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小説(海外)(57)

LV5「ロング・グッドバイ」

レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳/早川書房/2000円

ロング・グッドバイ
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20数年ぶりにチャンドラーを再読した。しかも村上春樹の新訳。ノーベル文学賞に一番近い日本人作家と言われる彼がこうして様々な海外文学を翻訳して出版してくれる幸せをまずは感謝したい。日本人はとても恵まれている。

清水俊二訳の「長いお別れ」(実は抄訳だったらしい)を読んだのは高校の時だったか。わかったふりをしていたが実はよくわかっていなかったと思う。今回熟読してみてこの本が名作と言われる理由がすんなりわかった。やっぱある程度の年齢は必要なんだなぁ。歳とることも悪くない。

というか、何人もの人が指摘しているが、村上春樹の「羊をめぐる冒険」って「ロング・グッドバイ」へのオマージュだったんだと初めてわかった。ストーリーだけでなく、登場人物の似通い方が尋常ではない。訳者あとがきでも彼は影響を認めているが、わざわざ自ら訳してそこを明かしてくるのか、と、この作品への愛の深さに打たれたくらいである。そう、それと「ロング・グッドバイ」と「グレート・ギャツビー」は同じ話であったことも初めてわかった。ちょうど村上春樹訳の「グレート・ギャツビー」を読もうとしているところなので、実に刺激的。この素晴らしい三作の連関性をゆっくり掘り下げて遊ぶだけで1年くらいは暇つぶしが出来そうなくらい。

ちなみに、素晴らしい訳だとは思ったが、会話の部分で違和感があったところも多かった。特に「でしたました調」のところ。会話のリズムが壊れ、キャラまで壊れている気がする。どうなんだろう。

2007年5月 5日(土) 18:07:48・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ミステリー

LV5「世界の果てのビートルズ」

ミカエル・ニエミ著/岩本正恵訳/新潮クレスト・ブックス/1900円

世界の果てのビートルズ    新潮クレスト・ブックス
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人口が900万人しかいないスウェーデンで75万部売れたというベストセラー。

素晴らしかった。短編の積み重ねで綴って行く自伝的小説なのだが、そのリアリティと小説的ジャンプとのバランスが良く、自伝のくせに先行きが想像つかないのだ。プロローグ、そして最初の三章を読んで、一回本を閉じた。これは読者自身の想像力を試される本でもある。電車とかで読むのはもったいない。どこか旅先でゆっくり読みたい感じ(まぁ家のベッドで大事に読んだのだけど)。

それにしても活き活きと描かれる村の生活の魅力的なことよ。
フィンランド国境に近いド田舎の村パヤラ。世界の果て。そこで暮らすヘンテコな男たち女たち。少年が起こす事件の数々。サウナと酒と衝撃的体験としてのロックンロール。いまやパヤラはこの本のおかげでちょっとした観光地らしいが、それもわかる。是非とも景色や空気感を共有してみたくなるほどだ。

ちなみに原題ではビートルズではなくて「ポピュラーミュージック」と書いてある(Popularmusik fran Vittula)。でも邦題もなんか詩的でなかなか良いかも。

2006年10月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 自伝・評伝

LV5「バベットの晩餐会」

イサク・ディーネセン著/枡田啓介訳/ちくま文庫/680円

バベットの晩餐会
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この本での表記はイサク・ディーネセンとなっているが、ボクの中ではアイザック・ディネーセンである(ただし、この名で覚えられてしまってはいるが、英語読みに忠実にするならばアイザック・ダイネセンらしい。イサク・ディーネセンはデンマーク語読み。どちらにしろディネーセンはありえない、ディーネセンである、と訳者)。

ボクのフェバリットでもある「アフリカの日々」の著者。
彼女は英語版ではこの男性名を名乗るが、母国語であるデンマーク語で書くときはカレン・ブリクセンの名前を使った。先に英語で書いてから、自らデンマーク語で書き改め、ほぼ同時に出版するという特異なカタチをとった作家である。そうして書かれた英語版とデンマーク語版で内容にかなりへだたりがある場合があり、この「バベットの晩餐会」はそれに当たるらしい。デンマーク語版の方がずいぶんページ数が多いというのだ。そういうこともあって、この本はデンマーク語版を元にしているので、実はカレンの名前を著者に使うべきなのだが、併録の「エーレンガート」がイサクの版からとっているので訳者も悩んだらしい。結局通りがいいイサクの名前を使用したということだ。

この「バベットの晩餐会」は映画で観ていたが(傑作!)、原作をずっと読まずにいたのでいそいそと。
短い小説だが、予想通りの格調高さ。そして誇り。「アフリカの日々」でも感じたが、この行間から匂い立つような誇りはなんだろう。著者独特の文体だ。

内容的には、ある意味この短編の中に人生のすべてが入っているなぁと思わせる名作。寓話的ではあるが、芸術とはなにかをここまできっちり表現した小説も少ないだろう。併録されている「エーレンガート」もとてもいい。たまにこういう格調高い文章を読むと、現代作家をつまらなく感じてしまう。

2003年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「オネーギン」

プーシキン著/池田健太郎訳/岩波文庫/500円

オネーギン
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ロシアに旅行に行くと急に決めたので、ドストエフスキーやトルストイやチェーホフを読み返したかったが時間がなく、一番薄い本だけどロシアでは一番重要視されている作家プーシキンの代表作「エフゲニー・オネーギン」を読み返すことにした(金城の「対話篇」でも出てくるしね)。

中学以来の再読。昔買った本が見つからなかったので新しいのを買って読んだ(岩波文庫を20年ぶりに買ったよ)。
日本ではそう人気のある本ではないが、ロシアでは古典中の古典である。ちなみに映画もDVDで出てたので観た。99年東京国際映画祭最優秀監督賞を受賞したもの。この本と映画とでロシアを身近にし、ペテルブルグの雰囲気を随分掴んで出かけたわけだ。

時間がとても早く過ぎる現代に暮らしていると、プーシキンの描く19世紀初頭のロシアはとても悠長かつ冗長に感じられる。特にこの本は文明批評や風刺を盛り込んであるのでわからない名詞も多く、興味ない人には少しつらい本かもしれない。でも圧倒的に美しい。現代ではオーバーすぎる言い回しが多いが、ここまでリズムよく美文を振り回されると許せてしまう。

「ルージン」とか「青年時代」とか「桜の園」とか「罪と罰」とか読み返したくなってきた。いや、一番好きだったロシア文学が他にあったはず…。思い出せない。なにしろいまから30年弱前に読んだんだもんなぁ。
でも中学高校でロシア文学他の古典に触れ、その後まったくそういうのを読まなくなる日本人の生き方もどこかいびつだね。古典は中年以降の心によく効くはず。そろそろゆっくり再読しだす年齢かも。

2003年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV2「バースデイ・ストーリー」

村上春樹編訳/中央公論新社/1600円

バースデイ・ストーリーズ
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バースデイにまつわる10の海外短編を村上春樹が選び、訳した本。最後に村上春樹の「バースデイ・ガール」という短編も収録されている。

収録された短編は、レイモンド・カーヴァーのものをはじめ、ポール・セロー、イーサン・ケイニンなどの有名どころから、訳者ならではのセレクトによる現代アメリカ作家を含み、なかなか魅力的なラインナップ。訳者ファンならずとも、読んでみたくなるアンソロジーだろう。

と、紹介したうえで乱暴に決めつけてみたい。
この本は冒頭のラッセル・バンクスが書いた「ムーア人」のみでいい。これを読むためだけに買う価値があるとボクは思う。でも他の短編は……どうかなぁ。あんまりピンと来ないなぁという印象。この手のアンソロジーは好きだし、読者層の開拓にもつながるし、企画としてとても良いとは思うが、もうちょっとレベルを揃えて欲しい感じ。もしくはボクが読みとれてないのかな。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「9990個のチーズ」

ヴィレム・エルスホット著/金原瑞人・谷垣暁美訳/ウェッジ/1200円

9990個のチーズ
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妻がチーズ関係の仕事をしているせいか、題名を見てなんとなく買ってしまった本(帯に「柴田元幸さん推薦!」とあったのも影響しているが)。実はベルギーの古典として知られる本らしく(現代は「チーズ」)、1933年出版という古いもの。それがなぜ今出版されたのかはしらないが、なにやら妙に味わい深い本だった。

