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ミステリー(92)

LV5「ロング・グッドバイ」

レイモンド・チャンドラー著/村上春樹訳/早川書房/2000円

ロング・グッドバイ
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20数年ぶりにチャンドラーを再読した。しかも村上春樹の新訳。ノーベル文学賞に一番近い日本人作家と言われる彼がこうして様々な海外文学を翻訳して出版してくれる幸せをまずは感謝したい。日本人はとても恵まれている。

清水俊二訳の「長いお別れ」(実は抄訳だったらしい)を読んだのは高校の時だったか。わかったふりをしていたが実はよくわかっていなかったと思う。今回熟読してみてこの本が名作と言われる理由がすんなりわかった。やっぱある程度の年齢は必要なんだなぁ。歳とることも悪くない。

というか、何人もの人が指摘しているが、村上春樹の「羊をめぐる冒険」って「ロング・グッドバイ」へのオマージュだったんだと初めてわかった。ストーリーだけでなく、登場人物の似通い方が尋常ではない。訳者あとがきでも彼は影響を認めているが、わざわざ自ら訳してそこを明かしてくるのか、と、この作品への愛の深さに打たれたくらいである。そう、それと「ロング・グッドバイ」と「グレート・ギャツビー」は同じ話であったことも初めてわかった。ちょうど村上春樹訳の「グレート・ギャツビー」を読もうとしているところなので、実に刺激的。この素晴らしい三作の連関性をゆっくり掘り下げて遊ぶだけで1年くらいは暇つぶしが出来そうなくらい。

ちなみに、素晴らしい訳だとは思ったが、会話の部分で違和感があったところも多かった。特に「でしたました調」のところ。会話のリズムが壊れ、キャラまで壊れている気がする。どうなんだろう。

2007年5月 5日(土) 18:07:48・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ミステリー

LV5「陰の季節」

横山秀夫著/文春文庫/470円

陰の季節
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第5回松本清張賞受賞作。D県警シリーズ第1弾。1998年初出。

「まったく新しい警察小説の誕生!」と選考委員の激賞を浴びたらしい。確かに新しい。刑事を主人公にせず、警察組織内のいわゆる管理部門に勤める人間達を主人公にしているのだ。人事課、監察課、婦警、秘書課…。そこに配属されている「サラリーマン」たちを描いているのである。

とはいえ、きちんと警察小説になっているのがスゴイ。刑事ものと変わらぬスリル&サスペンス。裏方の悲哀とひたむきさに心を打たれる。この辺のウェットかつ緻密な描き込みは横山秀夫ならでは。「多少ウェットすぎるかな」とか「ボクらも同じサラリーマンであるが、こんな人間模様は普通ありえないな」とか「ちょっと昭和の匂いがしすぎるな」とか、いろいろネガティブな思いもあるのだが、全体に実によく出来ていると言わざるを得ない。その取材力、構成力、筆力、どれをとっても一級品。

松本清張と浅田次郎と宮本輝が混ざり合った印象だった著者であったが、その中の松本清張部分がぐんと前に出てくると俄然よくなると個人的には思っている。この本はまさにそれ。このシリーズはちょっと追ってみたい(著者の他の本はちょっとウェットが勝ちすぎていて今のところ好みではない。もう少し歳をとったらあるいは)。

2007年3月25日(日) 8:31:25・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「しゃばけ」

畠中恵著/新潮文庫/540円

しゃばけ (新潮文庫)
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江戸時代の江戸を舞台にした妖怪推理時代小説。
妖怪がたくさん出てくるので荒唐無稽ファンタジーかと思いきや、読み進むうちに違和感も消え、わりと普通の時代小説に読めてくるから不思議。著者の筆力だろう。

廻船問屋と薬種問屋を営む大店の一人息子・一太郎は幼い頃からずっと周りに妖怪をはべらせる特殊体質。とはいえ身体は弱く、妖怪に守られているといった風情。そこに事件が持ち上がって…。といった導入なのだが、推理小説としては弱いものの(なんたって特殊能力がある妖怪たちが活躍するから)どこか落語人情話を思わせるような文章リズムも心地よく、最後まで飽きずに読ませる。多少、妖怪の気持ちが見えないところがあり(特に味方妖怪)その辺にカタルシスがあればより良くなったとも思うが、そこもまたミステリアスでいい、と取ることも出来る。また、もうちょっと妖怪の特殊能力に頼ったストーリー展開をすればエンタメとして強くなるのに、それを敢えてしていないところも好感持てる。

これを第一作として、続編がいくつか出ている。ゆっくり読んでいきたい世界観だ。

2007年3月24日(土) 9:08:20・リンク用URL

ジャンル:ファンタジー , 歴史小説 , ミステリー

LV3「容疑者Xの献身」

東野圭吾著/文藝春秋/1600円

容疑者Xの献身
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直木賞受賞作である。著者には出来れば「白夜行」で直木賞を取って欲しかったな。この本は、よくできてはいるが、代表作になるにはちょっと足りないという印象。他にもっといい本をいっぱい書いている。

巷でも言われていることだが、容疑者Xの「献身」の動機がやはり弱いのが最後まで気になった。いっそのこと「救済&恋」ではなく「刑務所で誰にも邪魔されず数式と向き合いたい」という動機の方が共感できたのではないかとすら思った。もしくは、その動機に至る容疑者Xの心理描写をもう数ページ深く書き込んで欲しいと思った。

ミステリーとしてはなかなかよく出来ていて、ストーリーの追い込み方も見事なだけに、根本の動機に共感がもてないというのが最後まで惜しい。「最終的に露見してほしい愛の発露」という持てない男の心理まで踏み込んでこういうストーリーにしたのかともちょっと思ったが、そうであるとしてももう少し容疑者の周辺描写が欲しいところ。なんとなく不完全燃焼感が残った読後だった。

2006年9月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「図書館戦争」

有川浩著/メディアワークス/1600円

図書館戦争
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「本の雑誌」が選ぶ 2006年上半期エンタテインメント第1位である。
前半は、本書内の言葉を借りれば少し「痒かった」。でも、設定の秀逸さ、キャラ立ち、若者言葉のリアルさ、文章のリズムなどに引っ張られ、読み進むうちに止まらなくなる。さすがに面白い。主要登場人物のキャラもよく立っている。主人公が特によい。武装化&銃弾の雨あられっていうあたりにもう少しリアリティ(そうなる必然性)があったらより完成度増すんだけどなぁ…。

とはいえ「メディア良化法」って怖すぎ。一歩間違えばありえるだけに。あぁ怖い。いい設定だ。
でも現実には、図書館を武器で守るよりも海外サーバーでの無償公開で悪法に対抗した方が有利かも、とネットにどっぷり浸かっているボクはちょっと思った。ネットを利用する話がひとつも出てこなかった(と思う)あたりが、この時代のリアリティを少し欠いているかも。←ネットを利用するといきなり物語が陳腐になりがち&まだついてこれない人が多そう、というのもわかるけど。

ちなみに著者は「ありかわひろし」という男性かと思っていたが、「ありかわひろ」という女性のようである。

2006年8月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー , 小説(日本)

LV4「葉桜の季節に君を想うということ」

歌野晶午著/文藝春秋/1857円

葉桜の季節に君を想うということ
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2004年度の「このミステリーがすごい」第1位、「本格ミステリ・ベスト10」第1位な作品。

まぁひと言で言うと「やられた!」である。
400ページ超の長編なのだが、最後の方まで読者を見事に騙してくれる。この新機軸な騙し方自体がこの本のすべてと言っていいと思う。ここまで読者を騙しきったということ自体が「ミステリー」なのだ。すばらしいと思う。

ただ、読者を騙しきることが目的なので、設定や登場人物の描き方にいろいろ制約が生まれ、いろんな不具合も生じている。一番大きいのはヒロインの心情が描き切れていないところかも。小説的に考えるとそこの書き込みがないと物語に入り込めないのだが、そこを書き込むと読者を騙す鮮やかさが欠けてしまう、というジレンマ。難しいところだ。

「これだけ引っ張ってこの騙しかよ!」と不満に思う人もいるだろうし、「このように鮮やかに騙されるのなら文句はない」という人もいるだろう。ボクはどっちかというと後者。強く印象に残る一冊となった。

2004年2月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「涙はふくな、凍るまで」

大沢在昌著/講談社文庫/619円

涙はふくな、凍るまで
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ある日、娘のおつきあいで天敵であるネズミーランドに行った。
ネズミーにわりと批判的でアトラクションなんか別に見たくもないボクは、「ボクはファストパス並び係になるからもうボクのことは忘れてくれ」と言って、とにかく行列に並びまくったのだが(現実逃避)、その際何か読むものが必要だろうと行く前に書店で買ったのがコレである。大沢在昌はこういう時、時間を忘れさせてくれるはず…ということで読み始めたが、期待は裏切られなかった。夢とマジックを売るネズミーの嘘くさい空間はいきなり絶望と不運漂う北海道の極寒漁港に早変わりし、ボクは見事に現実逃避できた。ありがとう、大沢在昌。

知らなかったが「走らなあかん、夜明けまで」という本の続編らしい。知らずとも充分楽しめる。
通称日本一不運なサラリーマンである主人公が北海道で見舞われる不運の数々。前作は大阪ヤクザとの戦いだったらしいが、今回はロシア・マフィア。読むだけでカラダが冷えてくる描写の数々だが、中身は熱い。わざとっぽくB級にしてあるのもよい。ちょっと黒川博行のシリーズを思い出したりした。こういうの好きかも。時間つぶしには持ってこい。

2003年11月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「ZOO」

乙一著/集英社/1500円

ZOO
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帯に「何なんだこれは。北上次郎  第3回本格ミステリ大賞受賞後第一作。天衣無縫。驚天動地。ジャンル分け不能。驚異の天才乙一、最新短編集」とある。

北上次郎が「何なんだ」と驚くだけのことはある。なるほど、なんなんだろう? まず設定がとても奇抜。なのに読者の心に真っ直ぐ入り込んでくる叙情とテーマがある。奇抜な短編ミステリなのに、人生の深みや哲学を感じさせるのだ。ふーんである。ラストも悲惨なものが多く、安易なハッピーエンドはない。そういえば、こういうタイプはいままでにはないものだなぁ。

著者名 は「おついち」と読む。愛機だった電卓のZ1(ゼットワン)から名前を取っているらしい。乙一=Z1。なるほどね。このペンネームからわかるように、著者にとって物語構成はある種のゲーム・プログラミングなのだろうと思う。古いタイプの作家からは考えにくい態度だろう。いいことなのだ。

どの短編も面白かったが、「カザリとヨーコ」「SEVEN ROOMS」が特に印象的だった。あ、「SO-far」も良かったなぁ。トリッキーな魅力を追っていくとそのうち行き詰まると思うが、あまり多作にならず、ゆっくり書いていってほしい作家かも。って、いまごろやっと読んで何言ってるか、という感じかもしれないが。おすすめ。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「グロテスク」

桐野夏生著/文藝春秋/1905円

グロテスク
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「OUT」を超えた!という書評があったくらいなので、ホントにそうなら読まざるを得ないのだが、結果的にはボクは「OUT」「柔らかな頬」の方が断然好き。

というか、ひょっとしたら女性が読んだら印象違うのかもしれない。そのくらい今回は女性生理がストーリーに絡んでいる。
実際、何人かの女性友達が読んで「とても良かった」と言っていた。でも、オトコであるボクは最後まで「ふーん。でもさぁ…」という感じで乗り切れず、グロテスク&モンスター的視点から見ても、オトコのモンスターは(他の著者が作りだしたものを含めて)現実にも山ほどいるわけで、なんだか最後まで「それがどうした感」がつきまとってしまった。

全編、ある意味女性のグロな部分をこれでもかと描写している。それもそれぞれの登場女性の主観で描写しているので、つじつまが合ってなかったりハテナがあったりするのだが、それは演出のうち。そこらへんはとてもよく出来ているし、特に女学生時代の描写など迫真。ただし、後半の和枝の日記が主観ではなく、妙に小説になってしまってたのが惜しい。周辺描写など彼女がするわけないだろう。そこらへんにリアリティがあったらまた少し印象違ったかもしれない。

筆力はさすがなもの。会話や人物描写も実に自然。だが、下敷きにしたという東電OL殺人事件の詳細を読むと(たとえばココで)ほとんど後半のストーリーはまんまなのだなとわかる。著者なりに違う持って行き方はなかったのだろうか。

2003年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「黒と茶の幻想」

恩田陸著/講談社/2000円

黒と茶の幻想
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600ページ超の大作である。
著者の本は何冊か読んで感想を書いているが、ある日「あなたはまだ恩田陸の代表作を読んでいない」というメールが見知らぬ方から届き、この本を薦められた。で、すぐ買ったのだが分厚かったので長く積ん読状態だった。でも読み始めたらあっという間だった。

