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小説(日本)(128)

LV2「戸村飯店 青春100連発」

瀬尾まいこ著/理論社/1500円

戸村飯店青春100連発
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瀬尾まいこって高校生の気持ちを書かせたら天下一品である。戸村飯店の二人の兄弟の桎梏と解放が明るい筆致で描かれている佳作だ。

今回はナチュラルな大阪弁も炸裂しており、エセ大阪弁を操れるボクとしては楽しくも懐かしい(東京の人には違和感あるかも)。大阪弁の小説ってわざとらしいのが多いのだけど、この本はまったくそれを感じさせない。しかも東京と大阪の空気の違いが明確に描かれており、その点も愉快。

100連発というと吉本の名作「ギャグ100連発」を思い起こさせるし、わりと疾走感&炸裂感がある題名だと思うが、以前紹介した「仏果を得ず」と同じく、題名で少し損していると思う。疾走感&炸裂感というよりは、普通に温かくてさわやかな青春小説なのだ。少しキワモノに見えてしまうし、はしゃぎすぎに見えてもしまうかも。

でも、この兄弟、どっちも好きだなぁ。特に弟は名作「幸福な食卓」の大浦勉学くんみたい。いいキャラだ。読みやすい分、少し損をしている作家であるが、ボクはこの読みやすくさりげないところが好き。

2008年4月 5日(土) 14:15:52・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「仏果を得ず」

三浦しをん著/双葉社/1500円

仏果を得ず
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文楽(人形浄瑠璃)の義太夫を題材にしている現代劇。
義太夫語りは落語「寝床」でも取り上げられるけど、その義太夫節を修行中の若者のお話である。古い芸能を伝承していこうとする若者たちが等身大で瑞々しく描かれている。毎章、テーマとなる文楽の解釈に悩みながら成長する主人公がなかなか魅力的(ある意味本歌取り)。知らなかった世界を楽しく知れる、という意味でも、純粋に小説としても、なかなかいい本である。

文楽は去年初めて観に(聞きに)行った。
普通初心者は人形遣いのそのリアルさに関心が向くらしいが、そのときのメモでも書いたように、ボクは最初から義太夫に目が釘付け。人形をあまり見なかったくらいである。竹本住大夫と豊竹嶋大夫。すごかったなぁ。
そういうこともあってか、この本の題材である義太夫は多少身近で、銀大夫の語りなども目に浮かぶようであるし、三味線とのやり合いなども十二分に楽しめた。義太夫語りの舞台裏を楽しく知れるのもうれしい。文楽が急激に身近になる。

とはいえ文楽をまったく知らない人でも楽しめるので大丈夫。読後、きっと文楽が観たくて観たくてたまらなくなること請け合いだ。この本は文楽ファンを急激に増やすだろうなぁ。

全体にさらりと読みやすく、多少漫画チック。というか連続ドラマっぽい(笑)。イケメンを配役すれば充分ドラマ化にも耐えうる内容。
惜しいと思うのは主人公の背景描写がさらりとしすぎている部分。その分シンプルにストーリーを楽しめるのは確かなのだが…。それと題名。読み終わってからだと「なるほど」と思うのだが、これは取っつきにくすぎる題名かも。表紙を漫画にするなど、文楽という一般ウケしにくいテーマの本を読者が手に取りやすい工夫はしてあるのに、題名が抹香臭くて一瞬「難しい本か?」と手が止まってしまう。ちょっと残念。

NHK「ちりとてちん」ファン的には、「この役は加藤虎ノ介しかできん!」という、きわめて四草なキャラが重要人物として出てくるのでお楽しみに。

2008年4月 3日(木) 8:17:49・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「悪人」

吉田修一著/朝日新聞社/1800円

悪人
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吉田修一は「パークライフ」くらいしか読んでいないが、ずいぶん雰囲気が変わったなぁ、というのが第一印象。桐野夏生が書きそうな題材で、彼が書くタイプのものとは思えなかった。これは作家としての飛躍なのかどうなのかは他作をあまり読んでないのでよくわからない。

わかりやすく悪人という人間がいるのではなく、どの人の心の中にも悪人はひっそりと棲んでいるのだということを、細やかにいろんな人の一人称を積み重ねていくことで描いている。途中で「殺人を犯した人が一番悪人っぽく見えないというラストかも」と思ったら、やはりそんな感じだった。
どの人の心の中にも悪人が棲んでいることは昔から題材として多く取り上げられてきたが、ひとつの小さな殺人事件を軸にして、その人間模様でそれを浮き彫りにした筆力はさすがである。ただ、人間模様で描く分、無関心という悪とか親の愛という悪とか寂しさという悪とか、それぞれがちょっとずつステロタイプな姿になって「役割を演じる感じ」になったのが残念かも。まぁでもそこをわかりにくくしちゃうと小説としてまとまらないので仕方ないが。

本書は新聞連載小説だったらしい。著者はそれをかなり意識してこのストーリーを紡いだ気がする。つまり、彼の連載のすぐ上に、さまざまな悪人の小さなニュースが載るわけだ。それらの記事の背景にどんな「悪」があり、真の「悪」はいったいどこにあるのか、一歩ずつ読者を立ち止まらせたいと思ったのではないだろうか。単行本にまとめられてしまうとその効果は薄れてしまうのがちょっと残念。

2008年1月 6日(日) 17:25:09・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「野ブタ。をプロデュース」

白岩玄著/河出書房新社/1050円

野ブタ。をプロデュース
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2004年度文藝賞受賞作品。芥川賞候補にもなった。
題名が独特なのと、亀梨和也が主演してドラマになったこと(彼と堀北真希の出世作でもある)、役名の修二と彰で「青春アミーゴ」を歌いヒットしたことなどで、知名度は抜群だろう。ボクも読もう読もうと思っていたがようやく読めた。

単純に面白かった。
高校生の物語だが、高校生に限らず若者全体の「ポジショニング命な感覚」「表面的なプロデュースで渡っていく感じ」をここまでリアルにわかりやすく描ききった本は他にあまりないだろう。ポジショニング。プロデュース力。これがすべて。中身も深みもいらないのだ。
そのテーマを、「着ぐるみ」と称して自分を演出する秀逸な主人公・修二に託し、彼に信太(野ブタ)をプロデュースさせることでよりわかりやすく表出させているあたりが舌を巻くくらい上手。さすが。しかも45歳のオッサン(ボクです)ですらとっても共感できるくらい、いくつも入口とヒントを用意してくれている。

というか、高校の話というよりは「日本社会の上手な泳ぎ渡り方」にまで普遍化されたらどうなっていたんだろう、とか考えてしまう。サラリーマンだって「着ぐるみ」を着るし、「ポジショニングを敏感に察知」するし、「自分や部下をプロデュース」して生きている。表面的なのだ。修二の親世代か先生たちを絡めて普遍化させていたらどんな作品になっていたかな…。

ちなみにラストは賛否両論あるらしいが、このリセット感は絶対必要だと思う。ポジショニングに失敗したらあっさりリセットする。それでこそ修二である。

2007年4月25日(水) 16:44:49・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「強運の持ち主」

瀬尾まいこ著/文藝春秋/1300円

強運の持ち主
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占い師ルイーズ吉田を主人公にした短編小説集。
瀬尾まいこは三冊目。どの本も題名が普通っぽい。その普通ぽさも著者らしいのだが、ちょっと惜しいかな。この本ももう少しマシな題名があった気がする。

相変わらずあっさりさっぱりした読後感。でも主人公設定がなかなかユニークで面白いので印象に残る本となった。技のないインチキ占い師。適当に相手から情報を引き出して、気持ちよくさせてあげ、背中を押してあげる仕事。占いというより相談。そして当然そこにいろんな悩みが持ち込まれるわけで、小説的展開に持って行きやすい。もっと野心的に書けばいくらでも劇的なお話しになるだろうに、それをしないでひたすらあっさり持っていっちゃうのが著者独特の価値観だ(価値観なのだろう。他の本もそうだもの)。

主人公の彼が「占い上では強運の持ち主」という設定なのだが、特にそれをいかした展開はない。その辺、やっぱり少し物足りなく読み終わった。意外と数冊のシリーズにして、全体で俯瞰したら面白い題材なのかも。続編とかあったらダラダラ読みたい気分。

2007年4月22日(日) 21:13:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「温室デイズ」

瀬尾まいこ著/角川書店/1365円

温室デイズ
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「幸福な食卓」を読んでとても良かったのと、学級崩壊の描き方がスマートで好感がもてたので、続けて瀬尾まいこの「温室デイズ」を読んだ。

テーマはまっすぐ学級崩壊とイジメ。
とはいえ全然ドロドロしてなくて、あっさり推移していく。この、真っ向から立ち向かわないあっさり感が逆にリアリティを生んでいる。上から見て書くとお説教っぽくなったり、懸命に生徒たちに寄り添って書くとオーバーになったりするところを上手に避けて通ることによって、逆にリアルな空気感が出てきているのである。金八なら解決できるところをあえて解決させない「流し感」。このあっさりした収め方は逆に勇気がいる気がする。なかなかやるなぁ。

ただ、じゃあそのリアル感だけで小説が持つかというとそうでもない。小説全体として考えると物足りなかったのも確か。収めどころがどうしても欲しくなる。あっさり終わって好ましいけど物足りない。複雑な感じ。あと「幸福の食卓」に出てきたような秀逸なキャラがひとり欲しかった。不良役がそうとも言えるがもう少し突っ込み足りず。惜しい。

2007年4月21日(土) 8:57:03・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 児童・ティーンズ

LV5「幸福な食卓」

瀬尾まいこ著/講談社/1470円

幸福な食卓
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寡聞にして瀬尾まいこのことを知らなかったが、中一の娘に激薦められて読んだ。最初がこの「幸福の食卓」。とても良かった。しばらく他のも読んでみたい作家である。

出てくるキャラがとてもいい。直ちゃんも大浦くんも実に魅力的で、しかもリアリティがある。父も母も通り一遍でないキャラ設定で、シンプルに見える断片の奥底にちゃんといろんなものを抱えている様子がさりげなく描写されている。なんつうか「表面に見えている姿は氷山の一角」的な描き込みがちゃんと出来ている感じ。なかなか種を明かさず、だんだんキャラの薄皮がはがれていく快感。そしてはがれていくに従ってキャラがより魅力的になるのである。逆のパターンも多い中、さすがな筆力と構成力。周到にキャラ設定して書き始める作家なのかもしれないが、意外とそういうのを感じさせないなにげなさもこの著者のイイトコロ。

ふわふわ生きているようで意外と地に足が着いているキャラたち。細かいところの書き込みがしっかりしているのでリアリティがあるのだが、この空気感はとてもモダンだと思った。イマっぽい。えてしてステロタイプな描き方になってしまう現代の病巣(家族崩壊や学級崩壊)もスラリとスマートに書ききっている。こういう距離感がいいな。

2007年4月20日(金) 15:35:27・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「ナラタージュ」

島本理生著/角川書店/1400円

ナラタージュ
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島本理生(りお)が22歳の時に書いた恋愛小説。
題名のナラタージュとは「映画などで、主人公が回想の形で、過去の出来事を物語ること」らしい。表紙袖に書いてあった。でも小説内にはこの言葉は出てこず、表紙袖に気づかないと最後までわからない。このような難解な題名にすることの必然性も含めて、少しハテナ。

全体にとても端正に書かれた小説で、表現は過不足ない。いや、むしろうまい。
でも、熱い想いを描いているわりに主人公は冷めていて捉え所がなく客観的だ。これが表現力不足なのか、この著者の文体なのか、これがいまの20歳のリアルなのかがボクにはいまひとつ掴めず、最後まで違和感として残ってしまった。

でも「ボク(45歳男)に共感されず違和感を感じられたこと」は実はイイコトなのかもしれない。というのも、小説的手法として、著者は主人公のリアルな回想独白(ナラタージュ)を取っているからだ。

たとえば偏執狂な主人公の一人称で書くとき、本当なら文章は支離滅裂になるはずだ。でも一般的な小説はそれをせず、真っ当な一人称文章でその主人公の崩壊を描いていく。もしリアルに一人称にするなら読者の共感なんか放っておいてでも、偏執狂的文章にするべきなのだ。
この本はナラタージュという題名なだけに、その辺のリアルを目指している気はした。主人公の気持ちや行動を必要以上に説明せず、素っ気ないくらい淡々と一人称的な物語が進んでいく。世代も性別も違うボクとしてはもう少しその辺の気持ちの動きを書いてほしいよ、とか思うけど。

ラストの半ページがよい。この半ページに収束させるために、端正にいろんな場面を描いてきたんだろうな。

2007年3月17日(土) 17:33:52・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「夢を与える」

綿矢りさ著/河出書房新社/1365円

夢を与える
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いわゆる芥川賞受賞第一作。受賞したのが2004年1月なので、3年近くかけた第一作ということになる。大きな賞を取ったあと時間をかけて第一作を書くというのはかなりのプレッシャーだと思う。そのプレッシャーの凄さを思いながら読んだ。

題名・冒頭からして大傑作の予感に震えた。
特に冒頭の数ページ、主人公が生まれるまでの表現力とテンポ、異化の仕方など、うますぎて舌を巻いた。こりゃすげー。でもその感じは中盤あたりから消え始め、ラストの方にそういう輝きは見られなかった。ストーリーテリングはしっかりしていて、最後まで飽きさせず一気に読ませるので文句はないのだが、冒頭のきらめきは最後の方にはない、というだけのこと。後半は普通の小説っぽい。

虹のように輝く子供が国民的アイドルになっていく過程を丹念に描いているのだが、急に有名になるあたりのリアリティは彼女自身が急に有名になった経緯が大きく影響していると思う。ネットや雑誌でのいわれなき「悪意」も実際に肌で感じたことだったのかもしれない。なかなかのリアリティだ。その経験と違和感と空っぽ感をいま書き残しておきたかったのだと思う。「夢を与える」存在としての綿矢りさの叫びを作品中に何度も感じた。

主人公のモデルはすぐ数人浮かんでしまうこともあるのか、最後の方は想像の範囲内で物語が収束していく。
冒頭にあったような緊迫感はやはりプレッシャーのなせる技(肩に力が入りすぎ)だったのだろうか。ボクはあのままあの調子でずっと書き続けて欲しかったと思ったけど。

2007年3月12日(月) 12:36:37・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「チエちゃんと私」

よしもとばなな著/ロッキング・オン/1300円

チエちゃんと私
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よしもとばななの最新長編。
著者自身のあとがきに「せっかくバブルの時代も経験したことだし、私なりに『ハートカクテル』みたいなもの、サガン的なものひとつ書いておこうかな、と思い、心をこめて書いたのにこんな変な小説になってしまいびっくりしました」とあるが、わたせせいぞうの「ハートカクテル」的な世界が出発点だとしても、辿り着いた地点は相当違う感じ。

これはたぶん穏やかな気づきと自立のお話だ。
とても穏やかにコーティングされているのでいろんな優しい気持ちに振り回されてしまうけど、底流には「人生を1ストリームとして生きている人への残念な想い」みたいな厳しいものが流れている気がする。バブルの経験が活かされているとしたら、そこらへんだろう。

たとえば社会に出ているたいていの人は、明日が来るということを疑わず、明日のために今日を生きている。どうもそうではないらしい、と胃ガンを切った父親が気づいて移住するところから主人公であるカオリの人生が動き出し、最後にはチエちゃんを媒介にして気づきと自立を得て、満ち足りる。一瞬一瞬を愛する技を手に入れる。それはたぶん「ふたりともこのままおばあさんになっても」惜しくないほど貴重なものなのだ。

そして、先日突然亡くなった池田晶子の哲学のような言葉を吐く。
「私は燃えるような謎でできている。宇宙の謎よりももっと大きな謎を秘めている」。

一瞬一瞬に満ち足り得る人に、1ストリームとしての人生はない。いや、1ストリームとしての1日すらない。その辺の気づきを与えてくれる佳品である。

ちなみにこの本の中盤にとてもいい描写がある。そこを引用した文はこちら。引用の方向性が浅いけど、それはそういうテーマを書こうと思ったメモだからお許しを。

2007年3月11日(日) 18:57:59・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「ダナエ」

藤原伊織著/文藝春秋/1238円

ダナエ
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藤原伊織の本を読むのはこれが初めて。彼が以前いた広告業界に身を置く分、ちょっと身近すぎて逆に避けてきたところはある。今回も3つの短編のうち、2つが広告業界まわりの話。やっぱり身近すぎて居心地は悪かった。

ま、そんなことはともかく、硬質さと叙情性を合わせ持つ文体はなかなか。
だが、表題作は途中の推理が鮮やかすぎて少し白けたのと、主人公や脇役に思い入れしにくいのが厳しかった。また、「まぼろしの虹」は狙いだとは思うがやはり不完全燃焼感があり、「水母」も人物像の書き込みが足らないので思い入れがしにくい。周辺をもっと書き込んで読者を彼の世界へ濃く深く連れて行ってほしいと思った。

広告業界ネタの他の本も少し読んでみようかな。微妙に肌合いが合わない作家かなぁとは思うけど。

2007年3月 4日(日) 13:19:51・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「DIVE!!」

森絵都著/角川文庫/上580円下580円

DIVE!!〈上〉
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「飛び込み」という全く縁がなかったスポーツの実際を教えてくれる青春小説。
「一瞬の風になれ」で陸上に親近感を持ったように(そういえば佐藤多佳子はこの文庫の解説を書いていて、こんな本が書きたい、と言っている。その後「一瞬…」が生まれたわけね)、この本以降、ボクは飛び込みという競技をかなり注目して見るだろうな。世界が広がった。それだけでも読んだ価値があったと思う。

もちろんこの本の魅力はそれだけではない。
知己、飛沫、要一という3人の少年の気持ちによりそうように丁寧に描かれていて、思春期小説としても秀逸である。3人の視点、そして最終章では脇役たちによる客観視点、と、視点をぐりぐり変化させる手法もよい。いろんな青春を体験できるお得感もあり、楽しい。いろんなタイプの読者の共感を引きつける構成とわかりやすいエンタテインメント感がいい意味でテレビっぽい印象だった。

