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歴史小説(11)

LV4「しゃばけ」

畠中恵著/新潮文庫/540円

しゃばけ (新潮文庫)
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江戸時代の江戸を舞台にした妖怪推理時代小説。
妖怪がたくさん出てくるので荒唐無稽ファンタジーかと思いきや、読み進むうちに違和感も消え、わりと普通の時代小説に読めてくるから不思議。著者の筆力だろう。

廻船問屋と薬種問屋を営む大店の一人息子・一太郎は幼い頃からずっと周りに妖怪をはべらせる特殊体質。とはいえ身体は弱く、妖怪に守られているといった風情。そこに事件が持ち上がって…。といった導入なのだが、推理小説としては弱いものの(なんたって特殊能力がある妖怪たちが活躍するから)どこか落語人情話を思わせるような文章リズムも心地よく、最後まで飽きずに読ませる。多少、妖怪の気持ちが見えないところがあり(特に味方妖怪)その辺にカタルシスがあればより良くなったとも思うが、そこもまたミステリアスでいい、と取ることも出来る。また、もうちょっと妖怪の特殊能力に頼ったストーリー展開をすればエンタメとして強くなるのに、それを敢えてしていないところも好感持てる。

これを第一作として、続編がいくつか出ている。ゆっくり読んでいきたい世界観だ。

2007年3月24日(土) 9:08:20・リンク用URL

ジャンル:ファンタジー , 歴史小説 , ミステリー

LV3「大黒屋光太夫」

吉村昭著/毎日新聞社/上下各1500円

大黒屋光太夫 (上)
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10月頭にモスクワ〜サンクトペテルブルグに個人旅行に行く予定になったので、急遽読んだ長編。上下巻であるがとても読みやすいのであっという間だった。著者は「書き終えるまで死にたくないと何度も思った」と書いているから、ひょっとしたら遺作になるかもしれない。そういう意味では吉村歴史文学(と呼ぶのだそうだ)の集大成とも言えるだろう。

とはいえ、妙な力が入っているわけではなく平明かつ流れるような文章。
鳥羽から江戸に向かう途中で嵐にあって漂流し、ロシアの島に流れ着き、カムチャッカ半島から西端のペテルブルグまで大陸横断し、エカテリーナ女帝に謁見し、ロシア政府の方針を変更させて帰国許可を勝ち取り、また大陸横断し、北海道から江戸、そして故郷に帰り着くまでの10数年の道のり。
ただでさえも感動的な物語なのだが、著者は淡々と描いていき、ラストあたりは少し盛り上げが足りないかと思うくらい。でもいまのボクにはこの程度の盛り上げがちょうどいい。ちょっと浅田次郎が書く大黒屋光太夫でも読んでみたい気もしたが(笑)。あ、淡々とといっても、ちゃんと盛り上げてはいるんですよ。極寒の描写なども圧巻。ただ、事実が感動的すぎるので、それに比べると淡々、といったところ。抑制が効いたストーリーメイクはさすがなもの。興味ある方にはおすすめ。

追記:光太夫がエカテリーナ女帝と謁見したエカテリーナ宮殿に、この本を読んだ1週間後に行った。
この部屋で待機して、この部屋で謁見したのかな、などと想像しながら光太夫と同じ空間を体験した。宮殿を出て、あまりに美しい秋の庭園を散歩しながら、きっと光太夫はこれと全く同じ美しさを体験したに違いないと確信を持った。200年の時を越えて同じ土地に立つカタルシス。歴史小説の感動の大部分は「いまとつながっている」この感じなのだろうと思ったり。

2003年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

LV5「壬生義士伝」

浅田次郎著/文春文庫/上下各590円

壬生義士伝 上   文春文庫 あ 39-2
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いつからか、あんなに好きだった浅田次郎を読まなくなった。「鉄道員」あたりからかな。ひと言で言うと食傷した感じ。もうひと言言うと泣かせがあざとくてちょっと困っちゃった感じ(著者のは明日への希望がわくタイプの泣かせではあるのだが)。
で、久しぶりに読んだ浅田次郎。ネタが新撰組であるのが読んだ理由のすべて。なにしろ中学以来の幕末フェチであるボクだもの。でも、そう思いながら文庫になるまで読まなかったのだから、よっぽど食傷してたのね、浅田次郎に。

さて、久しぶりに読んだ感想はというと……さすがと言うしかないなぁ。
まぁうまいのはわかっていたのだけど。それにしても、だ。方言の一人称語りだけで、幕末の空気から新撰組の真実から人の道とは何かというテーマまですべてを描ききるこの筆力はどうだ。先人が掘り尽くした新撰組という鉱脈に堂々と挑み、新たな命を吹き込んで余りある。斎藤一を描きこみ坂本龍馬暗殺に新解釈(?)を与えただけでも幕末フェチとしては評価する。時代の変わり目を捉え、昭和・平成の現代までつなげ、現代人が失いつつある「日本人の精神性」までしっかり感じさせたその野心もすごい。いやはや。やっぱり浅田次郎は抜群だわ。