おもしろかった。おもしろかったのだが、これが代表作?という感じは残る。会話は相変わらずちょっとずつ甘いし、ストーリーもここまで長編にする意味を感じないもの。ただ、人物の周辺描写やこの年代の微妙な感じ、昔の恋愛へのせつない心情描写などはさすがに著者ならではで、ストーリーと関係ないところで何度も立ち止まって味読した。
4人の主人公それぞれに謎と奥深さがある構成と、屋久島の大自然がそれに重なってくる感じはとても心地よい。ただ、題名が少し遠い。なんでこの題名?という感じ。恩田陸っていつも題名に少し疑問が残るなぁ。

2003年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV2「生ける屍の死」

山口雅也著/創元推理文庫/980円

生ける屍の死
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山口雅也は読まないとな、と思ってはいた。
特にこの本は「このミステリーがすごい!'98」の「過去10年のベスト20(国内編)」でベスト1に選ばれているのだ。そんなに話題になったっけ?と思いつつ、やっと読んだ。

舞台はニューイングランドの片田舎。日本じゃないのね、登場人物も外人ばかりなのね、と鼻白みつつ読み進むが、「過去10年のベスト1」という期待が大きすぎるせいか、なんだか違和感や欠点ばかり目について集中できない感じ。展開も手に汗握るものではないし、読後もなんというか「創元推理文庫の海外モノの佳作を読んだ感じ」程度の印象しか残らなかった。というか、「生ける屍」の謎がさぁ!(あとはネタバレになるので書かない)。

まぁ「死なない屍」にとって殺人とはなんなのか、という命題は提示しているのかな。よくわからないけど。あと、98年当時ではかなり実験的で常識覆し系だったのかなとは思う。「けたぐり」としてはとてもよく出来ているし、文章も博識具合もたいしたものだし。

2003年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「ラッシュライフ」

伊坂幸太郎著/新潮社/1700円

ラッシュライフ
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ひと言でいうと、とても頭のいいミステリー。
時間軸を上手に切り貼りして作り上げた見事なパズル。いくつもの人生が併走していく話なのだが、それが最後に「あー、なるほど!」と収まっていく。謎も伏線も感情も含めて、すべての不可思議なミステリーが仙台駅前のある時間に収束していく様がなんとも快感だ。仙台という場所設定も面白い。独特の雰囲気を作っている。

ただ、感心はするけど感動はしないかな。
精妙なパズルを作ってみましたーどうですかー、という軽さがいろんなところに感じられる。でもそこが良いのだ。そこが良いのに、感心だけでなく感動を狙ったエピソードがちょっとずつ中途半端に入ってくる。それが邪魔かなぁ。いっそのこと完全に感心だけを追って、精妙精巧なパズルに徹した方が壮快だった気がする。

2003年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「殺人症候群」

貫井徳郎著/双葉社/2200円

殺人症候群
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とても深いメッセージを持った本である。ニュースで毎日のように見る悲惨な事件の加害者たち。なんの反省もしていないような虫けらのような彼らを個人的に断罪することの是非を、周辺を丹念に描くことで読者に迫ってくる。

復讐は悪なのか。人を裁くとはどういうことなのか。愛する人を殺されても泣き寝入りするしかないのか……。いくつものエピソードが交錯しつつ、それらの主題に迫っていくのだが、それらがひとつひとつ実に重い。そしてラスト近くの衝撃。つらいなぁ。貧血起こしそうだったよ。どうしてこういう筋にしたんだろう、と、ちょっと著者を恨んだ。

ただ、話の展開が多岐に渡った分、全体に印象が少し薄くなってしまった気がする。物語のために無理矢理構築したエピソード群、みたいに見えてきてしまう。もう少しエピソードを絞った方が良かったかも。それと、題名がなぁ。症候群シリーズのひとつらしいが、もっと全然違う題名にした方がいいと思う。題が内容を表していない。

2003年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「模倣犯」

宮部みゆき著/小学館/上下各1900円

模倣犯〈上〉
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2001年4月発行の大ベストセラー。
ハードカバーですぐ買って、ほぼ2年間も積ん読になっていた。なんつうか宮部みゆきってもちろんスゴイとは思うのだけど、安定してる分「まぁそのうち歳とってからゆっくりはまればいいか」みたいな心情になるのだよなぁ。そのうち鬼平、とか、そのうち藤沢、とか、それに近い感じがボクの中にはあるかも。ということで、ずっと読まなかったのだが、戦争突入の無力感から逃れたくて、圧倒的筆力&読み易さを求めて本棚から光臨。

二段組みで上下あわせて約1400ページ 。
大作だ。なのにダレずにグングン引っ張ってくれるし細部もしっかりしているし平易で読み易いし、さすが。「このミス2002年第1位」を始め、どの賞でもめちゃ評価が高いのもわかる。でもまぁ個人的には「それほどでもなかった」というのが素直な感想。著者に対していっつも感じる「ぬるさ」みたいなのが今回もぬぐえず残念。ある種の「いい性格」というか「お育ち」みたいのが行間に滲み出てしまい、冷たくなりきっていない感じ。今回はそれでもかなり冷たく書いたのだとは思うけど、個人的にはどうしても違和感と物足りなさが出てしまう。

登場人物の中では前畑滋子に共感できないまま最後まで行ってしまったのが不満。だから結末にも違和感がある。殺人事件の加害者の親族の異様な行動についてはとてもリアリティがあった。この手の本では出色のリアリティかも。

2003年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「半落ち」

横山秀夫著/講談社/1700円

半落ち
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「このミステリーがすごい2003年」と「文春ミステリーベスト10」の両方で1位とされた大ヒット作。直木賞候補にもなっている。

非常に評判がいいので期待して読み始めたが、期待しすぎたのかちょっと乗り切れなかった。文章は上品で構成もよく、細部までよく出来ている。でも、ボクにはラストの盛り上げがtoo muchかつ「よく出来ていすぎて」どうにも白ける部分が出てしまう。まぁ天童荒太の「永遠の仔」みたいな感涙大ヒット作や、「鉄道員」以降の浅田次郎の諸作でも単に「あざとい」と思ってしまうボクなので、これはもう相性が悪いというしかないのかもしれない。いや、まぁ、この本にもちゃんと泣かされたんですけどね。ちょっと涙しながらも、どうにも居心地が悪い感じが残ってしまって。

それぞれの章の刑事、検事、裁判官、記者などの人間模様は実によく書けている。
警察のシステムもいろいろと明解だった。逆に犯人が自白しない理由が一番しっくり来なかった感じ。もうちょっと他の解決策はなかったのだろうか。ちなみに半落ちとは、「全面的に容疑を認めているが口を割らない状態」かな。要するに「落ちきってはいない」状態ね。

2003年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「最悪」

奥田英朗著/講談社文庫/876円

最悪
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サスペンス小説になるのかな。おもしろい。こんなにおもしろいのに文庫になるまでなぜ知らなかったのだろう、奥田英朗をなんで全く知らなかったのだろう、と我ながら疑問。

個人経営の鉄工所の社長、普通の銀行OL、無職の自堕落な青年。この三人の人生がどんどん最悪状態まで転がっていき、しまいには交差していくのだが、その最悪状態に転がっていく様が実に良く書けている。登場人物たちと一緒に読者も「どうしてこうも悪い方へ転んでいくんだぁー!」と頭を抱え、胃が痛くなることだろう。かなりのリアリティで身につまされる。ボクらの人生も紙一重だなと思う。

特に鉄工所の社長の人生がよく描けている。中小企業・零細工場などの経営者をこの本を読んだあとでは尊敬のまなざしで見てしまう。よくやってるなぁ…。いやマジで。
前半・中盤に比べて、ラストあたりの急展開がいまひとつな感じではあるのだが、それを差し引いても素晴らしい。読後、人生なんとでもなるな、という勇気すらもらった。

2002年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「光の帝国」

恩田陸著/集英社文庫/495円

光の帝国―常野物語
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ある日メールが来て「なぜ恩田陸を読んでないの?」とあった。あぁ恩田陸、そういえば気になっていたけど読んでなかったなぁ、ということで数冊取り寄せて読んでみた。

まずは処女作「六番目の小夜子」と「ネバーランド」とこれ。
で、「ネバーランド」の方が完成度高いとは思うけど、一番強く印象に残ったのがこれである。副題に「常野(とこの)物語」とあるが、実際には副題を本題にした方がよかったと思う。「光の帝国」なんて、内容とまるでそぐわないし、第一スターウォーズちっくでなんだかおどろおどろしいではないか。

内容的には不思議な能力を持つ一族の繁栄と存亡の話であり、とても美しく、そして緊張感に満ちた連作短編集である。
滅び行く一族の哀愁と見えぬ敵との闘いに対する悲壮感が物語に深みを与えている。一族の歴史や敵の必然性、逃げていくべきなどもちゃんと書き込んでいけば(今はまったく書かれていず、読者はわからないままラストまで引っ張られる)、ある意味「十二国記」的一大叙事詩にもなりえる題材。そのうちきちんと書き直して欲しいと願ってやまない。

2002年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「ネバーランド」

恩田陸著/集英社/1500円

ネバーランド
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上記のように恩田陸読み数冊のうちの一冊。
学園ものであるが、妙にリアリティがあってよく出来ている。完成度は「光の帝国」より上だろう。ただ、なんとなく全体に既視感があり、読んでいてもうひとつ乗り切れなかったのも事実。父母の愛やトラウマに振り回される少年たちの桎梏と破綻。それを乗り越える勇気と友情。密室的な冬の学生寮という舞台といい、少年たちの描き方といい、いい物語なのだけど既視感が感動の邪魔をする。天童荒太の「永遠の仔」にもちょっと似ている(初出はどっちが先か調べてないが)。トラウマって題材はあのころのはやりではあったけど。

ネバーランドとは言うまでもなくピーターパンの住む世界。大人になりたくないピーターパンの世界を題名に持ってくるのもちょいと安直。あえて期待するが、あとがきで著者も書いているように、これをもとに違う長編を生み出して欲しい。そのための習作と考えると納得がいく。習作にしては完成度高いが。

2002年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

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LV5「占星術殺人事件」

島田荘司著/講談社文庫/714円

占星術殺人事件
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まったくもって何をいまさら!と推理小説ファンから怒られそうだが、ボクだって本意ではないのだ。古くは日本の推理小説を変えた本とまで言われ、近くは金田一少年の映画の中で同じトリックが使われて問題になったことが話題となったこの本、単行本の初版は昭和56年という古さである。ボクはいろんな評論でこれが「伝説的名作」と謳われるたびに読んでみたいと思い、本屋を探し回った。が、出会えなかった。今考えればネットで注文しておけば良かった、とも思うのだが、そういう時に限ってこの本の存在を忘れていたりする。今年の6月のある日に本屋で見つけたとき、小躍りしたのは言うまでもない。

内容的には既読の人には説明不要なほど印象的な本だろうし、未読の人にはただ「読め」としか言えない。
手法的にはその後いろいろマネされたのか、古い感じは否めないのだが、伝説的、という意味はとってもよくわかるのである。手に入れるまでの長い時間も含めて、ボクは十二分に楽しんだ、ということで最高点。一種の教養として知っておいて損はない作品である。

2002年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「泥棒はライ麦畑で追いかける」

ローレンス・ブロック著/田口俊樹訳/早川書房/1200円

泥棒はライ麦畑で追いかける
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「泥棒バーニイ・シリーズ」の9作目らしい。ボクは初読。泥棒のバーニイが推理に活躍するシリーズで、その大半が実際の著名人にまつわる事件になっている。

この本は、題名からわかるとおりサリンジャーをモデルにしており、ジョイス・メイナード(「ライ麦畑の迷路を抜けて」)がサリンジャーからもらったラブレターをサザビーズのオークションにかけたという実際の事件を下敷きにしているようだ。

とっつきは悪いがなかなか楽しめる推理小説。古い推理小説文法をしっかり守った感じが逆にいい味になっている。
サリンジャーをモデルにした本としては「シューレス・ジョー」(映画「フィールド・オブ・ドリームズ」の原作)がまず浮かぶが、サリンジャーの描き方自体は遜色がない感じ。彼がいかにアメリカで愛されているかがよくわかるなぁ。ただ、そこらへんの興味をさっ引くと、この小説はいきなり魅力を失うかもしれない。原題は「THE BURGLAR IN THE RYE」。

