところも多い。援助を始めたキッカケや志なども、もうちょっと読ませて欲しかった。変な国際交流ボランティアが来ないように予防線を張っているのかもしれないけど…。

真の国際協力とはいったいなんなのか…。
これはこの本を読んでボクの中に宿題みたいに残った命題であるが、実は混乱している。
真の協力をするためには人生を捧げる必要があることはよくわかった。異文化を身体ごと受けいれなければ真の協力はない。でもそれって文化を個人的に理解した部分で閉じていないか? この「開いているようでいて閉じている」感じがどうにも突破できない。個人的体験の量的な積み重ねが国際協力とは思えないし。うーむ。まだしばらく考え悩むべき命題なのだろう。中村哲医師を第三者が書いた本もあるらしいので買って読んでみたい。

2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論 , 健康

LV3「同じ年に生まれて」

小澤征爾/大江健三郎著/中央公論新社/1400円

同じ年に生まれて―音楽、文学が僕らをつくった
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1935年に生まれたふたりの巨人、小澤征爾と大江健三郎の対談集である。副題は「音楽、文学が僕らをつくった」。

小澤と武満徹や、小澤と広中平祐の対談のおもしろさに比べると、ちょいと落ちる印象。大江健三郎という人はいまひとつアドリブが利かず、話し出すと論文調になってしまい(校正の段階でいっぱい赤を入れたからそうなったのかもしれないが)、巨人ふたりのセッションというよりは、かわりばんこに独奏しているという印象。それではつまらない。なんかふたりの話が盛り上がっている感じがあまり伝わってこなかったのが残念。

もちろん上手にセッションになっているところもあって、そこは面白かった。
闊達な小澤が特に良く、大江も素直な部分を見せていたりして良い。小澤が音楽の本質を語るあたりが特に印象的。大江もなにかを発見したような感嘆を見せる。でも、全体に触発されるといったところが少ない本であった。大江のペースでたんたんとした謙虚な対話が進むだけ。含羞があって気持ちは良いが、刺激と触発を望んでいる読者には物足りないだろう。

2001年11月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 音楽 , 評論

LV1「『タンポポの国』の中の私」

フローラン・ダバディー著/祥伝社/1600円

「タンポポの国」の中の私 ― 新・国際社会人をめざして
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副題は「新・国際社会人をめざして」。
いつもサッカー日本代表監督トルシエの横にいる背の高い謎の外国人が、著者である。題名は、彼が伊丹十三の映画「タンポポ」を愛するあまり来日したことに由来する。日本への愛が、そのあまりの憎も含めてよく書かれている本である。訳者がついてないのを見てもわかるとおり、ちゃんと日本語で彼自身が書いているようだ。すばらしい。

内容的にはイイコトは言っている。でもどの命題についてもちょっと表面的な言及になっているので欲求不満は残る。数年の日本滞在&日本語勉強でここまで言及できれば充分というのはわかっているが、本として読むとやっぱり説得力が足りない。もう少し自分のなかで醸成させてから出版した方がよくはなかったか。
サッカーやラグビーへの想いはよく伝わってくる。でもここらへんについても、もう少し深い話が聞きたかったなぁ。

2001年11月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , スポーツ , 評論

LV5「国家なる幻影~わが政治への反回想」

石原慎太郎著/文春文庫/上590円 下552円

国家なる幻影
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雑誌「諸君!」に1996~1998まで連載し、1999年1月に文藝春秋から単行本になった本の文庫化。
1968年に参院選に出馬して以降1995年に辞職するまでの政界での活動や政治への思いを回想した本。芥川賞を取った作家でもある著者が書く政治の裏側は実にわかりやすく、そして面白い。読み始めたら止まらなくなった。特に要所要所で出てくる人物評価には笑わされたり暗澹たる気持ちになったり…。もちろん政治には裏も表もあり、ここに書かれているのは著者から見た政治の一側面ということもわかっているが、いまの日本の政治を知るには格好の一冊であろう。これを読んだあと新聞などを熟読するといままで見えなかったものが見えてくる(気がする)。

これを読んでよくわかったが、著者はナショナリストというよりもゲームメイカーなのだ。ナショナリストっぽい言動も、ヨットという高等ゲームで学んだ駆け引きという側面から捉えれば実に納得がいく。NOというのも駆け引き上当然のこと。彼にとってあらゆる政治的言動はゲームのカードなのである。だから臆面なく脅しや暴力まで使用する。そして国際政治の場ではそれが全く常識なのである。そういう国際的駆け引きが出来る政治家が日本にどれだけいるだろう。