物語は、地道なサラリーマン生活をしていたラールマンスがひょんなことから大量のチーズの輸入代理責任者になり、大金持ちになる夢を見て奮闘するというもの。結末は「幸せは足元に転がっている」的な、いかにもな教訓なのだが、古い作品のせいか、非常にのんびりのほほんとしていて、逆に楽しい。そうそう人生の本質って実はそうだよね、とにっこり本を閉じたくなるような、そんな本。ちょっと仕事に疲れた人なんかにはなかなかいいんじゃないかな。薄い本だし。

2003年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV4「ナイーヴ・スーパー」

アーレン・ロー著/駒沢敏器訳/NHK出版/1200円

ナイーヴ・スーパー
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帯に「北欧から発信されたベストセラー小説が、ヨーロッパ中で若者たちの絶大なる支持を得た。新ジャンル"ナイーヴ文学"誕生」とある。帯の背表紙には「ブローティガンの再来」ともある。ブローティガンの再来とは思わないが、とても新しい文学だとは感じた。

なんというか、ある「哲学的思考」を生活表層的に描きながら、実は何も語っていない、みたいな匂いが新しい。
また、読みながらとても映像的だと思った。それもビデオ映像的。生活を薄ーく切り取っていき、その薄さに意味を持たせていない感じがとってもビデオっぽい。そしてその刹那な感じがイマの気分をよく捉えていると思う。象徴的なのは「リスト作り」の場面。この淡々としたリストの延長上に人生があるのは、インターネット、ビデオ、ケータイなどの「薄いもの」に囲まれたボクたちの実感にとても近いのではないだろうか。これらの薄さ、ナイーヴさと、文学がきっちりリンクした感じ。

この本は筋というよりは文体を読むべきものだろう。とはいえ、小難しいわけではまるでなく、とっても読みやすくとっつきやすい。そういう意味で訳もとてもいい。
なにも起こらないしなにも結論は出ないが、この小説が描き出すイマの気分に共感を持つ人は多いと思う。日本より先にノルウェイで書かれてしまったのが残念な小説。現代日本こそこんな気分の小説を書くに相応しいとは思うのだが(もしかしたら探せばあるのかも)。

2003年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「キャッチャー・イン・ザ・ライ」

J・D・サリンジャー著/村上春樹訳/白水社/1600円

キャッチャー・イン・ザ・ライ
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村上春樹訳のライ麦畑。
サリンジャーマニアだった大学時代を持つボクとしては見逃せない企画。というか2000年11月に読んだ「翻訳夜話」の中で予告はされていたので、じぃっと息を潜めて待っていた感じである。やっと出た出た。

読むにあたって、野崎孝訳の本も本棚から出してきて読み比べたりした。
最大の興味は、一世を風靡した「インチキ」を村上がどう訳しているかだったが、やっぱり「インチキ」だった(笑)。これにはちょっとこけたが、あとは村上特有の言い回し(やれやれ、とか)が多用されていたり、現代風に読みやすくなっていたり、訳も時代によって変えていくことにちゃんと意味があるのだなぁと実感。つか、改めて読んだ野崎訳がめちゃくちゃ古びていたことにビックリした。言葉は生き物だなぁ。

それと、敢えて言えば、題名を新訳してほしかった気持ちはある。そのまんまかよ、と。「つかまえて」という題名を訳としてどうなのだろうと思い続けて四半世紀。村上春樹なりに答えを出してほしかった。

2003年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「HARRY POTTER and the Chamber of Secrets」

J.K.Rowling/Bloomsbury/£5.99

Harry Potter and the Chamber of Secrets (UK) (Paper) (2)
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原書読み。
シリーズ2巻目だが、この本が後回しになってしまっていた。現刊ハリー・ポッター・シリーズはこれで全部原書を読み終わったことになる。4巻目の「炎のゴブレット」の方がずっとずっと分厚いのに、この本の方が時間がかかってしまったな。面白さが一番劣るから、という理由が大きい。途中のダレ方がとてもつらかった。次は5巻が夏に出るのを待つばかり。ただ、噂では「炎のゴブレット」の倍近く長いらしい。分厚いと通勤で持っていくのにうざいし、ベッドで読むにも腕が疲れる。ちょっとイヤだなぁ。

2003年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ファンタジー , 小説(海外)

LV5「HARRY POTTER and the Philosopher's Stone」

J.K.ROWLING著/BLOOMSBURY/£5.99

Harry Potter and the Philosopher's Stone (UK) (Paper) (1)
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原書読み。
3巻4巻と原書を読了したので、どうせなら全巻読了!と目標を立て、まずは第1巻。筋はよく了解しているし、第1巻のせいかわりと読みやすい英語だったのか、すぃすぃ読了。読み慣れてきたのかなともちょっと思うが、少し難しい文章になるとまるでわからないので、単に筋を知らなかった第4巻の苦労に比べて読みやすく感じたってだけのことのようだ。次は第2巻「秘密の部屋」。映画が来月公開されるヤツ。公開までには読めないだろうが、筋を良い具合に忘れているのでわりと勉強になるかも。

2002年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ファンタジー , 児童・ティーンズ

LV5「HARRY POTTER and the Goblet of Fire」

J.K.ROWLING著/BLOOMSBURY/£6.99

Harry Potter and the Goblet of Fire (UK) (Paper) (4)
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原書読み。
これを原書で読み終わったときは充実感あったなぁ。なにしろ796ページ。英語的にもわりと難しく(ボクにとっては)、筋も知らない状態で読んだので、苦労が多かった。時間もかかった(1ヶ月半)。でも、日本語版が出版される前に読み終えたのはうれしかったぞ。なんだボクもわりと根気あんじゃんと自覚できた意味で、思い出深い一冊になった模様。

内容的にはかなり高度で 子ども向きっぽさもほとんどなく、大人でも楽しめる。ラストなどとっても怖く、子どもによっては読み進められないのではないかな。シリーズ最高作といわれるのもわかる。とはいえ、クディッチのワールドカップや三校対抗戦がそれほど面白い物なのかという根本的な疑問が最後までつきまとったのが残念。日本語版もそのうち買って、ちゃんと読んでみようとは思うが…なんというか再読欲は起こらない本だな。

2002年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ファンタジー , 児童・ティーンズ

LV4「HARRY POTTER AND THE PRISONER OF AZKABAN」

J.K.ROWLING著/SCHOLASTIC/$7.99

Harry Potter and the Prisoner of Azkaban (US) (Paper) (3)
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ハリーポッターの第三巻、原書で読み下し。
英語力ないため不完全だが、とにかく読み下したという記録にここに載せておこう。これがあったがために日本語の本は冊数がはかどっていない部分もあるし。
この原書はUS版のようだ。意識せず買ったのだが、UK版とは単語や表現が少し違うらしい。ま、確かにUSとUKでは例えば同じゴミでもUSでは「trash」、UKでは「rubbish」のように、少しずつ違うよね。
原書を読んで思うのは、 日本語版で読んだ感じよりオドロオドロな単語が多かったこと。そしてリズムが非常に良い。わからないところなど、たまに日本語版と読み比べもしたが、邦訳は非常に苦労の後が見えるものの、ちょっとリズムが悪いなぁと感じるところが多かった。
ということで、いまは第四巻に挑戦中。700ページ超なので10月いっぱいでは無理だなぁ。11月にはなんとかしたい。 (邦訳は10/23に発売になる)

2002年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ファンタジー , 児童・ティーンズ

LV2「¥999」

フレデリック・ベグベデ著/中村佳子訳/角川書店BOOK PLUS/999円

¥999 BOOK PLUS
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フランスでの大ベストセラーの邦訳。
原題は「99F」。99フランですね。そのニュアンスを999円という邦題にしている。この本もこの世界も広告業界のモラルもすべて999円で買える程度のシロモノさ、みたいな意味の題名。
そう、舞台は広告業界。著者も広告業界出身で、赤裸々に内部を描いた、という評価もあるようだ。同じ業界に身を置いているものとして「んなことあるわけない」描写だらけなのだが、フランスではそういうこともあるのかなとも思わされたり。なんつうか、業界っぽい人たちの描写とそれに対する虚無感はわりと的を射ているかも。ま、人生なんて虚飾とクズと無意味で詰まっているわいな、みたいな虚無感に襲われやすい業界ではある。