2002年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「私が彼を殺した」

東野圭吾著/講談社文庫/695円

私が彼を殺した
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物語の結末をわざと伏せて読者の推理にまかせる小説をリドルストーリーと呼ぶらしい。
この本はまさにそれ。なにしろ最後に「犯人はあなたです」と刑事(「嘘をもうひとつだけ」の加賀刑事登場)が言って、犯人の名前をあかさずに本は終わってしまうのだ。
なにー!?である。容疑者は3人。構成上、エピローグがない作りなので、容疑者以外の意外な人物が犯人ということはあり得ない。動機のある3人のうちの誰かが犯人なのだが、これがなかなか良くできていて難しいのである。全員「私が彼を殺した」と思っていたりする。うーむ。しかもそれぞれの容疑者の一人称で各章が書かれているという凝った構成。さすがに頭のいい作家である。キレイにできている。

さて、ボクの推理だが・・・でもここで書くとネタバレになるので書けないなぁ。
ポイントはみっつ。ケースは複数あった。ケースのすり替えがあった。すり替え可能なタイミングは数回あるが、すり替え可能な人はひとりしかいない。ってところでしょうか。ま、正解があかされていないので、たぶん、ということしか言えないのだけれども。

2002年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

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LV5「最上階の殺人」

アントニイ・バークリー著/大澤晶訳/新潮社/2000円

最上階の殺人
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1931年にイギリスで発表された作品だけど、日本では去年の8月初版。近年の海外古典発掘ブームで掘り出されたもの。
著者は名探偵ロジャー・シェリンガムのシリーズで当時かなり有名な推理作家だったらしい。これはそのシリーズの第7作目にあたる。アガサ・クリスティが1920年デビューだからほぼ同年代に活躍した作家ですね。

70年も前の作品とはいえ、それを知らずに読んだボクとしては古さをほとんど感じなかった。当然行われるべき科学捜査が行われないので不思議に思い、やっと古い作品であることに気づいた始末。つまり、トリックはともかく、文章や設定、キャラの立ち方、洒落た会話に至るまで、現代にも通じる魅力がこの作品には溢れているということだ。のんびりした世相は感じられるものの、違和感はあまりない。
また、名探偵といいながら実に普通の知能の持ち主である主人公がいろいろ悩みながら推理していくのが活写されてて面白い。読者は彼と一緒に悩み煮詰まりたどり着き、そして恥をかく。うん、オーソドクスだけど楽しめる。また、脇役も魅力溢れている。特に秘書として雇ったステラは抜群のキャラ。わりと普通っぽい推理小説であるこの物語を一気に魅力的にしている。

今月の1番目に薦めるほどか、と言われると少し迷うが、かなり楽しめたのは確か。著者の他の作品も翻訳されるのが待たれる。

2002年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

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LV5「国境」

黒川博行著/講談社/1900円

国境
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先月、東野圭吾のサイトの中で「黒川博行の『切断』、『封印』、『疫病神』、『国境』は傑作」と書かれていると書いた。で、先月は「疫病神」を読んだ。今月は「国境」である。「疫病神」の二宮と桑原が、今度は北朝鮮の国境を破る羽目になり、またコンビを組む。この強烈な個性のコンビが復活すると聞いただけで読みたくなる。著者はとてもいいキャラを発掘したなあ。

抱腹絶倒感やシズル感は前回の方が強いが、なにしろ主な舞台は北朝鮮である。未知かつ不可思議な国である。その異様さをちゃんと描写しながら物語は進むのだが、これがとてもリアルに描かれていて、空気感までしっかり伝わってくる。それだけでもこの本は買いだ。理解できないもの(北朝鮮)への根元的恐怖が行間からじっとり伝わってくるのである。そして読み終わる頃にはなんとなく北朝鮮を知った気になる。

前作同様、犯罪の背景が入り組んでいてとてもわかりにくい。説明も長いしシンプルではない。前後関係を理解するのにそれなりの集中力もいる。そしてそこに北朝鮮の現状描写が入るから非常にまどろっこしい。でも、それを上回る魅力が作品中に溢れているのも前作と一緒。キャラの立ち方をはじめ、ギャグ的センス、コンビの絶妙な絡みなど、かなり面白い。ヤクザものがお嫌いな人でも楽しめるはず。わりとオススメ。

2002年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

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LV5「疫病神」

黒川博行著/新潮文庫/667円

疫病神
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東野圭吾のホームページの中の作家紹介に「黒川博行は、読んで絶対に損はないと、自信を持って勧められる作家である。中でも、『切断』、『封印』、『疫病神』、『国境』は傑作。これだけ褒めておけば、向こうもどこかでお返しをしてくれるかもしれないな。」とか書いてあり、未読の作家というか、実は知らなかった作家だったので妙に気になり、一番評判が高いらしい「疫病神」から読んでみた。そしたらなかなかのアタリだったのである。

基本的にヤクザ小説なのだが、しっかりした下調べと思わず笑ってしまう大阪弁会話の妙で、なかなか良い。キャラもしっかり立っていて、ヤクザ的リアリティもしっかりある。ただ、著者はかなり理屈っぽいのだろうか、めちゃくちゃ細かいプロットで、全体の犯罪構造を理解するのに大変苦労する。まぁそれも全体に漂う雰囲気とリアリティで許せてしまうのだが、もうちょっとシンプルになっていたらより人気が出た本だろう。

桑原というキャラは実に魅力的だ。主人公の二宮との疫病神コンビを使って続編「国境」を書いているようなので、来月はこれを読んでみよう。また彼らに会えるのが楽しみである。

2002年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「片想い」

東野圭吾著/文藝春秋/1714円

片想い
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久しぶりの東野圭吾である。傑作「白夜行」以来かな。別に他意はなく、この本も前から気になっていた。

こういう隠された過去的なものを書かせるとさすがにうまいね、東野圭吾。
特に女性、そして中性(?)の描写が今回は実にうまかった気がする。どうもボクは東野と真保裕一を比べてしまう癖があるのだが、真保のに出てくる女性は読んでいて照れてしまうが東野の女性は体臭まで感じられるくらいリアル。そしてその造形力・描写力こそ、この作品ではkeyとなっている。男と女、そしてその間に来る存在を、きちんと描き分けられないと、この物語は成立すらしない。上辺的な薄っぺらい描写をすること自体がテーマを裏切るので、著者はそこを注意深く描き、リアリティを紡ぎ出している。

著者が男性なこともあろう、逆に「男」の描き方がステロタイプになってしまった気がする。一番理解できると思いこんでいる存在だからかな。それが少し残念なのと、主人公である哲朗のお節介さが中盤鼻につく。何の意味があって引っかき回しているのか全く理解できないのだ。著者としては「男性的」熱い友情っぽさの象徴としてオーバーに書いたのかもしれない。でも読んでいてイライラはする。そういう誇張が、著者が女性や男女の中間的存在の人々に対して見せた繊細さに比べて、あまりに無神経に見える。男性著者だからこその、男性をよく分かっているという油断が、ここをはじめとしてわりと感じられる。

ストーリーの収め方もちょっと納得は行かない。ミステリーとして、どうなのだろう。でも、個人的にはこの本で、男性と女性の中間的な存在に対する心情的な想像力を開かされた思いである。実に細やかにその辺の心情に寄り添って描いてくれてアリガトウ。そんな感じ。
なお、劇中劇(?)的に出てくる「サンタのおばさん」は絵本になっているらしい。取り寄せ中である。

2002年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「ダイスをころがせ!」

真保裕一著/毎日新聞社/1800円

ダイスをころがせ!
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選挙小説、とでも呼ぼうか。
久しぶりに読んだ真保裕一だが、相変わらずテンポよく熱く痛快。「奪取」で感じた軽快感が帰ってきた印象。選挙に出馬する友とそれを第一秘書として助けるリストラされた主人公を追いながら、大人になりきれない青年男女たちが大人になっていく物語をそこに上手にかぶせた。

作家の志として、国政参加を小説という形で取り上げ呼びかけたのはよくわかるしめちゃめちゃ評価したい。底流には「○○のせいとか嘆いてばかりいないで、参加しようぜ」という著者本人の熱い憤りがあると思う。それがこのテーマを選ばせ、熱く書かせたのだろう。題名もそこから来ている。とにかく手持ちのダイスをころがそう、と。政治の現状の説明などもくどいくらい入れ込んであり、エンターテイメント小説として読むと冗長なのだが、一種に啓蒙小説として読むと意図はよくわかるのである。

ただ、キャラやエピソードや他陣営との確執(ミステリー的な部分)が、すべてにステロタイプ的なのが残念。取材はよくされているのだが、表面的にストーリーが展開していくだけで、深みが足りない気がする。キャラがひとりふたり、もう少し深く描き込まれていたら、ずいぶん変わったのだと思う。とても面白く、志も高い本だけに、惜しい。

2002年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV0「看護婦探偵ケイト」

C・グリーン著/浅羽莢子訳/扶桑社ミステリー/740円

看護婦探偵ケイト
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看護婦が探偵を開業したから「看護婦探偵」……なんつうかベタベタな設定の推理小説である。
うはは、と笑いつつ、こういうのはまずハズれるんだよなとも思いつつ、なんとなく惹かれて読み始めてしまったのはやっぱりナースへの男性永遠の憧れがあるから?

んでもって、ええ、ハズしました。
英国推理作家協会の処女長編賞最終候補作、であるらしいので、ちょっと変わった設定のデビュー作を楽しめる推理小説マニアにはいいかもしれないが、客観的に見ると駄作ではないでしょうか。病院の裏側に精通している看護婦であるというメリットを活かしているのはいいが、人物の描き込みは雑だし、サスペンス的にも弱い。主人公にカタルシスも感じない。脇役も(足フェチの変人という設定はなかなかだが)いまいち体温が伝わってこない。ボク個人としては読まなくてもいい小説だと思う。

2002年2月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV2「他言は無用」

リチャード・ハル著/越前敏弥訳/創元推理文庫/600円

他言は無用
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いわゆる英国紳士の社交場ともなっている「クラブ」。そこで起こった連続殺人事件を扱った推理小説であるが、1935年に書かれた古い作品であることもあり、今読むとちょっとイライラするくらいなのんびりさが漂っている。英国特有のシニカルな笑いと演出を余裕を持って楽しめ、その古さを味として面白がれる人でないとつらいかもしれない。
ただ、そのころのクラブの実際や、個性的でいかにもいそうな登場人物、英国的ゆったり感はそれなりに楽しめるし、現代英国でももしかしたら絶滅せず生き残っている種族の生態をかいま見られるという部分ではなかなか興味深い。つまりは英国好きならそれなりよ、というところか(ボクも英国好きなので読んだ)。

著者は技巧派推理作家として知られていたらしい。当時としては確かに技巧を凝らしてあったかもしれない。現代推理ものに比べて品はあるしのんびりさ加減も尋常じゃないし解決法も紳士的なので、ホッとする部分はあるのだが。

2002年2月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「屍蘭 新宿鮫3」

大沢在昌著/光文社文庫/667円

屍蘭―新宿鮫〈3〉
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「しかばねらん」と読む。
なんとなく読み始めた新宿鮫シリーズもこれで3冊目。1冊目はうーん程度な印象だったが、2冊目の「毒猿」でのめり込んでしまった。で、3冊目。前回、前々回とはまるで違うシチュエーションと犯人像を提出してきていてサスガである。また、今回は主人公自体に殺人の疑いがかけられるというサスペンスつき。演出に苦労のあとが見える。

犯人自体のアクと魅力は「毒猿」の方が数倍上だし、アクションが少ない分今回は静かな印象もあるが、やっぱり面白い。新宿のど真ん中ではなく、ちょっと外れに場を設定してきたのも、リアリティを増す効果があった。完全無欠的主人公である鮫島も妙に実在感を増している。これで犯人にもう少しカタルシスみたいなものを感じさせてくれれば傑作であったかも。そこだけ弱い。あ、あと、犯人の殺人が簡単に成功してしまうのもちょっと違和感。

2002年2月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「斧」

D・E・ウェストレイク著/木村二郎訳/文春文庫/667円

斧
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原題である「THE AX」を訳すと「斧」となるが、転じて「クビにする」という意味にもなるという。
この本は、不況で会社を解雇されたある技術者が、再就職するために、再就職面接のライバルとなりそうな同じような状況の(つまり解雇された)技術者たちを次々に殺していき、再就職をものにしようとする、というユニークなミステリーである。

こう書いちゃうとなんだかコミカル・サスペンスっぽいし、荒唐無稽だし、テーマがしょぼい感じがするだろうが、さにあらず。一人称で語られるその物語はリアリティばりばりであり、主人公がリストラで追いつめられた心情も、そこから殺人に至る心理も、殺しの場面のドキドキ感も、すべて迫真に満ちている。独特の語り口も魅力的で、非常に出来の良いミステリーに仕上がっているのだ。「2001年度このミステリーがすごい!」の第4位になったのも納得なのである。