逆にそこがこの本の弱いところでもある。テレビドラマっぽすぎる。それぞれのエピソードがステロタイプぽすぎる部分があり、ボクみたいなスレっからし読者にとっては物足りない。もう少し突っ込みようも深めようもあると思うのだ。惜しいなぁ。

でも、ハッキリ言ってボクはターゲットじゃないので仕方がない(笑)。基本的に児童&若者がターゲットだろう。彼らに読みやすく理解しやすい展開にわざとしていると思う。若者に対する強い応援歌にもなっている。その辺、さすがだなぁ、と思う。若者はもちろん、ちょっと昔の熱い気持ちを思い出したい人や飛び込みを知りたいという人、サッと読めるスポーツ小説で時間を潰したい人などに最適。

2007年3月 1日(木) 9:20:32・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 児童・ティーンズ , スポーツ

LV5「ひとり日和」

青山七恵著/河出書房新社/1200円

ひとり日和
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芥川賞受賞作。著者24歳の作品である。
芥川賞選考会では、珍しく石原慎太郎と村上龍の意見が合い、同時に激賞したらしい。そりゃ読まざるをえないでしょう。

なんだろう、「イマの気分」についていろんな発見を与えてくれる小説だった。時事小説という意味ではなく、ふんわり捉えがたい「今の若者の意識の流れ」みたいなものを見事に紙の上に定着させてくれた感じ。全体に漂うのはイマが持っている微妙な「薄さ」なんだけど、文章自体は「濃い」のである。薄いものを薄く書いたり、繊細なものを繊細に書いたりするのは意外と難しくない技だと思うのだけど、薄いものを濃く表現したり、繊細なものを乱暴に表現したりするのって、かなりハイブロウな技だと思う。その辺が素晴らしいと思った。あ、この場合の「濃い」は、濃厚な表現という意味ではなくて「感覚に逃げていない」みたいな感じなんだけど。

主人公の「できるだけ皮膚を厚くしていっぱしの人生を生きてみたい」という「うっすらとした望み」が、様々な要素に背中を押されて、ゆっくりとカタチになっていく過程がとってもリアルだ。そして妙に読者を安心させてくれる。この安心感が得難い。また、表現や場面演出の上手さも素晴らしい。情景や季節の描写をここまで好ましく読んだ小説も近来にない。好きかも。

2007年2月23日(金) 23:59:30・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「いつかパラソルの下で」

森絵都著/角川書店/1400円

いつかパラソルの下で
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児童小説の第一人者である著者のターニングポイントになったと言われる長編。もちろん児童用ではない。

病的なまでに厳格な父と、その影響を理由にひねくれて(?)生きている兄姉妹。父の突然の死をきっかけにバラバラになった家族が集いだし、ひょんなことから父の人生を探しに佐渡へ渡る…。
わかりやすい設定と典型的な「SEEK & FIND」展開に強い既視感がある。あぁこう展開してこうなるんだろうなぁと途中で読める感じ。ただ、細部の表現や会話が上手なのと、絶妙な脇役の存在、主人公のイマっぽいのほほんさなどがそれを救い、結果としてとてもいい佳品となっている。わりと好ましかった。

ラストの方で主題みたいなことをわかりやすく言い過ぎなのが難かな。あと、一番最後の「手紙」はちょっと蛇足かも。これだけわかりやすい「SEEK & FIND」なら、あまり説明はしなくても読者はわかる気がする。

2007年2月21日(水) 23:28:55・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「真鶴」

川上弘美著/文藝春秋/1429円

真鶴
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文学を読む楽しさを心ゆくまで味わわせてくれる名作。美しく、そして怖く、なんとも不思議な物語なのだが、この小説世界から離れがたい気持ちを起こさせてくれる。

川上弘美は新鉱脈を掘り当てたのかも。
「蛇を踏む」のころのちょっとおどろおどろしい異化の表現と、「センセイの鞄」にあるような性善説的ホンワカ感とが見事に融合してきて、なんというか、川上弘美にしか書けない地平が目の前にぐわーーっと広がっている感じを受ける。マジで舌を巻いた。

言葉の選び方や会話の描き分けの鮮やかさ、ひらがなと漢字の使い分け、浮遊感と現実感の出し入れなど、細かいところまで計算しつくされ、前半と後半では手触りまで違い、うわぁと圧倒された感じ。ルビの出し入れにまで技を感じる。でも技がわざとらしくなる寸前で止めている。この辺の微妙なセンス。素晴らしいなぁ。

2007年2月15日(木) 23:47:24・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「一瞬の風になれ」

佐藤多佳子著/講談社/第一部1470円, 第二部1470円, 第三部1575円

一瞬の風になれ 第一部  --イチニツイテ--
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三巻に渡る、ものすごく真っ直ぐでイノセントな陸上短距離一人称小説。
ちょっと前に買ってあったのだが、直木賞候補になったと知って慌ててこの連休に読んだ。直木賞とれるかな。どうなんだろう。シンプルすぎる気もする。

「走る」実感をここまで感じさせてくれる本もめったにない。ベッドで読んでいる間、何度もカラダが無意識に動いた。一緒に走っているような共有感。登場人物と同じトラックに立っているようなリアリティ。そして最後は少し泣かされてしまった。仕方ないな、この展開では(笑)

登場人物がみんな魅力的。よく書き分けられている。軽すぎるくらいの文体。凝った表現は出てこない。でもそれが不思議にマッチしている。だから混乱もなくあっという間に三巻読めてしまう。若い読者には向いているかも。
ただ、出てくる人がみんな良い人すぎるのがちょっと…。大人が考える理想的な高校生すぎ。健全すぎるんだよなぁ。でも(たぶん)あえてそれを狙って書いているのだろう。この時代、このように真っ直ぐ性善説的に夢を見られる小説は必要だ。あと、どうせここまで真っ直ぐに書くなら、ラストの観客席に健ちゃんは来て欲しかったと思う。予定調和でもいいから。

ちなみに、副産物的にだが、この本を読むと陸上(特に短距離)にくわしくなり、とても見たくなる。陸上競技の魅力が余すところなく描かれているのだ。スラムダンクを読んだ後に「高校バスケ冬の選抜」を見に行ってしまったみたいに、陸上のインターハイとか見に行きたくなる読後感。家族に読ませて一度一緒に見に行こう。

2007年1月 3日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , スポーツ

LV5「ざらざら」

川上弘美著/マガジンハウス/1300円

ざらざら
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出す本ごとに充実を感じさせる川上弘美の短編小説集。8ページ前後の超短編が23編収録されている。

読みはじめて著者の世界に浸りきるまでは「なんだか物足りない」「なんてたよりない」「さらりとしすぎてる」という印象だが、4,5編読んだあたりからだんだん気持ちよくなりだし、最後の方では「あぁこのままずぅっと読み終わらないと良いなぁ」とか思った。なんてやわらかくさらさらと言葉をつむぐ人だろう。表面はさらさらなのに、その少し奥にきちんとざらざらを隠している(表題の「ざらざら」はそういう意味ではないけれど)。ちゃんと描き込んでいるのに肩に力が全く入ってないように見える技も素晴らしい。

女性が読むとより強い共感を覚えるのだろうなと、少し嫉妬しながら読んだ。気楽にさらっと読めるが、じっくり再読味読してみたくなる逸品。ボクは好き。

2007年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「クライマーズ・ハイ」

横山秀夫著/文春文庫/660円

クライマーズ・ハイ
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1985年の日航機墜落事故を舞台にした長編小説。

御巣鷹山に飛行機が落ち、地元紙「北関東新聞」の遊軍記者として半ば干されていた主人公が全権デスクに任命される。一方、その日一緒に衝立岩を登るはずだった同僚は意識不明の重体となり病院に運ばれる。このふたつの事件が同時進行系で語られ、そこに父と子の確執、組織内のくだらない縄張り意識、友情、出世争い、報道の意味、被害者の想いなどが濃く濃く絡んでくる。この濃さが逆に鼻につく人もいるかもしれない。人間模様ありすぎではある。しかも相当オーバーである。でも未曾有の大事故を題材にしているだけにこれは仕方ないのかもしれない。よくぞこれだけの要素をまとめきったと賞賛すべきだろう。

ただ、率直に言って、墜落事故前後の臨場感が凄まじい分(この辺の描写は本当にスゴイ)、他の要素を邪魔に感じたのは事実。特に登山のエピソード。タイトルにも関連する最重要エピソードであり小説の骨そのものなのだが、それが柔く甘ったるく感じられてしまうのが小説構成上ちょっと弱いかもしれない。そのエピソードが主人公である悠木への共感につながるのであればまだしも、どうもそこまで行かないもどかしさがボクの中にあった。

人間ドラマ、は、人間を濃く濃く描けばいいというものでもない。ヘミングウェイのように事実展開だけを追っていっても描ける。そういう意味において、多少この本はToo Muchすぎる。でもそれがこの著者の「味」と言えば「味」なのだろう。絶賛する人が多いのも頷ける。

2006年9月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「図書館戦争」

有川浩著/メディアワークス/1600円

図書館戦争
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「本の雑誌」が選ぶ 2006年上半期エンタテインメント第1位である。
前半は、本書内の言葉を借りれば少し「痒かった」。でも、設定の秀逸さ、キャラ立ち、若者言葉のリアルさ、文章のリズムなどに引っ張られ、読み進むうちに止まらなくなる。さすがに面白い。主要登場人物のキャラもよく立っている。主人公が特によい。武装化&銃弾の雨あられっていうあたりにもう少しリアリティ(そうなる必然性)があったらより完成度増すんだけどなぁ…。

とはいえ「メディア良化法」って怖すぎ。一歩間違えばありえるだけに。あぁ怖い。いい設定だ。
でも現実には、図書館を武器で守るよりも海外サーバーでの無償公開で悪法に対抗した方が有利かも、とネットにどっぷり浸かっているボクはちょっと思った。ネットを利用する話がひとつも出てこなかった(と思う)あたりが、この時代のリアリティを少し欠いているかも。←ネットを利用するといきなり物語が陳腐になりがち&まだついてこれない人が多そう、というのもわかるけど。

ちなみに著者は「ありかわひろし」という男性かと思っていたが、「ありかわひろ」という女性のようである。

2006年8月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー , 小説(日本)

LV5「古道具 中野商店」

川上弘美著/新潮社/1400円

古道具 中野商店
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やっぱりいいなぁ、川上弘美。彼女のほんわかした良さを(そしてほんわかの中のシビアなドライさも)よく伝えてくれる長編小説である。

東京近郊の学生街にある小さな古道具屋でアルバイトする女性が主人公。
ダメダメな店主・中野さんを始め、登場人物が持つ空気感が抜群にいい。外側をさらりとなぞるようにしか描いていないのに、イキイキとしたリアリティがある。そして見ていてじれったい恋人関係。この辺のじれったさを書かせたらこの人に並ぶ作家はいないのではないかな。

こんな店があったら通いたいなぁ、と読んでいて思わせるのはサスガ。できれば長くだらだらとシリーズにしてほしいとすら思ったが、著者はしっかり終わりを作った。それもまぁ良かったかな。考えてみたら、「センセイの鞄」にしてもこれにしても、空気感は一緒なのでシリーズみたいなものかもしれないし。

2006年2月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「ワルボロ」

ゲッツ板谷著/幻冬舎/1600円

ワルボロ
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立川の町を舞台にワルでボロな不良中学時代を描いた自伝的小説。

500ページ弱の大部ながら飽きさせずに一気にラストまで。素晴らしい。
この道の先駆者(?)中場利一的な題材なのだが、中場利一よりもリアルな焦燥感と暴力描写で描いていく。全体的にリアルなんだよなぁ。「ケンカに強い人」がいろいろ出てきて、彼らの描写はさすがにオーバー気味なのだけど、この程度のデフォルメがないと面白くならないだろう。中場利一に比べると笑いの部分が少ないけど、これで笑いが多いと「岸和田愚連隊」になってしまうし、笑いでは中場利一に勝てないだろうからちょうどいいかもしれない。

友情と恋を底流テーマにして、中学抗争をスピード感よく描いていく。リズムもよい。キャラ立ちもよい。印象的な山場の持ってき方もよい。ついでに題名のセンスもよい。全体にとても良かった。特にこの本を単なる暴力モノと違うモノにしているのはその友情の描き方。本当の友達とはどういうものかをしっかり描ききっているのがとても好感が持て、感動を呼ぶ。不良でない読者の共感を強く呼ぶのはこの点だろう。

唯一の不満はラストの収め方。あと50ページくらい書き込んで欲しかったなぁ。続編を匂わしているが、それはそれとして、きっちり締めて欲しかった。そうであれば傑作だったかも。

2005年10月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「ららら科學の子」

矢作俊彦著/文藝春秋/1800円

ららら科學の子
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前半から中盤にかけては傑作。
後半少し著者の思い入れ過多となり読みづらくなってくるが、全体に流れるリリシズムと悔恨と諦観に、ある年齢以上(40歳以上かな。特に安保闘争年代)の読者は実に気持ちよく共感できることだろう。安保闘争で警官を殺してしまい逃げるように中国に渡った主人公が中国の山の中から30年ぶりに東京に戻ってくる(タイムマシン的設定)。その50歳の主人公が感じる浦島具合のリアリティと深い失望。日本がこの30年に歩んだ荒廃の道がそこに浮き彫りにされる。まさに科学の子と言ってもいい日本国の精神の荒廃が深く淡々と描かれていく中盤がすばらしい。

安保闘争やその世代(ある理想に生きた世代)を描いた本や映画はたくさん出た。でも誰もその結果とか答えを今に与えていない。この本は敢えてそれに挑んだ力作と言える。昭和の匂いを少しでも覚えている読者ならあのころの熱を思い出すとともにアレらはいったいどこに消えてしまったのだろうと感慨を持つだろう。そういう内省を自然と起こさせてくれる本でもある。
残念なのは、会話の主体がわかりにくいこと。カギ括弧内の発言が誰が言ったのかがすっと頭に入ってきにくい書き方なのだ。途中そこで何度もひっかかり、物語の流れを寸断した。

題名がいいなぁ。ららら科學の子。もっと重い題名もありえるのに、アトムに象徴させた上に「ららら」をつけたのが秀逸。

2003年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「FLY, DADDY, FLY」

金城一紀著/文藝春秋/1200円

フライ,ダディ,フライ
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「対話篇」を読んで金城一紀恐るべし、と震えたボクの金城一紀体験第二弾。

つか直木賞をとった「GO」を先に読めよという感じだが。まぁとりあえずコレから。「対話篇」とはずいぶん違う筆致の明るいエンターテイメントである。で、後でわかったがこの本の前作であり著者デビュー作の「レボリューションNo.3」に出てくる少年たちが深く関係している。そういう意味では「レボリューションNo.3」をもっと先に読んだ方がよかったかも。

題名見て、映画「ロッキー2(だったかな)」の中でロッキーが「WIN, ROCKY, WIN」というTシャツを着て縄跳びしている姿がいきなり思い出された。映画の中で1分と映っていない場面なのだが、なぜか印象的で覚えていたわけ。あのTシャツみたいな題名だなぁ…そんな記憶とともにこの本を読みはじめたわけなのだが、これがまた、なんつうか、まさに「ロッキー」なのだな。著者もあのTシャツの印象が強かったのだろうか、とちょっと思ってしまったくらいロッキーだった。

主人公は父親。平凡なサラリーマン。ある事件で破綻してしまった幸せな生活を取り戻すためにささやかな復讐を誓う。そしてあるキッカケで知り合った少年たちに教えを請い、体を鍛え直して自分を変え、復讐に成功するのだ。その過程が感動的。特にルーティンの象徴であったバスとの競争は涙すら誘う。うまいなぁ金城一紀。少年たちの描き方もリアリティあり楽しい。甘いとかありがちとかいう批判もあるかもしれないが、ボクはこの本、好きです。

2003年11月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「4TEEN」

石田衣良著/新潮社/1400円

4TEEN
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14歳の4人組が傷つき、協力し、恋をし、死に出会い、友情を確認し…という8つの短編。こう書くとありきたりな感じだが、著者は読者の心のツボを押す術を心得ており、実に上手に彼らの世界へ誘導していく。ええとこの本で第129回直木賞だったっけ。んー。実はそこまでイイとは思わなかったのだが、こういう本が直木賞を取ること自体は歓迎。

たとえば川上弘美ならこの少年たちにもっと漠然と生きるリアリティを与えるだろうなと思う。
もちろん著者の個性でもあるが、ここに出てくる少年たちはあまりに小説的中学生であり、希望と期待と「こうあってほしい」を込めて年長者が書いた感じがプンプンしてしまい、それがボクには最後まで違和感として残った。ある意味既視感があるし、厳しく言えば嘘くさい部分がある。感動させる場面もあるのだが、その後の会話とかにちょっとリアリティがない感じ。そこそこ楽しんだのだが、巷で話題になっているほどのものを感じなかった。

ちなみに同じ青春群像なら、「FLY, DADDY, FLY」などで金城一紀が書いている一連の少年たちの方が好き。

2003年11月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「対話篇」

金城一紀著/講談社/1400円

対話篇
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傑作。いまのところ今年一番である。
プラトンの哲学書みたいな「対話篇」という題名、そして簡素すぎる装丁が手に取るのをためらわせるかもしれないが、まだの方はぜひ。「恋愛小説」「永遠の円環」「花」の3つの短編からなっているが、それぞれ微妙にリンクして補完しあっている構成。どの短編もすばらしいし、泣ける。どれも扱っているのは死である。でも語っているのは生なのだ。高らかに生を謳い、大丈夫だよと静かに寄り添ってくれる。

映画化されるらしい「花」が特にいい。ここまで前向きに生を語り死を描き、納得させる物語も近来稀だ。ストレートすぎて照れる部分もあるが、心のどこかで「そうだ。そうなのだ」とガッツポーズをとっている自分がいる。で、ラストは涙涙。というか、こういう小説を書きたいな、と心から思った。哀しいお話なのだが、でも生きていくことを心から応援している。こういう小説こそ真の小説ではないか、とすら。