この本は文筆家の作品であるが政治家の作品でもある。
だからこの本自体が「政治的ゲーム」の1カードである。著者が1カードとして出した本を鵜呑みにするのは危険だが、こういうカードが出せる著者のゲームメイクにそのまま乗ってみたい気もしてくる。そんな本である。

2001年11月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV3「天才アラーキー写真ノ方法」

荒木経惟著/集英社新書/740円

天才アラーキー 写真ノ方法
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アラーキー本人の写真論については、いろんなところで著者自身書き散らしているので目新しくはない。でもこの本はそれらの中でもわりと本音が出ているなと感じるところが多かった。

写真は現実に触発された何か……、被写体と写真を撮る時間を共有する……、写真っつーのはさ生きることなんだよね……、、、たまに出てくるそのような言葉が妙に説得力をもって立ち上がってくる。
ボクは別に写真の専門家でもないので写真技術について読みたいわけではない。写真というものを通して、アラーキーの人生観を、ものの見方を、人への迫り方を、知りたいのである。著者は「写真=人生」と言っているわけで、これはアラーキーの「人生ノ方法」でもある。その点ボクの需要を完璧に満たしてくれる本であった。満足満足。

2001年9月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 評論

LV4「だれが『本』を殺すのか」

佐野眞一著/プレジデント社/1800円

だれが「本」を殺すのか
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未曾有の出版危機、ということをテーマにノンフィクションで450ページ強も書いてしまうこの筆力! まずそこに驚く。
読み始めるとどうして分厚くなってしまったのかの理由はわかってくるのだが、でもやっぱり200ページくらいにまとまるんじゃないか、という思いもある。こういうテーマの本こそ、1000円くらい、かつ、程よい薄さで出版することが本を殺さない一助になったりするのでは、という気もしたり。

内容的には、「本を殺そうとしているのは、出版社なのか編集者なのか取次なのか書店なのかデジタルなのか著者たちなのか、それとも読者なのか…」ということを数多くのインタビューを交え、ルポタージュしていくもの。
取次や再販制度など、著者にとっては常識の言葉を読者に説明せずに使っている不親切さは多々あるが、ぐいぐい本質に迫っていく力はさすがなもの。面白い。また、本好きな身として、いままで知らなかった配本の仕組みや客注の謎がいろいろわかったのもうれしい。暗澹たる気持ちになったり、展望が開けたり、忙しい本であるが、本を殺したくないという著者の気持ちは切実に伝わってくる。

個人的には「ネットが常時接続ブロードバンドになり広く接続料が意識されなくなった時点で、本、CD、ビデオなどの旧来媒体はすべて再編を余儀なくされる」と思っている。取次問題もこの「外圧」で変わらざるを得ないだろう。でもこれは「殺し」ではないだろう。きっと「活かし」になるはずだ、と、本好きのボクは楽観視しているのであるが…。

2001年5月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 評論

LV4「アウェーで戦うために」

村上龍著/光文社/1500円

アウェーで戦うために―フィジカル・インテンシティ III
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週刊宝石に連載したサッカー・エッセイを編んだもの(三巻目)。
単なるサッカー観戦エッセイとも言えるのだが、これがどうして非常によく出来た「日本というシステム」批判になっている。

素材は主にアウェーで戦う中田ヒデ。
彼や海外のサッカーゲームを題材に、著者の思いは日本への嫌悪に近い感情吐露、そして日本という「チーム」を変えるためにどうすべきかという考察へとつながっていく。

帯に「アウェーで戦えない人材は、ホームでも使えない」とある。
このコピーは素晴らしい。本当のアウェーを体感し文章にしてくれたこと、アウェーで戦うということはどういうことかを教えてくれたこと、そしてアウェーで力を発揮するのはホームで力を発揮するのとは次元が違うということを示してくれたこと、それらだけでもこの本は価値がある。振り返って、この国の要人はアウェーで戦えるか、いやそれよりもまず「自分はアウェーで戦えるか」を考え直すいいキッカケになるだろう。
「アウェーで戦えるか?」はボクの中でいま大きな物差しになりつつある。

2001年5月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:スポーツ , 評論

LV4「残る本 残る人」

向井敏著/新潮社/1900円

残る本 残る人
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書評の第一人者である著者による、ここ10年の選り抜き書評99編。
うまく書けた書評を選り抜いたわけではなく、「歳月による淘汰をしのいで生き残るだけの器量をもった本」を選んだとのこと。そういう本は「多少の難点や短所はどうでもよくなって、その擁する力をこそ広く知ってもらいたいという気持ちが頭をもたげてくる」らしいのだ。
うん、わかる。ボクのようなヘナチョコ書評子でも、年間ベストなどで振り返る時、「細かく見るとイマイチだけどやっぱり印象に残っている」という本が必ず2~3冊あったりする。多少の難点より全体の力、とでもいうのか、残さざるを得ない本ってあるよね。そういう本を稀代の読み手が選んだ、というだけで、ほら、なんとなく読んでみたいでしょ。