若い広告クリエーターが主人公で、人称が次々変わる構成や独特の文体がユニーク。青臭く独白しただけのぬるい作品と取ることも、現代の「ライ麦畑でつかまえて」的作品と取ることも可能だが、ボク自身は、リアルな部分と荒唐無稽に筋を展開させた部分の整合性の気持ち悪さが大いに気に入らない他はわりと気に入った。独善的な毒舌が広告業界嫌いの広告業界人であるボクにわりと心地よかった、というだけのことかもしれないけど。

2002年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「シカゴよりこわい町」

リチャード・ペック著/斎藤倫子訳/東京創元社/1900円

シカゴよりこわい町
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ちょっと童話的な美しい小編。
子供のころを回想するカタチで書かれた小説で、シカゴから遠く離れたおばあちゃんの家に夏休みに行った数年間の思い出を書いているだけの物語なのだが、そのおばあちゃんのキャラクターが尋常でなく立っているので、非常に面白くなっている。

原題は「A Long Way From Chicago」。
邦題に「こわい」という言葉を入れたのは、子供達にはかなり怖ろしいおばあちゃんだからであろう(結果的にこの邦題はいまひとつであると思うが)。愛想は悪いし、平気で大嘘つくし、盗みはするし、銃はぶっぱなすし…。ただ、彼女の中の正義・尊厳は揺るぎなく、読み続けるに従ってその一貫性が快感に変わってくる。今度は何をしでかしてくれるのだろうと、どんどんページが進むのである。なのに、200ページ弱の薄い本なので(その割に1900円もするが)、すぐ読み終わってしまう。もっとずっと読んでいたかった。

エピローグが美しい。思わず涙がこぼれる。
第二次世界大戦に向かう軍隊輸送列車がおばあちゃんの横を通り過ぎる場面がアメリカの古き良き時代の終焉を象徴し、主人公のイノセンスの終焉も同時に表しているようだ。

2002年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「夜の姉妹団」

柴田元幸編訳/朝日文庫/720円

夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇
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副題が「とびきりの現代英米小説14編」。
お馴染みのミルハウザーやレベッカ・ブラウンをはじめとして、あまり知られていない短編作家たちまで、編者が趣味で集めたオムニバス短編集。雑誌「エスクァイア」への連載をまとめたものだが、連載条件は「編訳者の好きなもの」ということだけだったらしく、編訳者は非常に乗って訳している。柴田元幸訳にハズレなし、というボクの信頼に応えてくれる名短編集である。

表題の「夜の姉妹団」そして続く「結婚の悦び」の二編を読んでまず圧倒される。
この後はもう編者の思うつぼ。それぞれ構成に凝った確信犯的短編がこれでもかと登場し読者を唖然とさせ感動させる。ラストの「北ロンドン死者の書」まで息もつかせない(中には相当変なのもあって少々困る場合もあるが)。こういう完成度が高く想像力も高く仕掛けレベルも高い短編群を読むと、日本の、ただ日常の小さな気持ちを書きつづっただけの短編たちがいかに「なんとなく書かれているか」がよくわかる。エッセイ的小説と本当の小説の違いをまざまざと見せつけられた思いである。

短編をひとつ読み終わるたびに、日常が異化され、違って見えてくる…そんな小説に年いくつ出会えることだろう。そういう小説をまとめて提供してくれた柴田元幸に拍手である。いや、面白かった。

2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV1「白い犬とワルツを」

テリー・ケイ著/兼武進訳/新潮文庫/552円

白い犬とワルツを
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書店では店長手書き風POPが「鳥肌ものです!」とか揺れていて、現在30万部も売れていて、しかも仲代達也主演で映画化までされるらしい。話題の本である。

が、ボクにはこの本の良さがイマイチわからない。静かな気持ちにもなるし印象的な場面もあるのだが、なんだかまったく感動も涙もなく、すらっと読み終わってしまった。ねぇねぇ、この本、どこが面白いの? …なんてこと書くとこの本ファン(きっといるのだろう)から「感性がまるでないヤツ」と決めつけられてしまうのだろうけど、でも、ホントにわからないの。ねぇ、どこが面白いの? なんで売れるの? どうして映画になんかなるの?(外国ではとっくにテレビ映画になっており、NHKで放映もされたらしい)

長年連れ添った妻に先立たれた老人が主人公。妻の死後、どこからともなく現れた白い犬。でも彼の子どもたちにもその姿は見えない……なんだかなぁ。愛する妻、病気の頑固老人、彼を愛する家族たち、先立たれる悲しみ、あくまでも真っ白な犬、ひとり暮らし、お墓、犬との旅、回顧、息子の心配、信念、死、、、揃いすぎているのよ、お涙舞台の演出装置が。少なくともボクはちょっと白けた。あなたは?

2001年9月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「至福の味」

ミュリエル・バルベリ著/高橋利絵子訳/早川書房/1500円

至福の味
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フランス最優秀料理小説賞受賞作、らしい。さすがフランス、毎年最優秀を選べるほど料理小説が出ているということか(ホントか?)。

美食の限りを尽くしてきた高名かつ尊大な料理評論家が主人公。彼が死の床で、生涯最高の味を思い出しながら、彼にとって究極の味とはいったいなんだったのかを探す物語。
彼が味わった過去の素晴らしい食事が次々に思い出されていくのだが、その美食の表現が美しくもおいしく、なかなかうならせる。この表現だけで賞をもらったのかもしれない。刺身の項での和食店名が「オシリ」というのが笑わせる(泣かせる)が、とにかく味の表現は通り一遍ではなく、かなり良い。素晴らしい。

ただ、結末、つまり彼にとってなにが一番の味なのか、は、わりと想像の範囲内であった。
たぶんこういう結末だろうなー、と想像できてしまう。また、エスプリを効かせているのだろうが、ネコや石像(!)の一人称語りの章などがあったりするのは、なんとなく流れを止めてしまった気がする。面白い趣向なのだがちょっと白けてしまうんだよね。全体になかなか良い本なんだけど、もうひとつ印象に残らない一冊。惜しい。

2001年9月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「スター・ガール」

ジェリー・スピネッリ著/千葉茂樹訳/理論社/1380円

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全米書店員が選ぶ「2000年いちばん好きだった小説」の第一位だったそうな。映画化も決定したらしい。うーむ。映画にしてほしいようなしてほしくないような。ちょっとヒトに内緒にしておきたくなるような素敵な本である。せつなくて、キュートで、強い心の物語、ってところ。基本的にラブストーリーだけど、根本はそこにとどまらない。

ま、甘ったるくファンシーな物語と言うこともできる。せちがらい世の中から見たら「は?」な感想を持つ方もいらっしゃろう。
でも、ボクはこの本が好きだ。なんか赤毛のアンとハイジと長くつ下のピッピとさとうさとるを足して4で割って、ちょっと村上春樹を足したような小説で、照れくさかったり痒かったりするところもあるんだけど、でも、好き。これからこの本を読むなら、先を急がず、ゆっっっくりページをくくってほしい。どうしようもない日常から離れ、じっくりスター・ガールの世界に浸ってください。

しかし、こういう小説、アメリカっぽいなぁ。日本ではとうてい書かれないタイプの小説だ。おすすめ。LOVE!