このミステリーの質の高さを支えているのはもうひとつある。主人公の独白の要所要所に出てくる人生に対する分析が実に魅力的なのだ。ちょっとした箴言が活きているのだ。

全体に佳作っぽい作品なのだが、ボクはとっても好きである。トンプソンと比べられることが多いらしいが、確かにトンプソンっぽい。名作「ポップ1280」をどことなく彷彿とさせる。

2002年1月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「13階段」

高野和明著/講談社/1600円

13階段
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今年の江戸川乱歩賞受賞作であるミステリー。
読み出したら止まらない。一気に読んだ。死刑の是非から冤罪、罪と罰の命題まで踏み込んで書いてあり、主題はかなり重い。が、ストーリーはエンターテイメントに満ちており、二重三重のどんでんがえしもよく出来ている。どんでんがえしの演出もわりとさりげなく劇的にしていないところも上手。重い主題に快調な演出テンポ。なかなかだ。

無実と思われる死刑囚を救い出す、報酬は1000万円、乗り出すのは死刑執行経験のある刑務官と仮釈放中の青年、という設定。仮釈放の青年が妙に優秀だったりする違和感も気になるし、たまたま彼が選ばれてしまうご都合主義もアララと思うし、時限型サスペンスなのに時限(死刑)がいつ来るのかわからない弱点があったり、と、欠点はいろいろある。ただ、読んでいてストーリーとは別にふと立ち止まり、死刑とはどういうことなのか、被害者家族のやりきれなさとはこういうことなのか、などと読者をしっかり考えこませるチカラをこの小説は持っている。死刑の描写や刑務官の懊悩が特によく書けているからかもしれない。

冤罪の死刑囚視点の描写がもう少し物語に絡まればよりそこらへんが分厚くなったと思うが、そうなると快調なテンポが損なわれてしまうのかな…。いずれにしろ、オススメのミステリーである。

2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「毒猿 新宿鮫2」

大沢在昌著/光文社文庫/667円

毒猿―新宿鮫〈2〉
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前作「新宿鮫」をちょっと残念と評したら、「いや、新宿鮫は第二作の毒猿の方が面白いんだよ」と先輩が教えてくれ、それならと読んだ本。なるほどこれは傑作である。前作ではぎこちなかった登場人物達がいきなり生き生きと動き始める。ストーリーも秀逸。息もつかせない。

完璧なる殺し屋「毒猿」vs 新宿鮫。この構図に中国出身の女性や台湾から来た強烈なキャラクターの刑事が絡むストーリーはキャラの立ち具合からアクションの濃さ具合、映画的なカメラワークまでとてもよく出来ている。台湾の刑事との心理的絡みが意外と少ないのと、あまりにアクション映画的すぎるラストと、そして毒猿の唯一の死角が○○であることあたりがちょっと弱い気がするが、全体のテンポを考えるとたいしたアラではない。
98年初版の本であるが、まるで古くない。なかなか感動的。続編も読んでみよう。

2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV1「野獣の街」

エルモア・レナード著/高見浩訳/創元推理文庫/780円

野獣の街
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「グリッツ」はなかなか面白かったエルモア・レナードだが、こっちはボク的にはイマイチだった。でもこっちの方が代表作に取り上げられること、多いんだね。うーむ。犯人のキャラ造形とかはこっちの方が上かなぁ。でも「グリッツ」の犯人の変な輝きみたいなものがない気がするなぁ。
ちゅうか、全体に印象が薄い。この本。読み終わってたったの数週間だけど筋が思い出せないよ。いや狂牛病に冒されているのかと心配になるくらい思い出せない。困ったな。別に困らんか。

2001年10月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「墜ちていく僕たち」

森博嗣著/集英社/1575円

墜ちていく僕たち
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森博嗣は、これから少しずつジワジワと全部読んでいくかもしれないな、と思っている作家のひとりだ。これは新作だが、いつもの感じと少し趣が違う。ま、橋本治風文体から始まるからそう感じるだけなのかもしれないけど、ちょっと実験的な匂いのする短編集である。

ラーメンを食べたらいきなり性転換してしまう、という荒唐無稽な短編5つなのだが、それぞれの主人公の立場と文体が変わるので、わりと快調に読む進む。描写も主観表現もうまい。遊びな部分も気がきいている。で、ラストの短編で、、、うーむ。このラストの仕掛けがもっともっと面白ければかなりいい本に仕上がるのだが、肩すかしが中途半端で、どうにも乗り切れないままに終わってしまうのが残念。もっと知性的頭脳的にドンッと落としてほしかったな。

しかし……このラストにしたいがために、4編引きずったのだろうか。ま、小説すばるへの連載なので、全体俯瞰のオチではなさそうだが、そうでないにしてもそう見えてしまうあたりが難。悪ふざけを楽しんでもいいけど、1575円払って受ける悪ふざけとしては、もう気持ち凝ってほしかった感じ。

2001年10月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー , ファンタジー

LV5「グリッツ」

エルモア・レナード著/高見浩訳/文春文庫/620円

グリッツ
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なんとなく読まずにいて、なんとなく気になっていたエルモア・レナードだが、あるきっかけがあって三冊購入。そのうちの一冊。
まぁ代表作と言っていいのかな。原著は1985年だからかなり古い警察小説だが、これはなかなか面白かった。主人公や犯人の描き方がとっても良い。レナード・タッチ、と巷で言われるほど特徴的とは思わないのは2001年の読者だからかな。もうこれはこの15年でマネしつくされたタッチなのだろう。そういう意味では新鮮さはないが、充分楽しめる作品。

グリッツとは「安っぽくて金ぴかの」みたいな言葉。カジノの街アトランティック・シティのことだ。プエルト・リコからそこにわざわざ飛んでいく主人公の気持ちがいまいち掴めないまま物語が進むのがちょっと居心地悪いが、犯人が変に輝いているので気にならなかったりもする。この、犯人が変に輝く感じがなかなか良い。変質者の主観描写が素晴らしい。

2001年10月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「永遠に去りぬ」

ロバート・ゴダード著/伏見威蕃訳/創元推理文庫/1120円

永遠(とわ)に去りぬ
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ゴダードの第8作目。2001年2月に出た邦訳である。
誰でも認める稀代の語り部は今回も健在。600ページ超の長さを読者を飽きさせず二転三転させ、破綻なく結末まで織り上げ導く手腕は相変わらずである。
ただ、詩的趣味というか言葉を華麗にしすぎる趣味はデビュー当時より強まっており、訳者はその感じを出そうとしているのだろう、小難しい漢字や言い回しを多用している。効果は発揮しているが多用しすぎかもしれない。ボクはちょっとうんざりした(ゴダードの訳者たちはどうしてこう凝るんだろう。原文の雰囲気を出そうとしているのはわかるが…)。

今回の作品もまた、主人公がある偶然の出会いによって事件に巻き込まれていくものなのだが、他の作品に比べてちょっと主人公が巻き込まれる感じが無理矢理。最後まで主人公にカタルシスを感じなかったのも難。
また、前半がまだるっこしいし(静かな伏線としてはゴダード調ではあるのだが、ちょっと長すぎる)、ラスト近くの登場人物たちの行動も疑問。長編の収束点が人間の詩的な一言に集約されていたりするあたり、ひとつ間違えると自己満足でしかないギリギリの線を行っている。二転三転するストーリー自体はさすがなものだったが、結果的にはまぁゴダードにしてはもうひとつかな。

2001年8月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「夜のフロスト」

R・D・ウィングフィールド著/芹澤恵訳/創元推理文庫/1300円

夜のフロスト
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フロスト・シリーズ第三作。
前二作ともにいろんなランキングでベスト1とか取っている名作。本作も当然どこかでベストに入るであろう出来映えだ。相変わらず750ページ超という大作なのだが、飽きさせず、かといってハリウッド的ジェットコースターというわけでもなく、ダラダラ~とした不思議な牽引力で読者を最後まで引っ張っている。お見事。

今回も著者は主人公に試練を与える。流感大流行でデントン警察署が壊滅状態なのだ。で、嫌みのように次々起こるおぞましい事件…。流感からも見放された名物警部フロストのゴマカシやいかに!(活躍やいかに!とならないところがこのシリーズの秀逸なところ)というところだが、なんと今回のフロスト、アクション場面までこなすのだ。まぁアクション場面に関してはさすがにサービス過剰と思われるけど。

読者は、フロストの昼も夜もない激務と大きなポカを一緒に経験し、時に一緒に自殺したくなるほど情けない気分にさらされる。でもこれはこれで勇気を与える書だな。劣悪なる労働環境、かんばしくない才能と成績、その異様なまでの仕事中毒……そんなフロストの毎日は、我が身を顧みさせるに十分なのだ。サラリーマン的価値観がはびこる現代人の共感を得る現代的ニューヒーロー(?)である。

2001年8月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「消えた少年たち」

オースン・スコット・カード著/小尾芙佐訳/早川書房/2600円

消えた少年たち
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たしか1998年度の「本の雑誌」年間ベストテンの1位だった気がする。いや目黒氏などは90年代ベスト1に推していた気もする。でも、なぜかずっと買ったままで置いておいた作品。

ええと、ウケルのはとってもわかる。良く出来たミステリーだ。
終盤までこれでもかこれでもかと日常のなんでもないことを詳細に描き続け、日常のかけがえのなさ、子供がいることの奇跡的な素晴らしさみたいなものを完璧にあぶり出しておき、そのうえで急転直下ドカンと衝撃のラストに持っていくやり方は見事である。子供に対する気遣いの(病的な)細かさ、モルモン教のリアルで詳細な描写(教義の説明)、両親の過剰さ、など、ちょっと鼻につくところはいっぱいあるのだが、なんとなくすべてを許したくなるような気持ちにさせる。

が、言われているような爆涙的大傑作とは、残念ながら思わなかった。
涙はしたし、びっくりしたし、印象も深いが、「いいよーこれ!」と人に薦める気にあまりならない。なんでだろう…。なんというか「子供や世界に対する想いについての乖離」がそう思わせるのかな。主人公たちのその想いの過剰さが、どこかでボクを白けさせてしまうのだ。ボクにも娘はいる。かけがえのないものである。が、こういった過剰さはどこかで意識して避けている。その辺の考え方の明白な違いみたいなものが、どこかで感動に対する違和感になり、なんだかこの本を「警戒」させる。

この本はある世界観の(ある宗教的世界観の、と言ってもいい)の徹底的賛美であり、それを感動的ミステリーという口当たりの良いオブラートに包んでみせた周到な「プロパガンダ」なのではないか、という「警戒」が心の中に起こる。そこらへんがボクにとってつらい部分かも。考えすぎかもしれないけど。個人的にはそんな感じ。

2001年6月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ミステリー

LV5「一瞬の光のなかで」

ロバート・ゴダード著/加地美知子訳/扶桑社/2300円

一瞬の光のなかで
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読み応え、という言葉があるけど、ゴダードの一連はまさにそれ。
久しぶりに読むゴダードだけど(読みはじめるとドップリ作品世界に浸っちゃうので忙しいときなど手を出すのに勇気がいるのだ)、二段組470ページを急かせず飽きさせずジンワリジワジワ味わわせてくれる筆力はさすがなものだ。そう、飽きさせない本はいくらでもあるけど「急かせない本」は意外と少ない。謎また謎ではあるのだけど、先を急ぎたくないストーリー展開。うーん、これってやっぱり細部の描き込みかなぁ。どこまでもじっくりつきあいたくなる本である。

男が恋に落ちたあと理不尽に放り出されて、そのあと真相に向かってさまよい歩いているうちに謎が謎を呼び、過去と現在が交差し、そして思いもかけぬ結末へと収束していく…、というゴダード小説のある典型をこの小説も持っている。いろんなエピソードがこれでもかと織り込まれ、それが無理なくオチに向かう様相は見事のひと言。写真を題材とした本作は、「千尋の闇」などの過去の大傑作群に比べればちょっと落ちる気がするものの、ゴダード・ファンには十分楽しめるもの。でもゴダード初読の方は「千尋の闇」あたりから入った方がいいかもしれない。

2001年6月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「ポップ1280」

ジム・トンプスン著/三川基好訳/扶桑社/1500円

ポップ1280
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作品自体は1964年に発表されたもの。
近年再評価の動きが激しくリバイバル・ブームになっているらしいジム・トンプスン。タランティーノやらキューブリックやS・キングに影響を与えたなどと喧しく言われ、あげく、古い作品なのに2001年の「このミステリーがすごい!海外編」で第一位も取ってしまった。アメリカでも日本でも長く無視されてきた人らしい(なぜかフランスでは大人気)。

うーむ。そんな外部評価はどうでもいいや。とりあえずとても面白い。古さを全く感じさせない。文体も展開も主人公のユニークさも、良い感じでバランスが取れている。たまに破綻的に名文が現れたり、唐突になげやり文が出てきたり、といった意外性が(結果的に)リズムになっているのも面白い。全体に漂う重さと軽さを上手に訳出した訳者の手腕かもしれない。そう、重いのに妙に軽い、この微妙な感覚・・・タランティーノっぽいよね。

裏に人間存在に対する痛烈なる批判というか呪詛が満ちているからこそ、この本は面白いのだろうな。他の作品もなるべく早く読んでみたい。

2001年6月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV1「脳男」

首藤瓜於著/講談社/1600円

脳男
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ちょっと厳しすぎるかもしれないけど、でも「週刊文春2000年度ミステリーベスト10第1位」とか「第46回江戸川乱歩賞受賞」とか聞かされると「マジー?」って思って気持ちがネガティブな方に働いてしまう。うーん、マジ?