既読本は半分くらいあったろうか。その書評を読むに、まず引用がうまい。的確な場所を的確な長さで引用し、その本の空気を伝えてくれる。
そして各著者の過去の本の部分引用や比較が徹底している。この本一冊書評するために過去のを全部読み返したの?と疑いすらする。まさにプロのワザだ。ちなみにボクは、著者の作品歴をかえりみて書評する手法はあまり好きではないのだけど、でも、完成されたワザとしては認める。認めざるをえない。

書評欄の充実ではダントツトップを走る毎日新聞(一編2000字!)での健筆、これからも期待したい。

2001年5月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV5「『社会調査』のウソ」

谷岡一郎著/文春文庫/690円

「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ
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新聞や雑誌、テレビはもとより学会誌に至るまで、「○○の調べによると△△が□%にものぼることがわかった」みたいなデータが横行しているが、それの過半数はゴミである、と断言している本。ゴミというか「ウソ」だな。

例を実名を上げて豊富に紹介し、そのいちいちをどこがどうウソなのか分析し、巻末には「じゃーこのデータはどこがウソだかわかりますか?」みたいな例題までついている。
データを解釈者の都合のいいように解釈している例が世の中にここまで多く存在し、それをわれわれはいかに疑いもせず信じ込んでいるか、がよくわかる本である。つうか、大新聞やテレビが堂々と発表しているんだから、まぁ端から疑わない人が多いよなぁ。でもよく考えたら確かにデータなんて作為を持たせればいくらでも作為を作れるもんなぁ。いままで疑わなかった自分の方が悪いのだ(たまにトンデモ的なデータもあるから疑うことは疑うが、ここまでしっかり考えたことはあまりなかった)。

とある掲示板で勧められて読んだが、面白かった。
この著者の他の作品も読んでみようと思う。副題は「リサーチ・リテラシーのすすめ」。リテラシーという言葉はこの頃よく使うね。直訳すれば「読み書き能力」。基礎能力、みたいなことかな。

2001年4月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論 , 科学 , 経済・ビジネス , 雑学・その他

LV4「余は如何にしてナショナリストとなりし乎」

福田和也著/光文社/1200円

余は如何にしてナショナリストとなりし乎
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ナショナリズムというのは誤解を受けやすい言葉である。本書はまずそこらへんから易しく説きはじめ、ナショナリズムとはなにか、それは「良識」なのだ「治者たること」なのだ「強者の徳」なのだというところまで丁寧に論を進めていく。そしてエセ右翼、エセ左翼、エセナショナリストに対して(名指しを含め)厳しい言葉を発していく。

国家主義や民族主義と別の次元にナショナリズムを置き、自己肯定と自己愛に満ちたいままでのエセ活動家たちをなじり、自らを(恥じ入りながらも)強者と設定し、ナショナリズムを滔々と語っていく気概は読んでいて気持ちがいい。迷いのない発信は人になにかを伝えるものだ。結果的に中学生の道徳の時間みたいな青臭さが匂い立っているし、後半の半生記は照れくさくて読めたものではないが、全体的主張にはしっかり共感できた。いや共感というより、自分の寄って立つ場所を確認できた、と言うべきか。難しく危険な論題ではあるが、論説にちょっと酔っている気がするのを除けば、一度読んでご自分の旗色を明確にする作業のきっかけにすることをオススメしたい。

2001年2月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV0「作家の値打ちの使い方」

福田和也著/飛鳥新社/1300円

『作家の値うち』の使い方
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前著「作家の値打ち」はいい本だった。
画期的だしきちんと文壇大手術用のメスが機能していた。だから、あの手の実験書としては画期的に売れたのだろう。この本はその二匹目のドジョウという感じかも。飛鳥新社は出さなくてもよい後日談的本を出版してしまった。それがこの本。出さなくても良かった気がする。

「作家の値打ち」についての評論や評判、座談を中心に、かろうじて「絶版・品切れ版作家の値打ち」を載せてはいるが、ほぼ内容がない内容。いかに前著が波紋を投げかけたか、などということは一冊の本にする必要もなく、あえて言うならネットにサイトを作ってその後日談を掲載しておいた方がまだ良かったわけで、1300円はいかにも高い。福田和也自体の「作家の値打ち」を下げる行為である。こんな本を買うなら著者が高得点つけた本を買えよ!と、著者自身心のそこでは思っているのではないかなぁ。残念。

2001年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV5「翻訳夜話」

村上春樹・柴田元幸著/文春新書/740円

翻訳夜話
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素晴らしい企画。本屋でこれを見つけたときは目をむいたぜ。
なにせ村上春樹と柴田元幸が翻訳について語るのである。そのうえ村上がオースターを、柴田がカーヴァーを訳して対比させて、そしてそれをテキストにしてまた語り合うのである。うーむ。なんちゅう気の効いた企画なんだ!!