表題作にない「対話篇」がどうしてこの短編集の題名として選ばれたのかは、読めば感じられる仕組みになっている。そういえば、長く対話をしてないなと気がついた。毎日毎日薄っぺらい時間が対話なしに過ぎていく。
余談だが、ボクはリヒャルト・シュトラウスの交響詩とかをまだあまり聴いてなかった。が、この本の中の「恋愛小説」を読んでから聴き始めてみたらとても良かった。とても身近な作曲家のひとりになった。そういう効能もこの短編集にはあります。

2003年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「光ってみえるもの、あれは」

川上弘美著/中央公論新社/1500円

光ってみえるもの、あれは
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高校生の頃の、不安定でリアルじゃなくて自分の存在をどこか遠くへドライブしたい気分が、この小説では実に巧みに描かれている。
そういう意味では、主人公の翠(男)より友達の花田の方がその不安定度が高くて共感できそうな感じだが、著者はそういう「作家が高校生を描くとこうなる、の典型である小説的高校生」を主人公に持ってくるようなことをしない。ぼんやりしているがよりリアルに近い翠をあえて描き込んでいく。そこらへんのシャイさと程の良さが川上弘美。渋いのだ。

ボクは著者の、著者と同年代っぽい(例えば「センセイの鞄」の主人公のような)女性像が好きである。ふわふわと宙を漂うように現実と快楽といつかはなくなる生命との間を生きている感じを実にうまく書いていると思っている。その感じはこの本でも味わえる。主人公の家の祖母と母の日常だ。高校生たちのふわふわ感より、ある一定年齢以上の女性のふわふわ感の方が著者は圧倒的にうまい。物語の展開よりもこの家の日常にずっと浸っていたいと思ったのはボクだけだろうか。

高校生の瑞々しい描き方でこの本は好評のようだが、ボクは彼らに瑞々しさを感じなかった。逆に年老いて感じたくらい。リアルな感じとふわふわ感で独特の世界を紡ぎ出してはいるが、物語としては芯がなく、少し物足りないのも事実かな。

2003年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「デッドエンドの思い出」

よしもとばなな著/文藝春秋/1143円

デッドエンドの思い出
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書き下ろし短編集。
しみじみせつなくなりたいときにうってつけの本かもしれない。砂糖菓子のように甘い物語たちだし、いい人しか出てこないし、「なんだかなー」と思う部分もある。特に男性キャラたちがいい人すぎるのもなんだかなー(ま、いつものことだけど)。でも、どうしてもこの魅力にはあらがえない。そんな感じ。あ、正確に言うと登場人物たちはかなり辛い目にあったりするのだけど、不思議に静謐で幸せな読後感が待っている。これもいつものことだけど。

「幽霊の家」「おかあさーん!」「あったくなんかない」「ともちゃんの幸せ」「デッドエンドの思い出」の5編収録。どれも印象深い。帯で著者が「これまで書いた自分の作品の中で、いちばん好きです。これが書けたので、小説家になってよかったと思いました」と書いているのは表題作「デッドエンドの思い出」。甘々なこの作品を一番好きと正面切って言われるとちょっと鼻白むが、いかにも「よしもとばなな」であることは確か。ボクも思わず何度か読み返し、昔の失恋とか思いだし、涙にくれたりしたりした(笑)。そういうチカラは確かにある作品。泣けるししみじみ感に浸れるこの感じはマジで捨てがたい。

さてこの本は目次の横に「藤子・F・不二雄先生に捧ぐ」と書いてある。
そして短編「デッドエンドの思い出」の中で語られるドラえもんの時計の写真がその言葉の横にカラーで載っている。短編の中で主人公は、その時計に描かれているのび太とドラえもんの姿(のび太の部屋で寝ころんで漫画を読んでいる)こそ幸せの姿なのだと言っている。実はこの短編集にとってこの時計のエピソードの意味は実に重いのではないかと思う。あ、そういうことが言いたかったのね、と氷解する部分がいろいろある。一種中原中也的な手触りが読後に残るのはそういうことなのだな。ふむふむ。←ひとりで納得。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「どこにでもある場所とどこにもいないわたし」

村上龍著/文藝春秋/1200円

どこにでもある場所とどこにもいない私
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非現実的な時間の流れの中でぼや〜っとカラダが浮かぶような感覚に、特に都会の人が多い空間でおそわれることがボクにはたまにあるのだが、そんな感じがわかる人にはこの本はとても共感できると思う。
これは、そういう時間凝縮感をどこにでもある場所(コンビニ、居酒屋、公園、カラオケルーム…)を舞台に描いた不思議な短編集で、すべての短編に小さな希望が用意してある。浮遊するような文体の中で描かれるそれらの希望は現実感がなく、それがとってもイマっぽい。ここらへんの距離感の取り方が相変わらず見事だなぁと感嘆。

村上龍はあとがきで「強力に近代化が推し進められていたころは、そのネガティブな側面を描くことが文学の使命だった。近代化の陰で差別される人や取り残される人、押しつぶされる人、近代化を拒否する人などを日本近代文学は描いてきた。近代化が終焉して久しい現代に、そんな手法とテーマの小説はもう必要ではない」とハッキリ書き、「この短編集には、それぞれの登場人物固有の希望を書き込みたかった。社会的な希望ではない。他人と共有することのできない個別の希望だ」と続けている。ええ。つまりそういうことです。というか、作家がそこまであとがきで説明しなくてもいいだろうとちょっと思ったけど(笑)。
関係ないが、カバーの背表紙が読みにくくてかなわん。浮遊感狙いかな?(笑)。もうちょっと読めるようにするべきだと思うが。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「かえっていく場所」

椎名誠著/集英社/1400円

かえっていく場所
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帯に「シーナ版私小説の集大成」とある。いつものシーナ文体ではない、ちょっと静かな家族私小説だ。
ひどく小学生的な感想を言うと、この本を読んで初めて「椎名誠もいろいろ大変な思いをしているのだな」と意識した。というか、人生を楽しみきっている人なのだろうなとなんとなく感じていたので、ここまで真情を吐露されると少しびっくりしてしまう。冷静に考えれば当たり前のことなのだが、それぞれみんな大変なのだな。あは。マジで小学生みたいな感想だな。ちなみに野田知佑の乱れを書いたところなど少々衝撃的だったかな。いったい幸せに生きるってなんなんだろう。

静かな文体がとてもいい。妻娘息子に投じる視線も自然体で気持ちいい。読みやすく美しく、なんともホッと出来る本であった。ただ、椎名誠の人生もいろいろ大変なのだというこのイメージは、これからの「シーナ」にとってどうなのだろうとは思う。明るいエッセイを読んでも裏の苦労が見えてきてしまう。それは作家にとってどうなのだ? わざわざ私小説を書かなくても良かったのではないか? そんな心配が少し。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , エッセイ

LV5「都立水商!」

室積光著/小学館/1300円

都立水商(おみずしょう)!
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おもしろい。もっと早く読めば良かった。
不満は題名のみ。ルビっぽく「おみずしょう」と振ってあるのだが、「おみずしよう」とも読める上に、「都立水商!」とどっちが題名でなんなのかがよくわからない。題名としては不利かな。装丁も内容とあっていない感じ。キワモノとして売るより本格小説として売って欲しかった内容。

ま、そんなことはどうでもいいやと思うくらいはおもしろかった。
工業高校、商業高校などの一環で水商売専門高等学校が出来ちゃう話。ホステス課、ソープ課、ホスト課など7学科。読む前はもっともっと荒唐無稽でハチャメチャかと思っていたが、実は細部でつじつまや理屈があっていて、リアリティがあったりする。
で、そこで展開されるお話もこちらが想像するようなおバカなものではなく、わりと感動的で感涙ものだったりもするのだ。「ちゃんとプロを目指して入学してきた、目的意識がしっかりした生徒たち」の存在がそれらのエピソードを可能にしていく。読んでいるうちに、現在の教育の問題点まで鮮やかに浮かび上がってしまうのもすばらしい。

著者は俳優から劇作家を経て、小説はこれが初めてだと聞くが、現代受けしそうなテーマ設定や問題設定、筋の持って行き方などなかなかただもんではない感じ。次回作も読もう。おすすめ。

2003年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「あたしのマブイ見ませんでしたか」

池上永一著/角川文庫/552円

あたしのマブイ見ませんでしたか
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沖縄在住で沖縄の豊かな世界を書き続けている池上永一の本は前から読もう読もうと思っていたのだが、なぜか縁がなくいままで読まなかった。まずは手軽に著者初の短編集から。
でも他のから読んだ方が良かったかも。短編より長編のヒトなのかな。叙情性に富んだとても美しい創作世界になっているのだが、おとぎ話になりきっていないし、かと言ってリアルな世界を描いているわけでもない。その間を狙っているのはわかるのだが、読んでいてちょっとずつ中途半端な後味が残るのが残念。ちょっとした場面の描き方とか行間の雰囲気作りで違ってくるのだろうと思うのだけど、それは長編の方が出しやすいのかもしれない。じっくり世界観を作っていった方が向いている感じに思えた。
「カジマイ」「復活、へび女」「宗教新聞」とか、とても印象に残る短編がいくつかあった。次は長編の「夏化粧」を読んでみよう。

2003年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「小さき者へ」

重松清著/毎日新聞社/1700円

小さき者へ
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先月も書いたが、重松清は好きだけどあまり読みたくない。これも買い置きしてなかったら読まなかったかも。でもやっぱりこういう家族短編ものはうまいなぁ。どちらかというと先月読んだ「ナイフ」の方が数倍印象的だが、これはこれでちゃんと面白い。

全体にあざといと感じる部分も多い。
たとえば表題作「小さき者へ」。引きこもり&家庭内暴力に荒む息子への父からの手紙の形式をとっている。難しい題材だと思うし難しい方法で敢えて書いたんだなとも思うが、泣かせに入った部分があざとくてボクはちょっとついていきにくい。リアリティももうひとつ。同じようなあざとさを感じる部分が他の短編にもあり、読んでいてそこらへんが照れくさくなるので、ちょっとつらい。

ただ、浅田次郎がそうだったように著者もほぼ確信犯なので、これはボクがどうのこうの言う部分ではないだろう。ちゃんと読者を泣かして明日への勇気を与える。その目的は果たされていると思う。つか、泣いたし(笑)。収録短編の中では「団旗はためく下に」が特に泣ける。ここの中で書かれている「応援ということの意味」こそ、重松清の執筆姿勢なのだと思う。そう言う意味で著者にとっての重要作かも。

2003年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「十一月の扉」

高楼方子著/リブリオ出版/1900円

十一月の扉
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著者は「たかどのほうこ」と読む。帯に「小学校高学年から」と書いてあるしルビも多いし内容も女子中学生の成長小説なのでジュブナイル小説系に分類されるのだろうが、大人が読んでも充分おもしろい。
つか、35歳以上くらいの方が楽しめるかも。とうの昔に忘れてしまった中学生のころのみずみずしい気持ちが読み進むに従ってどんどん蘇ってくる。その感じはある程度歳をとった人の方がより新鮮に思えるだろうし、そろそろ思い出すべき年齢でもあるから。

ある十一月、ある中学生が二ヶ月だけ十一月荘で暮らすことになった・・・そこで起こるいろいろなふれあいを丁寧に丁寧に描いた本。女性作家が女性向けに書いたのだろうが、オッサンのボクでもそこここで「あぁそうだったよなぁ」と感慨を覚える(悪いか?)。窓の外に枯葉舞う11月に、ゆっっっくり読みたいいい本である。ちなみに第47回産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞している。

2002年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 児童・ティーンズ

LV4「ナイフ」

重松清著/新潮社/1700円

ナイフ
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なぜか著者の本を敬遠してしまっているボクであるが(「定年ゴジラ」しか読んだことなく、しかも最高点にしてるのに)、その理由がこれを読んでわかった。時代の切り取り方やリアリティの出し方、泣かせの持って行き方などが予想ついてしまうのだ。つまり、たぶんボクと感じ方が非常に近いのだろう。同年代ということもあるかもしれない。
で、著者は必ず「励まし」をテーマのどこかに潜ませるのだが、その潜ませ方もとても「わかってしまう」。で、照れてしまう。落ち着いて読めなかったりする。でも感心してるしうまいなぁとも思っている。でも照れてしまう。そんな感じ。わかる?

帯に「重松文学、初期の大傑作」と二重三重に持ち上げてあるが、初期にさりげなくこのような短編を書ける筆力はやっぱりたいしたものだ。
家族のそれぞれの気持ちに寄り添いながら丁寧にその想いを紡いでいっている短編集。リアリティも会話の上手さも少年少女の気持ちへの寄り添い方も、それぞれ一流。「ワニとハブとひょうたん池で」「ナイフ」「キャッチボール日和」「エビスくん」「ビタースィート・ホーム」の5編それぞれ、こうして表題を書くだけで筋やニュアンスが頭に思い浮かぶ。つまりそれぞれとても印象的なのだ。

オススメ。とてもいい。けどボクはこれからも重松作品はそんなに読まないかも(「小さき者へ」を買ってあるのでこれは読むが)。微妙な気持ちで説明しがたいのだが、こういう芸風から脱却した後の彼を読みたい。

2002年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「麦ふみクーツェ」

いしいしんじ著/理論社/1800円

麦ふみクーツェ
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前作「トリツカレ男」でとんでもないストーリーテリング能力を発揮した著者が出した名作。
彼にしか書けない分野を創出したとも言えるかも。「いしいしんじものがたり」というひとつの分野。物語というより「ものがたり」。現代の寓話としていろいろと警句・隠喩・置き換え・教訓を探し分析することも出来るだろうが、ボクはこれを純粋にものがたりとして読みたい。そしてものがたり世界に浸りたい。

音楽家をめざしたでくのぼうのような少年の半生を、地球のどこかの架空港町を舞台に魅力的すぎる登場人物たちを散りばめて描いたものがたり。出だしはわりと退屈で、おやおやと思っていたけど、中盤から断然面白くなりラストまで一直線。淡々としたペースを最後まできっちり守り抑制もよく効いている。なのに何度も涙する。寓話的な部分で村上春樹をちょっと思い出させるが、必要以上に思わせぶりではないところが著者のイイトコロ。そして要所要所に出てくる音楽の本質に迫る言葉の数々もすばらしい。ものがたりというのはこういう細部の出来如何にかかっているのだなぁとしみじみ。

441ページの長編で、かなり浮世離れしている内容に、ちょっととっつきにくいと感じる読者もいるかもしれない。でも、きっと読んで後悔しない。オススメ。

2002年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「パーク・ライフ」

吉田修一著/文藝春秋/1238円

パーク・ライフ
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今年度芥川賞受賞作。
基本的に著者の持つ描写力やリアリティの紡ぎ出し方、かすかな希望への謙虚な表現、などは好きである。好みの方向。
が、この短編に描かれている世界はちょっと物足りないのも確か。淡々とした日常と、その裏にリアルに存在する世界の動き(それも負に近いもの)の対比が特に物足りない。だから、あるスライス・オブ・ライフにしか見えてこない。ボクたちの日常はそういうバランスなのだ、ということはわかる。が、メタファー的なものでも良いから、確固たる対比がボクは欲しかった。描写やストーリーが良いだけに、逆に主題が明確に見えてこない。ラストもはぐらかしで終わっているように思えてしまう。ラストが、かすかで微妙な明日への希望であるなら、中盤にそれに対するものが欲しい。そんな印象。

独自の視点で日常を切り出すことには成功しているが、じゃぁこれが芥川賞かというとウームとうなるなぁ。一番大事な部分をはぐらかして書いているような印象がどうしてもぬぐえなかった。併載の短編「flowers」の構図のわかりやすさもどうなのかと思うが、こっちの方が印象は強かった。

2002年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「海辺のカフカ」

村上春樹著/新潮社/上下各1600円

海辺のカフカ〈上〉
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変な話、ちょっと「村上春樹のさだまさし化」を感じた。
さだまさしは途中から「もっと直接的に言わないと伝わらない」と焦ってしまったところがあって、いままで周辺状況を丹念に描くことで伝えてきた主題を、直接歌詞に乗せて歌いはじめた。個人的にそれからの彼をあまり好きになれないのだが、村上春樹もそうならなければいいな、とちょっと感じる。そう。村上春樹はもっと直接的に言うことに決めたのだと思う。それは、「アンダーグラウンド」以来現実とより深くコミットし始めた著者にとって、必然の成り行きだったのかもしれない。

例によって出来の良い寓話が入り組んで、奥の深い世界を構成している。その寓話(および隠喩)が何を指しているかがいままでよりもより直接的にわかりやすいように書かれている。そんなに種明かししちゃっちゃつまらないです、と訴えたくなるくらい。要所要所に違和感や異化を入れ込んだり(あまりに世慣れした15歳とか)、いままでになく時事的リアリティを入れ込んだり(街やテレビ番組の描写とか)、大筋に関係ない描写で読者を煙に巻いたり(フェミニストとの議論とか)、いろいろと著者の煙巻き(?)は感じるのだが、全体的にはこれまでの著作にないくらい直線的にイイタイコトに収束していく。
その寓話の設定と収束の仕方はさすがに見事で、これだけをとっても傑出した小説と呼べるだろう。ただ、いつもより「より説明的だ」ということだ。例えばジョニ・ウォーカーやカーネル・サンダースだってメタファーとしては実にわかりやすい。いままでならそこらへんをちゃんと謎っぽくしていたのだが。

主題はいままで彼が繰り返し語ってきた範囲を出ていない。著者をずっと追ってきた読者なら「またこれか」と思うだろう(同時に安心もするのだが)。でも今回はもう一歩踏み込んで「メッセージ」としているのが違うところ。また、ふたつの物語が交差していく構成は「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」と同じ。ただし、「世界の終わり…」は暗示としての交差だったのに、今回はリアルに交差する。こここそ、現実にコミットした村上春樹が変化した部分だと思う。