2001年7月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV4「消えた少年たち」

オースン・スコット・カード著/小尾芙佐訳/早川書房/2600円

消えた少年たち
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たしか1998年度の「本の雑誌」年間ベストテンの1位だった気がする。いや目黒氏などは90年代ベスト1に推していた気もする。でも、なぜかずっと買ったままで置いておいた作品。

ええと、ウケルのはとってもわかる。良く出来たミステリーだ。
終盤までこれでもかこれでもかと日常のなんでもないことを詳細に描き続け、日常のかけがえのなさ、子供がいることの奇跡的な素晴らしさみたいなものを完璧にあぶり出しておき、そのうえで急転直下ドカンと衝撃のラストに持っていくやり方は見事である。子供に対する気遣いの(病的な)細かさ、モルモン教のリアルで詳細な描写(教義の説明)、両親の過剰さ、など、ちょっと鼻につくところはいっぱいあるのだが、なんとなくすべてを許したくなるような気持ちにさせる。

が、言われているような爆涙的大傑作とは、残念ながら思わなかった。
涙はしたし、びっくりしたし、印象も深いが、「いいよーこれ!」と人に薦める気にあまりならない。なんでだろう…。なんというか「子供や世界に対する想いについての乖離」がそう思わせるのかな。主人公たちのその想いの過剰さが、どこかでボクを白けさせてしまうのだ。ボクにも娘はいる。かけがえのないものである。が、こういった過剰さはどこかで意識して避けている。その辺の考え方の明白な違いみたいなものが、どこかで感動に対する違和感になり、なんだかこの本を「警戒」させる。

この本はある世界観の(ある宗教的世界観の、と言ってもいい)の徹底的賛美であり、それを感動的ミステリーという口当たりの良いオブラートに包んでみせた周到な「プロパガンダ」なのではないか、という「警戒」が心の中に起こる。そこらへんがボクにとってつらい部分かも。考えすぎかもしれないけど。個人的にはそんな感じ。

2001年6月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ミステリー

LV3「シーズンチケット」

ジョナサン・タロック著/近藤隆文訳/BOOK PLUS/1000円

シーズンチケット
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ペーパーバック的風合いが好ましいBOOK PLUSシリーズの一巻。
この本はイギリスの物語。サッカーのシーズンチケットを買うことが唯一の夢である少年ふたりの悪戦苦闘の日々を描いた中編。「映画化!2001年GWに公開」と帯に書いてあるから、ちょうどこの5月に日本で公開されているらしい。

イングランド北部の貧困街で、閉塞感バリバリで暮らす少年ふたりの夢、それはニューカッスル・ユナイテッドの年間指定席を手に入れること。
スタジアムで好きなだけ試合を見れたらなんて素敵だろう、という閉塞感の象徴のような密やかな夢の設定がまず泣かせる。そしてそれを買うためにお金を貯めるのだが、その考えついた方法がすべてあまりに貧困で泣けてくる。そう、一見明るい筆致でコミカルに書かれた本のようだが、内実は暗く閉じられた悪循環の話なのだ。そしてラストもハッピーエンドではない。夢を諦めないところが救いといえば救いだが、でもきっと彼らはこの悪循環から抜け出せない。

明るく性格もいいふたりがどうしようもなく堕ちていく様が、社会派的押しつけを使用せずよく書けている。読者を自然に応援させつつ、一緒に閉塞感を味わわせる手法もなかなか。金稼ぎエピソード群がもっと面白ければかなりいい本になった気がする。あそこらへんがもうひとつなのがこの本の弱いところ。映画はここらへんを笑えるように描いていることであろう。

2001年5月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「アルケミスト」

パウロ・コエーリョ著/山川紘矢+山川亜希子訳/角川文庫/520円

アルケミスト―夢を旅した少年
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「星の王子さま」と「かもめのジョナサン」と「リトル・トリー」を一緒にしてゆっくり煮込んで濾したような本。
途中から砂漠が舞台になるので特に「星の王子さま」チックだな。先月読んだ「ベロニカは死ぬことにした」が(イヤラシイながらも)わりと印象的だったので取り寄せて読んでみた。コエーリョでは一番売れた代表作らしいし。

簡単に言うと、ある羊飼いの少年がピラミッドに向けて夢を求めて旅をする、という物語。
その中で様々な人生の知恵を得ていくということ。ありがちではある。でも文章は清冽で目線も温かい(かつ、甘すぎない)。様々な警句が手を替え品を替え登場する。一見「珠玉の言葉」と表現したくなる言葉群だが、中にはウソクサイ言葉もある。批判精神を持たずに読むと(ジョナサンとかがそうなりがちだったように)ちょっと新興宗教的一途な気持ちになってしまうかもしれない。そのくらいは(中途半端でなく)よく出来た言葉の洪水だ。

ファンタジーとは「子どもが大人になる物語」だと思う。そういう意味ではまさしくこれはファンタジー。何かを学ぶ気なら学べるし、時間つぶしに読み飛ばすならそれもいい。薄いし、南の海に持って行くには最適かも。
ボク自身は、実はこの手の本にちょっと食傷気味ではある。こういうのばかり読んでいた時期が長かったからかな。ちなみにある雑誌の特集によると、著者は「世界で一番読まれている作家50人」のうちのひとりだそうだ。なるほどー。

2001年4月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ファンタジー

LV4「シェイクスピアを盗め!」

ゲアリー・ブラックウッド著/安達まみ訳/白水社/1700円

シェイクスピアを盗め!
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全米図書館協会最優秀賞受賞の本らしい。
時はシェイクスピアが生きた400年前のロンドン。速記術を仕込まれた丁稚の主人公がロンドンで上演中の「ハムレット」を速記してまるまる盗むことを言いつかい・・・というストーリーでなかなかよく出来ている。当時のイギリス、そして当時の舞台のあり方が活写され、そこにスリルも加わって、ちゃんと面白い。
ただ主人公一人称文体なので、当時の時代考証的説明がどうしてもしにくくなっているのが残念ではある。ちょっと史実的視点からも読みたかった本なので(もちろん一人称だからこそ伝わってくる臨場感はあるから、どっちもどっち)。

そういう意味では、映画「恋に落ちたシェイクスピア」あたりを観てから読んだ方が、より臨場感が味わえると思う。スレてしまったオッサンとしては食い足りない部分も多い本だったけど、じっくり判断するとやっぱりいい本かも。題材も視点もいいしテンポも上々。たまにはこういう善意の本(というか、害のない良書というか)もいいものだ。難を言えば、シェイクスピア自身の登場がもう少し欲しかったかも。

2001年4月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「ベロニカは死ぬことにした」

パウロ・コエーリョ著/江口研一訳/角川書店/1600円

ベロニカは死ぬことにした
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生きる意欲をなくして自殺しようとした若い女性が、助けられた病院で「薬の飲み過ぎで心臓が弱っているからあと1週間しか生きられない」と宣告される。そしていろいろあって「生への意欲」「生きる喜び」を理解しだす…

みたいな、なんつうかありがちな物語なんだけど、中後半に見逃せない美しさが漂っていてとても印象が強かった。
その病院は精神病院なのだけど、そこに出てくる患者たち数人の人生模様描写が、主人公の描写を上回る勢いでよく描けていたりする。オチは「ああ、やっぱりね」的すぎるのだが、オチとか筋に関係ないところに主題があるのであまり気にならない。つうか小説というよりは研究書的記述もいろいろあったりして、なんだかそこらへんの境界があまりない感じの本でもある。

パウロ・コエーリョは初読だが、なかなか味がある。ちょっと「精神世界の本」的あやしさがありすぎる気もするが、他の本も読んでみたくなる感じ。

2001年3月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 哲学・精神世界

LV2「サン・ジャンの葬儀屋」

ジョエル・エグロフ著/松本百合子訳/ブック・プラス/1000円

サン・ジャンの葬儀屋
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「フランスで大ベストセラー! 2000年シネレクト賞受賞」という帯(シール)につられて買ってしまった。
著者のデビュー作らしい。軽妙かつヨタヨタな空気感がまず良い。著者のクレバーさが伺える文体だ。筋もなんだか滑稽で最後はロードムービーのようになりとても映像的。斬新を気取らず、わざと田舎っぽい描き方に徹しながら、しっかり「新しさ」を演出するあたり、なかなかである。

全体にいかにもフランスっぽいウィット感があるので、好む人には心地よいだろう。オチも小洒落ていてちょうどよい。
ただなにか刺激があるかとか面白いかとか言われるとノーである。なんちゅうか南の島の海岸に寝ころんで読み捨てするには最適だけど、都会であくせくしている日常で読むと(肩の力を抜けさせてはくれるが)ちょっと物足りない部分もある。読む状況でどうにでも変わる本、かな。

2001年3月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「停電の夜に」

ジュンパ・ラヒリ著/小川高義訳/新潮クレストブックス/1900円

停電の夜に
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山本夏彦は向田邦子を評して「向田邦子は、突然現れてほとんど名人である」と言ったが、このジュンパ・ラヒリというNYC在住のベンガル人女性はまさにそんな感じである。この本がデビュー短編集なのだが、いきなり「ほとんど名人」なのである。一読びっくり。再読ほっこり。このデビュー作で2000年度ピュリツァー賞、O・ヘンリー賞、ニューヨーカー新人賞などを総なめしたのも理解できる。うーん、スゴイ…。