彼らの翻訳手法の対談は、同時に優れた文章談義になっており、また小説表現の秘密にまで踏み込まれている。このところ翻訳論みたいな本がいろいろ出ていたが(今月もそういう本を一冊読んだが)、納得したという面でこの本を越えるものはなかなかないだろう。つうか、たぶん「名手による経験談」かつ「平明シンプルな語り口」が効いているんだろうな。青山南も加えて三人で話したらまた違った展開だったろうなぁ。そういう対談も読んでみたい。

翻訳で本の内容が変わってくることにボクが気がついたのはディネーセンの「アフリカ農場」を違う翻訳で読み比べた経験から。
それ以来特に翻訳には注意を払っているが、村上と柴田の対訳を読んでみて「これほどまでに違ってくるんだな」と驚愕。だって同じ小説がまるで違う趣になるんだよ。比較的文体が近いふたりなのに。参ったな。そういう驚きを得るだけでも価値ある本。

2000年11月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 評論

LV1「翻訳はいかにすべきか」

柳瀬尚紀著/岩波新書/660円

翻訳はいかにすべきか
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「翻訳夜話」とは趣が違う翻訳論だが、内容的にはかなり味があるものだし、翻訳者の苦労話が舞台裏を見ているようで面白い。
ただ、訳例が二葉亭四迷から始まったりするあたり、とっつきにくい。翻訳という作業を個人的体験として平易に解いていった村上・柴田の著作に比べると、ちょっと大上段に振りかぶりすぎているのである。

翻訳はいかにすべきか、という題名にもそれは表れる。上からものを言ってくる感じで、なんというか翻訳は苦行か、とすら思えてくる(まぁヒトによっては苦行なのだろうが、村上・柴田のスタンスとずいぶん違うので)。そこらへんがこの本を固くしている。文春と岩波の違い、ということかな。内容的には部分部分面白いところがあったけど、本としてはイマイチ楽しめなかった、そんな感じ。

2000年11月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV1「コンピュータはそんなにエライのか」

柳沢賢一郎著/洋泉社y文庫/680円

コンピュータはそんなにエライのか
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帯には「インターネットがもたらす変化は本当に産業革命につぐ大革命なのか、IT革命なんて本当に起こっているのか、それらは人々を幸せにするのか」と書かれている。
ま、ありがちな本なのだけど、インターネット系の職場に移って四六時中ネットにどっぷりつかっていると、こういうアンチテーゼ的本を読まないとなんかバランスが取れなくて怖いのだ。

細かいところに「なるほどね」という部分はあったが、あまり目新しい論は出てこなかった。
どんなものでも明と暗の部分はある。個人的にはコンピューターに初めて触って6年、「明」の部分が「暗」の部分を大きく凌駕していると感じている。便利な道具なのだ。使い方次第である。いまや電気やガス、車や冷蔵庫、テレビがない生活なんて考えられないでしょ。それと一緒。それらは人間を幸せにしたであろうか。一概には言えないのである。それと同じ。

2000年8月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV5「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」

村上春樹編・訳/中央公論新社/1800円

月曜日は最悪だとみんなは言うけれど
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著者は熱心な「アメリカ文学ウォッチャー」である。その著者がいままで面白いと思ってアメリカの雑誌からスクラップしたいろいろなコラム、文章、短編、を親切丁寧に我々に提示してくれた一冊。

著者の「文学への視線」がこの本の雑多な文章を結びつけていて、そしてその視線はどの作家に対しても非常に「フェア」である。それが気持ちがいい(このフェアというスタンスは著者のあらゆる著作に通底するコンセプトだ)。例えば、こういう本は著者がその熱狂を語ってしまって読者を置き去りにすることになりがちだ。だが、読者に対してもフェアである村上春樹はそれを全くしない。これがなかなかに難しいのだ。それを著者はさりげなくやりおおせている。うーむ・・・。我々読者は、村上春樹という「アメリカ文学ソムリエ」を持っていることをシアワセに思うべきだろう。いやホント。

レイモンド・カーヴァーの話題で半分くらい取られているから彼の短編を読んだことない人にはつまらないかもしれない。が、読んだことある人なら「文学の成り立ち」を含めていろいろ考えさせられる。カーヴァー・ファンにもオススメの一冊。なお、はっきり言って題名は悪い。あまりに内容がわかりにくい。