物語作家として、世の中にメタファーを提示する以上の役割を明確に意識し始めた村上春樹。たぶん次作で超寓話的物語を出してはぐらかし、その後「海辺のカフカ」よりも強い直接的メッセージを持つ物語を提示してくるのではないかな、とちょっと予想(笑

2002年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「にぎやかな湾に背負われた船」

小野正嗣著/朝日新聞社/1200円

にぎやかな湾に背負われた船
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筒井康隆が帯に「少しほめ過ぎになるが、小生はガルシア・マルケス+中上健次という感銘を得た」と書いている。
とてもよくわかるが、ボクはそれは作者の目指すところではないのではないか、と思う。骨太さは似ているが、もっと軽快でサラリとしている。いくらでも重くどっしり書ける題材なのに、いくらでもややこしく人の性(さが)を入れ込める筋なのに、全体的に「毒みたいなもの」が意識して上手に排除されている。湿度が低い。妙に薄暗さがない。デビュー当時の村上春樹が中上健次的純文学を書いたとしたら、たとえばこんな感じになったかも、というイメージが少しした。イマの気分にとてもマッチする純文学だなぁ。読後、ついに平成の純文学が出た、とすら思った。

ユーモアの存在も大きい。どんなに暗い話になろうとそこはかとなくユーモラスな匂いが漂っている。著者がフランスの現代詩の世界と深く関わっていることもあるのであろうか。
あと、変なイメージかもしれないが、読んでいる最中ずっとブリューゲルの絵を思い浮かべていた。すべての登場人物がブリューゲルの絵のような印象でボクの頭の中に生きていた。あの、ブリューゲル的な細かい絵のような客観性と遠景がそこにあるからだろう。でもってその距離感はボク好みである。ま、早い話、気に入ったのですね。著者の作品はこれからも追ってみたい。

2002年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「泳ぐのに、安全でも適切でもありません」

江國香織著/集英社/1365円

泳ぐのに、安全でも適切でもありません
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第15回山本周五郎賞受賞作品。直木賞の候補にもなったが、取っちゃったらどうしようかと思ったよ。

って、別に著者がきらいなのではない。時間の切り取り方が見事だし、そのかけがえのなさ、他の誰でもなく自分こそにそういう時間が流れているのだという誇らしさと切なさ、みたいなものを書かせたら当代一流だとは思っている。
本作でも、表題作や「うんとお腹をすかせてきてね」「サマーブランケット」など、彼女にしか書けない時への愛おしさに溢れており、思わず本を閉じてぼんやり中空に目を漂わすようないい時間を過ごせた。

でも、なんだろう、透明すぎる。ボクには。
この透明感から、敢えて言うならば「イマではない」という印象を受ける。ある時期の村上春樹やわたせせいぞう、そしてトレンディドラマで使われた手法にスパイス振って上手に調理しなおした印象が抜けないのだ。そしてボクは(40代という年齢もあるのかもだが)そこに実在(リアリティ)を感じられなくなっている。このごろのTVドラマにもそれは言える。頭で考えて構築したことの限界、みたいな手触り。読んでいて、どうしてもそこが引っかかった。

2002年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「センセイの鞄」

川上弘美著/平凡社/1400円

センセイの鞄
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話題作。というかヒット作。
川上弘美は芥川賞受賞作「蛇を踏む」のとんでもない異化の世界の印象が強く、体調がいいときにしかトライする気になれなかったのだけど、巷に「これはいい!」という声が溢れているので手に取ってみた。結論から言うと、これはいい!です、はい。

37歳になる独身女性ツキコと30歳以上年上のセンセイとの静かな愛の物語。
冒頭から引き込まれ、何も起こらないのにワクワクし、最後には読み終わるのが惜しくなってくる。特に会話がいい。お行儀のよい会話にお行儀のよい展開をつけて、昭和時代っぽい純な味を出している。主人公同士の小津安二郎的距離感も心地よく、小説を読む楽しみを思い出させてくれる。
著者はどこかのインタビューで「私は何かを伝えようと思って小説を書きません。伝えようとすると小説ではなくお説教になってしまう」と言っていたが、その通りの作法で書かれており、それも心地よい原因のひとつであろう。なんというか、フランス料理で商売できるほどの腕の人が作る家庭的お総菜を個人的にゆっくり味わわせてくれた後のような、滋味溢れる充足感がここにはある。静かで温かい気持ちになりたいときなど、おすすめ。

2002年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「悪魔のパス 天使のゴール」

村上龍著/幻冬舎/1600円

悪魔のパス 天使のゴール
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サッカー小説と呼んでいいかもしれない。特に最後の100ページのサッカー描写は小説が初めてサッカーを描ききったと言えるくらいな出来で、村上龍もそれを目的にしたようである。

ただ、全編中田ヒデへのオマージュでもあるので、どうも「ねぇねぇヒデー、ボクってサッカーをとってもよく理解しているでしょ?  褒めて褒めて〜」みたいな著者の気持ちが少し見えてしまって、読者としてはちょっと白けるところがある。
そう、これは中田ヒデに対するラブレターに近い小説だ。サスペンス的な部分を付けてはいるが、それもちょっと中途半端だし(結末はいまいち)、ほとんど「ボクって中田とこんなに親しいんだよね。サッカーのことこんなに理解しているんだよね」という自慢に読めるのが弱点。

とはいえ、ラスト100ページだけでも買いである。
部分的に梶原一騎を思わせるような誇張もあるのだが、カラダが震える描写の連続。サッカーへの理解は確かに深い。下手に中田など準主人公として登場させずに(名前は夜羽。やはねと読ませるのだが、ほとんどヨハネである。神なのだ)、秀逸なサッカー描写を活かしつつ、もうちょっと違うストーリーにしてほしかった。オマージュするにしても、もうちょっと別のカタチがある気がする。

2002年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「横断歩道」

黒井千次著/潮出版社/1600円

横断歩道
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静かな小説である。
ある主婦がプールで知り合った同年代の女性と友達になるが、彼女はある日突然姿を消す。彼女がいる日常に慣れた主婦は彼女を捜し始める…というような物語なのだが、読後、さてココにどう書こうかと困ってしまうほどなにも起こらず、結果も展望も解決も現れない。だけど不思議に印象的。
読者によっては退屈を感じる人もいると思う。20代に読んだら退屈だろう。でも40.50歳以降に読むとわりと空気が読め、共感を得られる気がする。ボクは現代の危うい人生構築を外側から内側に向かって注意深くじっくり描いていることに好感を持った。意識して構築したわけでもない人生に埋没している安心感と不安。ある時、ほんの小さなキッカケでそこから一歩出る。すると違う景色が見え始めるのだが、それもまた非常に不安…。構築した人生に絡め取られ、行くも戻るもしにくくなった中年以降の不安感を静かに描いている。題名の「横断歩道」はそんな向こう岸への(安全な)一歩を象徴しているようだ。

著者は何も起こらないことにさすがに不安を持ったのか、ちょっとした出来事を重ねてミステリーっぽくしたりもするのだが、それはちょっと中途半端であった。ミステリー的にするより、より純文学的に持っていった方が個人的には望ましかったな。思わせぶりな小説と切り捨てることも出来るだろうが、正直ボクはわりと好きである。

2002年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「ソウルボート」

遊田玉彦著/平凡社/1600円

ソウルボート―魂の舟
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沖縄の風水を取材に行ったライターがそれをきっかけに宮古島のユタと関わり、祖先との因縁を追う魂の旅に出る……精神的シーク&ファインド小説であるが、著者の実体験を素材にしているのか、かなり濃く印象的な物語である。

フィクションなのかノンフィクションなのか判別がつかないままストーリーは進む(一人称ではないのでフィクションっぽいが、内容的にノンフィクションっぽい)。前半は妙に自意識過剰な感じがし、終盤はなんだか肩すかし感があったが、中盤は力ある展開に非常に惹きつけられた。
ただ、ノンフィクションならユタの存在や言葉にもっと突っ込んでほしいし、フィクションなら終盤で読者を置いてきぼりにしないで欲しいし、どちらとも取れないその構成が全体を中途半端にしてしまった感はある。どちらとも取れない構成だからこそ非現実的な話にもついていけるという部分は確かにあるが、読者的カタルシスがもう少し欲しいかも。
最後まで、出来事をすべて信じていいのか、それとも創作なのか、読者的スタンスを決められなかったのが残念なところ。スタンスが決められないから、魂を探す主人公の盛り上がりにいまひとつついて行きにくい。

とはいえ、個人的には非常に興味がある題材である。現実感のない毎日にふと立ち止まるには格好の内容だ。著者デビュー作らしいが、今後の作品も読んでみたい。ちなみに「ゆうでんたまひこ」と読むらしい。

2002年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「南の島のティオ」

池澤夏樹著/文春文庫/437円

南の島のティオ
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南の小さな島で暮らすティオという少年の物語。
小さな物語を集めた本で、気楽に手軽にゆったりした島時間に浸れる。欺瞞的忙しさに追われる都会の日常からほんの数分逃避するには格好の本であろう。

描写が非常に自然。読んでいてどこにもつっかえるところがないし、ひっかかるところもない。一番難しいそういう技をなにげなくやっている著者の力量を感じる。そして、著者が沖縄に住んでいるところから来る問題意識もそこここに感じた。失ってしまったらもう元には戻らないもの、時間・精神・自然・精霊……そういったものを豊かに物語の中に棲ませ、違う方向へ行こうとしている現代人にそれらを思い出させる要素を散りばめている。とても好感が持てるのはそれが声高な主張ではないこと。しっかり物語の底に沈ませている。
第41回小学館文学賞を受賞している。

2002年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 児童・ティーンズ

LV5「肩ごしの恋人」

唯川恵著/マガジンハウス/1400円

肩ごしの恋人
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2001年下半期の直木賞受賞作。
読み始めは「うーん、ありがちな現代女性元気もの? こりゃ退屈かも」と思ったが、進むに従ってその描写力、キャラの立ち方、わざとらしくなく類型的でない女性の本音の出し方(←男性として読んでいても自然な本音と思える)、そして人生の主導権を社会にも男にも渡さない感じ……すべてによく書けていることに気がつく。直木賞もだてではない。

あ、でも、最初は「わざとらしい」と思ったんだった。類型的とも思ったんだった。それなのに読み終わる頃には逆の印象を持っている。そう、読み始めは主人公に違和感を与えつつすごいスピード感で導入しておいて、読み進むに従ってじわじわと外堀から主人公たちに共感を覚えさせていく感じがうまい。第一印象が悪い人ほどいい友達になる、という言葉が当てはまるような本かも。

性格の違うふたりの女性の幸せ探し物語と言ってしまうとそれまでなのだが、全体に妙にリアリティがある。設定も展開もリアリティがないのに、これだけリアリティを感じさせるのはやっぱりキャラの立ち方かなぁ。肩ごしの恋人に男を選ぶ必要もない感じとか、結論としての結婚を選ばない感じとか、妙に自然でリアリティがあるのだ。それは著者の筆力のなせる技なのかも。普通っぽく見えて侮りがたい筆力だ。

2002年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「コンセント」

田口ランディ著/幻冬舎/1500円

コンセント
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田口ランディは初読。
あれだけ話題になっていたのに手に取らなかったのは、なんというか、「エロス的な異化」や「ネット的な異化」や「引きこもり的な異化」で作品に思わせぶりな奥深さを与えようとする類の作家なのかな、と勝手に思っていたという理由が大きい。
でも今回読んでみて、それは単なる先入観であったことがわかった。著者はそれらを思わせぶりに異化してはいない。それどころか全く逆である。ただそれはいい面ばかりではなく、例えばエロスという「官能」を論旨が明快な「感応」に収束してしまった点をとっても、ちょいと全体に理屈が勝ってしまったきらいがある。破綻なく隅々まで理屈のあった、よく出来たお話になりすぎた感じ。その妙に収まりがいい感じがボクにはわりと快感であったが、それがこの物語を狭くもしていると思う。感心はするが感動はしない。そんな印象。

でも、感心する描写や感心するストーリーテリングは随所にある。それだけでも処女作としてはすごすぎる。
冒頭からしばらくはちょっと自意識過剰的表現で居心地悪いのだが、中盤から素晴らしい展開を見せていく。結末に向けてのシャーマニズムのとらえ方に既視感があり(吉本ばなな的)、そこに新しいシャーマニズムが展開されていればもっと面白かったと個人的には思う。

ずっとこんな感じで頭のいい小説を書いていっちゃうのかなぁと不安にはなるが、処女作としては傑作。もうちょっと頭の良さが前面から引っ込むとグンと良くなる気がするが、いい部分も失われてしまうのかな。ドロドロした話なのに、読後感が精緻な建築物を見た感じに近いのが、長所でもあり欠点でもある、そんな印象。

2002年1月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「精霊流し」

さだまさし著/幻冬舎/1429円

精霊流し
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さだまさし初の小説。TV番組「関口宏の本パラ!」での仕掛けに乗って書いた書き下ろしである。
ほとんど自伝と言ってもいい作品で、短編8つからなっているが、どのエピソードも密接に関わり合っており、全体でひとつの作品になっている。8つのエピソードはすべて「死」を題材にしている。そういう意味では8つの精霊船と言えるかもしれない。この本自体が、彼の人生での精霊流しになっているのだ。

期待はしなかった。一部で「泣ける!」「初めて小説を書いたとは思えない」「感動にふるえた!」との評判があったし、中学高校時代にさだまさしをかなり聴いていることもあって興味はあった。ただ、さだまさしは自分の中で封印した過去なので「今」の彼の小説を読むことにちょっと抵抗があったし、照れくさい感じがあった。

結果から言うと、いい本だった。ラストは確かに泣けた。参ったなぁ。実際かなりうまいとは思う。推敲が足りないんだろう、とか、ちょっと自慢めいて鼻につく、とか、ちょいと格好よく書きすぎじゃない?な部分はいろいろある。説明しすぎたりキレイゴトにしすぎたり。でも全体に彼のいい時のいい歌を心を澄まして聴いているような、静かな時が流れる。思ったよりサビを歌い上げず、あっさり書いているのも成功している。表現者としてある意味熟成されているのだ。著者の様々な歌の主題も結果的に解題され、彼の歌をいろいろ知っている人には特に興味深い部分も多いだろう。

読後、さだまさしのCDを無性に聴きたくなる。これは歌の延長なのだ。8曲入ったアルバムなのだ。彼の中では、表現手段として、歌と小説の区別はあまりなかったのだろうと思われる。

2001年10月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 自伝・評伝

LV5「紙婚式」

山本文緒著/角川文庫/533円

紙婚式
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うまいねどうも。こういうのを書かせたらこの作者はやっぱりハマるなぁ。
ボクは「あなたには帰る家がある」を読んで山本文緒を好きになり他のも読み始めたのだが、「恋愛中毒」などのこのごろの山本文緒の著作はイマイチ好きではない。なんか狙っている感じがイヤだし、著者の細やかさが悪い方に出ていると思うのだ(直木賞作家をつかまえて偉そうだけど)。でも、この短編はいい。98年に出た単行本の文庫化だが、あのころの山本文緒は好きなんですね。キャッチーなものを狙わずに地味な題材をじっくり書いている。

この本は結婚のいろいろなカタチを創作した短編集なのだけど、結婚生活の空洞加減を上手に浮き彫りにしていてやるせない。結婚現体験者として「そうか~?」ももちろんあるが、著者はかなり結婚を理解していると思う。こういった山本文緒をもっと読みたいと思うボクなのでした。

2001年8月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「蕭々館日録」

久世光彦著/中央公論新社/2200円

蕭々館日録
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無人島に一冊持っていくとしたら漱石の「吾輩は猫である」を持っていく、という著者が書いた久世版「吾輩は…」である。

語り部は猫から5歳の早熟少女に変えてあり、登場人物も(名前は変えてあるが)芥川龍之介、菊池寛、小島政二郎らであり、時代も大正から昭和に変わる頃、と、もちろん著者なりにアレンジはしてあるのだが、元本は明らかに「吾輩は…」。あそこに漂う高等遊民的空気と語り部による観察・批判の鋭さを再現しようとしたものなのである。

「猫」に比べて語り部の「麗子」が同族である人間な分、視点が「猫」よりだいぶん人間に近く、それが中途半端な感じになっていて--麗子のヒトとしての心情が描けすぎている--ちょっとウェットに傾きすぎている。そこが強みでも弱みでもある本。向田邦子が書いた方がもっとドライになって面白かっただろう。

「重箱の隅っこに文化がある」という一文があった。今時重箱の隅など、だれも覗かない。その淋しさをバネにしてしっかり書き込んだ労作だとは思う。相当な知性と緻密な下調べ、そしてこういった筋がない物語を破綻なくまとめあげる筆力、感服する。
が、この馴染めない感じはなんだろう? もうボクがこういうものを楽しめなくなっているのであろうか。駆け足で過ぎていく時代へのアンチテーゼとして示された本でもあるとは思うが、まさに駆けている状態のボクは何度か途中で挫折しそうになった。心の余裕がある時にゆっくりスルメのように味わう本であるかもしれない。

2001年7月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「玉蘭」

桐野夏生著/朝日新聞社/1800円

玉蘭
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うーむ。1999年~2000年と、著者が1999年に「柔らかな頬」で直木賞を取った頃に書かれた作品だから、ある意味脂の乗り切った時期のものであると思うし、ある意味めちゃ落ち着かなかった時期のものでもあると思う。つうか、この出来からすると、後者かも。物語は収束を欠き、カタルシスは中途に終わり、結末もちょっと凡庸。

なんというか、こういう甘美なお涙系(と位置づけてしまう気はないがなんとなく)は浅田次郎の方が適任な気がする。
桐野夏生は物事をウェットに捉えるより、キリリと締まったドライな捉え方の方が似合っているし力を発揮すると思う。思えば舞台の上海の描き方に一瞬その光芒が見えるが、ドキドキしたのはそこだけかも。過去と現在の切り返しももっと短くカッティングしていけば独特のドライな雰囲気になった気がするが、半端な切り方になってしまったため、ボクには冗長な後味が残ってしまった。
直木賞を取っても、新しいものを目指す心意気は素晴らしい。けど、こっちではないと思うなぁ。次作に期待。