主人公を特殊に設定すること自体は(主人公が青年期の教育であそこまで学習するとはとても思えないけど、それに目をつぶりつつ)成功しているとは思うのだけど、でもそれってよくある手だと思う。その後の彼の活躍もかなり非現実的で(特に網くぐり)、なんだか主人公が著者の頭の中を出ていない印象。主人公がすべてな本であるだけに、そこがつらい。

また、脇役もステロタイプだし、どんでんも予想がつくし、ラストも思わせぶりだし、題名も「ハサミ男」に似ているし……佳作ではあるけど、2000年度ナンバー1とはちょっと思えない。ここまで他の評価が高くなかったら違う感想を持ったかもしれないけど、ちょっと期待しすぎてしまい申し訳なかった。残念。

2001年4月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「新宿鮫」

大沢在昌著/光文社カッパ・ノベルス/800円

新宿鮫
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いまごろ何読んでんの?って思う方も多いかもしれないが、これがボクの大沢在昌初体験である。
つうか、カッパ・ノベルスを読んだのって高校以来かも。なんとなく手を伸ばしかねていたが、新宿鮫シリーズの評判の高さに思わず買った一冊。

素直な感想としては、あまりボクには合わなかった。評判が高すぎてちょっとあら探し的に読んでしまったかもしれない。いや、まじ面白いんだけど、週刊文春だったかの「20世紀ベストミステリー」の「国内編ベスト10」に入る出来、とまでは思わないなぁ。つまり、その評判並みの面白さを期待しちゃうと少しがっかりするかも、ということ。
キャラ造形が非常にいい。ストーリーもこじんまりしてはいるがよく練られている。晶と桃井のキャラがもう少し掘り下げてあるとより魅力的になったと思うがそれは贅沢というものか(もしくはそれは続編で解決されているのか)。1990年初版。

2001年2月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「分身」

東野圭吾著/集英社文庫/695円

分身
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1993年発行の著者初期小説。1年前にヒトからもらってそのまま本棚に置いていたが、ちょっと思いだして読んでみた。というか、わりと気になってはいたのであるが。

実は期待していなかった。著者特有の(「秘密」に通じる)甘ったるさが色濃く出ていそうな小説だったから。なんとなく北村薫の「スキップ」とかに通じる甘ったるさ。しかし、期待はいい方に裏切られた。章分けを細かくしたのも勝因。テンポよく筋が進み、リズムよく謎が氷解していく。読み出すと止まらず、一気に読んだ。

ただ、こういうミステリーに出てきがちの「政府黒幕」だの「それを指揮する黒ずくめの謎の男」だの「顔色の悪い研究者」だののステロタイプ・キャラの出現が物語を多少つまらなくしている。初期作品だから仕方ないが、ちょっと居心地が悪くなる。それと題名自体がネタばれなのが気になるかも。いい題名なのだが、読者は最初から展開が読めてしまう。そこらへんが惜しい本。

2000年11月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

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LV4「緋の女 スカーレット・ウーマン」

J・D・クリスティリアン著/棚橋志行訳/扶桑社ミステリー/686円

緋の女 スカーレット・ウーマン
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著者は匿名作家らしい。世界的ベストセラーを書いた人の別名なのだそうだが、かたくなに匿名を守っているのだとか。トレヴェニアンもそうだったっけ? 「イマージュ」の作者もそうだったような。まぁ匿名でいままでの自分の領域と違う世界を書きたくなる気持ちはわかる。

印象としては良くできたミステリー。全米、そして日本でも(数年前だが)絶賛されたのはよくわかる。
19世紀後半のニューヨークを舞台に、時代考証がよくされているせいだろう、リアリティ溢れた冒険に同行できるのである。スカーレット・ウーマンというのはいわゆる売春婦のことだが、舞台を女性運動黎明期に持ってきた分、別の意味も持ってきている。著者の頭の良さの勝利だろう。

難を言えば、キャラの立ちがもうひとつなのだ。もうほんの少し、体臭みたいなものが匂ってきたらかなり作品に奥行きが出ただろう。あと、ストーリーもわりと複雑。印象がちょっと分散してしまうのが惜しい。凝りすぎなのかな、ひと言で言うと。あの世界観の中でもうちょっとシンプルな物語が語られたら・・・抜群だったかも。

2000年10月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「女王の百年密室」

森博嗣著/幻冬舎/1900円

女王の百年密室
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「すべてがFになる」で好印象の著者の新作。
その頭の良さと斬新さには注目していたので、ちょっとウキウキ読み始めたのだ。結果としてはとても面白かった。でも、なんつうか、現代のゲイツやジャガーと結びつかれると(う、ネタばれか?)ちょっと白けてしまう。そこがボクにとっては惜しい部分。そういう「お遊び」はいらなかったと思うなぁ。でも妙に印象に残る一編だ。変なところもありつつ、ゆっくり再読してみたい気持ちにもなる感じ。

近い未来のリアリティをここまで表現しきったのは賞賛に値する。
なんというか、技術に対するニックネームの付け方や主人公にとっての「未来の常識」の読者への説明のし加減がとっても上手。どのポイントを表現すれば未来が妙にリアルになってくるか、というあたりのセンスが素晴らしいのである。SF作家も見習ってもらいたい鮮やかさ。この世界観だけでも読む価値はある。

2000年9月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV1「グルメ探偵」

ピーター・キング著/井上健監訳/井出野浩貴・野中香方子・松谷世津子・矢部真理訳/バベル・プレス/2500円

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推理小説。主人公は、珍しい食材やレストランのメニューについてアドバイスしたりある年代物のワインを探し出したり、といったグルメ関係の私立探偵。そして、彼があるレストランのレシピを解明するという依頼に携わるうちに殺人事件に巻き込まれて…。

グルメの探偵という素材は新しく、それなりに魅力的。アメリカでもそこそこ売れたらしい。随所に出てくる旨い物系のウンチクも(多少うるさいが)まぁ楽しい部類。
だけど。だけどだけど。推理小説としては「カス」であった。構成力、筆力、キャラクター造形力、すべてに渡っていまひとつ。面白くない。あまりに面白くないものだから、読了に2週間ちかくかかってしまった。旨い物系の話に人並み以上に興味津々なボクですら、である。グルメ探偵という素材はいいのだから、もうちょっとなんとかしてほしかったな。

2000年8月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV1「シャーロック・ホームズのクロニクル」

ジューン・トムスン著/押田由起訳/創元推理文庫/580円

シャーロック・ホームズのクロニクル
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いわゆるホームズ・パスティーシュですね。贋作、というか、まぁコナン・ドイルになりきって、ホームズの推理短編を書き下ろしたもの。著者は「シャーロック・ホームズの秘密ファイル」に続く第二作目。ホームズ・パスティーュもののなかでは定評ある人。

個人的に転勤という大イベントがあって、とにかく雑事の中でも気楽に読める本としてこれを選んでみた。
ホームズはかなりマニアックに好きだった時期もあるから。で、読み始めはその徹底した贋作ぶりに違和感があって笑ってしまったが、読み進むに従ってその違和感が消え、お馴染みの19世紀末のロンドン・ベーカー街が浮かび上がってくる。うーん、さすがな力量。

だが、もっと読み進むと「こりゃダメかも」に変わっていく。推理の質がわりとお粗末なのだ。いや実はコナン・ドイル本家のホームズ短編も最後の方はお粗末な出来のものも多かった。そういう意味では質的にも後期の正調贋作になっているのだが、贋作でお粗末ぶりを見させられるとどうして白ける。それだけ。

2000年7月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「嘘をもうひとつだけ」

東野圭吾著/講談社/1600円

嘘をもうひとつだけ
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この著者の頭の良さは「白夜行」で証明済みだけど、今回もなかなか頭がいいのである。
短編集なのだが、すべて犯人側の視点で描かれていて、犯人なのに犯人ではないような心理描写をしつつ、どの短編にもひとりの敏腕刑事加賀が関わってくる構造(一部、被害者視点もある)。この構造自体がなかなかに新しい。その刑事も、客観描写のみでキャラがしっかり立ち上がっており、上手である。

難を言えば、どの登場人物にもカタルシスを感じられないまま終わるところ。
つまり陰の主人公である加賀刑事は客観描写のみなので入り込めない。それぞれの短編の主人公にも、その心理描写のトリックもあって入り込めない。それがこの短編集を少し薄いものにしているのは確か。たぶん、加賀刑事をもうちょっと個性的に描いたりすることで解決されるのだろう。例えばフロスト警部とかコロンボ警部みたいに。でも、著者はわざとどこにでもいるような刑事にしたのだろう。ありそうな日常、も演出のうちだろうから。

2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV0「死を誘うロケ地」

ジェフリー・ディーヴァー著/飛田野裕子訳/ハヤカワ・ミステリ文庫/680円

死を誘うロケ地
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「ボーンコレクター」の著者のずいぶん前の作品。

本棚に死蔵されていたものだが、「ボーンコレクター」が面白かったから読んだみた…が、うーん、大化けする前の桐野夏生を読んでいる時に感じるような、なんだかいたたまれない感じが漂う。なんだか完成度が低い、というよりも、主人公を最後まで魅力的に思えなかったのが一番の問題であろう。

映画のロケーションハンティング業自体を取り上げたのは面白かったが、その世界をそれなりに知っているボクですらどうしてものめりこめなかった。どうしてかな。やっぱり主人公の書き込みが特に前半部で足りないせいだと思う。んでもって、のめりこめないうちに殺人がおこってしまったのも敗因かもしれない。わりと時間の無駄だった作品。

2000年3月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「夢果つる街」

トレヴェニアン著/北村太郎訳/角川文庫/640円

夢果つる街
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再読。
初読はいつだったかな。ホームページを始めるずっと以前。10年ほど前。当時はこの本の著者、トレヴェニアンに凝っていた。この頃新作出てないよね? どなたか知っていたら教えてください。

正月ころ、ちょっと自己憐憫に浸りたい気分に陥っていて、新作よりもなにか懐かしいのが読みたいな、と、本棚前をうろうろしていて久しぶりに手に取った本。
まさに気分ぴったり。ラポワント警部補と一緒に自己憐憫の嵐に一緒に浸ってみたい…。読み返してよかった。やっぱり大名作ミステリーだ。いや、ミステリー的ストーリーよりも、この小説は細部がいい。ラポワント警部補と一緒に「ザ・メイン」の裏通りを歩くだけでなんか人生のどうしようもなさみたいな気分が襲ってきて、自己憐憫希望者には最適なのだ。あ、もちろん普通の気分で読んでも大名作ですよ。好きだなぁ、この本。この頃あまり著者の名前を聞かないから、絶版になっていたりして…。

まだ読んだことがない人は、ぜひどうぞ。失望させません。絶版になっていないことを願います。

2000年2月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「ボーン・コレクター」

ジェフリー・ディーヴァー著/池田真紀子訳/文藝春秋/1857円

ボーン・コレクター
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去年の海外ミステリー物のベスト1を総なめした感があるこの本、なんとなく怖そうだったから敬遠していたのだが、読んでみたらちゃんとした正統ミステリーでした。

いやまぁ怖いことは怖いんだけど、想像していたスプラッター的怖さではなくてホッ。全体に登場人物のキャラがそれぞれ深く掘り下げられていて見事だし、ストーリーも練りに練られているし、どんでん返しも鮮やかだし、ベスト1を総なめするのも理解できる。ま、めちゃめちゃすげーとは思わなかったけど、誰にでも安心して推薦できる良質ミステリーだ。

主人公的役割のハリー・ライムは四肢麻痺で左手の薬指一本しか動かないという設定。
ここで「うーん、障害者ものかぁ」と敬遠するなかれ。彼は障害者主役にありがちな人格者として書かれていない。いまひとつカタルシスまで持っていけなかったのが残念だが、欠点が多い普通の人として描かれる。いやむしろ健常者よりも性格的欠点が多いくらい。こういう主人公を設定してストーリーを進めるのは並みの筆力ではできないだろう。また現代科学捜査についての記述も詳細でそれはそれで面白い。