2003年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

LV5「異形の者」

柳蒼二郎著/学研/1700円

異形の者
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いわば戦国ハードボイルド。
長篠の合戦で細川忠興子飼いの忍び・丹波に拾われた赤子が主人公だが、生まれながらに異形で「こぶ」と呼ばれ、物を言うことを禁じられる。そしてこの「こぶ」、生まれながらに忍びの才能を発揮するのだが…。

豊臣の世から徳川の世へ移り進む時代を背景に、こぶの忍びとしての成長と、丹波・細川幽齋・細川忠興・細川ガラシャの生き様が見事な明暗を持って絡んでいく。
ちょっと文章が歌いすぎている部分はあるし、こぶの心を描かずに物語が進んでいる分カタルシスに欠ける部分はあるが、ストーリーも細部の描写も時代の描き方もとてもしっかりしていて素晴らしい。飽きずに最後まで一気読み。ラスト近くの意外な展開も、後味が悪く唖然とさせられるが逆にリアリティは増している。ラストのどんでんは逆に愉快。いろんなバランスを上手に取った、良くできた歴史小説である。

全体にリアリティが抜群な分、忍びの技のリアリティのなさが目立ってしまうのはご愛敬か。
忍びにまでリアリティ持たせてくれたらもっと面白かった気はする。でも忍びがリアリティ持ってもなぁ。ま、いずれにせよ、久しぶりに歴史空間を堪能できた。おすすめ。

2002年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

LV2「慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り」

坪内祐三著/マガジンハウス/2900円

慶応三年生まれ七人の旋毛曲り―漱石・外骨・熊楠・露伴・子規・紅葉・緑雨とその時代
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約550ページの労作。
「大」労作になるはずだったのに、途中で著者自身飽きてしまい、尻切れトンボで終わっている。それでも労作ではあるのだが、置いて行かれた読者はどないすればいいねん、って感は残る。

慶応三年に7人の偉人が生まれている。
夏目漱石、正岡子規、尾崎紅葉、幸田露伴、斉藤緑雨、宮武外骨、南方熊楠。
彼らの人生をそれぞれ並列に追うことで、近代日本の歩みを解き明かしていこうという野心作で、目の付け所は素晴らしいのだが、どうにもこうにも構造上散漫になっていくし、膨大な原文資料を読み解いていくのが難解であるし、7人という多人数を並列に追う無理が途中からモロに出て来ちゃっているし、緑雨や熊楠はあまり登場しないし、盛り上がりなく時系列的に平坦に読んでいくのが(読者的に)だんだん苦痛になってくるし、で、まぁなんというか、労作なのだが、辛い本になっちゃっているのが残念。

個人的には尾崎紅葉の実際みたいなものが知れたのが収穫。面白いエピソードも多数あり、文学史的にはいい本かもしれない。
でもなー、破綻しちゃっているよなー。著者の筆力ははなはだ評価しているが、ここまでの本を書くのには、少しタイミングが早すぎたのかもしれない。もっと筆力がついてから書いてほしい題材であった。とても期待しただけに、残念。

2001年10月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 歴史小説

LV5「王妃の離婚」

佐藤賢一著/集英社/1995円

王妃の離婚
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やっと読んだ話題作。
以前読んだ「双頭の鷲」的歴史ロマンかと思ったら、予想を覆す中世法廷もの(まぁ中世ヨーロッパが舞台という点では変わらないが)。しかもジェフリー・アーチャー的大逆転物語なので、ま、手に汗握り徹夜するというハメになる。

とても面白い。「双頭の鷲」は、いまいちカタルシスがなくノリきれなかったが、この本は見事なカタルシスとストーリーテリングでぐいぐい読者を引っ張ってくれる。主人公や王妃の細やかな描き込みも素晴らしく、中世の民衆の描写もリアリティがある。この本で99年直木賞を取ったのもうなずける。うーむ、佐藤賢一、ただものではない。

ま、そういうわけで、話題作だし、とっくに読んでおられる方も多いだろう。いまさらながらの紹介で申し訳ないが、この本はオススメ。未読の人はぜひ。

2001年9月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

LV4「柳生十兵衛死す」

山田風太郎著/小学館文庫/上657円下657円

柳生十兵衛死す〈上〉
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なにをいまさら、の有名本。
実は山田風太郎って読みたい読みたいと思いながら初読。文庫になったのを機に読んでみた、というわけです。