2001年6月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「体は全部知っている」

吉本ばなな著/文藝春秋/1143円

体は全部知っている
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吉本ばななの本は初期作はすべて読んだけど「アムリタ」あたりからどうにもイマイチで読まなくなっていた。でもなんとなく久しぶりに手に取ったら見事に復活しているではないか。

この短編集は著者の感性と技術がバランスよく一致した傑作かと思う(一時期「感性」的なものに偏っていてバランス悪かった気がする)。人生をスライスするナイフの鋭利さ。それに空気感を与えるポンプの精巧さ。そしてなによりそれらを貫く背骨の太さ…。読み始めはちょっと物足りなく「あぁまた感性主導型ばななワールドか」と思わせたが、途中から背骨の太さ・一貫さに気付かされ、最小限に絞った言葉の的確さにも驚かされ、やっぱり希有な作家であると再認識させられたのである。

題名は一見各短編に関係ないようであるが、実は大きなテーマをそこに主張している。
この言葉が各短編を結ぶベルトであり鍵であり鍵穴でもある。頭でっかちな「理解」とは別次元にある生理的な「実感」。それを物語周辺の空気感で表現し、読者に体感させてくれる手腕の見事さ。遺物に触れぬよう注意深く周りから掘っていく遺跡発掘のような手並みである。もちろん味付けは現代風なんだけど。
お茶でも飲みながらゆっくり味わって欲しい短編集。おすすめ。

2001年2月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「希望の国のエクソダス」

村上龍著/文藝春秋/1571円

希望の国のエクソダス
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読みながら「あれ、オレって落合信彦読んでるんだっけ?」と表紙を見返してしまった。
ひと言で言うなら、現代日本の問題点を羅列して将来を予測し、それを物語に翻訳した本。問題意識が強い著者ならではの本ではあるが、全体にやけに自虐的だし、「オレっていろいろ考えてるでしょ、憂いているでしょ」という感じが鼻につくし、だいたい小説になっていない気がする。炭坑の中のカナリアのつもりかもだけど、著者ほどの「小説家」なら、ありそうな未来を想像しなぞるのではなく、その裏にある根本的な人間の姿を創造し、まったく違う世界観のもとに表現してほしいと思う。現代日本の問題点を物語に翻訳するのではなく、現代人そのものを物語に翻訳・昇華してほしいと願う。例えばオウムや阪神大震災を見事に昇華しきった村上春樹のように。

こういう本を「流行作家ムラカミリュウ」が出す意味はわかる。波紋を投げかけ、それはかなりの人に届いたことであろう。でも「小説家ムラカミリュウ」には出して欲しくなかったな。「共生虫」がいまいちだったので今度こそ、と期待したけどガックリ来てしまった。もうすでに小説家というよりは時事作家なのかもしれない。

物語自体は、2/3までは面白かった(戦慄もした)。
でもラストはあんまりだろう。無理矢理「希望」を作り出したかったのだろうが。
あと、中学生の描き方に「自虐的オジサン史観」が入っている気がする。戦後の進歩的文化人が欧米を卑屈に仰ぎ見た感じに似ている。ちょっと不快。村上龍ファンとして悲しい限り。JMMなどの活動は素晴らしいと思うし、問題点を考えさせるキッカケとして優れてはいるが、彼にはやっぱり小説家として戻ってきてほしい。ボクにはまだアナタの「小説」が必要なのだ。

2001年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「裏バージョン」

松浦理英子著/筑摩書房/1300円

裏ヴァージョン
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期待高まる松浦理英子7年ぶりの新作。

「親指Pの修業時代」以来待ちこがれていたが、結果は、うーむ、期待しすぎたかしら、であった。
いや、構成的には斬新・新鮮・血も踊るである。でも斬新な仕掛けには斬新な結末を期待してしまうのが読者の常。導入の第一章の一番最後の行を読んで「おや?」となり、章を追うに従ってどんどん「おお?」が広がり、構成の妙が理解できてきた途端に爆発する結末への知的期待…。

うーむ。結果的に、構成の新しさのみ印象に残ってしまったのがこの本の弱いところ。感心はするが感動はしない感じ。望みすぎなのはわかっている。感心するだけで充分かもしれない。でもなぁ…。惜しいところ。

2000年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「渋澤龍彦綺譚集1(全2巻)」

渋澤龍彦著/日本文芸社/3900円

渋澤龍彦綺譚集〈1〉
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先月香山滋の幻想小説集を読んで、無性に渋澤龍彦が読みたくなった。
この希有な物語作家の全集(全2巻)は前から買ってあったもので、いままでも拾い読みはしていたが、じっくり腰を落ち着けて読んだのは初めて。今月はまずその第1巻。いや、実はここに収められた26編の8割くらいしか読めなかった。こうして書いている今もまだ読書継続中である。だって、著者の文章は流し読みが出来ないんだもの。ゆっくり物語世界に沈み込む快感こそ、彼に求めたいものだからである。

渋澤龍彦の作風をひと言で表現するなら「妖しい目眩」とでも言えようか。
この頃ではもう知らない人の方が多くなりつつある作家だが、読み返してみてそのオリジナリティと尋常でない妖しさに慄然とすることしばし。緻密かつアバウトな構成力と行間の深い表現力。細部に川端康成の文学的おどろおどろと三島由紀夫の絢爛が、ちょっとずつ宿っている。なんちゅうか、気持ちよく彼が作り出した闇に落ちていけるあの加速度感が得難いのです。初期の作品はちょっとイマイチなのも多いけど、全体の物語よりもなんというか漢字ひとつから匂ってくるようなイメージを楽しみたかったので満足。文字色、書体、装丁、挿し絵もそれぞれとてもよい。しかしこの著者、導入がうまいなぁ。このまま第2巻に突入予定。

2000年11月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , ファンタジー , ホラー

LV2「シメール」

服部まゆみ著/文藝春秋/2286円

シメール
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直木賞候補にもなった前作「この闇と光」が非常に面白かったので、かなりの期待と共に読んだ新作。

前作同様、独特のゴシック・ロマン的作風で、一度中に入り込むとひんやりと薄暗く気持ちいいのだが、前作ほどのインパクトも発見もなく、ずいぶん拍子抜けしてしまった。出だし良し。中盤もなかなかいい。が、服部まゆみならここからもうひとつひねってくるだろう、とワクワクしつつ読む進めると、エンディングは「は?」の拍子抜け。ああいうラストにする意味はアタマではわかるものの、心は承知しないなぁ。例えば昭和初期にこの小説が発表されていたらあのラストでもいいのだけど、これだけ不可解なことが日常的に起きる平成の世にこれを読むと、やっぱりちょっと拍子抜けなのだ。

結果として、全体に冗長に感じられてしまったのも残念。ちゃんと削いで書いてあるのに、読み終わってみると薄く伸ばして書いてあるような印象が残る。うーむ。あと、重要な伏線であるテレヴィゲームとの関連も中途半端。きれいに納まると期待したのに。

2000年7月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「共生虫」

村上龍著/講談社/1500円

共生虫
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「インザミソスープ」を書いている時に酒鬼薔薇事件が起き、今度はこの本を出したと思ったらバスジャック事件が起きた。

そういう意味で著者は現代少年の心の空虚さを見事に読みとり、作家の想像力をもって一歩先を書いている。
が、この本が「インザミソスープ」と違うのは、先を読みとって書くことに懸命でそれだけで終わってしまっている点である。少年たちの心をなぞるだけで終わっている。そしてなぞったことを著者はかなり誇りに思っている。オレほど読めているヤツはいない、と。確かに今の少年たちの心を読みとるのは並みではない。でもそんな鼻高さが行間から読みとれてしまうのは、ちょっと。

インターネットを題材にしつつ、ネットの世界そのものを文学で表そうとした試みは評価できる。共生虫というモチーフ自体がウェブそのものであり、そのあたりの描き方は見事。でも引きこもりの少年をそこにからめてしまうのはちょっと陳腐かもしれない。村上龍は楽な道を歩こうとしているのか。この辺を題材に量産しはじめると、時事作家っぽくなってしまわないかと心配だ。100年後の世界で村上春樹は小説家だろうが、村上龍は時事作家と位置づけられてしまいやしないか。村上春樹の新作のように時事ネタを扱うにしてもそれを消化しきった上で昇華してほしい気がする。

2000年6月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「神の子どもたちはみな踊る」

村上春樹著/新潮社/1300円

神の子どもたちはみな踊る
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とっても完成された短編6編。
共通するモチーフは阪神大震災である。そういう意味では「連作小説」になるのだろう。

わけわかんねぇよ、って読後感の方もいらっしゃるかもしれないが、ボクは非常にしっくりきた。それは阪神大震災による「喪失」を体験したという個人的環境も手伝っているのかもしれない。短編の名手がじっくり仕掛けたそれはボクの心の奥深くまでしっかり食い込んできた。

基盤を崩された者の不安感、カラッポ感、ひいては神の不在感、そして自分の不在感…。そんなものを浮き彫りにするために著者はいろんな仕掛けを繰り出す。
そして「突然基盤を崩される」ということが震災だけでなくごく日常に存在し、それはある意味「死」をも包含するのだということを暗示している。そこには神も不在である。自我も不在である。そしてそれを現代社会の病理ではなく、普遍の問題として描こうとしている。阪神大震災という時事ネタを使用してはいるが、著者は巧妙に物語から時制を排除し、問題を普遍化しているのだ。

地下鉄サリン事件を掘り下げた著者の当然の帰着点だろう。あれも突然な出来事による基盤の喪失であった。そういった体験が個人にどのように作用し人生がどのように変わっていったか、著者は尋常ならざる興味を持って取材し「アンダーグラウンド」一連の本に仕上げた。

なぜあそこまで興味をもったのか、当時はいまひとつピンとこなかったが、これを読んでようやくわかった。この短編はそれを受けての著者の「ある回答」なのだ。この短編の中のどれかは、将来著者によって長編に生まれ変わる予感がする。

2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「えんちゃん」

中場利一著/マガジンハウス/1600円

えんちゃん―岸和田純情暴れ恋
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副題に「岸和田純情暴れ恋」。
岸和田を舞台に様々な青春を描いてきた著者による最新刊は、著者の両親の恋を描いたバイオレンス純愛小説である。

著者特有の大仰すぎるギャグはちょっと身を潜め、全体的にとてもバランスの良い佳品に仕上がっているが、読者が主人公の俊夫の破天荒さに最後までカタルシスを感じられないのがちょっとだけ弱い。江美が俊夫にどうしようもなく惹かれていく過程にもう少し共感できれば、文体の勢いや素材の力もあって、もっともっといい小説になった気がする。残念だ。

たぶん、著者は過渡期にあるのだと思う。性描写や愛情表現の描写にまだテレがあるのは軽妙な文体を守っているせいなのだろうか。いっそのことハードボイルド的な重い文体にトライして新境地を開いて欲しいと、著者のファンであるボクは思うのだけど。

2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「女たちのジハード」

篠田節子著/集英社文庫/740円

女たちのジハード
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何年前だかの直木賞受賞作。浅田次郎の「鉄道員」と一緒に受賞したものである。

実はまるで期待せず読み始めたのだが、予想に反してとても面白かった。全体に女性たちの行き場のないやるせなさがよく伝わってきてとても共感できたのだ。でも、ジハード(聖戦)したものの結果が結局こういうことなの?と鼻白む部分はあったかも。特にラスト。なんだか安いテレビドラマの結末の付け方みたいで、ちょっと不満なのである。

そう、ある意味とてもテレビドラマ的なつくりだ。性格も境遇もまるで違う5人のOLたちが主人公で、キャラはとてもわかりやすい設定だし、描写も非常にテレビ的。ストーリー的にもいかにもテレビ、である。というか、テレビ脚本が直木賞に近づいたのかも。でも、こういう文学が賞をとったのは悪いことではないと思う。時代に即した大衆文学。それが直木賞であるならば、まさに直木賞的作品なのであるとボクは思う。
深さはあまり感じないが「スライス・オブ・時代」としてはよく出来ている。そんな感じ。

2000年4月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「落花流水」

山本文緒著/集英社/1400円

落花流水
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「恋愛中毒」が面白かったから、次作もさっそく手に取った。一部でまたしても激賞されているらしいが、うーん、これはいまひとつ面白くなかったな。

1967年から10年ごとに7章、つまり2027年まである女性の生涯を追った物語で、章ごとに人称が変わり視点も変わる構成は非常に新鮮で面白い。
ただ、大長編ならいざ知らず、250ページ程度の本でそれをすると主人公の人格につながりが見えてこなくなり、なんだか不可解な思いのまま最終ページに行き着くことになる。それがつらい。例えばスポイルされた少女という設定で始まる第一章の記述で少女をそれなりに理解しようとした読者は2章以下の彼女の行動・性格に違和感を感じる。その間の飛び方は実生活では当然なのだが、中編小説ではなんというか読書感情に破綻を来すような気がするのだ。あ、それと、2027年とかの描写は「実際はもうちょっと違った世界になっていると思うな」みたいなSF的視点が読者に芽生えてしまうのもつらいな。

著者は相変わらず文章がうまいが、最後までカタルシスが感じられなかったし全体に散漫な印象を持った一冊。着眼点はとてもいいと思うのだけど。惜しい感じ。

2000年1月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「ゴールド・ラッシュ」

柳美里著/新潮社/1700円

ゴールドラッシュ
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14歳の少年の殺人、という酒鬼薔薇事件を彷彿とさせるような題材を、真摯に誠実に驚異的な集中力で書き上げた長編。

ある時期の村上龍のような行間の濃さを感じる。壮絶なる想像力のたまものだ。そう、別の意味でも、壮絶。主人公のキレ具合にすらカタルシスを感じるような筆力でラストまで緊張感を途切らすことなく引っ張っていっている様が壮絶なのだ。著者が髪を振り乱しながら書いている様が目に浮かぶような感じ。わかる? 
そういう意味では生理的に受け付けない人もいるかもしれない。ボクは受け付けたのだが、でも14歳の主人公への著者の寄り添い方が濃厚すぎて、逆に読者を冷めさせるところがあるのが残念かもしれない。14歳の心情を理解しよう、書ききろう、と涙ぐましく努力した痕跡が見えてしまう感じがちょっと…。「14歳」をアンファン・テリブル的に描くようなミスは犯していないが、やっぱりある種のイノセントさを押しつけている気はする。

筆力には敬意を表したい。行間から壮絶さが抜けたらまたひとレベル上の文学になると思う。はい、生意気です。すいません。

1999年12月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「恋愛中毒」

山本文緒著/角川書店/1800円

恋愛中毒
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著者の本を読むのは3作目。「あなたには帰る家がある」で大好きになり「みんないってしまう」で失望。もう一冊読んでみようこれがダメだったらサヨナラかも、って読んだこの本はとても面白かった。うん、次も読むぞ。

先月小池真理子の「恋」を読んだが、恋愛感情についての描写は「恋愛中毒」の方がずっと上手い。非常によく書き込んでありリアル。
特にP28からP29に至る表現なんて好きだなぁ。それと中盤までの主人公に対する読者のカタルシスが、結末にさしかかるにつれてなんとなくほどけていく感じも(確信犯的に表現していると信じるが)見事だ。ミステリーだと思わずに読み始めたら実はミステリーだった、というのも軽い驚きだった。

ただ、題名が内容と合致しないのが難。よく出来た題名なだけにちょっと騙された感が残る。この内容だと「中毒」というよりは「依存」なんだな。「恋愛依存」じゃ題名にならないけど。なんというか、中毒的にいくつもの恋愛が描かれていると思ったら、結果的に2つの恋愛しか書かれていないのがなんだかはぐらかされた感じがして損なのだ。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , ミステリー

LV3「ベッドの軋み」

阿木燿子著/マガジンハウス/1400円

ベッドの軋み
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ひと言で言うと、作詞家阿木燿子が書いた短編ポルノ小説集、かな。
全体を読み終わるとどれも「日常の異化としてのセックス」を描いていることがわかるんだけど、一編一編はわりとポルノ。女性の視点かつ作詞家的言葉の選び方がわりと心地よいとは思うけど。

著者のあとがきを読むと「棘のあるシーツ」という前作があるらしい。「この二冊に共通するテーマは、エロスである。男と女のエロティックな関係、もしくは女性が性的な成熟を極めるまでの過程を描きたいと思い、書き溜めたものばかりだ」と書いてある。なるほど、過程としての異化、なのね。人生と一緒なんだねぇ、なんて変な感心をしたりして。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「わたしのグランパ」

筒井康隆著/文藝春秋/952円

わたしのグランパ
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著者にとっては「時をかける少女」以来のジュブナイル(少年少女小説)。「時をかける少女」は大好きだったからかなり期待して読んだ。

読んですぐ思ったのは「筒井康隆は夏目漱石の『坊ちゃん』を歳とらせてみたかったのかな。そして彼に平成の街を歩かせてみたかったのかな」ということ。
古き良き昭和(明治?)の殻をお尻に残しているような任侠ジジイを平成の孫娘と触れあわせてみることで、著者は、姿勢が良かった頃の日本と姿勢が悪くなり始めている日本を接触させてみたのだと思う。一本筋が通っている生き方。そういう生き方をこの時代に提示したかったのかもしれない。

夏目の「坊ちゃん」がわりと素っ気なく終わるように、この本も素っ気なく終わりを迎える。なんだかこのジジイともっとずっと一緒にいたかった感じの物足りなさ。中学生の描写もありがちかつ性善説的で気恥ずかしい部分が多い。そういう意味ではどうかなぁと思ったが、ジジイの存在はとても印象的で素晴らしい。人物造形の勝利だろう。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「錆びる心」

桐野夏生著/文藝春秋/1333円

錆びる心
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1997年の冬に出た短編集。

初出が94年から97年夏な短編たち。
名作「OUT」が97年7月発売だから、ちょうど「OUT」を書いている頃に書いていたわけですね。
うーん。「虫卵の配列」とか「羊歯の庭」とか面白いものもある。が、面白くないのも半分くらいある。まだレベルが確立されてない頃なんだろう。この著者がこのあと「OUT」だの「柔らかな頬」だのを書き上げるとはちょっと想像つかない部分もある。