著者の名前を見てどこかで見たことがあると思い本棚をあさってみたら「死を誘うロケ地」という本が出てきた。つん読状態でまだ読んでないが、早速読んでみよう。CMを生業にしている身にはめちゃめちゃ不吉な題名なのだが・・・。

2000年2月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「ハサミ男」

殊能将之著/講談社ノベルス/980円

ハサミ男
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帯に「最近、推理小説らしい推理小説がないとボヤいている人へ。--法月綸太郎」とある。
確かに二重三重に読者を騙す罠が仕掛けられていてタネがわかってくるに従い呆然とすること確実。え!?そんなはずは、と前半を思わず読み直してしまう。映像がない「本」という特性自体が罠なのだ。いや、題名自体も・・・まぁやめておこう。とにかく見事と言わざるを得ない。まさに知能犯の仕業である。

ただ、コクというかヒダヒダというかそういったものを求める向きには不満が残るだろう。感心はするが感動はしない内容だ。「よく出来ているね」という感想しか残らないタイプの推理小説。特に犯人(ハサミ男以外の)の書き込みが足りない。まぁ無い物ねだり、かな。ちなみに第13回メフィスト賞を受賞したらしい。

1999年12月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「恋愛中毒」

山本文緒著/角川書店/1800円

恋愛中毒
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著者の本を読むのは3作目。「あなたには帰る家がある」で大好きになり「みんないってしまう」で失望。もう一冊読んでみようこれがダメだったらサヨナラかも、って読んだこの本はとても面白かった。うん、次も読むぞ。

先月小池真理子の「恋」を読んだが、恋愛感情についての描写は「恋愛中毒」の方がずっと上手い。非常によく書き込んでありリアル。
特にP28からP29に至る表現なんて好きだなぁ。それと中盤までの主人公に対する読者のカタルシスが、結末にさしかかるにつれてなんとなくほどけていく感じも(確信犯的に表現していると信じるが)見事だ。ミステリーだと思わずに読み始めたら実はミステリーだった、というのも軽い驚きだった。

ただ、題名が内容と合致しないのが難。よく出来た題名なだけにちょっと騙された感が残る。この内容だと「中毒」というよりは「依存」なんだな。「恋愛依存」じゃ題名にならないけど。なんというか、中毒的にいくつもの恋愛が描かれていると思ったら、結果的に2つの恋愛しか書かれていないのがなんだかはぐらかされた感じがして損なのだ。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , ミステリー

LV3「顔に降りかかる雨」

桐野夏生著/講談社文庫/619円

顔に降りかかる雨
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著者が1993年に発表した推理小説。第39回江戸川乱歩賞を受賞している。

「OUT」で新境地を開く前に創出した主人公、村野ミオが活躍するシリーズの第一作で、その硬質な文体や人物の造形の仕方など現在の著者の原点を見る思いがする。でも「OUT」や「柔らかな頬」と比べては可哀想なのだが、やっぱりちょっと劣るなぁ。筋的にも文章的にも。特にストーリーの持って行き方。プロット自体は悪くないと思うのだけど、なんで読後にこう満足感がないのだろう。

なんというか、ストーリーを破綻がないように精緻に作り上げて、それをハードボイルドな文体で装うのに腐心した、という感じ。感心はするけど感動はしない。主人公の心の襞がもうひとつ描き切れていないからかもしれない。いま同じストーリーで書き直したら全然違うものを書くだろうな、桐野夏生。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「バトル・ロワイヤル」

高見広春著/太田出版/1480円

バトル・ロワイアル
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面白い。圧倒的に。
舞台設定も物語展開も荒唐無稽なのだがそれが異様なリアリティをもって眼前に浮き上がってくる。やるなぁ高見広春。こういカタチで「異化」する手もあったんだなぁとちょっと驚き。冗長な部分や浮ついた部分もあるのだが、それらも嫌味ではなく味になっている。金八先生のパロディっぽい記述もそんなに気にならなかった。

太平洋戦争で勝利した大東亜共和国の理不尽なプログラム、それは中学三年生のクラス全員のバトルロワイヤル。生き残れるのはただひとり…。無作為のもとで選ばれたあるクラスの、孤島での殺し合いの一部始終がここで描かれているのであるが、クラス42人のキャラ造形がそれぞれ見事で、こんなに多い登場人物なのにそのすべてを愛している自分に読後あなたは気がつくであろう。最初はその登場人物の多さに怖じ気づくんだけどね。

ある小説新人賞選考会ではそのあまりに過激な内容ゆえ全員から拒絶され落選させられたらしいが、ボクにはそんなには過激に見えなかったのはなぜ? 新人賞選考会委員って何歳なの? 世代的ズレを感じるなぁ。それにしてもぜひ映画化をのぞむぞ。

1999年10月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , ミステリー

LV3「ボーダーライン」

真保裕一著/集英社/1700円

ボーダーライン
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真保裕一待望の新作。

カリフォルニアを舞台にめちゃめちゃハードボイルドな探偵小説を書き上げた。
日本在住の作家とは思えないその筆致、リアリティ、会話、展開、それぞれ見事であるが、名作「ホワイトアウト」に見られたような「迫力&圧倒的ストーリーテリング」みたいなものが感じられないのは何故だろう。彼の地の気候にも似た乾いた筆致にこだわりすぎたか。細部とストーリーテリングとのバランスが悪いのか・・・。いや、たぶん、後半に出てくる「犯罪者は先天的に出来上がっているのか、それとも教育か、または環境ホルモンか、キレる若者の精神構造はどうなのか」的な長い議論が全体のストーリーを邪魔しているのだ。説明不要な部分に思えたが…?

見事な重層構造でしっかり読ませるのだが、ちょっとだけ理屈っぽすぎるのが弱い。彼自身がいまボーダーラインにいるのかもしれない。

1999年10月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「白夜行」

東野圭吾著/集英社/1900円

白夜行
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ボディブローのように効いてくる作品だ。
ミステリーとしてもよく出来ているし登場人物の造形は見事だし土地の体臭みたいなものまでしっかり描かれていて感心させられるが、なにより主人公の二人の本当の関係をわざと描かず外堀から浮かび上がらせたその筆力が素晴らしい。

読後しばらくしてから彼らの苦しみみたいなものがじわじわ心の中に溢れ出す。読み終わった瞬間はちょっと物足りなさを感じるが、読者の読後の想像までへも著者はしっかり伏線を張っているのに後で気がつく。わざと答えを書いていない伏線などが読後に効きだすのだ。こういう頭の良さにボク弱いです。

前作「秘密」は映画化されたりして相変わらず評判だが、ボクはそんなに好きではない。でもこの「白夜行」はいいなぁ。辛気くさい題名だがこれも読後に納得が行く。手を取り合って白夜を行くふたりの姿が瞼の裏から離れない。削ぎきった文体も見事。そのうえすごいのは筋自体も削ぎきっているところ。うーん。こりゃ大化けする作家かも。直木賞も行けるのでは?

1999年9月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「T.R.Y.」

井上尚登著/角川書店/1500円

T.R.Y.(トライ)
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「横溝正史賞史上最高傑作!」と帯にある。
うん、確かに面白かった。でもこれが圧倒的に最高傑作とされてしまう横溝賞って……?って感じは残るなぁ。

革命に翻弄される詐欺師の物語なのだが、その詐欺のプロットは見事だしキャラ造形も上手。なのになぜかあまり印象に残らない。文体かなぁ。主人公にいまいちカタルシスを感じられない部分かなぁ。ストーリーの面白さと細部の存在感がどこかで乖離している気がするのだ。それと、革命につきものの「恋」の部分がないのが物足りない。ここにも主人公にのめり込めない要因があるのかも。

それともうひとつ。題名はもともと横溝賞に応募した題名「化して荒波」の方がまだいいかも、と思った。「T.R.Y.」では何もわからない。何も伝わらない。ちょっと残念。

1999年9月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「フロスト日和」

R.D.ウィングフィールド著/芹澤恵訳/創元推理文庫/1080円

フロスト日和
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「クリスマスのフトスト」に続く著者の第二弾。

前作が面白かったからこの本も買ってはあったのだが、文庫とはいえ700ページ超の厚さになんとなくほってあった。
けど読んだらやっぱり面白いなぁ。名物刑事というかボンクラオヤジというか、とにかく個性豊かな主人公フロスト警部の忙しすぎる毎日を描いていて、単なる推理ものではない魅力を放っている。なにしろメインの事件以外にも別の事件が次々起こっていき、それとは別に内部資料、残業統計などのデスクワークもたまりにたまり……フロスト警部のみならず読者もその忙しい日々に翻弄され疲れ切っていく。この、読者の上手な巻き込み方もこのシリーズの勝因のひとつだろう。うまい。

第三弾、第四弾と訳が進んでいることを願っている。早く次が読みたい。

1999年8月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「永遠の仔」

天童荒太著/幻冬舎/上1800円下1900円

永遠の仔〈上〉
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あまりの評判の高さに天の邪鬼になっていたんだけどやっと読んだ。
メールもたくさんいただいた。早く読め、と。こういうふうにせかされるのは初めてかも。それだけ多くの人を感動させたのですね、この本は。99年ダントツの名作と評価している書評も多いし。

で、感想は? と言われると……期待したほどではなかったかな、正直言って。
こんなふうに書くと「この本で感動しないお前の感性って!」とか言われてしまうのだろうか。

もちろんなかなかに感動はした。十分三ツ星だろう。丹念に描かれた心の傷と少年達の想い。読者の気持ちの根っこを主人公たちの心の中にしっかりと下ろさせるその筆力も見事だ。せつないしやるせないし美しい。ただ「魂を揺すぶる」的書評をたくさん読んだ後ではちょっと物足りなく思うのも事実。特に後半。うたいあげすぎている。ちょっと冗長の感がある。読者に伝わっているか心配になりすぎたのかなぁ。ラストなど特に。こうくるだろうなぁと思わせてやっぱりそういう結末なのだが、はっきり言葉にして説明しなくても読者には伝わると思う。ちょっと自己陶酔的になってしまったと思うのはボクだけ?

それと、しっかり二重三重のミステリーしているのだが、誰もこの本に複雑なプロットを望んでいない。中盤からは主人公達の魂の物語として読んでいるから、もう少し単純なミステリーにしてくれた方が良かったかもしれない。さらに「幼年期のトラウマ」という題材は少し飽き気味というのも個人的には、ある。

1999年8月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「東亰異聞」

小野不由美著/新潮文庫/590円

東亰異聞
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あぁ、まだ「屍鬼」読んでいないなぁ、と思いつつ、文庫化されたこれを先に読んだ。
相変わらずの小野不由美ホラーだが、江戸の情緒が満天に残る異次元の東亰(とうけいと読む)の書き込みが素晴らしく、読者は「まだ夜が夜であった頃の大都市」へしっかりワープ出来る。さすがな描写力だ。ミステリーであり幽霊物でもあるのだが、そんなことより異次元東京の夜を著者と一緒に徘徊できる魅力の方が上だろう。

残念なのは「東亰」を舞台にした分だけ読者は最初からあまりミステリーと思っていないのだ。怪談的な物とミステリー的な物の中間な気分で読み進むから、ラストとかが逆に中途半端に思えてしまう。どうせなら舞台設定を本当の明治東京にすれば良かったのに、と思うのだが。

1999年8月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー , ホラー

LV1「神が忘れた町」

ロス・トーマス著/藤本和子訳/ハヤカワ文庫/757円

神が忘れた町
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ミステリー。ロス・トーマスは初読だが「巨匠」なのね。知らなかった。

淡々と硬質でありながらどこかで甘い文章は破綻もなく安定感を持って結末まで導いてくれるが、読者と不思議な距離感がありいまひとつのめり込めないところがある。訳のせいでもあるのだろうか。

物語的にはアメリカの司法制度をちゃんと知らないとなんだかよくわからないところが多々ある。
元最高裁判事も冒頭でかなり魅力的なキャラとして出てくるわりには最後までそのキャラが爆発しない。犯人像にしても書き込みが足りないし、怖くもない。元弁護士のキャラも最後まで立ってこない。うーん。いまいちかも。

1999年7月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「柔らかな頬」

桐野夏生著/講談社/1800円

柔らかな頬
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名作「OUT」から2年。相変わらず見事な内面描写で桐野夏生が帰ってきた。

そのリアリティ、そのストーリーテリング、行間から溢れてくる匂い・色彩、どれをとってもさすがなものである。
特にうまいのは「照明の使い方」。驚くほど陰影に溢れた場面が読んでいる目の前に展開する。これは「OUT」から一貫したボクの印象だ。今回まいったのは病気の内面描写。読んでいるこちらまでが胃の当たりが重くなる胃癌の症状描写など絶品である。病は気から、だとすると、これを読んで病気になる人が出るのではないかと思ってしまうような描写力だ。あ、肉欲の内面描写もすごかったな。