2000年7月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 評論

LV5「作家の値うち」

福田和也著/飛鳥新社/1300円

作家の値うち
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これは上司が「ある意味、本のジバランだよ」と教えてくれた本。
ミステリー、エンターテイメント、純文学の各分野に渡って、日本の作家の主要作品574点を100点満点で超辛口に批評してある本なのである。実に厳しく、実に平明にその作品群を批評し採点していくその意思力は相当なもので、舌を巻く。「作家の価値は人の記憶に残る作品をどれだけ書けるかで決まる」という切り口は確かにちょっとジバラン的。共感するなぁ。

それにしても厳しい。
船戸与一や鈴木光司などボロクソである。大江健三郎の「同時代ゲーム」ですら26点(100点満点)。
誉めるだけの書評が(新聞・雑誌を中心に)はびこるなか、こういう書評の存在は至極意味がある。作家や編集者が緊張を強いられるだけでも大きな意味があるのである。作家は作家という地位に安住し、ゲームやテレビ難を言えば「審査基準が明解でない」ことが惜しい。26点はなぜ21点でも31点でもなく26点なのか、がわからない。気分で付けていると言われても仕方ないだろう。ちなみに要所で入るコラムもよい。

文壇(?)に勇気を持って石を投げ込んだことを大きく評価したい一冊。

2000年6月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV1「完本 文語文」

山本夏彦著/文藝春秋/1524円

完本 文語文
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夏彦節は気持ちいいが、くどい。彼の読者なら「またこの話題かよ」というネタが山ほどここには出てくる。それを楽しむ度量を持っているつもりではあるが、ネタを広げることによって論点がずれていくのはどうにも心地が悪いものだ。

文語文という格好の主題をもって書かれたこの本をボクはかなりの期待を持って読んだ。実際、文語文の美しさやリズムをこれによって見直された。音読を前提とする文語文の美しさが失われたことは、日本の精神構造自体にもかなりの影響を与えたであろう。その辺りを(ネタをへらへら広げずに)著者はもっともっと突っ込んで書いて欲しい。ちゃんと労作にしてほしい。これでは単なる「老人の感想文」である。

ま、あとがきに「例によって調べて書くことは学者諸君にまかせて」とあるように実感的感想文であることは著者も承知の上だし、文語についていろんなところに書いたエッセイを寄せ集めたものだから求心力を失うのも仕方がない。が、文語についていま読者を共感させつつきっちり書ける数少ない書き手なのだから、(寄せ集めではない)きっちり腰を据えた読み物にしてもらいたかった。いろいろ勉強になる部分は多かったが、ちょっと中途半端に感じた一冊。

2000年6月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV4「アメリカ文学のレッスン」

柴田元幸著/講談社現代新書/660円

アメリカ文学のレッスン
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柴田元幸が雑誌「本」で連載していた「アメリカ文学講義ノート」に加筆修正し、改題したもの。
ボク自身は、講義とかレッスンとかいう題名は内容を言い表していないと思う。確かに読むに従いアメリカ文学の全貌が文学史と違う側面から浮かび上がっては来るのだが、これは決してレッスンではない。「アメリカ文学を通してみた人の世」であり「アメリカ文学によって表される人生の諸相」を著者の視点で突っ込んで考えていったものである。

かなり面白いのだが、レッスンとエッセイの中間といった感じになってしまい、中途半端感があるのが残念。もっと生き生きとしたエッセイにしてほしかったなぁと思う。アメリカ文学についてある程度背景をわかっている層に対してのちょっと高度なおもしろエッセイみたいのが読みたかった。

読んでくると彼は意外とレイモンド・カーヴァーに刺激されているのがわかる。カーヴァーの代表的翻訳者は村上春樹だが、柴田元幸の訳も読み比べてみたいと思わせる。作家が訳すのとはまた違ったミニマリズムの特徴がそこに表出してきそうだからである。「アフリカの日々」に代表的訳がふたつあるように、カーヴァーにも欲しい。

2000年6月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV2「私は臓器を提供しない」

近藤誠・中野翠・宮崎哲弥・吉本隆明ほか著/洋泉社y新書/660円

私は臓器を提供しない
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「ドナーカードに承諾のサインをしなかったら、それは人道にかなわないことになるのか」というテーマのもと、「私は臓器を提供しない」という立場をとる執筆者が集まり、それぞれの論を展開し、読者が自分の立場を選択するための材料提供をしてくれている新書。