たぶん「さすがにうまいな」と構成でうならせるような短編作家ではないのだ。それよりもディーテイルの積み重ねで語り尽くす長編作家なのだろう。切りつめるよりも膨らませる方がうまいタイプの人。とりあえず現在はそうであるようである。

1999年10月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「バトル・ロワイヤル」

高見広春著/太田出版/1480円

バトル・ロワイアル
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面白い。圧倒的に。
舞台設定も物語展開も荒唐無稽なのだがそれが異様なリアリティをもって眼前に浮き上がってくる。やるなぁ高見広春。こういカタチで「異化」する手もあったんだなぁとちょっと驚き。冗長な部分や浮ついた部分もあるのだが、それらも嫌味ではなく味になっている。金八先生のパロディっぽい記述もそんなに気にならなかった。

太平洋戦争で勝利した大東亜共和国の理不尽なプログラム、それは中学三年生のクラス全員のバトルロワイヤル。生き残れるのはただひとり…。無作為のもとで選ばれたあるクラスの、孤島での殺し合いの一部始終がここで描かれているのであるが、クラス42人のキャラ造形がそれぞれ見事で、こんなに多い登場人物なのにそのすべてを愛している自分に読後あなたは気がつくであろう。最初はその登場人物の多さに怖じ気づくんだけどね。

ある小説新人賞選考会ではそのあまりに過激な内容ゆえ全員から拒絶され落選させられたらしいが、ボクにはそんなには過激に見えなかったのはなぜ? 新人賞選考会委員って何歳なの? 世代的ズレを感じるなぁ。それにしてもぜひ映画化をのぞむぞ。

1999年10月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , ミステリー

LV1「恋」

小池真理子著/ハヤカワ文庫/680円

恋
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直木賞受賞作。

前から読もうと思っていた本だが…、ボクには合わなかったようだ。つまらなかった。そうか、これが巷で言う「小池文学最高峰」なんだ、とか思ってしまった。

明治時代の小説を読んでいるような古くささがあったのは何故だろう。
浅間山荘事件前後の時代をシチュエーションとしてわりと描きこんでいるわりには、その頃の昭和の気分が浮かび上がってこない。恋自体の内容もどこかシンパシーを感じにくいもの。結末の付け方もいまひとつのらない。エピローグはわりと好きだが、でもなー、なんだか全体にもうひとつだったのだった。著者をこれだけで判断するのはなんなのでもうちょっと読んでみたいが、でもやっぱりボクには合わないままな気がする。

1999年10月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「漂流物」

車谷長吉著/新潮社/1600円

漂流物
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死後に地獄というものがあるとしたら、こういう生前の醜い想いが漂っている場所のことかもしれない。
この本を読んでそう思った。
短編集だが、著者が吐き出す地獄模様は1ページが10ページ分くらいの密度で読者におそいかかり、読み通すのになかなか力がいる。ある種、私小説であると思うのだが、私小説も行き着くとこういった「心の中の地獄」を描くしかないのだろう。ボクはこの人が書く嫉妬地獄みたいなものを読んでみたい。

1999年10月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「図鑑少年」

大竹昭子著/小学館/1700円

図鑑少年
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不思議な短編小説群だ。

基本的にはスライス・オブ・ライフなのだが、透明感がある文体の中に確固たるリアリティが感じられ、ふと遠くを眺めてしまうような、呆然としてしまうような世界に連れて行ってくれる。
非日常なんだけど懐かしいいろんな生活の断片…夢中で読んでいるうちに、ぐっと想いに浸ったり、中途半端に放り出されたり、著者の思うがままになっている自分を発見するだろう。

特に読者を連れ回したあげく最後にぽんと放り出す様がちょっとレイモンド・カーヴァーみたいで心地よい。印象的には「透明なカーヴァー」という感じ。まぁ極私的な印象なのだけれど。

1999年6月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「ブエノスアイレス午前零時」

藤沢周著/河出書房新社/1000円

ブエノスアイレス午前零時
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芥川賞受賞作。
あまり期待せずに読んだのだが、歯の浮かないハードボイルド調で始まり、イマジネーションとリアリティを上手に紡いで展開していく様はなかなか見事。映像で言うならインサート画像の入り方が長さ・タイミングともにとても効果的で、作品を締めているのだ。

表題作「ブエノスアイレス午前零時」のリリシズムも好きだが、もう一編の「屋上」もとてもいい。
結末の付け方がちょっと陳腐な感じがしたが、読んでいて脳裏に広がるリアリティが生半可ではない。説明描写は最低限なのに、きっちりそこに場を展開させる筆力はさすがである。敢えて言えば、会話がいまいち。それともうちょっと長ければ、と思う。また、アルゼンチンの空気感がもう少し出ていればカタルシスが余計に感じられたと思う。

1999年6月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「スプートニクの恋人」

村上春樹著/講談社/1600円

スプートニクの恋人
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著者長年のモチーフである「どこにも行けないメリーゴーラウンド」が、「どこにも行けない、かつ一瞬しかすれ違わない人工衛星」に姿を変え、著者長年の主旋律である「こっち側とあっち側は背中合わせでその境目がどんどん希薄になっていく」様が丁寧に描かれている。スプートニクとは例のライカ犬が乗って世界で初めて宇宙を飛んだソ連製の人工衛星。小説中では少ししか登場しないが、この小説の「記号ではなく象徴」だ。とても上手だ。そこらへん。

このところボクの思い入れにいまいち応えてくれなかった村上春樹であるが、この本は彼の主題が折り重なって現れ、二重にも三重にも織り込まれ、目眩がしそうな充実感を覚えた。さすがである。
ただ、ストーリーテリング的にははぐらかされる人もいるだろうし、主題的にピンと来ない人には単につまらない本かもしれない。終わり方に不満の残る人もいるだろう。でもボクの中ではすべて辻褄があい、過不足なくすべてが絡み合った。

現実と非現実のどちらが「リアル」なのか、そして「リアル」を通して我々はどこかへ行けるのか…、そんな疑問に呆然としたことがある人なら読んで損はない。

1999年6月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「トウキョウ・バグ」

内山安雄著/毎日新聞社/1600円

トウキョウ・バグ
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2段組400ページ弱の長編だが、あっと言う間に読める。そういう意味ではストーリーテリングの力を認めざるを得ないが、前に読んだ「モンキービジネス」に比べるとちょっと内容が薄っぺらい気がした。まず主人公にカタルシスを感じられないのが痛い。相も変わらず情けない主人公設定なのだが、その情けなさに気持ちがうまく入っていけないのだ。共感しにくい。

在日イラン人やタイ人などの描写は面白いのだが、どの登場人物にも共感できていかないのがまた惜しい。
著者が彼ら側に立っていそうで立っていないのも中途半端感がある。「モンキービジネス」の方が全体に一貫性があって面白かった。いや、ストーリーテリング自体はいいんだけど、ちょっと惜しい感じ。脇役のキャラがいいのが救い。

1999年6月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「熊谷キヨ子最後の旅」

ねじめ正一著/文藝春秋/1429円

熊谷キヨ子最後の旅
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「熊谷突撃商店」の続編。
前作からもう2年半も経つのか、と驚いてしまうくらい主人公のキヨ子の印象は強く心に残っていた。だからすっと物語に入れる。

基本的にはノンフィクションで、女優熊谷真実・美由紀の母の最期をキヨ子の妹・佐智子の視点からじっくり追っている。
やり方は成功していると思うし、前作をきれいに納めたかったのだろうということもわかるが、前作ほどキヨ子の魅力が光っていないのがどうしても弱い。前作に使用したエピソードでもいいから、若い時のキヨ子の魅力をもう一度描き、読者にカタルシスを感じさせながらストーリーを進めて欲しい、と思った。直球だけど、コースもスピードも甘い、そんな感じ。

1999年5月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 小説(日本)

LV3「愚連」

中場利一著/講談社/1600円

愚連―岸和田のカオルちゃん
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副題が「岸和田のカオルちゃん」。

「岸和田少年愚連隊」の超魅力的脇役カオルちゃん(男)が出ずっぱり。愛読者にとっては待望の「カオルちゃん特集」なのである。すげーうれしー。とにかくうれしー。
ただ、こうしてカオルちゃんの話をぶっ続けて読むと、カオルちゃんはやっぱり脇役でこそ、なのだなぁと思ってしまうところはある。他の話があって、たまにカオルちゃんがちらっと出てくる…その程度がほどがよいのかも。ちょっとTOO MUCHなのだ。表現もオーバーすぎてちょいとついていけない。笑えるんだけど、もうひとつ哄笑できない感じ。

著者の文章は大好きなのだが、ちょっと芸風を変えて違うテーマで書いた方がいい気もする。とはいえリクエストが多いのだろうなぁ。カオルちゃんはやっぱり魅力的だしなぁ。

1999年4月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「ライン」

村上龍著/幻冬舎/1500円

ライン
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99年1月に読んだ「ワイン 一杯だけの真実」で散文が到達しうるある境地まで達してしまったと思われる村上龍。
この「ライン」も、同じようにとんでもないレベルに達した技術をもって現代日本というこの「特殊に寂しい社会」をさらりと浮き彫りにする。くどいほど濃い文体で書いていた頃に比べれば関西ダシのような薄さなのだが、それがある一線を越えてしまった表現レベルの証である。

TVケーブルや電話線などの「ライン」を通る情報が見えてしまうユウコという女性を象徴に、ラインは見えるけど中には入り込んでいかない寂しい人間関係を次々とつなげて書いている。表現手法は「パルプフィクション」的ですごく新しいというわけではないが、主題を描くのにこれ以上の構成はないだろう。

著者のあとがきが秀逸。
「文学は言葉を持たない人々の上に君臨するものではないが、彼らの空洞をただなぞるものでもない。文学は想像力を駆使し、物語の構造を借りて、彼らの言葉を翻訳する」。

そういう意味で、翻訳は見事に成功していると言えよう。少なくともボクには彼らの言葉が聞こえてきている。そして胸が悪くなるような感慨を著者からいつも得ている。空洞をなぞっているだけの文学が多い中、著者の一歩つっこんだ表現レベルには文字通り恐れ入っている。

1999年3月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「屈辱ポンチ」

町田康著/文藝春秋/1143円

屈辱ポンチ
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エッセイがいまいちで「あれ?」と思っていたが、こうして小説を書くと文句ナシの筆力を見せる町田康。2編入っているが、特に「けものがれ、俺らの猿と」がいい。

町田康の小説は終わり方が好きである。ド頭から盛り上がり、そのまま文体の力でダラダラと盛り上がり続ける小説だからだろう、後半になっても〆が予想できない。しかし著者は忽然とあざやかに幕を下ろすのであり、その終わり方は音楽で言ったら後奏なしのサビ終わり、という感じだ。

相変わらず文学でパンクロックしているのだが、読後感がこんなにいいのは何故か。文体のリズムもあろうが、この幕の下ろし方も大いに影響している気がする。次作も即買い。

1999年2月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「ワイン 一杯だけの真実」

村上龍著/幻冬社/1400円

ワイン一杯だけの真実
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今度の村上龍はワインが題材か…。ブームに乗っているみたいでイヤだな…と思いつつ読んだ。

オーパス・ワン、マルゴー、ラ・ターシュなど8本のワインが絡む8つの物語。
映画小説とかレストラン小説とかを以前発表している著者であるだけに、同じような筆致なのであろうと高をくくって読んだのだが、期待はいい方に裏切られてしまった。ここには散文としての小説のある到達点があると思う。筋とか主題とかそんなものにとらわれない「文体だけの小説」・・・とでもいうのか、文体だけでここまで読ませる物語は得難いものがある。

筋を追うタイプの読者にはつまらない本かもしれないが、もうこうなってくると題材は現実感のないものであれば何でもありだと思う。ただ、ボクは敢えて日本的・土俗的なもの、例えば日本酒とかをテーマに選んで著者の中との違和感を追ってみて欲しかった気がする。もう一歩深いところに行くために。

1999年1月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「我らが隣人の犯罪」

宮部みゆき著/文春文庫/390円

我らが隣人の犯罪
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宮部みゆきのわりと初期の短編作品集。
文庫になったのを機に読んでみたのだが、評判ほど感心しなかった。なんというか、甘ったるく感じてしまう。別にハードボイルドにしてほしいというのではないが、中学生向けミステリー文庫的甘さを感じてしまっていまいち楽しめなかったのだ。
プロット自体もひとつもびっくりさせられるものがなく、細部で面白いところがあるだけで、全体にはちょっとがっかり。そんなに当たり外れのある作家じゃないと思うのだが…。他の短編に期待。

1999年1月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「赤目四十八瀧心中未遂」

車谷長吉著/文藝春秋/1619円

赤目四十八瀧心中未遂
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久しぶりに心に楔を打ちこまれた気がする。
自らのヒフを剥ぐようなその文体は、題材が自らの経験にもとずくというだけでなく、自分を傷つけて血糊の中でのたうつ様を楽しんでいるようなある種の狂気から来ている気がするほど迫力と魅力に富んでいる。描写される世界の空気感、時代感も抜群だ。日本近代文学がどこかに置き忘れてきつつあった「体臭」みたいなものがプンプン匂ってくる。

それにしてもこれが今年の直木賞か。芥川賞の方がいい気もするが…。それだけ境目がなくなってきたんだろうなぁ。いい意味でごく初期の宮本輝を彷彿とさせて楽しめます。あ、暗い話が嫌いな人は近づかない方がいいかも。まぁ題名がコレだから近づかんか。

1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「霞町物語」

浅田次郎著/講談社/1500円

霞町物語
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帯とか広告で「著者自身の物語」と書いてあるのを読まなければもっともっと楽しめたかも。

非常に良く出来た青春の1シーンなのだが、「主人公=著者」と思って読んでしまうと白けてしまうのだ。やることなすこと格好良すぎる。よく自分でこんなの書けるなぁ、と逆に感心してしまう。含羞がなさすぎてちょっとついていけない部分がある。祖父や親父を描いたところはとってもいい。が、彼自身の描写になると読んでいる方がこそばゆくなってくる。

うまいんだけどなぁ。でもこれは、自分の半生を自分に酔いながら歌いあげる演歌歌手と変わらない。いろいろなエピソードは心に残るのだけど…。

1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 小説(日本)

LV3「道頓堀の雨に別れて以来なり」

田辺聖子著/中央公論社/上2400円・下2700円

道頓堀の雨に別れて以来なり〈上〉―川柳作家・岸本水府とその時代
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田辺聖子の本にここまで苦しむとは思わなかった。かれこれ3カ月かかってしまった。いや、面白すぎて3日で読み終わったという人もいるからこれは相性かも。

副題に「川柳作家・岸田水府とその時代」とあるように、岸田水府という著名な川柳作家に焦点を当てつつ、例によってのお聖さん節で話はアッチャコッチャ飛び回る。時制も場所もあったもんじゃないところが凄い。これは雑談か井戸端のうわさ話かって感じで展開するのだ。だが、そのお蔭で重層的に明治・大正・昭和が浮かび上がってくる。

しかし水府は格好いいなぁ。川柳自体も見直すこと頻り。もっともっと見直されていい立派な芸術である。

1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「夫婦茶碗」

町田康著/新潮社/1300円

夫婦茶碗
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短編がふたつ入っている。
両作ともに前作を引き継いだタッチで軽快独歩、おもしろい。特にふたつ目「人間の屑」が作者らしくないストレートな表題のわりに快作。過ぎていく時間にメリハリがなく、どの時間も同じように過ぎていく様が著者の文体から見事に紡ぎ出されている。メシもセックスもアソビも、そして「自分」も「他者」も「それぞれの人生」もすべてフラットに描かれ、奇妙なまでにリアルに若者達の生態が切り取られていくのだ。面白い。

村上龍に感じたような「文体自体が何かを語る」という筆力をこの著者には感じる。さすがである。妙に漢字などの取捨選択が古めかしいところも好き。

1998年9月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「定年ゴジラ」

重松清著/講談社/1800円

定年ゴジラ
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定年者の気持ちが良く描けている小説である。
うんうん定年したらこう思うだろうなぁというリアリティが非常に感じられる。が、あまりに共感したので「ボクって定年者の気持ちが何でこんなにわかるんだろう」とちょっと不思議になり思わず奥付を見たら、この作者、なんとボクの同年代ではないか。想像力・筆力のすごさに脱帽すると共に「やっぱりボクの年代から見て書いた定年者なんだな」とちょっと納得もした。本物の定年者が読んだらどう思うか、興味があるところである。

もうひとつ面白かったのは「ニュータウン」について非常によく書けているところ。定年者という素材を借りながら実はニュータウン論を書きたかったのではないかと邪推したくなるくらいだ。
全体にとてもよく構成されていて楽しく読める。日本の社会の仕組みそのものが「定年」していく姿が浮き彫りになり、ちょっとせつなくなる。あと、主人公も「さん」づけで呼んでしまうのがなんだか新鮮でした、関係ないけど。

1998年9月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「居酒屋野郎ナニワブシ」

秋山鉄著/新潮社/1500円

居酒屋野郎ナニワブシ
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つぶれる予定の居酒屋へ仲間がひとりふたりと集まってきて再起をかける、みたいなストーリー。
筋はまぁ結末が最初から見えているとはいえ、なかなかおもしろい。が、全体にもうひとつ乗れなかった。こういうストーリーなら一気に読ませるような勢いがあってもいい。というかそれが大事であろう。それがない。徹夜をしてでも読みたくなってしまうようなチカラを感じない。なんでだろうなぁ。イマイチ笑えないギャグがあったり、妙に説明的な描写があったり、中途半端にリアリティがあったりするところだろうか。
うーん。ボクが思うに「主人公に魅力がないんじゃないか」ということだ。出演者の中で一番魅力ないかも。なんだか惜しいのだけど。