「OUT」同様、これも「脱出」をテーマとしている。
脱出と解放、孤独と自由。そこに死期近い元刑事のイマジネーション、そして追いつめられた主人公のイマジネーション、女親子三代の業の移り変わり、が濃厚にからんでくるあたりが圧巻だ。いくつもの結末の付け方を提示しつつ、幻想と現実の境目が消えていく。どこから脱出するべきなのか、わからなくなってくるところの描き方の素晴らしさ。また、最後の最後の「脱出」も呆然たるものがある。

個人的には直木賞確実だと思う力作。題名がちょっと甘いのが気になる以外はすべてに傑出した一冊である。

1999年6月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「すべてがFになる」

森博嗣著/講談社文庫/714円

すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER
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実によく出来たミステリー。
出だしはなんだか絵空事っぽくてうまく馴染めなかったが、中盤から一気に目が離せなくなる。

簡単に言うとコンピューター系ミステリーなのだが、これが面白いのだ。ショッキングな仕掛けと魅力的な人物造形、謎解き。いままで著者の本は読んだことがなかったが、これから続々文庫化されるそうなのでじっくり読み続けてみようと思う。
ただ、主人公のひとりである女子学生の造形だけはちょっと下手かも。そこが惜しい。なんとなくその下手さ加減が真保裕一の初期を思い出させる。こういう女性キャラって、実際書くのが難しいとは思うんだけど、他のキャラ造形が見事なだけにマジ惜しい。

1999年5月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV1「秘密」

東野圭吾著/文藝春秋/1905円

秘密
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絶賛する人も多いこの話題の本がこの評価とは厳しすぎる、とおっしゃる方もおられようが、ボクにはつまらなかった。まるで極私的意見ですのでご勘弁を。

ちょっと期待が大きかった分だけがっかりも大きかった。これなら北村薫の「ターン」の方が好きかも(題材はちょこっと違うけど)。
なんというか、砂糖菓子のように甘いのだ。いや、テーマが甘いのは悪くないのだけど、テーマに引きずられて人物造形や文体もお菓子のようになってしまった気がする。そのせいでちょっと昼メロチックになった。近頃の浅田次郎のような甘ったるさ。例えばケン・グリムウッドの「リプレイ」のような冷徹さを見習って欲しいなと思うのだけど。

ちなみに、表紙カバーをはずすと本体に絵が描いてある。こっちの装丁の方が好き。カバーデザインは思わせぶりすぎな気がする。

1999年2月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「この闇と光」

服部まゆみ著/角川書店/1500円

この闇と光
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掘り出し物。

服部とくるとまず「服部真澄」となってしまうが、「まゆみ」もかなりいい。実に芳醇な空気を持った上質なミステリーだ。とっても上手に文章を刈り込んでいるのが特に気に入った。簡潔にして明瞭。それでいてこれだけ豊かな表現をしているあたりがただものではなさそう。ミステリーとしての展開も見事で、思わせぶりなラストがまた好きである。

比べて悪いが、服部真澄は映画的。それに対して服部まゆみの本作は小説でなければ出来ない闇の濃さがある。映像化はまず不可能。そこが面白い。他の本も読んでみようっと。
なお、装丁は思わせぶりすぎて嫌い。内容に比べて俗っぽすぎる。

1999年1月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「依頼なき弁護」

スティーブ・マルティニ著/菊谷匡祐訳/集英社文庫/上下各700円

依頼なき弁護〈上〉
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1996年に出た法廷サスペンス。
映画化されたような気もするが…良く知らない。これも本棚に長く眠っていたものだ。ストーリー的にはかなり練り込まれ、どんでん返しもなかなかのものだが、「そんなのあり?」なご都合展開と、「オレって頭いいだろう」的比喩の嵐(特に前半)がわりと鼻に付く。著者の自意識過剰がちょっと見えてきてしまうのが残念だ。
そうやって悪意に見だすと、ストーリー展開もいかにも「よく考えただろ、オレ」という感じだし、数ある伏線も「読者なんて頭悪いんだからこのくらいわかりやすくしといてやるよ」みたいなわざとらしさに取れてくる(←悪意すぎ)。まぁなんというか、良く出来ているけど嫌いなタイプのミステリーかな。人物描写や内面描写があまりにステロタイプなのが全体を「薄く」しているのかもしれない。

1998年12月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「上院議員」

リチャード・バウカー著/高田恵子訳/創元推理文庫/上650円下580円

上院議員〈上〉
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1996年発売のミステリー。

ずっと前から買っておいてあったものをやっと読んだ。面白い。アメリカの政治や選挙の実際、有名人としての生活、上院議員という人生、そしてそれを取り巻く家族やスタッフ、ライバルや敵の思惑など、とてもよく描けていて読者を見事に引きずり込む。主人公の動きにいくぶん不可解なところがあるし、ミステリとしての仕掛けに凝りすぎて人物描写の足を引っ張ったところがあるのが残念だが、単なるミステリで終わらない人生のコクがなんとも気持ちよい。

ミステリーとして作りすぎないで、ある種「文学」として同じ筋を書いた方が逆に面白かったかもしれない。ミステリーにしようとしすぎているのがこの本の欠点なのかも。

1998年12月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「不夜城」

馳星周著/角川書店/1500円

不夜城
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初版が96年。ずっと評判であり続け、映画化もされ、いまだに売れている新宿を舞台にしたハードボイルド。

いまさらだなぁ、と思いながら、やっと読んだ。一読面白い。特にラストなど甘さのヒトカケラもなくショッキングだが、こうでなくっちゃという想いも強い。まぁ全体に好きだな。でもなぁ、なぜか続編を読む気にならない。もうお腹一杯だ。
なぜなんだろうと考えるんだけどよくわからん。「生き残る」という強い欲望を物語の縦軸に感じるのだが、その動機付けが全く見えてこないからかな。本能だよ、と言われればそれまでなんだけど、もう少しそこにカタルシスがあったら(たとえば主人公の過去設定とかで)もっと感動があったかもしれない。

1998年11月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「クリスマスのフロスト」

R.D.ウィングフィールド著/芹澤恵訳/創元推理文庫/880円

クリスマスのフロスト
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94年の文春ミステリー第1位作品だから、何を今更って思う方もいらっしゃるでしょう。

でもこれミステリーで1位を取るってイメージではないなぁ。警察小説ではあるけれど特に推理に目を見張るわけではないし、複雑ではあるけどミステリアスな部分はそんなにないし。
ただ、面白さは抜群。主人公のフロストをはじめとする魅力的な登場人物たち、ぐんぐんひっぱるストーリー、ある意味でとってもイギリス的な筆致など、楽しめる要素に満ちている。ちょっと散漫な部分が随所にあることはあるんだけど、全体の勢いが読者を引っ張るタイプ。今年出た第二作をすぐに読もうと思わせる。

あ、そうそう、この物語、なんと「結末」から始まるんだけど、それが逆に複雑な全体をシンプルに見せていて成功している。緊迫感と期待を持って最後まで突っ走れるのだ。作者はなかなかの才人だ。

1998年11月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「イエスの遺伝子」

マイクル・コーディ著/内田昌之訳/徳間書店/1800円

イエスの遺伝子
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確かに新人作家とは思えない構成力とドラマタイズ。
読者は著者の思うがままに引っ張り回される。分野的には遺伝子ミステリーみたいな感じだろうか、遺伝子という切り口から見た救世主の姿がとっても新鮮だ。たぶん発想のもともとはそこだと思うが、そこからここまで楽しめるミステリーに仕立て上げるとは並々ならぬ力量だと思う。

物語半ばまではその新鮮さと筋立ての巧みさに惑わされてめちゃめちゃ楽しめる。
が、後半はちょっと疑問。まず主人公が都合よく助かりすぎるし、結末の砂糖菓子みたいな甘さも気にくわない。この甘さがあるからこそ「ディズニーで映画化決定!」となるのだろうが、なんだかJ.P.ホーガンがときおり見せるような底なしの性善説で終わっているところがいかにもアメリカ的でちょっと白けてしまう。ま、とはいえ、抜群に面白かったのですけどね。

1998年11月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「黒と青」

イアン・ランキン著/延原泰子訳/ハヤカワ・ポケット・ミステリ/1800円

黒と青―リーバス警部シリーズ
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「リーバス警部シリーズ」と銘打たれている。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞を受賞した力作。

著者の本は本邦初訳だからこれから徐々にリーバス警部を読めるようになるらしい。
題名はストーンズのアルバムから。あの「愚か者の涙」が入っているヤツ。それに象徴されるようにロックはある種この本の基調になっている。読者と主人公を結ぶ架け橋だ。エジンバラを舞台にロックとハードボイルドが入り交じり、凄惨なる自己憐愍と高揚が交互に現れる。

ちょっと会話が洒落すぎているのが全体の色調からいって座りが悪い気がするけど、それもこの本の魅力なのだろう。ボクはもう少し無骨な方が好きだけど。でもまぁとても楽しめます。

1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「密告」

真保裕一著/講談社/1800円

密告
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元オリンピック候補の警察官に降りかかった密告者の汚名。警察組織の腐敗を描く長編である。

相変わらず真保裕一は読ませる。面白い。
が、これに関してはちょっと読後感が悪すぎる。それに主人公の行動がいまいち読者として納得いかないのが難だ。
例えばゴダードの本に出てくる主人公もおバカな行動をとるけど、どこかで納得がいく。それは人物造形の違いだろうか。いや、ちょっとしたセリフの違いなんだろうな。とにかくカタルシスがあまり感じられず、読んでいる間も読後もなんだか気分がすぐれなかった。惜しい感じ。

1998年8月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「闇に浮かぶ絵」

R・ゴダード著/文春文庫/上下各619円

闇に浮かぶ絵〈上〉
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期待のゴダード。いまやトップクラスにフェバリットになりつつある。

上巻はわりと退屈。騙りに騙りを重ねるいつものゴダード節で気が抜けない上に「またかぁ」的ゴダード世界でちょっと読み進むのに根気がいった。

が、さすがゴダード。下巻に入ると一気にジェットコースターである。
息もつかせぬ筆運びに翻弄される。ただ、主人公の存在自体がミステリーのキーであるだけに、主人公の人生的背景を描き込めない構造的欠陥がこの物語にはあり、他の著作に比べて深みが出せなかったのが非常に残念だ。そこらへんの深みが他のミステリー作家とゴダードの差であっただけにちょっと苦しい。
他のゴダード作品に比べると星ひとつくらい劣るかもしれないが、それでも十分三ツ星。上巻で投げ出さないように。

1998年4月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「朽ちた樹々の枝の下で」

真保裕一著/角川書店/1600円

朽ちた樹々の枝の下で
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特殊な職業の人を題材に展開するいつもの真保節。ちょっと前の著作だが、森林作業員と自衛隊がからむよく出来たサスペンスである。

ただ、ちょっと「火曜サスペンス劇場」的薄っぺらさを感じてしまった。「ダイハード」的アクションと「野性の証明」的シチュエーションはまぁいいとして、ちょっと盛り上げ方がサスペンスしすぎているというか…。なんだかいろんなものを合体させてエンターテイメントにした感じ。題名は妙に文学的だし。
彼のいつもの切れ味に比べると数段落ちる印象。もちろん真保裕一の中では、なのだけど。普通の作家よりずっと面白いけど、彼にしてはちょっと不調、という感じをうけた。

1998年2月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「OUT」

桐野夏生著/講談社/2000円

OUT(アウト)
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なぜ直木賞をとれなかったのか、と不思議な気持ちになる。いったい審査員は何を見ているのだろうか。

確かに警察の追及部分は甘いし、男が復讐していく過程の心の動きももうひとつ突っ込みが足りないかもしれない。
だが、主婦が死体を解体するに至る「寂しさ」はとてつもないリアリティで書かれているし、各登場人物たちのキャラクター造形・リアリティもまったく見事。情景描写も簡潔かつ充分かつ異様なリアリティ。ストーリーテリングも上出来だ。こういうイマな本に直木賞をあげないと、そのうち日本レコード大賞みたいに全く権威がなくなっちゃうんじゃないだろうか。

欲を言えばエピローグが弱すぎるかも。こういうエピローグならないほうが良かったのではないだろうかとちょっと思ったけど。

1998年2月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「レディ・ジョーカー」

高村薫著/毎日新聞社/上下各1700円

レディ・ジョーカー〈上〉
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「かい人二十一面相」に題材を得てその完全犯罪をするどく描き込んでいるが、実はこの本は日本の偽りの成長を支えた歯車達の「疲労」について書いている。働き続け犠牲になり続けた結果こんなに醜劣な社会になってしまったことへの救いようのない「絶望」について書いている。
組織という名の偽善、忠誠という名の暴力、そして成長という名の犠牲……一読絶望の地平が広がる。こんなにも日本という社会の先行きを憂い(というかもう匙を投げている)、日本人の疲弊をリアルに描いた小説には近来お目にかかったことがない。