企画とてもよし。執筆者まぁまぁよし。ヒューマニズムという美名のもと「なんとなくいいこと」と思われ押し進められている「臓器提供」をもう一度考え直すきっかけになる。

が、どうも読後感が散漫だ。もちろん複数執筆者が好き勝手自分の意見を書いているだけなのだから散漫になるのは仕方がないし、いろんな切り口でこの問題を切っていこうという編集方針も正しい。ただ、ことは「死とはなにか」という根本的問題にぶちあたらざるをえないため、それぞれの執筆者の死生観が中途半端な枚数で中途半端に語られてしまう。それがこの本をとても居心地の悪いものにしている。もうちょっと執筆者の数を絞って(10人書いている)、じっくり書かせてみてもよかったのではないだろうか。
個人的には橋本克彦による論の展開が一番しっくり来た。そう、そうなのだ。肉体にも自我は宿っているのである。うん。

2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:健康 , 科学 , 評論

LV5「経済ってそういうことだったのか会議」

佐藤雅彦・竹中平蔵著/日本経済新聞社/1500円

経済ってそういうことだったのか会議
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有名CMプランナーにして「だんご三兄弟」の作者である佐藤雅彦は「仕掛け」が非常にうまい知能犯。この本でも「大学を出てサラリーマンもやったけど、結局、経済ってよくわかんない」というスタンスを明確にして、とっても身近で平明な例をひきつつ、経済とはどういうことなのかを解き明かしていく。応えるのは竹中平蔵。これまた頭の固い経済学者に爪の垢を煎じて飲ませてあげたいくらい平明に佐藤の質問に答えていく。

題名もいい。装丁も素敵。内容は実にわかりやすい。かといっていわゆる「サルにもわかる」的うざったさもない。ある程度の知力を前提として書かれているあたりのバランス感が見事なのだ。
こういったややこしいことの質問者として佐藤雅彦ほどの適任者はいまの日本にはいないのかもしれない。西原理恵子もある意味一人者だが、ちょっとサルに偏りすぎる。彼にもっといろんなものの不思議を解いていって欲しい、と、ちょっと他力本願に思ったりするボクは怠け者です、はい。

2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 評論 , 経済・ビジネス

LV5「誰か『戦前』を知らないか」

山本夏彦著/文春新書/690円

誰か「戦前」を知らないか―夏彦迷惑問答
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副題が「夏彦迷惑問答」。

雑誌「室内」の連載をまとめたもの。
20代女性の聞き手と著者が会話するというカタチで進行するが、聞き手がなかなか上手で著者の味を見事に引き出している。この会話形態は著者の成功パターンのひとつであろう。一人称ぼやきエッセイより格段にリズムが出るし、なにより読者が置いてきぼりをくわずにすむ。注意して避けてもくどい説教になってしまう時がある題材なだけに、特に若い読者(この著者の場合50歳以下すべてか)にとっていいと思う。時になかなか笑えるし(著者が意識しているほどではないのだが)。

内容的には「戦前真っ暗史観」を実に明快に切り崩していて気分がよい。
戦前戦中共に飢えてはいなかった。これも明快。その他、忘れ去られつつあるいろんな物事を釣瓶落としに語ってみせる術は驚異的なものだ。資料としてもある意味一級。この著者がなくなるともう昭和ですら「時代劇」になってしまうのだろうな、とちょっと薄ら寒くなる。

1999年12月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 時事・政治・国際 , 評論

LV4「あほらし屋の鐘が鳴る」

斉藤美奈子著/朝日新聞社/1500円

あほらし屋の鐘が鳴る
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書評界で話題の人。初読。ちなみに斉藤澪奈子女王様とは別人。

なんというか、中野翠みたいな鋭利な刃物。
ただ、甘粕りりこやナンシー関、ひいては山本夏彦も少し入っている。そこらへんが著者の人気がある所以だろう(マネをしているという意味ではなくて、もとからそういうキャラであるという意味)。かなり辛口だけど自己満足的でなく実にわかりやすい分析が魅力的。サルでもわかる論理構成なのに、とっても鋭利。なかなか難しい技なのだ。

本書に限っていえば、女性誌の分析が面白い。門外漢のボクでもなぜか膝をうって納得してしまう。そのくらいは分析がツボをついている。あ、「もののけ姫」に対する考察も非常に共感できるところだったな。次は長い書評を読んでみよう。

1999年4月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV1「社交界たいがい」

山本夏彦著/文藝春秋/1429円

「社交界」たいがい
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山本夏彦が「文藝春秋」や「諸君!」に掲載した文章を集めたもの。

週刊新潮の名物連載「写真コラム」と同じネタがものすごく多いのだが、文字数を削りに削りまくった新潮連載の方がずぅっと面白い。長く書くとつまらない。なぜだ? やっぱり老人(失礼!)のお説教のたぐいは簡潔な方がいいからだろうか。長いと妙にダラダラするのである。