1998年9月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「どつきどづかれ」

中場利一著/徳間書店/1600円

どつきどづかれ―岸和田ケンカ青春記
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今月は中場利一を2冊読んだ。
クスリで著者が捕まってしまい「もうチュンバを読めないのか!」と嘆いたボクであったがなんとか新作を出してくれ、それだけで幸せ気分。そのくらいは著者が好きである。

副題は「岸和田ケンカ青春記」。
岸和田3部作の外伝みたいなものだ。岸和田シリーズのファンにとってはたまらないエピソードが続く。今月もう一冊読んだその3部作の完結編は父親のことを書いたせいかちょっと歯切れが悪いのだが、これは大丈夫。チュンバ節がしっかりよみがえっている。ただ厳しく言えば、昔より考えオチみたいのが少し多くなったかな。しょうがないんだけど。

これからもちゃんと書き続けて欲しい作家のひとり。

1998年8月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 自伝・評伝

LV4「岸和田少年愚連隊~望郷篇」

中場利一著/本の雑誌社/1800円

岸和田少年愚連隊 望郷篇
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「岸和田少年愚連隊」3部作の完結編である。
暴力と笑いバリバリのこのシリーズであるが、この完結編は父親のこと・家族のことを書いたせいかちょっと歯切れが悪い。おなじみの登場人物の幼少期やら小学生の頃の著者の姿が読めて面白いことは面白いのだが、なんかひとつ抜けきれていないところがあるのが残念。まぁ気持ちはわかるし、こういう傑作シリーズの完結編が多少ウェットになるのもわかる。収め方としてそっちの方が落ち着く場合もある。でも、このシリーズの場合は最後まで暴力と笑いバリバリで駆け抜けきって欲しかった。あの破天荒なまでの前2作の抜け方がない。うーん、ちょっと残念かな。

1998年8月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 自伝・評伝

LV2「見知らぬ妻へ」

浅田次郎著/光文社/1500円

見知らぬ妻へ
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おーい、浅田次郎さーん、どこ行っちゃうのー!と叫びたくなる一冊。

「鉄道員」の流れを汲む泣かし短編集なのだが、泣かしってこんなに安売りしてしまっていいの?となんか居心地が悪くなる部分がある。時代的にこういうものが求められ、また、著者も求められるままに必死で書いているのだろう。ボクがケチつけることもないのだが、なんというか、その、筆が荒れないだろうか。

歌がうまい歌手がそのうまさを誇示した歌い方をするようになると、聴いている側としては鼻につきだすものである。ビブラートをきかせすぎたりすると歌が安くなっていく。で、その安い癖は簡単には取れなかったりするのだ。
なんかこの頃の著者はそんなことを思わせる。いくつかはとてもいい短編はあったし、涙するものもあった。でも、浅田ファンとしては物足りない。というか、そっちにあまり行って欲しくない思いである。個人的に。

1998年8月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「くっすん大黒」

町田康著/文藝春秋/1429円

くっすん大黒
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パンク歌手「町田町蔵」が書くぶっとびの純文学。
漫画とロックとTVドラマのスピード感を持った文体で無意味なる倦怠を突っ走る出色の現代文学。読んでいて映画「ストレンジャー・ザン・バラダイス」を思い浮かべた。あの倦怠感が紙面にしっかり定着しているのだ。そして連続する語り。生活・精神にメリハリがなく気分で流れていくイマの気分がその連続語りできれいに切りとられていく。

表題作は亀の爆発から笑い転げるまでのイメージが鮮烈だし、表題作より面白い「河原のアパラ」もラストの爆発が強烈な印象を残す。あー、面白かった。いけるじゃん。文学でもロックが出来るじゃん。そんな感じ。評判は聞いていたんだけどようやく読めた。お気に入りのひとりになりそうである。

1998年8月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「クリック」

佐藤雅彦著/講談社/1300円

クリック―佐藤雅彦 超・短編集
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超売れっこCMプランナーである著者の初・超・短編集。
CMというのは15秒30秒の勝負ゆえ、著者にとっての表現法として「超・短編集」はうってつけであったろう。63編それぞれに小さな発見をちりばめてあっておもしろい。映像的お遊びを活字でやってみた、という趣のものも多い。
が、ちょっと玉石混合でもある。音楽がのったり映像がのったりしたら面白いんだろうけどなぁ…が多いのだ。でも読者の脳みそをちょっと刺激(クリック)する素材集としては良く出来ていると思う。たぶんそういう目的で作られていると思うし。

1998年5月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「日輪の遺産」

浅田次郎著/講談社文庫/733円

日輪の遺産
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浅田次郎がまだ無名だった頃の旧作である。極道小説以外では初の長編で、いわば浅田次郎の原点的な作品だ。

いまの浅田次郎の技を知っている読者たちにとってはずいぶん稚拙に思える展開と書きっぷりで、同じ原点としても極道小説の原点「きんぴか」には遠く及ばない。それでもまぁ十分面白いあたりがサスガですね。独特のウェットさは見事なものだ。
しかしこれと同じ題材をいまの浅田次郎に与えたら、かなり泣けるものを書くだろうなぁ…。今度は沖縄系の話を書き起こしてくれはしないだろうか。

1998年4月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「イン ザ・ミソスープ」

村上龍著/読売新聞社/1500円

イン ザ・ミソスープ
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圧倒的傑作。
ゴツンと楔を打ちつけられる。ボクたちはなんてリアリティのない時代に生きているのだろう。どうしてこの日本という共同体はこんなに薄っぺらくなってしまったのだろう。どうしてこの共同体は癒しの力を失ってしまったのだろう……。
この小説を読んで初めてそういうことを再確認しだすボクもそうとう不感症なのだが、著者はそれらをごく平易な形で読者に提示してみせてくれる。説明しすぎていると思われるくらいだ。そのうえ、この小説がすごいのは我々が感じているリアリティのなさをしっかり紙の上に定着させたこと。並みの筆力ではこれはできない。もの凄いリアリティで日本で生きる人々のリアリティのなさを描いている。

著者は「汚物処理のようなことを一人でまかされている気分になった」とあとがきで書いているが、まさにそういう実感をボクも持つ。汚物処理というより汚物整理に近いけど。

読み終わったあとしばらく身体がリアリティを失い、ふわ~と浮遊している感覚にボクは襲われた。小説のもつ暴力的なまでの「異化の力」を久々に感じた。

1997年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「スキップ」

北村薫著/新潮社/1900円

スキップ
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17歳の女子高生が25年の時を超えて42歳の自分にタイムスリップするお話。

25年後、学校教師をしている自分に17歳の自我が入ってしまう設定は非常に新鮮で、その時の主人公の心の動きは非常によく書けていると思う。人生とは時間そのものなんだな、と改めて思わされるし、では時間とはいったい何なのだと胸元に突きつけられる。

だが、17歳の精神にしては主人公はあまりにしっかりしすぎているのがボクは気になった。カタルシスを感じる寸前でしらけてしまうのはそこらへんが原因だったと思う。惜しいなぁ。ケン・グリムウッドの名作「リプレイ」と題材が似ているが、主人公の内面の揺らぎをもう少し上手に膨らませれば、あれに勝てるほどのものも出来たと思う。なんだか惜しい本だ。

1997年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , ファンタジー

LV5「防壁」

真保裕一著/講談社/1600円

防壁
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著者には珍しい短編集。
VIPを守るSP、特殊救難隊員、不発弾処理隊員、消防士。危険と隣り合わせで働いている人々を4パターンとりあげ、著者お手のもののストーリーテリングでその事件と内面を追っていく。
それぞれの危険の中に潜む同僚への疑念をモチーフに、内的サスペンスと危険な職業そのものの描写とが上手に絡み合い物語を深くした。前より内面の描写が多くなってきたのがまたうれしい。

でも、でもでもこの人にはゴツゴツした長編をやっぱり期待してしまう。この程度の短編を書ける人は他にもいる。小説筋肉の訓練として短編をやってみたのならいいが、とりあえず長編を期待したい。

1997年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「モンキービジネス」

内山安雄著/講談社/1900円

モンキービジネス
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面白い。いい意味で三文小説だ。日本ではちょっと珍しい。だからうれしい。

フィリピンを舞台にしたビジネスものだが、小難しい理屈は全くなく文句なく楽しめるのだ。
まぁストーリーテリングだけの小説なのだけど、それに撤しているだけあって実に上手に読者を引きずり回してくれ、時間を忘れさせてくれる。なにせ主人公の名前が長流(おさる)だからねぇ。こういう安っぽい大衆小説を待っていたのだなぁ。いや、マジで本当に褒めてるんです。

まぁある意味で著者は開き直っているみたい。
こういう本が売れたりしたらそれ自体がモンキービジネスだということなのだな、きっと。

1997年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「月のしずく」

浅田次郎著/文藝春秋/1429円

月のしずく
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小説が心のマッサージであるならば、こういう「泣かせ」狙いは決して間違っていない。日々の生活にほんの少し潤いを与えてくれる。忘れそうになっていた何かを取り戻させてくれる。

だが、本来それはスパイスとして効いてくるべきもので、その狙いがモロに見えてくると鼻につくものだ。泣かしのド演歌が聞いていて辛いのと一緒。狙いはわかるが読んでいて辛い。「鉄道員」でこの系統は打ち止めして欲しかった。

いい話は多いのである。もう少し構成を淡白に、さらりと書いてなおかつ泣かせて欲しい。こういう書き方をしていると著者はここで終わってしまう気がする。そんなにヤワではないとは思うが、でも、ちょっと心配。

1997年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「結婚恐怖」

小林信彦著/新潮社/1200円

結婚恐怖
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題名がいいし、何と言っても小林信彦だから即買って読んだ。
でも、期待が大きすぎたのか、ちょっと拍子抜けだった。
こういう内容ならこんなスキャンダラスな題はいらないかもしれないとちょっと思った。結婚という生活形態についての突っ込みも中途半端だし(もっと著者特有の視点で突っ込んでくれるのかと思った)、サスペンスとしても盛り上がりに欠ける。著者ならではの切り口、展開、余韻がない。
小林信彦に読者はもっともっとクレバーでアナーキーなものを期待する。この人らしくない長編小説だった印象。

1997年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「4U」

山田詠美著/幻冬舎/1400円

4U(ヨンユー)
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「ヨンユー」と読ませるらしい。「フォーユー」かと思ったよ。

ま、それはともかく、著者会心の短編集。
人間の衝動としての「ラブ」を実に丁寧にそして軽やかに描いている。設定も展開も見事。ふっと読み飛ばせる軽い短編から丹念に字を拾いたくなる 重い短編まで取り揃えてたいへん楽しいときを過ごさせてくれる。
かといってブティックのように「ラブ」をおしゃれに並べているだけではない。その底に「人生に尻軽でありたい」著者のストレートな主張が貫いているから、読む方も気が抜けない。それにしても山田詠美は現代の気分を切り取るのがうまいなぁと感心するのである。狙いが見えてしまう村上龍なんかより自然で的をついている。いや、村上龍もすごいんですけど。

1997年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「きんぴか」

浅田次郎著/光文社/1942円

きんぴか
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著者の初期の傑作。
浅田次郎のすべてがあると言ってもいい。まだ明日をも知らぬ作家であった彼は惜しげもなく様々なネタをこの中にぶち込んでいる。ここから上手に抽出すれば長編が5篇は出来るのでは、というくらいな物だ。

かつては光文社ノベルズ3巻で出ていたらしい。
そう、内容的にはまさにノベルズがお似合いなのだ。ハードカバーになってもその下世話な魅力は少しも衰えず(まぁ内容は一緒なんだから当たり前だけど)一気に読ませる。主人公達は超魅力的。この物語が終わって、彼らと別れるのが非常に辛くなるほどであった。
展開は荒唐無稽ながらも読者を惹きつけて離さない。著者は「センセイ」にならずにこういうエンターテイメントをもっと量産して欲しいと思うのである。

1997年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「活動寫眞の女」

浅田次郎著/双葉社/1700円

活動写真の女
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直木賞作家受賞第一作というふれ込みだが、実際には受賞する前の96年に連載していた長編である。
霊をモチーフに「哀しき人間の業」「現実という虚構」を描く手法はますます磨きがかかっており、安心して著者の世界にどっぷり浸かっていられる。こういう安心感は得難いものだ。

今回は題材である映画がまず非現実のものである上に、途中に著者自身の口上まで入り、いよいよ現実と非現実の境目を曖昧にしている。新鮮。読んでいてその浮遊感にめまいがするほどだった。ただ物語の鍵を握る女性霊への共感が薄いのが残念。もっとあれば著者の注文通り泣かされてしまっただろう。

1997年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「地下鉄に乗って」

浅田次郎著/徳間文庫/514円

地下鉄(メトロ)に乗って
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94年に出た長編の文庫化。
「地下鉄」に「メトロ」とルビがふってある。物語の筋からするとあんまりピンと来ない題名である。

一種のタイムスリップものなのだが、同じタイムスリップものでも例えば「蒲生邸事件」なんかより深みを感じるのはこの著者はそこに必ず浪花節を入れるからである。それが鼻に付くと感じる読者もいるであろう。ボクはわりと成功していると思うし好きでもある。ただこの作品では浪花節度がちょっと中途半端であるのが残念。「天切り松闇がたり」のような浪花節を要所要所でべったり入れた方が良かったのではないか。浪花節のメリハリとでも言うのかな、それが足りない気がする。

1997年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「本の雑誌血風録」

椎名誠著/朝日新聞社/1600円

本の雑誌血風録
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「哀愁の町に霧が降るのだ」「新橋烏森口青春篇」「銀座のカラス」と続いてきた著者の自伝的青春大河小説の最新版である。

「本の雑誌」の創刊前後、作家としてのデビュー前後のエピソードてんこ盛りで非常に面白い。いつのまにか椎名ワールドに組み込まれてしまった椎名マニアにとっていろんな「既知の事件」の確認にもなり重層的に楽しめる。
が、普通の小説として読むと構成が場当たり的で(それが魅力でもあるのだが)雑な印象が否めない。このシリーズだけはもっと大事に書いて欲しかったのだが。
でもまぁとても面白いです、はい。

1997年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 小説(日本)

LV5「軽いめまい」

金井美恵子著/講談社/1600円

軽いめまい
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手練れな著者による小説。

いきなり冒頭、4ページに渡り句点がない。
ずーっと連続した文章で主婦の独白を読ませる。秀逸。この文体(構成)自体がこの小説のテーマのバックボーンになっている。

その後も小劇団の舞台を思わせるような息継ぎなしシャベクリ(そういえば村上龍も効果的にこの手法を使うよね)が続き、上手に読者をひっぱりながらなんでもない日常をおくるどこにでもいるような主婦の軽いめまいを見事に浮かび上がらせている。一人称と三人称を自由自在に書き分け、しかも特に事件が起こるわけでもない筋から現代世界の狂気を浮き彫りするあたり、著者の並々ならぬ力量を感じる。これはまさに、サルトルの「嘔吐」の平成ぶっちぎり版なのである。

1997年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「鉄道員」

浅田次郎著/集英社/1575円

鉄道員(ぽっぽや)
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著者初の短編集。
世の中では大受けしているらしい。実際、良く出来ていると思う。泣かされる話ばかりだ。名作の誉れ高くなると思う。

ただ、志水辰夫に感じる「泣かしてやるよ、ほら、泣けるだろ、な?な?」みたいな‘見え見えの狙い’がわりと感じられてしまう分、ボクはちょっとしらけてしまうのだ。ちゃんと泣かすってとても難しい技だし、それを売りにしてもいいとは思うけど、今のボクにはちょっとオーバーな感じ。もっと年とったらちょうどいいかもしれない。

浅田次郎は背景の書き込みが足りないと上滑りする作風である。「天切り松闇がたり」や「蒼穹の昴」のような背景がしっかり書き込める長編や大長編の方がそのチカラを発揮する。背景さえ書き込めれば決して上滑りしないのだが…。長編の方がボクは好きだ。

1997年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「ニューヨーク遥かに」

常盤新平著/集英社/1600円

ニューヨーク遙かに
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小説。
この人はニューヨークに思い入れが強すぎるのだろう。いままで何冊もマンハッタンについてエッセイを書いている。
それはそれぞれ味があるものだ。でも今回のように小説となると途端に味と勢いをなくしてしまい凡庸になってしまう。マンハッタンを作家の視点でもっと消化してから書いて欲しい。ガイドブックがわりになって楽しいし、ニューヨークをよく知っている人にとっては絵も浮かんでうれしいが、小説としてはちょっと弱い一作。

1997年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「プリズンホテル」「プリズンホテル秋」「プリズンホテル冬」「プリズンホテル春」

浅田次郎著/徳間書店/順に1400円、1700円、1500円、1700円。

プリズンホテル
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これはシリーズだが、それぞれ異なった作品ゆえ別々に取り上げるべきではある。がそうすると書評のしようもないのでまとめて取り上げよう。

結論から言うと「プリズンホテル」は傑作。
後にいくにしたがって普通になっていく印象だ。ただ1作目が傑作だから後をどうしても読みたくなってしまう。
この著者、泣かしは絶品だが、笑わしはへたくそである(泣かしに比べると、だが)。このシリーズはばかばかしい笑わしの要素が強いのでそこらへんが際立ってしまった。これで笑わしのコツでも掴んだ日には浅田次郎は大化けするかも。それにしても極道書かせたら日本一だねぇ。見事だ。

1997年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「蛇を踏む」

川上弘美著/文藝春秋/1000円

蛇を踏む
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「小説における異化」のお手本のような作品。
去年の芥川賞をもらっているが、さもありなん、審査員はこういうの好きだろうなぁと思わせる。完成度も高い。

女性の深層心理をしっかり異化して構成していく表題作はうまく手法がはまっていて素晴しい。
読んだとたん読者の心のなかにも蛇が住み込んでしまう。が並録の作品はハテナ。もともと実験的な匂いのする作家であるが、こちらは実験がすぎたような印象。こういう人が肩の力が抜けると実に面白いのを書くのだろうなぁ。