剣あり、能あり、250年のタイムトラベルあり、一休さんあり、足利義満あり、そして世阿弥に二人の柳生十兵衛あり…。
「奇想天外の大幻魔戦」というのはウソではなく、まぁ時代劇を現代のエンターテイメントで塗り直して見事に再構築した逸品なのでした。全体的に作者の淡白さが目につくし、ラストがどうもあっけないのが腑に落ちないし、後日談ももうちょっと読みたいと思うのだけど。くだらない、と言う人もいるかもしれないが、これはこれ。ちゃんと値段以上分楽しめた。

1999年7月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説 , SF

LV4「双頭の鷲」

佐藤賢一著/新潮社/2400円

双頭の鷲
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二段組616ページの分厚い本。
実在のベルトラン・デュ・ゲクランという不世出の「戦の天才」を主人公にフランスの戦国時代というべきものを描いたエンターテイメント。

筋は面白いし読み応えもあるのだが、この著者、わりとはぐらかす。盛り上げるだけ盛り上げておいて「そこを読みたい!」という部分をはぐらかして飛ばしちゃう。読んでいる側にはストレスが残って最後まで本当のカタルシスが感じられないまま筋を追うことになる。しかも表現が少し足りない部分がある。これだけの大部を書ききった構成力はめちゃめちゃ認めるが、じゃぁ「大デュマの興奮と司馬遼太郎の面白さを足した書。自信を持って今年度のベスト1に推す」と北上次郎(目黒考二)が大絶賛するほど面白いかと言われれば、答えは否。

著者はまだ31歳。その事実には驚くなぁ。フランス史をエンターテイメントにしたのはユニークだし素材の選び方もさすが。人物造形もうまいし、筋の持って行き方も悪くない。でも、これだけの大部を時間かけて読んだのに読後感やカタルシスがイマイチなのはちょと痛い。

1999年7月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

LV3「珍妃の井戸」

浅田次郎著/講談社/1600円

珍妃の井戸
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アポロン的大傑作「蒼穹の昴」の外伝的位置づけか。「蒼穹の昴」に登場した人物がその人物造形のままにあらわれるので「蒼穹の昴」を読んでいない人にはいまひとつ楽しめないかもしれない。

相変わらずの浅田浪花節で快感に導いてくれる。
が、著者が読者よりも先に泣き叫んでしまうので、読者はちょっとひいてしまうところがある。この頃このパターンが多いかも。「泣かせ」に自信を持ちすぎているのかなぁ。必要以上にビブラートをきかす演歌歌手みたいなところがある。ちょっと惜しい。

物語的には4人の貴族たちが珍妃殺人の調査に乗り出す動機がもうひとつ弱い気がする。
貴族がそんなことするだろうか? 最後までそれに対する違和感が残った。

1998年2月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

LV5「時のかなたの恋人」

ジュード・デブロー著/幾野宏訳/新潮文庫/800円

時のかなたの恋人
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タイムスリップ・ラブ・ロマンス。
SFであり歴史小説でありハーレクイン・ロマンスであり一人の女性の成長記でもある。

なかなかに荒唐無稽な筋で破綻もいっぱいあるのだが、この小説はとてもキュートで印象が強い。この小説自体を愛してしまう。なぜだろう。ひとつには主人公のキャラの魅力的なこと。そして時代考証がしっかりしていること。そしてなによりタイムスリップした登場人物たちのとまどいの描写の的確さ。著者の想像力のたまものである。そのとまどい加減のリアリティはH.F.セイントの「透明人間の告白」を思わせるものがある。不思議な魅力だ。

実はこの小説、初読時より再読時の方がずっと印象が強かった。なんかスルメのような「何度も読み返してみたくなる」感。なんだか面白い読後感なのだ。

1997年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 歴史小説 , SF

LV5「蒼穹の昴」

浅田次郎著/講談社/上下各1800円

蒼穹の昴〈上〉
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アポロン的大傑作。
「この物語を書くために私は作家になった」と帯にあるように著者入魂の大長編である。

時は中国清朝末期。
時代の大きな変わり目に蠢く人々を実に魅力的に描きあげている。すべての登場人物のキャラが立ち上がってくる描写力と上下巻息もつかせぬストーリーテリング力。歴史小説なのだが、ノンフィクションの趣きまで入ってきて、しまいにはその境目がわからなくなる。全部事実に思えてくるこの筆力。すさまじいものがある。一度読み出せば止まらないこと請け合いだ。

「え~中国の歴史物〜? 興味ないなぁ」と言うあなたも大丈夫。絶対すらすら読めるから。そして中国に今まで以上の興味と敬意を持つようになるから。んー、それにしてもシアワセな時間だった。これに直木賞を上げなかったら審査員コロスとまで惚れた(笑)。続編が待たれる。

1996年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

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