ボクは山本夏彦が大好きで常々応援しているが、なんというか、この本はもうひとつでしょう。あ、「山田正吾」を知ったのは良かったな。うん、良かった。

1999年4月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV2「本に読まれて」

須賀敦子著/中央公論社/1600円

本に読まれて
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この頃「須賀敦子追悼企画」みたいなのが多すぎてちょっと辟易。
いや、彼女が書いた文はなんであれ読みたい。でも、彼女はこういう形での出版を絶対認めなかっただろうな、と思われるようなお手軽企画が多すぎる気がする。ある意味、彼女の著作の全体レベルをさげてしまう出版が続いている。

これは生前著者がいろんなところに書き残した書評集、そして読書日記。
いい出来のものもあれば、おやどうしたの? と思わせるものもある。こうしてそれをモザイク状に並べても散漫な印象しか残らない。彼女の遺したものは読みたい。でもなんだか読みたくない。そんな複雑な想いで読み終えた。

1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV1「タレント文化人100人斬り」

佐高信著/現代教養文庫/640円

タレント文化人100人斬り
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実名を出してとにかく一刀両断、斬りまくっている。
少し品のない斬り方なのだが、特に人気がある人については容赦がないようだ。じゃぁそれが爽快かというとちょっと湿度が高い斬り方なので読んでいて辛くなるのも事実。ウェットで蒸し蒸しするのだ、読んでて。

こういう本をどう評価すればいいのだろう。ただ、物事や人を裏から表からいろんな切り口で眺め回す訓練にはなると思う。
ボクがなんとなく一方的に認めていた人々の「気付かなかった一面」に平明に言及しているところもあり、あー、そりゃそうだ、気がつかなかったよなー、ちょっと洗脳されてたよなー、みたいに感じることがあったのも事実だし。

ただのその人批判に終わらずに(背が低いみたいなところまで言及して責めたりしている)建設的な論議に発展していると読んでてもうちょっと楽しかったと思う。あ、こういうゴシップ系評論自体を楽しいと思う人もいっぱいいるか。ならまぁいいけど、書き方にもう少し品があればうれしい。

1998年9月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV5「文人悪食」

嵐山光三郎著/マガジンハウス/1800円

文人悪食
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労作にして名作。日本文学好きには堪らない本だ。
近代文学史を文士たちの食の嗜好によってたどってみようとするもので、まずその切り口に目丸。作家の食の嗜好はその作品と密接な関係があり、それを作者ごとにじっくり見ていくその労力に口開。そしてそしてそれぞれが非常に優れた作家論になっているその技に舌巻。

取り上げている作家は37人。それぞれに絶妙の作家論が展開されるが、それはそれ名手嵐山光三郎であるから、ひとつも小難しくなく読者を上手にその作家の世界にいざなってくれる。各作家ごとにかなりの文献・資料を読むせいだろう、著者の文体が微妙に違っていてそれもオマケ的に楽しめるよ。 なおこれは去年の3月初版のもの。

1998年6月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , ノンフィクション , 評論

LV0「サリンジャー」

森川展男著/中公新書/700円

サリンジャー―伝説の半生、謎の隠遁生活
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副題「伝説の半生、謎の隠遁生活」。

高校時代にあれほどのサリンジャー中毒にかかっていなければきっといまのような本好きにはなっていなかったと思うくらいボクはサリンジャーに影響を受けていて、研究書もかなりの数を読んでいるんだけど、そういうボクからしたらこれは「既成評論の単なる焼き直し」であり「新しい発見もなにもない推測本」であり、そのうえ各作品に対する解釈も納得できないものが多いという、なんとも困ったなの一冊だった。ちょっと厳しいけど。
隠遁生活の謎についてはこの本の最後のほうにちらっと著者の所見が述べられているのだが、その「ちらっ」のためにここまで内容を水増しすることはないだろうと思う。全体にちょっと困った。

1998年4月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 評論

LV3「若い読者のための短編小説案内」

村上春樹著/文藝春秋/1238円

若い読者のための短編小説案内
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アメリカの大学での著者の授業そのままに構成してある日本短編小説ゼミナール。

テーマに指定した短編に対する著者の真摯なる態度と丁寧な読み込みは驚嘆に値するしこちらも背筋が伸びる。
が、もしできうるならばそれらの短編も一緒に収録して欲しかったと思うのだ。全然読んだことのない第三の新人と呼ばれる作家達の短編。一般書店では手に入りにくいのが多いので、熱意があれば図書館にでも行けばいいのだろうが、なかなかそうは時間がない人が多いから…。

いや、一般化するのは卑怯か。そう、僕はそれだけの努力をしてまでこれらのテキストとなった短編を探し出して読むパワーがない。同時収録してくれたらなんて良かっただろう、と夢想してしまった怠け者なのでした。だってテーマ本を読まないとこの本の面白さは半減以下なのだもの。