静かな語り口。無駄のないフォルム。全体に独特の距離感のある描き方で、それは主人公に対しても同じ。短編の最後の方で、ふっと主人公からの距離を遠くに見せる感じが絶妙(映像で言ったら最後にすっと程良く引く感じ)。うーん。物語の収め方がいいなぁ。好きなタイプのエンディング。
どの短編もとっても良かったが、特に印象に残っているのは「本物の門番」「病気の通訳」「ピルザダさんが食事に来たころ」。なんとなく彼らの世界観が読んでずいぶんたったいまでも心の中に巣くっているという意味で印象に残っている。でも全部いい。今年のベスト1かもしれない。オススメ。

2001年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV4「ぼくは静かに揺れ動く」

ハニフ・クレイシ著/中川五郎訳/アーティストハウス/1000円

ぼくは静かに揺れ動く
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イギリスで記録的ロングセラーになっている本らしい。
結婚して6年になる妻と子供を置いて出ていこうとする男のたった一日の出来事・回想を書いた本だが、その意識の流れに忠実な構成、ビビッドな文章、共感を呼ぶ正直さが素晴らしい。特に前半。こりゃ名作にぶち当たったのかも、と襟を正し座り直して読み始めたくらいである。

ただ中盤が、その意識の流れを追うという構成上仕方ないことでもあるのだが、かなり冗長。
一行一行繊細な感情が詰まりすぎていて息も出来ない。繊細さの大安売り!という感じがしてくるくらいである。でも結局それを貫いた分、この本は成功しているのだろう。大人版「ライ麦畑でつかまえて」的に。

「馬鹿でよかった」の書評でも書いたが、説明しすぎているのがちょっとうざいかも。何度も何度も気持ちを説明しにかかる。もっと読者を信用してほしいぞ。ちゃんと伝わっているのだから。

原題は「Intimacy」。親密とか情交とかそんな意味。邦題は内容を受けた労訳だと思うが(こういう一文が中にもあるし)、これも説明しすぎの感がちょっとある。

2000年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV4「朗読者」

ベルンハルト・シュリンク著/松永美穂訳/新潮クレストブックス/1800円

朗読者
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各媒体、各批評家、ベタ誉め。20以上の言語に訳されアメリカでは200万部突破のヒット作らしい。
満を持して読んだ。なんか題名も良いし、装丁も良い。「悪童日記」っぽい衝撃がありそうな予感…。だが。

神は細部に宿る。そういう意味では傑作である。この行間のみずみずしさは尋常ではない。こういう風に書きたい、と読んでいて嫉妬すら覚えた(嫉妬を覚える資格もないが)。久しぶりにブンガクの強いオーラをまとった文章を読んだ感じ。
だけど、小説の構築、という意味では少々物足りないのも確か。切ない恋の結末と強制収容所の過去、そして歳をとったふたり・・・。淡々と語られるそのストーリーは十分衝撃的だしこれ以上事件を増やす必要もない。主人公にも共感する。なのになんでこう物足りないのだろう。

それはたぶん、文章のリリシズムとストーリーの問題の深さが馴染んでないからではないか。もっとハードボイルドにした方がストーリーは立つ気がする。でも、著者はこれでもかと詩的な部分を放り込んでしまった。このリリシズムなら、例えば後半部がなくて裁判のちょっと後で終わった方がもっと締まったのかもしれない。後半部に前半部みたいな心の動きが頻繁に描かれていないのも逆効果。回想で始まっている物語なのに、そして前半はかなり多弁かつリリカルに回想するのに、後半では主人公は妙に読者によそよそしい。そこら辺も馴染んでない印象を際だたせる。

それにしても、リアルでこういろいろ事件が起きると、強制収容所ですらあまり残酷に感じなくなってくるね。そういう点からして「事件慣れした現代の日本人(つうかボク)には物足りない」だけなのかもしれない。

2000年9月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV4「死者の書」

ジョナサン・キャロル著/浅羽莢子訳/創元推理文庫/600円

死者の書
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ミステリーなのかな。いや、ホラーか。うーんそれともファンタジー小説か。まぁどれでもいい。鬼才と言われる作家のデビュー作で、アメリカではベストセラーだったらしい。

面白い。発想といい展開といい不思議な文体といい行間の深さといい、非常に楽しめる。だけどだけど、結局最後は拍子抜けだったのである。むーん。前半から終盤まではホントにいいの。でもね、終盤からラストにかけてがどうにも居心地が悪いのだ。息切れしたのかなぁ。それとも終盤までの怒濤の展開を支えきれなくなったのか。処女作だけにいろいろ考えられるけど、まぁ広げすぎ、なのかな。収まりがつけにくい展開ではあるし。

作家は想像力だけで世界を構築できる、ある意味で「神」なのだけど、そういう意味ではこの本はまさに「想像力そのもの」。
ちょっと映画「マトリックス」的部分や、ゲーム「ウルティマ・オンライン」的な部分もあって、面白い。読後はわりと拍子抜けだけど、時間が経つに従って印象が深まるタイプの本である。

2000年7月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ファンタジー , ホラー

LV5「月曜日は最悪だとみんなは言うけれど」

村上春樹編・訳/中央公論新社/1800円

月曜日は最悪だとみんなは言うけれど
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著者は熱心な「アメリカ文学ウォッチャー」である。その著者がいままで面白いと思ってアメリカの雑誌からスクラップしたいろいろなコラム、文章、短編、を親切丁寧に我々に提示してくれた一冊。

著者の「文学への視線」がこの本の雑多な文章を結びつけていて、そしてその視線はどの作家に対しても非常に「フェア」である。それが気持ちがいい(このフェアというスタンスは著者のあらゆる著作に通底するコンセプトだ)。例えば、こういう本は著者がその熱狂を語ってしまって読者を置き去りにすることになりがちだ。だが、読者に対してもフェアである村上春樹はそれを全くしない。これがなかなかに難しいのだ。それを著者はさりげなくやりおおせている。うーむ・・・。我々読者は、村上春樹という「アメリカ文学ソムリエ」を持っていることをシアワセに思うべきだろう。いやホント。

レイモンド・カーヴァーの話題で半分くらい取られているから彼の短編を読んだことない人にはつまらないかもしれない。が、読んだことある人なら「文学の成り立ち」を含めていろいろ考えさせられる。カーヴァー・ファンにもオススメの一冊。なお、はっきり言って題名は悪い。あまりに内容がわかりにくい。

2000年7月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 評論

LV5「ロケットボーイズ」

ホーマー・ヒッカム・ジュニア著/武者圭子訳/草思社/上下各1800円

ロケットボーイズ〈上〉
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NASAの元技術者が書いた自伝。
全米でベストセラーを記録し、映画にもなった(邦題「遠い空の向こうに」)。アメリカの田舎の炭坑町で、ロケットに憧れ、ロケットを飛ばすことを夢見た高校生たちの実話である。

ソ連のスプートニク打ち上げで宇宙開発に一歩後れをとったアメリカの当時の雰囲気や田舎の炭坑の様子が活写され、劣等生たちがロケットを飛ばす夢をどうやって叶えていったか、ちょっと「アメリカン・グラフティ」みたいな雰囲気の中、清冽に描かれていく。ケネディの時代、夢が夢であった時代、そんなノスタルジィもあるのだろう、ちょっときれいに描きすぎているきらいはあるが、登場人物たちが魅力的なこともあって(父や母や先生たちといった脇役のキャラが立っているのだ)、飽きさせない。淡々とした筆致で静かに物語が進むさまも好感が持てる。

歌い上げている自伝は基本的に苦手であるが、題材がとてもいいのだからもうちょっと歌い上げても…と思わせる感じがこの本にはあった。また、キーになるロケット技術の描写を端折りすぎているのも気になる。読者はかなり興味を持って読んでいるので、例え少々専門的になろうとも、もうちょっとでいいから描写してほしかったと思うのである。

2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 自伝・評伝

LV2「ニューヨークの錠前屋、街を行く」

ジョエル・コストマン著/常盤新平訳/グリーンアロー出版社/1857円

ニューヨークの錠前屋、街を行く
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著者自身が実際にニューヨークの錠前屋である。
つまりこの本はノンフィクション的小説で、錠前屋が街のいろんなところで経験するちょっと小洒落たエピソードを14編集めた短編集となっている。