1997年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「天切り松闇がたり」

浅田次郎著/徳間書店/1500円

天切り松 闇がたり
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不覚にも泣かされてしまった。全く名人技。「蒼穹の昴」のスケール感はないにしても語り口はあれを上回るほどうまい。

全編「どさ回りの講談風」人情劇なのだが、鼻に付くどころかもっと読みたい読ませてくれろ、とすがりたくなる浪花節。
日本人の奥底をつつくのが上手だなぁ、この著者。
「このもっていき方イヤだな、お洒落じゃないな、臭すぎるな、え、ヤダよ、誰が感動するもんか、見え見えじゃないか、うわ、うわ〜、ぐじゅぐじゅぐじゅ……」と、必死に抵抗するも空しく撃沈されてしまう。参ったな。とっても参った。さてお次は「プリズンホテル」シリーズを読もう。

1997年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「親子三人」

山口正介著/新潮社/1442円

親子三人
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山口瞳ファンとしては彼の親子関係とか普段の生活は覗きみたい。息子である著者がそれを息子の視点で書いてくれるのであれば是非読みたい。絶対読みたい。ということで購入。

言いたいことはよくわかる。でも、「山口瞳の子供でいることがどれだけ辛いかわかってよ、生まれながらに小説の登場人物なんだよ、だから僕はこうなっちゃったんだ」とかきくどく‘言い訳’と‘甘え’がずいぶんつらい。山口瞳を題材にするということは、山口瞳ファンを相手にするということだ。その辺を自覚して‘言い訳’と‘甘え’を出さずにきちんと書いてほしかった。ちょっとみっともない印象を持った。

「喫茶『風琴亭』のころ」という私小説も載せているが、随所に山口瞳の世界を意識して継承しすぎている部分が見られ、これもちょっとつらかった。ちょっと古臭い構成と題材。というか、こういう風に山口瞳と比べられてしまうこと自体のつらさを書いたわけで、うん、よくわかるよ。でもその辺は読者も承知している。大変だろうなと思っている。だからちゃんと書いてほしいと願うのだ。

1997年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 小説(日本)

LV1「みんないってしまう」

山本文緒著/角川書店/1442円

みんないってしまう
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著者には「あなたには帰る家がある」という素晴らしい小説があり、それもあってすごい期待して読んだのだが、期待が上回ってしまってちょっと残念だった短編集。
短編によっては、同じ人が書いたとは思えない印象もあった。思わせ振りなエピソードが続き、いまひとつ盛り上がりにも欠ける。筆力がある人なのだからもっとじっくり書き込んで欲しいなぁ。あまり流した仕事をしてほしくない作家のひとりである。

1997年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「季節の記憶」

保坂和志著/講談社/1600円

季節の記憶
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前作「この人の閾」で芥川賞をとった著者のいわゆる受賞第1作。前作はあまりボクには合わなかったが、1作で判断するのも何なので読んだ。意外と悪くはなかった。

ただ、いくつかやはり好きじゃない部分はある。構成の主要要素である会話にリアリティがあまりない。終始だらだらと普通の人が言いそうもないことを会話し続ける。夏目漱石の小説に出てくるような会話(古臭い物言いという意味でなく内容が)なのだ。この著者はイイタイコトを「しゃべり」で表現しようとしすぎる気がする。
全体に趣味はいいし、言っている内容はよい。だからもう少しエンターテイメントがあるとよりいいと思うのだけど。
なお「季節の記憶」のホームページがあるそうだ。筆者と一緒に実際に小説に出てきた場面を歩ける。そういうのってイイね。http://www.iijnet.or.jp/SHONAN-NET-134/Hosaka/へどうぞ。

1997年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「はじめての夜・二度目の夜・最後の夜」

村上龍著/集英社/1400円

はじめての夜 二度目の夜 最後の夜
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「料理小説」と銘打っている。ボクも好きなフレンチレストラン、長崎はハウステンボスにある「エリタージュ」を舞台にして主人公(著者がモデル)と幼馴染みの女性の3つの夜を描いている。おのおのの夜がフルコースの経過と共に描かれていて好きな人にはたまらないだろう。

ただ、なんとなくだが、「エリタージュを舞台に小説書くよ」と上柿元シェフと約束してしまったから無理矢理ストーリーを広げたみたいな感じがある(あくまで想像)。著者のエリタージュ好きは知る人には有名で毎月のように通っているらしいし、故郷の佐世保は目と鼻の先だし。もしかしたらハウステンボスの機関誌とかに発表したものなのかもしれない。

そういう意味でちょっと後付けっぽいストーリーなのだが、そこは力技が得意な著者ゆえなかなか素晴らしい。細部に著者の「生き方のスタイル」についての本音が散りばめられているのが面白い。

1997年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 食・酒

LV5「レキシントンの幽霊」

村上春樹著/文藝春秋

レキシントンの幽霊
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村上春樹久々の短編集。全部で7編からなる。

この人の創作力はずば抜けているな、と今回改めて思った。
文体も一見羽毛のように軽快に見えるが、読み始めると1文1文しっかり噛みしめざるを得ない迫力を持っている。こんなに1文1文立ち上がってくる作家は他にカーヴァーくらいか。なんで同じ写植なのに他の作家のは立ち上がらないで、この人たちのは立ち上がるのだろう。不思議すぎる。まぁそれを「文体」と呼ぶのだが。

中では「氷男」「トニー滝谷」「めくらやなぎと、眠る女」がボクは好き。どれも「クロニクル」以前に書いたものらしいが、とても力がある。
村上春樹を読むとしばらくぼんやりしてしまう。何かを失ったような気がしてしまうのだ。こんな作家も珍しい。

1997年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「ヴァージン・ビューティ」

斎藤綾子著/新潮社/1350円

ヴァージン・ビューティ
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皆さんは斎藤綾子を読んだことがあるだろうか。
「愛より速く」「ルビーフルーツ」「結核病棟物語」……そして久しぶりの新作がこれ、である。
まだ読んでない? んー、読まんと。最初に読むなら「愛より速く」がいいと思う。

彼女の本は読む度に呆然とさせてくれるが、今回はそのインパクトがちょっと弱かったのが残念。
でも相変わらず乾いた筆致で性の深淵を覗かせてくれます。同じ覗かすにしても村上龍のは「性(さが)」とか「業」を覗かせようとするが、彼女のはもっと表面的でさらっとしている。「それでいいじゃない」っていう開き直ったところがより好ましい。

1996年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「血脈の火 ー流転の海〈第3部〉」

宮本輝著/新潮社/2100円

血脈の火―流転の海〈第3部〉
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戦後最高の大河小説「流転の海」の第3部。
第1部「流転の海」の連載が昭和57年というから3巻書くのに14年かかったことになる。第5部まであるらしいから、ボクたちはまさにこの本と生きていくことになる。幸せなことだ。

あらかた筋を忘れてしまっていたので「流転の海」「地の星」と読み返してからこの本に臨んだ。
シリーズを一気に読んでみて思うのだが、この本の主題はまさに「人間の途方もなさ」だと思う。もちろんこれだけの長編ゆえ、他にもいっぱい要素は入ってきている。人間の強さや勇気を歌い上げてもいるが何より著者が書きたかったのは人間そのもの。「人間ちゅうのは、底無し沼じゃのう」という松坂熊吾の台詞があったがまさにこれこそ主題だと思う。

物語は大阪に帰ってきて「泥の河」などを彷彿とさせる宮本輝ワールドが展開するのだが、第1部第2部に比べて筆致が静かになってきたのと、説教くさくなってきたのが気にかかる。14年も書いているから文体も変化するだろうし言いたいことも変わってくるだろうが、なんとかこの緊張感を持続させてがんばって欲しいと思うなぁ。

1996年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「膝小僧の神様」

群ようこ著/新潮文庫/460円

膝小僧の神様
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小学校時代を文学した短編集。
自然体でありながら読者の目を離さない筆力を持った著者ならではの会心作。状況設定をだれもが経験したことのあるふつうの小学生生活に置いているので一見よくありがちな素人っぽい小説に見えるが、なかなかどうして、実はこういうのが一番書くの難しかったりすると思う。ディーテイルが驚くほどしっかりしているので(創作とは言えすごい記憶力を基盤にしているんだろうなぁ)、ふと当時の空気の匂いまで思い出しちゃったりして、なかなかせつない本である。

1996年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「熊谷突撃商店」

ねじめ正一著/文藝春秋/1700円

熊谷突撃商店
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女優熊谷真実・美由紀の母であり、松田優作の闘病を見守った市井の超魅力人、熊谷清子さんの半生を直木賞作家が綴った……などと書くとワイドショー的でイヤだけど、そういう本。

まぁそんなこと知らなくても十分楽しめる痛快実録小説。というか、女優たちや松田優作が出てくると途端につまらなくなるくらい、普通の生活がよく描けている。逆に芸能人関係が出てくると、著者の筆が焦点をなくしてそっちの記述ばかりになり、主人公がどっかに行ってしまうのだ。おいおい。
まぁでも、そういうのを差し引いてもとても魅力的な本だ。あっと言う間に読めちゃう。描写が足りない部分も多々見受けられるが、全体の勢いの方を重視した感じ。なにしろ「突撃商店」なので。

1996年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 自伝・評伝

LV0「手鞠唄」

益田洋介著/潮出版社

手毬唄
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はっきり言って、益田洋介の前作「オペラ座の快人たち」は傑作であった。この必読エッセイに魅了されたボクが彼の著作を買わないわけがない。で、買った。ううむ。期待が大きすぎた分、わりとがっかりしたかも。

「オペラ座の快人たち」の頃からその自慢癖がちょっと鼻についてはいたのだが、小説になるとまた格別で、嫌味を通り越して逆に読者を納得させてしまうところはある。出てくる小道具から登場人物からすべて、そこまでしなくていいだろうにという程ブルジョア趣味。あまりにそこにこだわったせいか主題も拡散して見える。主人公の経歴からして作者の写しとわかるのだから究極の自慢ではあるなぁ。さぞ気持ちよかっただろうが、読者としてはやっぱりついていけない。含羞という言葉を贈りたい、とちょっと思ってしまった。

1996年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「この人の閾(いき)」

保坂和志著/新潮社/1300円

この人の閾(いき)
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第113回芥川賞の受賞作。
柳美里の「フルハウス」と争って結果的には勝ったのだが、ボクなら「フルハウス」にあげるかもと思った。

ちなみに「閾(いき)」を「新解さん」でひいてみると【心理学で、ある事が意識されるか否かの境目】とある。そんな小難しい題名にせずとも主題は語れるはず。題名的に損しているなぁと思う。文体もわりとダラダラ説明系で新鮮味がなく、主題への収束力も弱い。何も起こらない中でのドラマを描いているのはわかるし、その中でのいろんなドラマも読み取れるのだが、どうにもノリきれない。趣味の違いもあるとは思うけど、ボクには合わなかった本。ボクの読み方が浅いのかもしれないが。

1996年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「フルハウス」

柳美里著/文藝春秋/1200円

フルハウス
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作者の「暗い」エッセイは読みなれていた。だから作者初の小説も暗いのだろうな、暗く書くのって楽だし…と思っていたらそうでもない。感情を抑えた筆致でしっかり書かれており熟練を感じさせる。

表題作は読み進むほどに文章から不協和音が立ち上ってくる様が見事。全然見えてこない父親のキャラクター描写など「失敗作」とぎりぎりの危ない線をあえて渡っていくあたり流石だ。でもストーリーにちょっと無理があるかも。もっと普通のストーリーの中で「不協和音」を響かせてほしかった。あまりに無理やり過ぎる展開だと思った。

1996年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「アニマル・ロジック」

山田詠美著/新潮社/2500円

アニマル・ロジック
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前半は大傑作、後半は普通の小説である。
一人称でも三人称でも神の視点でもない新たなる視点を創作・導入したうえに、日本人が書いたとはとても思えない(読みながら何度も「これって山田詠美の本だったよなぁ」と表紙を見直してしまった)切り口でシャープに展開していく前半部に比べて、後半はちょっと「おセンチ」になってしまったのが残念。
読者は「ここまで来たならもうどうにでもして!」ともだえているのに、妙にまとめてしまった印象。惜しいなぁ。読者はそこまで念押ししなくても理解できるんだけどなぁ。空前絶後の大傑作を目の前にしていたのに……。でもね、やっぱり三ツ星クラス。前半部を読むだけでも買い。

1996年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「岸和田少年愚連隊」「岸和田少年愚連隊-血煙り純情篇-」

中場利一著/本の雑誌社/1800円

岸和田少年愚連隊 (血煙り純情篇)
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中場利一という人が雑誌「本の雑誌」の投稿の常連ということは知っていた。ほとんど毎月投稿欄に出ていたから。
で、投稿の常連が本出してもなぁ、と半分バカにして読まずにいたのだが2冊目が出たのを機会に読んでみたらこれがアナタすごいのなんのって、めちゃくちゃおもしろい本だった。

こんなに爆笑しつつ本読んだのはいつ以来だろう、のレベル。えてして肩に力が入りがちな2冊目(血煙り純情篇)も快調にこなし、独特の岸和田文体も定着。平明かつ深遠なる大爆笑シリーズとなったのだった。部分部分、「え、このあとどうなったのだ!?」とイライラさせるところもあるのだが、そんなの差し引いても十分三ツ星級。必読。早く3作目が読みたい。

1996年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「ちょっとお先に」

阿久悠著/河出書房新社/1600円

ちょっとお先に
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ご存じ天才阿久悠の最新作。
表題作以外に3作ある短編集。それぞれの書き出しやもっていき方を見ると「あぁ、やっぱりこの人は歌謡曲の作詞家なのだなぁ」と思わせる臭さがどうしても抜けないのだが、それがこの人の味といえば味。場面場面の描き方もビジュアルから先に浮かび上がってくる。

表題作はちょっと思い入れが先走っていて惜しい感じ。2作目がいい。

1996年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「ムーン・リヴァーの向こう側」

小林信彦著/新潮社/1950円

ムーン・リヴァーの向こう側
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著者による東京三部作のラスト。

東京がなくしてしまった地域性にこだわった舞台設定で、不思議な物語を静かに読ませる。とても気に入った。読んでいる間はそうでもないのだけど、読み終わってから何故か心にしみ出てくる。
女主人公の描写がおぼろげでキャラクターが立ち上がってこないのが難だが、「東京」の象徴としてわざとしているのかもしれないと思わせる。気楽にらくちんにちょっといい気持ちになりたい人(できれば東京人)におすすめする。

1996年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「白球残映」

赤瀬川隼著/文藝春秋

白球残映
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直木賞受賞作。
野球に関連した5編の短編(野球に関係しない短編もひとつ入っているが)。努力、挫折、栄光、埋没…。いろんな人生の諸相が現れてくる。でも、直木賞レベルかどうかは正直疑問もある。わりと普通っぽいのだ。独自の文体がないのが痛い。だから伊集院静や海老沢泰久にちょっと負けて見える。大衆小説としては彼らの方がやはりうまいと思うし。なんだか欲求不満が残った一冊。

1995年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「ジゴロ」

伊集院静著/角川書店

ジゴロ
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伊集院静、久々の傑作長編。
もともと打率の高い人だったが、この頃凡打が続いていただけにうれしい復活だ。THE GOROで「ジゴロ」としゃれた題名はちょっとどうかなぁと思わせるが、それ以外は全部好き。人生がいっぱい詰まった名作だと思われる。
麻雀の知識がないと少し辛いところもあるけど、オススメ。

1995年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「KYOKO」

村上龍著/集英社/1427円

KYOKO(キョウコ)
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このところずっと暴力とセックス描写で読者を煙に巻く感があった著者だが、今回はアタリだと思う。正面からまっすぐ書いた中編だ。
題名がボクの娘と同じ名だったので「どうせまたあの村上龍節だろう」と思いつつ買ったのだが、いやいやこれは良く出来ている。抑制された筆致、考え抜かれた構成、生き生き立ってくるキャラクター。あの、読者を引きずり回す迫力は今回はそんなにないが、新しい村上龍節誕生の予感がする。おすすめ。

1995年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「山口瞳大全」全11巻

山口瞳著/新潮社

山口瞳大全〈第1巻〉
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フェイバリットな作家、山口瞳の全集。全十一巻。伊丹十三が題字を書いている。

日本初の市民小説(サラリーマン小説)を書いたと言われている作家である。
名もなき市民を江分利満(エブリマン)氏と名付け、主人公においたシリーズで売れた。その後「居酒屋兆治」「血族」「行きつけの店」や週刊新潮に長く連載した「男性自身」など、地味ながらも一部で熱狂的なファンを持っている。まぁボクもそのひとりではある。

作家の全集を自分のお金でちゃんと買ったのって初めてかもしれない。もちろん全部を通しで読むなんてことは(仕事の忙しさもあって)難しいのであるが、ぽつりぽつりと読むだけでもなかなか楽しい。
ということで、今月は山口瞳ばっかり読んでいたので他におすすめ本がない。この全集は小説はもちろん、広告文案家(昔はこう呼んだ)だったころの彼の作品や、エッセイもしっかり入っているので、著者を偲びながら拾い読みするのに最適だ。

それにしても、堅いようで柔らかく、柔らかいようで堅い、希有なバランスを持った作家だと思う。読んでいて気持ちいい。

1995年11月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , エッセイ

LV5「ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉―鳥刺し男編」

村上春樹著/新潮社/2205円

ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉―鳥刺し男編
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第3巻完結編。
いったいどうしたんだ?という1巻、2巻のダラダラから、一気にストーリーテラーの本領に達していくその収束力はすごい。この収束のために1巻2巻のゆるさがあったのだと納得してしまう出来。ここへきて第一級の文学の完成をみた感じである。すばらしい。
枝葉のストーリーが完結してなくてなんか欲求不満が残る部分もある。「死が生の一側面に過ぎないように(著者は今まで繰り返しこのことを語ってきた)、過去も現在の一側面に過ぎない、そして未来も」という今回の主題からして、わざとストーリーを完結させていないということもあるのかもしれない。とにもかくにも‘力作’には違いない。「国境の南--」の数倍好き。

1995年10月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

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