1997年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV5「ひ弱な男とフワフワした女の国日本」

マークス寿子著/草思社/1600円

ひ弱な男とフワフワした女の国日本
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イタタタタ!まったく耳が痛い本である。
優れた日本文明批評であり(日本にいま、文明があると仮定してのことだが)、地に足のついた人生論でもある。これを読んでいると日本というオコチャマな共同体に属しているのが本当に嫌になってしまう……

と、素直に感じてしまったら著者の思うつぼだ。それこそ精神的にひ弱な証拠となってしまう。こういう本こそ無批判に読んではいけない。が、しかし、現代日本を縦横無尽になじってみせる著者の目は平明でモグラの目すら開かせてしまう力を持っている。一読し、納得&論破してみてほしい。問題意識を刺激する秀作である。

1997年11月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV5「結局わかりませんでした」

ビートたけし著/集英社/1400円

ザ・知的漫才 ビートたけしの結局わかりませんでした
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副題が「ザ・知的漫才」。
ビートたけしが日本の知性(?)9人(松井孝典、養老孟司、本川達雄、荒川秀樹、ピーター・フランクル、荒俣宏、中原英臣、森幹彦、上野正彦)と対談したもの。知らない人もいるけど(だってただの歯医者もいる)、とにかく勉強したくてうずうずしてくることだけは確かな本だ。

これを読むとビートたけしの本質は「物事の本質をついている人」ではなくて「地にしっかり足がついている人」なのがよくわかる。地に足がついていない人がこういうことをすると対談ではなく単なる「インタビュー」に終わってしまうだろう。自分の視点と土俵からしっかり意見をいうことの大事さを思い知らされました。(ただあとがきは説教臭くてイヤ)

題名が秀逸。もともと論理的でない世界を論理的に論じようとする無意味さを端的に言い表している。教養好きの人は必読。向学心という化石を取り戻してみたい人も是非。

1997年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 評論 , 科学

LV5「英語になったニッポン小説」

青山南著/集英社/1800円

英語になったニッポン小説
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吉本ばななの「キッチン」がアメリカでよく売れたらしい、というのは知っているよね。で、その英訳をまた邦訳してみるとその原作との違いに愕然とするわけ。ばななだけでなく春樹も龍も詠美も誠も……。

当代随一の翻訳家がそれを分析したこの本はそういう読み比べだけでも面白いうえに「翻訳」の実際が浮き彫りされて非常に興味深いものがある。よくできた文化比較論にもなっている。
内容もショックだけど、「日本の今を代表する作家達」として海外に紹介されているラインナップもショック。小林恭二だの津島佑子だの李良枝だの……代表するかなぁ?

1996年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV2「リンボウ先生偏屈読書録」

林望著/丸善ライブラリー/700円

リンボウ先生偏屈読書録
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著者の平明な物の見方がよくわかる書評集。
しっかりアマチュアイズムを貫いていて気持ちがいい。取り上げる本もバラエティに富んでいる。すごく印象に残る、という本ではないが、ちゃんと楽しめてちゃんと本を選ぶ指標となった。もともとクセがある著者なので、書評はあまり向いていないと思ったが、意外とよいと思った。

1996年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV4「僕はこんな本を読んできた」

立花隆著/文藝春秋/1529円

ぼくはこんな本を読んできた―立花式読書論、読書術、書斎論
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副題は「立花式読書論、読書術、書斎論」。
本との出会いから、読書論、書斎・書庫論、本の整理の仕方、書評論、読書日記などなど、とにかく盛りだくさん。著者独自の「知の世界」構築のノウ・ハウが散りばめられている。しかも同時にこの希代の知識人かつ強烈な読書人の「半生記」にもなっている。
小説のつまらなさ、ノンフィクションの面白さを実感で語っていて共感させられる。確かに小説家の想像力なんて事実のあまりの異常さの前にはないに等しい。しかし、それにしてもこの人の書斎遍歴は面白い。それだけでも読む価値あり。

1996年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 評論

LV1「木をみて森をみない」

青山南著/同文書院/1325円

木をみて森をみない
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名訳者のエッセイ集。
ストーリー的にも文学史的にも作家論的にも上手に紹介できないが、おもしろそうなアメリカ小説や映画やコラムなんかを紹介はできるよ、でもこれって「木をみて森をみない」ってことだよね?…みたいな感じの、含羞に満ちたエッセイ集だ。
達意の文はここでも顕在だが、内容的にはもう少し突っ込んで書いて欲しかった。このほんわかした感じはとても好ましいのだけど、やはりちょっと食い足りないかも。

1996年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

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