硬質な文章で上手にニューヨークの空気を再現しているとは思う。ニューヨークというある種特殊な街に生きる普通の人々が活写され、錠前屋主観のその文章は、被写体との距離感が見事に取れている。でもなぁ、でもでも、なんつうかこういう「ボブ・グリーン的世界」ってちょっと古くない? つうか、飽きない? あ、ボクだけ? よくわからないけど、よく出来ているとは思うけどつまらなかった、みたいな印象。錠前屋、という職業にはとても興味が湧いたけど。

ちなみにこの頃ちょっとだけ常盤新平の著書・訳書にアタリは少ない、と思い始めている。なんだか「ぬるい」のだ。

2000年2月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ノンフィクション

LV5「さゆり」

アーサー・ゴールデン著/小川高義訳/文藝春秋/上下各1524円

さゆり〈上〉
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スピルバーグがこの本の映画化権を取ったとか、全米で200万部売れたとか、とにかく話題の本ではある。

アメリカ人が芸者のことを書いた本なのだが(原題は「Memories of a Geisha」、「将軍」にあったような“ねじ曲がった日本観”みたいなものはここにはなく、日本人でもここまで精密・正確には書けないのではないか、と思わせるくらい描写は見事。これは訳者の力もあるとは思うが、とにかく祇園の芸者たちの日常が行間から匂い立ってくるのだ。

上巻は特に大傑作。芸者の回想録なのに手に汗握るとは思わなかった。下巻はそれに比べると数段落ちてしまう。エピソードの積み重ね方も雑で、主人公へのカタルシスすら消えていってしまうのが残念。またラストにかけての展開もおざなりで、上巻が面白かった分、読後はなんだかがっかりしてしまった。でも、それでもまぁ最高点だろうなぁ。

まるで日本人が書いているように、日本人にとっては常識なことを著者はまるで説明しない。あれで全米200万の読者は正確に理解したのだろうか。そこらへんが心配。あと、あの独特の祇園言葉を英語ではどう書いたのだろう。ちょっと原書を読んでみたい気分。

2000年1月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「夢奇譚」

アルトゥル・シュニッツラー著/池田香代子訳/文春文庫/381円

夢奇譚
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キューブリックの遺作映画「アイズ・ワイド・シャット」の原作。
いまから74年も前にウィーンで書かれた物語。フロイトが「わが精神のドッペルゲンガー」と呼んだ著者シュニッツラーの著書は森鴎外がいくつか翻訳しているようだ。

薄っぺらい本だから一日で読める。ただ内容的には薄っぺらくない。かなり心に残った。
主人公(夫。映画ならトム・クルーズ)の意識の流れを克明に追って行くのだが、自分が最良のものとして選んでいる人生(日常、仕事、そして妻)が、自らの内面の真実とズレてしまっていることに気がつき懊悩するに至る心理描写が見事。そしてそれは決して一致するものではない、と持っていくニヒリズムもなかなか共感できるものである。夢とリアルなものの間に境界線は果たしてあるのか。そしてどちらが本当の「心の真実」なのか。深い夜、ベッドに横になりながら自分の心の奥底をしっかり見据えさせる力をこの薄い本は持っている。

映画はまだ観ていないのだが、この「意識の流れ」的原作をどう映画化しているのか、先に映画を観てしまった人には味わえない楽しみが残されているのがうれしい。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV4「むずかしい愛」

柴田元幸編訳/畔柳和代訳/朝日新聞社/1800円

むずかしい愛―現代英米愛の小説集
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副題は「現代英米愛の小説集」。
スティーブン・ミルハウザーやレベッカ・ブラウンをはじめとしてウィリアム・トレヴァー、ヘレン・シンプソン、グレアム・スウィフト、ウォルターモズリイ、V.S.プリチェット、ジョン・クロウリーと、日本ではマイナーな作家たちの短編を集めたもの。

テーマは題名通り「むずかしい愛」。つまりは普通でない愛の物語だ。
冒頭のレベッカ・ブラウン「私たちがやったこと」が特にいい。いつも一緒にいるために片方は耳を焼き、片方は目をつぶした恋人達の物語。そう、そんな「変な愛の物語」がいっぱいつまった本なのだ。いや、愛はいつもどこか欠けている方が強くなる。そういう意味では「強い愛の物語」とも言えるかもしれない。

編者は信頼する柴田元幸。彼が訳したものはハズレがない。ただ、今回はテーマ先行って感じで、ちょっとレベル的につらい短編もあったのも確か。秋の夜の就寝前にじっくりつき合うにはとてもいい本だけど。(p.s. 嶋津ふみさんありがとう!)

1999年10月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「バーナム博物館」

スティーヴン・ミルハウザー著/柴田元幸訳/福武文庫/680円

バーナム博物館
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タイプの違う短編が10編。

ミルハウザーは「三つの小さな王国」を読んだだけだが、非常にオリジナルな世界を紡ぎあげる人で次々読みたくなる作家である。が、わりと時間がかかってしまうのも確か。この短編集もだらだらと2カ月ほどかかってしまった。「三つの小さな王国」よりもより実験小説風で独自の構築とリズムに入っていくのに時間がかかってしまうのだ。

かといって読み飛ばせない迫力が行間に満ちているから一文字一文字じっくり対峙しなければならない。緻密でみっしりした構成力。読者の「読書力」が試される作家である。
次は「イン・ザ・ペニー・アーケード」をゆっくり読むつもり。寝る前とかの睡眠薬にはとってもいい作家だし。

1999年6月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「ここがホームシック・レストラン」

アン・タイラー著/中野恵津子訳/文春文庫/752円

ここがホームシック・レストラン
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このところどしどし文庫化が進むアン・タイラー。これは1982にアメリカで出版された長編の文庫化にして新刊だ。

前半はなんだかとろいな、と感じたが、中盤からは一気に読ませて呆然と空を仰がせる。さすがアン・タイラー、としかいいようがない。心の襞を、まるで標本にするように丁寧に採集していくその手法は、こうして家族をいろんな角度から書かせると特に際だち、なんだか違う人生を生ききったような充実した読後感をもたらす。
この長編に限って言えば、エズラの心の襞にだけ、読んでいて入り込みにくかったのが残念だが、生きている限りついてまわる「家族という小宇宙」をこれほどまでに彫りだして見せた小説は少ない。

読む人によっては甘ったるいソープドラマと取るかもしれないが、ボクはアン・タイラーを支持します。ゆっくり惜しみながら全作読もっと。

1999年2月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「三つの小さな王国」

スティーヴン・ミルハウザー著/柴田元幸訳/白水社/2000円

三つの小さな王国
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それぞれ自分の中にある小さな王国(つまりは人生そのものなのだが)について書いてある3つの短編からなる。

形式的には実験小説的趣を持ちながらも一糸乱れない。著者はものすごい筆力で内なる美しい王国を夢想的に紡いでいく。すごいのは紡いでいる視点が第一人称なのか第二人称なのか第三人称なのか、読み終わってから混乱すること。読んでいる間は気持ちよくスムーズに読めるのだが、読後に視点が折り重なって4次元のような不思議な浮遊感をもつのだ。こういった小説はあまり読んだことがない。

敢えて言えばアンドレ・デビュースっぽいかな。違うかな。なんというか著者の小説世界に一度身を投じるとしばらく出たくなくなってしまう。そんな気持ちよい異次元さ。柴田元幸訳ということで安心して読んだ部分が大きいのだが、実はちょっと青山南訳で読んでみたい気もしている。もうちょっと原文は耽美的なような気もするし。

特に一つ目、「J・フランクリン・ペインの小さな王国」は傑作短編。

1999年1月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「宮殿泥棒」

イーサン・ケイニン著/柴田元幸訳/文藝春秋/2200円

宮殿泥棒
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柴田元幸の翻訳したものにハズレなし(彼自身のエッセイはときどきはずれるが)! 
ということで、今回もはずれなかった。中編4つ。それぞれ「普通の人」の心の動きを細かく追って、ストーリーテリング小説ともシチュエーション小説とも違うカタチでまとめあげており、実に奥深いいい出来の小説集だ。なんというか小市民的感情の動きが実に上手に描かれている。そして身につまされる。

小説の性格からいって教会の懺悔室で聞かれるような物語だが、読後感はたいへん爽やかで充実している。こういった、あまり仕掛けのないヨーロッパ映画みたいな小説をもっと読みたい。ハリウッド映画ばりに仕掛けたっぷりの本がこの頃多すぎる気がする。