ラストにいくらか救いのようなものが用意されているが、それは著者が編集者に言われて仕方なく入れたのではないか、と思わせるくらいこの本は著者の悲痛なる叫びで埋め尽くされている。ただ、読者にこうして絶望と無力感を味わわせるだけでいいのか。小説家としてそれだけでいいのか、それは疑問だ。

余談だが舞台はボクが子供時代に過ごした土地、東京の大森山王。地元っ子だからこそわかるのだが、作者の下調べの周到さには舌を巻いた。さすがだなぁ。

1998年1月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「奇跡の人」

真保裕一著/角川書店/1700円

奇跡の人
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不思議な小説である。「ストーリーテリングの真保」にしては大人しいなぁ、なんか偽善的だなぁと読み進む。
でも大丈夫。ラストの方でいろいろひっくり返して著者の真骨頂を示してくれるから。なんだか「野性の証明」を思い出させる展開。「野性の証明」の一人称版か。

ただ帯にこう書かれてはたまらない。「圧倒的な人間愛にあふれた生命の鼓動」だって。おい!ちょっと違うだろう。皆さん、違うんです。そういうお涙物ではありませんよ。ちなみに著者は長年不得意だった「女性描写」をやっと掴んだらしく今回はとても自然に描けている。次作も楽しみ。

1997年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「蒼穹のかなたへ」

ロバート・ゴダード著/加地美知子訳/文春文庫/上下各571円

蒼穹のかなたへ〈上〉
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この頃ゴダードばっかり読んでいるような気がする。
その中でもこれは出色だ。相変わらずちょっとドジな男主人公のシーク&ファインドな物語だが、今回はより読後の余韻が長い。そして衝撃的なラストシーン……これぞゴダードだよなぁ、と嘆息させられる内容だ。名作「千尋の闇」に迫っている。

いつもに比べて歴史的要素も少ないし、陰謀の首謀者も途中で読めてくる作りなのだが、ラストのインパクトが強くとても印象的な小説となった。オススメ。ちなみにこの主人公は最新作でまた活躍するとか。ゴダードお気に入りの主人公らしい。楽しみ。

1997年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「取引」

真保裕一著/講談社文庫/880円

取引
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このところの日本ミステリー界をぶっちぎりでリードしている著者のずいぶん前の作品。92年、デビュー2作目のものである。

実録物ぽい作りでちょっと安っぽいところがあるのだが、ストーリーテリングの才はやはり図抜けている。
映画的効果を狙った場面展開といい、女性キャラの描き方のヘタクソさといい、今の著者の面影はかなりある。そういうのを見つけて喜んでいるのはもうボクがファンだからなのだろう。まぁでも良く出来たミステリーだ。今読み返しても時代の古さを感じないところがすごい。

1997年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「コールド・ファイア」

D・R・クーンツ著/大久保寛訳/文春文庫/上下各520円

コールド・ファイア〈上〉
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クーンツは「ウォッチャーズ」以来久しぶりに読んだ。
結論からいうとイマイチだった(クーンツにしては、だけど)。ものすごく素敵な前半と期待させる中盤と興ざめの後半を持つ。前半の素晴らしさを受けて、後半を書き直してあげたいなどと生意気にも思ったりするくらい。もうちょっと期待したのだけどなぁ。でも個々に印象的な場面はいっぱいあって楽しめたと言えば楽しめた。
ちなみに編集者による帯のコピー(「クーンツが変わった。さらに良くなった。ベストと言ってもいい!」)はオーバーすぎると思う。宮部みゆきのながーい解説はなかなか面白かった。

1997年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「リオノーラの肖像」

ロバート・ゴダード著/加地美知子訳/文春文庫/686円

リオノーラの肖像
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イギリスのメージャー元首相の「一番好きな小説」らしい。
多分に反戦記述の部分を意識しての発言だと思うが、やっぱり、やっぱりそれでもゴダードはデビュー作「千尋の闇」に尽きる、と思う。ただこれも間違いなく三ツ星級なのである。二転三転するストーリー、ラストにかけての畳み込みの見事さは彼ならではだし、キャラクターの独特の存在感にも感服する。本作で惜しいのは読後の余韻が少々足りないところで、人生に対する自己憐憫的快感をもっと味合わせて欲しいと個人的には思うのである。まぁこれも傑作「千尋の闇」と比べてであるが。

それにしても全作に共通するのは主人公(男。女はなぜか利口に書いてある)の間抜けさ。わざと間抜けに描いて展開を二重三重にしようとしているのだが、こう間抜けだとちょっと唖然とするところがある。

1997年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「さよならは言わないで」

ロバート・ゴダード著/奥村章子訳/扶桑社ミステリー/上下各583円

さよならは言わないで
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デビュー作にして偉大な名作「千尋の闇」には到底かなわないのであるが、これはこれでやっぱり三ツ星級なのである。
騙りの連続で読者をどんどん煙に巻く手法はこの本ではちょっとうすいが、相変わらずの人間絵巻。充分楽しませてくれるのだ。ただ、主人公を始めとする登場人物たちが腑に落ちない行動をたびたびするのが残念。思い入れを邪魔されるところがある。

最後に注意!
裏表紙に書かれた粗筋を読んではいけない。絶対に。ほとんど筋が書いてある。扶桑社にクレームを付けたいくらい。どういうつもりなのだろう。必ずブックカバーを書店で付けてもらうこと。

1997年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「鷲の驕り」

服部真澄著/祥伝社/1800円

鷲の驕り
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勢いで書いたせいかちょっとシンドイところもあった前作「龍の契り」に比べて格段の出来。じっくり自信を持って書いているのがうかがえる。2作目のプレッシャーを見事に跳ね返す快作である。

複雑に交錯するストーリーを見事に紡ぎあげていてただただ感心するしかないが、物語の前の方で起きた事件の謎のいくつかが最後の方まで謎のまま残っていて読む側はすっかりそのことを忘れている、なんてことがいくつか起こっている。書き手側は鳥瞰できるからそこらへんは「上手に紡いだ、ウフフ」と思っているかもしれないけど、読み手側は読み返したりしつつ読まなければよく理解できない。そのくらいかな、文句は。

それにしても……僕と同じ1961年生まれだって。なんだかいろいろ反省してしまうボクなのでした。龍(中国)、鷲(アメリカ)ときて、次は熊(ロシア)かな。

1997年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「極北が呼ぶ」

ライオネル・デヴィッドスン著/文春文庫/各560円

極北が呼ぶ〈上〉
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冷戦後のスパイ小説はこうなるんだな、と感慨深い。
極寒のシベリアを舞台に繰り広げられるアドベンチャー・スパイ・サスペンスで、下巻途中からの緊迫感は尋常でなく身を震わされる。これだけでも三ツ星をあげたいくらい。

だが、主人公へのカタルシスが弱い、主人公がそこまでする動機が鮮明でない、主人公の恋愛に感情移入できない、そしてなにより命を掛けて受け取りにいく情報がそんなに魅力的な内容ではない……など、ちょっと足を引っ張る要素が多いのだ。惜しい! この、稀に見る不思議なキャラの主人公がもう少ししっかり書きこんであったら「傑作」だったのになぁ。

1997年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「ホワイトアウト」

真保裕一著/新潮社/1800円

ホワイトアウト
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著者の本は「奪取」に続き2冊目。
他のも全部読もう、と読み終わって思った。実に良く出来ている。

一応サスペンス/ミステリーものだが、のっけから見事に小説世界に引きずり込み、最後まで巻置くあたわず。キャラの描写も素晴らしく読了後の充実度が違う。このままハリウッド大作映画になる出来栄え。映画化されれば「ダイハード」を越えるだろう。

ストーリーテリング、ディーテイルの書き込み、リアリティ、すべて高レベルだ。
ただ、ストーリーに厚みをつけるはずだった爆破事件のエピソードがそんなに効かなかったのが惜しい。

1997年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「龍の契り」

服部真澄著/祥伝社/1800円

龍の契り
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確かにすごい力作である。日本人が書いたとはとても思えない国際謀略サスペンスで、大部を飽きさせずに読ませる筆力は並のものではない。しかもデビュー作。これを褒めずして…と言いたいところだが、スゴクいいところまで来ているだけに惜しくてたまらない。

まず描写にムラがある。オーバーに書きすぎるときがあってしらける。キャラの立ち方にメリハリがない。だから読み終わってからの印象が薄い。設定も都合が良すぎる。こんなにうまく行くかよ、とぼやいてしまう。全体に「薄い」のである(本自体は厚い)。上記「ホワイトアウト」と比べるとよくわかる。細部の書き込みが「薄い」分ストーリーだけの本に終わっているのだ。

でも三ツ星だろうなぁ。これを褒めずして…だ。さっそく次作「鷲の驕り」を読もう。龍(中国)の次は鷲。アメリカですね。ってことは3作目は熊(ロシア)か?

1997年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV2「古い骨」

アーロン・エルキンズ著/青木久恵訳/ハヤカワ文庫/580円

古い骨
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古典的な推理小説。
現代のシャーロック・ホームズとでも言おうか。骨が専門の学者がワトソン役を従えて難事件に挑んでいく。

トリックは新鮮味がないしキャラクターも特に魅力的という訳ではないのに何故か人を掴んで離さない魅力がこの小説にはある。トリックは物語の途中で読めてしまう。それでもなんか魅力がある。不思議な推理小説。時間つぶしには最適。アメリカ探偵作家クラブ賞をもらっている。

1997年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

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LV5「千尋の闇」

ロバート・ゴダード著/幸田敦子訳/創元推理文庫/各730円

千尋の闇〈上〉
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素晴しい。傑作だ。小説の魅力を満喫できる。映画ではこうはいかない。
一読巻置くあたわず。寝不足になること受け合い。騙りにあふれたストーリーテリングの妙。キャラクターの見事な立ち上がり方。ストーリーテリングだけに終わらない美しい叙情性。哲学。トレヴェニアンを読んだときのような圧倒的な諦観に包まれる。この本は著者の処女作だが他の著作も急いで読みたい。

敢えて言えば、邦題に納得がいかないかも。原題は「Past Caring」。この作品にこの邦題でいいのだろうか。
これについては文庫版の訳者あとがきで説明がされているがいまひとつ納得がいかない部分がある。しかも千尋を「ちいろ」と読ませるという狙いもどうなのだろう? 個人的には少し小難しくしすぎな気がした。

1997年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「海は涸いていた」

白川道著/新潮社/1733円

海は涸いていた
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日本産ハードボイルドのレベルアップを実感させられる長編。
著者2作目らしいが、ベテランのような筆力と構成力で一気に読ませ、ラストでは不覚にも泣いてしまった。

ストーリーはまぁ一種の「砂の器」ではあるのだが、語り口が上手でベタベタはしていない。
ヤクザ側と刑事側の双方の視点に立って、徹底的にドライに描かれている。ただある主要人物(女)の描き込みが少々足りないし(硬質な文体なので仕方ない部分もあるが)、ペルーの話も胸に響いてこない。こういう細部の書き込みをして、もう3割くらい長い物語にしても良かったと思う。リアリティは充分だしエンターテイメントも充分。だから長くても持つと思う。

とにかく、ボクはすばらしいと思った。おすすめ。

1997年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「蒲生邸事件」

宮部みゆき著/毎日新聞社/1700円

蒲生邸事件
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いいなぁ、宮部みゆき。抜群のストーリーテリングで今回も楽しませてくれた。
簡単に言えば、現代の浪人生が2.26事件当日の東京にタイムスリップしてそこで殺人事件に巻き込まれる、というお話なのだけど、戒厳令下、密室化した帝都でタイムスリップのパラドクスを絡めながら殺人ミステリーを構築するなんざ、並の人にはできない技だ。

ただ人物描写がティピカルなのは相変わらず。
特に主人公。感情の動きも行動もかなりわざとらしく、描写も凡庸。途中でちょっとしらけてしまった。でもラストあたりで一気に盛り返すので許す。時を越えることで愛の悲しみが深くなるラストなど恋愛物としても秀逸。

1997年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「奪取」

真保裕一著/講談社/2000円

奪取
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サイコーに面白い。真保サイコー。
偽札犯罪のお話と言ってしまえばそれまでなのだが、筋に技巧を凝らしてあって読み始めたら止まらない。ハリウッド映画の原作として売ってもいけるんじゃないかな? そんなストーリーテリングの妙を見せてくれる。最後には読者をも煙にまくあたりが好ましい。

でも他のキャラに比べて女性キャラが弱いところがこの小説の難点。サチオの性格付けがステロタイプすぎる。これで女性キャラがもう少しひねって描き込んであれば本当にハリウッドに出してみたいくらい。お勧め。

1996年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

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