1998年12月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「悪意と憂鬱の英国式週末テニス」

マデリーン・ウィッカム著/岡田葉子訳/早川書房/2200円

悪意と憂鬱の英国式週末テニス
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なんとなく表紙と題名に惹かれて買ってしまったボクはご多分に漏れず英国好きなんだけど、これは大当たり本でした。

ただ、惹かれたくせに言うのはなんだけど、邦題はどうなんだろう?(原題はThe Tennis Party)
内容を表していないし妙にシニカルにしすぎる。実際の内容はもっともっと奥深いし、「善意と爽快」も随所にある。

昔ロンドンの同じ通りに住んでいていまでは境遇がいろいろに変わってしまった数組の夫婦が久々に週末のテニスパーティに集まって愛憎を繰り広げる…という感じのストーリーなんだけど、何より面白いのは彼らの内面描写。ある意味人間の本質である「イジワルな本音」がこれでもかと出てきて、キレイゴトに満ち溢れた小説が多い中、実にすっとする。おすすめ。

1998年11月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV1「カラ」

J・F・ガーゾーン著/沢木耕太郎訳/小島武画/新潮社/1359円

カラ―孤独なハヤブサの物語
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「かもめのジョナサン」を彷彿とさせる、あるハヤブサの意識革命の本である。副題は「孤独なハヤブサの物語」。
雑誌「シンラ」の創刊号で全訳が載ったもの。沢木耕太郎が訳しているという理由で購入。読んでみて…、「失敗」でした。寓話として出来がいいとは思わない。よくあるオモワセブリな作品である、とボクは思う。

しかし沢木耕太郎、あとがきでも書いているが、原作者の冒頭の一節を「こうした文章はこの作品の純一さと透明感とを損なうだけ」と判断して削除している。訳者がそんなことしていいのだろうか? 確かに訳者の判断で文意を変えることは可能だろう。だが、一節まるごと削除していいのだろうか?  「・・・を損なう」なんていうのは読者が読んで判断することだ。訳者は与えられた権限範囲で美しく個性を出せばいいと思う。

1998年9月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「テレビジョン」

ジャン=フィリップ・トゥーサン著/野崎歓訳/集英社/1575円

テレビジョン
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著者5年ぶりの新作。
「浴室」「ムッシュー」以来の文体はそのままに今回は著者にしてはかなりの長編となった。

ある日テレビを見るのをやめたある男の物語であるが、テレビをやめることで逆にテレビという概念に縛られていく様が面白い。テレビがあるからテレビを消したときの安息があるのであり、テレビをなくすと逆に安息がどんどん奪われはじめるのだ。
この本はテレビをはじめとする「受け身媒体」と現代人との関わり方を現代の生活の中で丁寧に描きこんでおり、その丁寧さが読者を退屈させることを除けばなかなかの傑作である。特徴的な垂れ流し文体も主題とよくあっていたが、ちょっと読みづらいのが難。著者を好きな人にはたまらない本かもしれないけど。

1998年5月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「ストライク・ゾーン」

ジム・バウトン、エリオット・アジノフ著/村上博基訳/文藝春秋/2286円

ストライク・ゾーン
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新年早々大傑作にぶちあたってしまった。
洒落ていて人生が詰まっていてスリリング。筆も見事に抑えが効いていて淡々とした中にぎっちり興奮を詰め込んでいる。

うまいなぁ。野球の物語なのだが視点が良く実に楽しめるのだ。書いているのはある日のたった1試合の出来事。ここに非常に濃いドラマが隠されているのだがこれが結末までオチがわからず夢中になること請け合いだ。

単に筋がよく出来ているだけの本ではない。濃厚な人生を詰め込んでいる。でいて読後感は明るくさわやか。元気になる。こういうのを読むとこの頃の日本文学は暗いばっかりでつまらないなぁと思ってしまう。上質のエンターテイメントがまだまだ少ないよねぇ。

また、装丁もGOOD。
ちなみに著者はふたりだが、これはどちらかがアイデアマンでどちらかが執筆者というところなのだろうか。

1998年2月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「時のかなたの恋人」

ジュード・デブロー著/幾野宏訳/新潮文庫/800円

時のかなたの恋人
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タイムスリップ・ラブ・ロマンス。
SFであり歴史小説でありハーレクイン・ロマンスであり一人の女性の成長記でもある。

なかなかに荒唐無稽な筋で破綻もいっぱいあるのだが、この小説はとてもキュートで印象が強い。この小説自体を愛してしまう。なぜだろう。ひとつには主人公のキャラの魅力的なこと。そして時代考証がしっかりしていること。そしてなによりタイムスリップした登場人物たちのとまどいの描写の的確さ。著者の想像力のたまものである。そのとまどい加減のリアリティはH.F.セイントの「透明人間の告白」を思わせるものがある。不思議な魅力だ。

実はこの小説、初読時より再読時の方がずっと印象が強かった。なんかスルメのような「何度も読み返してみたくなる」感。なんだか面白い読後感なのだ。

1997年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 歴史小説 , SF

LV3「一人の男が飛行機から飛び降りる」

バリー・ユアグロー著/柴田元幸訳/新潮社/2200円

一人の男が飛行機から飛び降りる
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寝る前のお楽しみに毎日2~3編ずつ読むこと約2ヵ月。311ページの中に149編の短編が入っている超短編集だ。

その内容を一言で表現するなら、夢(悪夢)をそのまま文章にした、という感じか。寝る前に現実と非現実の境をなくすには最適。アメリカの出版社の宣伝文句に曰く「フランツ・カフカとモーリス・センダックとモンティ・パイソンが一緒になって夢を見ているような」と。
ちなみに柴田元幸訳の本はなるべく読むようにしている。ハズレがないから。

1997年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「文体練習」

レーモン・クノー著/朝比奈弘治訳/朝日出版社/3500円

文体練習
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文学は文体がすべてだと思う。
でもたかが「1人の男がバスに乗っているのを見た。二時間後その男をまた見かけた」という10行ほどの内容を99通り(正確には102通り)の文体に書き分けられるとただ呆然とするしかない。つまり同じ内容でも無限に書き方があるわけで、これは作家にある種の安心と極度の反省を促すのではないだろうか。味覚視覚などの五感シリーズや罵倒体、下手糞体や語中音消失体、付録の反動老人なんか面白かったなぁ。

著者は「地下鉄のザジ」の作者だが、なによりも訳者が偉い。偉すぎる!また、いろんなフォント、カラー、デザインに対応した出版社(編集者)も偉い。偉すぎる!

1997年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「時の旅人」

ジャック・フィニィ著/浅倉久志訳/角川書店

時の旅人
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タイムトラベルの古典とも言える力作「ふりだしに戻る」の25年ぶりの続編にしてフィニィの遺作。フィニィでは圧倒的に「盗まれた街」が好き。あ、「夜の冒険者」もまぁまぁ。

「ふりだしに戻る」も嫌いではないけれどちょっと食い足りない感じが残ったのだが、この続編は残念ながらもっと食い足りない。
細部の破綻が気になって仕方がないのだ。が、ストーリー展開の妙と写真入りの巧妙な構成、そして1910年代のニューヨークの描写の素晴らしさも相まってわりと忘れ難い印象が残った本だ。特にヴォードヴィル芸人達とのエピソードやその前後の謎解きなどは好き。
フィニィのファンなら必読。ちなみに前作を読んでいなくてもちゃんと前作の粗筋が書いてあるから大丈夫。

1997年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「ナイチンゲールは夜に歌う」

ジョン・クロウリー著/浅倉久志訳/早川書房/2000円

ナイチンゲールは夜に歌う
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香り高いSF叙事詩&幻想純文学(ジャンルミックス小説と呼ぶらしい)が4編。

この著者の魅力はその文体にある。
ル・グインもヴォネガットもその魅惑の文体で1行目から読者を惹きつけて離さないが、この人もそう。特に表題作の見事さは文体の勝利だろう(訳文だから訳者がうまい、ということもいえる)。どんなに先を急ぐ読者でもゆっくり読まざるを得ない美しい文章だ。

4編のうちのひとつ「時の偉業」で世界幻想文学大賞ノヴェラ部門をとっている。
でもね、ボクは美しい表題作が好き。冬の静かな夜にうってつけの本。

1996年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , SF

LV5「イギリス人の患者」

M・オンダーチェ著/土屋政雄訳/新潮社

イギリス人の患者
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見事な小説である。
いや、誤解を恐れずに言えば、小説というよりも、これは小説の形を取った「詩」かも。ものすごく面白いストーリーをもった詩。その詩的世界構築の見事さといったら、日本人では絶対こういう構築は出来ないと断言できるほどの雄大さと深さ、そしてワイヤーのように絡みつく複雑さをもっている。この本は凄い。読み終わり、この本の世界から立ち去るのが嫌で嫌でしょうがなかった。This is the Book!

ただ、原爆に喚起されるラストの展開の仕方だけはちょっと納得できない。その一点だけが残念。
ちなみにこの本、英国ブッカー賞を受賞している。

1996年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「港湾ニュース」

E・アニー・プルー著/上岡伸雄訳/集英社/2200円

港湾(シッピング)ニュース
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地味な本である。
でも何故か強烈な印象を残す。丹念に丹念にディーテイルを書き込んでいくあたり先月紹介したアン・タイラーにも似ているが、アン・タイラーが筋に沿ったディーテイルで構築するのに対して、この作者は寄り道的ディーテイルで全体を浮かび上がらせるというより難易度の高い方法を用いている。そういう意味ではアービングにも似ているかも。

途中まで主人公に愛情が持てなくてイライラしたが、そのイライラが物語後半から快感に変わっていくのが面白かった。
多分その客観的な主人公描写が、この物語の舞台であるニューファンドランドの人を拒否する厳しい自然描写とあいまって、特別な効果を生んでいるからだと思う。ここまで計算し尽くして物語を構築したとしたらこの作者並大抵の筆力ではない。長編2作目とはとてもじゃないが思えない。

なお、この本は全米図書賞とピューリッツァー賞をW受賞した上に各賞総ナメ、ベストセラーにもなったらしい。うなずける。

1996年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「歳月の梯子」

アン・タイラー著/中野恵津子訳/文藝春秋/3000円

歳月の梯子
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アン・タイラーの新作である。代表作になるのではないだろうか。

もともとしつこくディーテイルを書き込んでいって全体像を浮き彫りにするという作風だったが、この長編ではそれが特に際だっている。細部を徹底的に(良質のユーモアを交えながら)描写しながら全体の流れが少しも細部に引きずられていない。お見事。すごい筆力だ。筋もよく練られていて全く飽きさせないし、なにより主人公をはじめとする登場人物のキャラクター付けが秀逸。いやいや大したものだ。

そしてその性格描写、比喩、形容。それぞれ文字どおり「的を射た」表現で(その的を射かたの打率の高いことといったら!)共感を呼ぶ。特に女性の感情表現が強烈にうまい。男の僕が読んでいてこんなにのめり込むんだから女性が読んだらすごい共感だろうなぁ。女性に生まれ変わってもう一度読んでみたい。傑作。

1996年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

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LV4「ジェファーソンの死」

アーネスト・J・ゲインズ著/中野康司訳/集英社/2600円

ジェファーソンの死
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山田詠美の「アニマル・ロジック」とこの「ジェファーソンの死」を読めばアメリカにおける黒人差別問題の根の深さが皮膚感覚レベルで実感できる。まぁこの本は単なる社会派文学ではないのだけど。

原題は「A Lesson Before Dying」。
冤罪の黒人死刑囚と彼に「人間として死ぬこと」を教えようとする黒人教師の物語で、実にアメリカ的な善悪の付け方がちょっと鼻に付くが、丹念に書き込んであり良質だ。何か久しぶりに高校生になった気分。あの頃読んだ「教訓的良書」の懐かしい匂いがプンプンする。いい意味で。
ちなみにこの本は全米批評家協会賞を受賞している。

1996年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

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LV3「豚の死なない日」

ロバート・N・ペック著/金原瑞人訳/白水社/1500円

豚の死なない日
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帯に「全米150万人が感動した大ロングセラー、待望の邦訳!」とある。
こういった帯の本はわりと裏切られることが多くて、あまり読まないようにしているのだが、新幹線の中で読むものがなかったから「3時間で読めそう」と思って買った。

第一章が素晴らしい。でもその後はちょっとリズムをなくしてしまうのが残念。いい意味でも悪い意味でも実にアメリカ的な本。アメリカのおばさん達がこれを読んで泣くのはわかる気がする。でも日本人は泣かないと思うけどどうなんだろう。ボクはわりとさらっと読んでしまった。んー、好きかどうか微妙なところ。

1996年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

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LV5「ニコチン・ウォーズ」

C・バックリー著/青木純子訳/東京創元社/2400円

ニコチン・ウォーズ
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タバコ業界のスポークスマンが嫌煙派に殺されかけるお話。実に面白い。読みはじめたら止まらない。

一応ユーモア・サスペンスなのだが、サスペンスの面白さよりも全体主義的ヒステリック社会への痛烈なる批判とパロディとしての面白さの方が際だっている。ラストの方、収束の仕方が前半に比べるとあまりに雑なのが気になるが、そのストーリーテリングの力はただものではない。ボク自身はどちらかというと嫌煙派であるが、なんだか喫煙派に対してとても優しくなれそうな一作。いやぁ面白かった。

1996年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

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LV4「永い眠りにつく前に」

エリザベス・バーグ著/島田絵海訳/ベネッセ/1427円

永い眠りにつく前に
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「ケイティの夏」に続く第二作目。
女性を主観的にここまで上手に書いた本を他に知らない。死を目前にした親友と女性達の静かな物語なのだが、暗くならず明るい筆致で描いているし、ユーモアの感覚もいい。ラストの収め方もとてもいい。でも惜しい。経験にもとづく話のせいか、ストーリーがちょっと甘く感じた。でもこれは男性の眼で読んでいるからかもしれない。

島田絵海の訳は相変わらず快調で好き。ちなみにこの本は「本の雑誌」の1995年第2位に選ばれている。

1996年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

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LV3「昨日」

アゴタ・クリストフ著/堀茂樹訳/早川書房/1631円

昨日
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「悪童日記」シリーズで衝撃を与えた著者の待望の新作。
あの三部作のあとに書いたということで、本屋で見つけて小躍りして買って帰り仕事ほっぽりだして読んだ。

内容的に多少「悪童日記」シリーズと重なる部分はある。それもうれしかった。が、ちょっと期待が大きすぎたか…。
カポーティーやカーヴァーを思わせる冷徹な実在感はさすがだし、そぎ落とし切った文体も健在だが、異邦における孤独な設定と愛の形が前作と似ている分、ちょっと損した感じ。だって前作はそうは超えられないから、比べちゃうと少し損なのだ。

読後の孤独感と寂しさは著者特有のもの。そういう気分に浸れるだけでも買いなのだが、すこーし期待しすぎた。

1996年2月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

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LV3「ケイティの夏」

エリザベス・バーグ著/島田絵海訳/福武書店/1300円

ケイティの夏
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主人公は12歳。せつないながらも、読後感の明るいグローイング・アップもの。

訳者はアンドレ・デビュースを訳し続けている人で、この人の訳本なら信用できると思って読んだ。
とても繊細に12歳の少女の気持ちに寄り添って書いていて、とてもいい時間が過ごせる。こういう子供の気持ちって外国も日本も同じなんだなぁみたいな感慨を持つ。ちょっと全体的にセンチメンタルに流れすぎているが、この繊細さは好き。

父と姉と三人暮らししていく中でのせめぎあいみたいなものがとてもリアルだった。そして意外と小さな希望に満ちたラスト。その流れもとても良い。美しい小編。

1995年9月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

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LV2「飲食男女」

アン・リー著/南條竹則監訳/新潮社/1300円

飲食男女
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アン・リー監督の同名映画(邦題「恋人たちの食卓」)を、監訳の南條竹則が小説化したもの。

ノベライゼーション自体は台湾の小説家によってなされているのだが、台湾料理についての訳注をこうるさく付けるよりは、いっそのこと日本人で中華に詳しい人で小説に書き起こしてしまった方がよい、という出版社判断があったようである。ノベライゼーションはあまり好きではないのだが、実は映画が先にあった、ということを知らずに題名に惹かれて買ったもの。その後映画を借りて観た。

台湾一の料理人の父親と、恋に揺れる三姉妹のお話。
ノベライゼーションなので、なかなか映像を越えることは難しいのだが(アン・リーだし)、この本の良いところは巻末にレシピが載っていること。ちょっとしたシズル感が味わえて良い。

1995年9月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

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