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ノンフィクション(77)

LV5「『エンタメ』の夜明け」

馬場康夫著/講談社/1400円

「エンタメ」の夜明け ディズニーランドが日本に来た!
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副題が「ディズニーランドが日本に来た!」。
ホイチョイ・プロダクションズのリーダー馬場康夫の書き下ろし。日本のエンタテインメント・ビジネスを「始めた人」へのオマージュであり、日本のエンタテインメント草創期の記録でもある。

まず文章がいい。事実との距離のとり方が絶妙。客観的で独白的でハードボイルドだ。たぶん(たぶんだけど)森山周一郎の声を意識して書いたんじゃないかな(笑)。彼が読むとびったりハマル感じ。そんな文章である。変に熱いドキュメンタリーにせず、ちょっと上から硬派かつ冷めた目で俯瞰している。これはたぶん著者自身がこの題材に惚れ込んでいるからこそ、なのだろう。いくらでも熱く書けるからこそ、逆にきっちり客観的に距離を置いた感じ。そしてその手法は成功している。

内容は、小谷正一と堀貞一郎という2人のプロデューサーを軸にしたノンフィクション。
ふたりとも広告会社の電通にいて大阪万博、そしてディズニーランドの立ち上げに関わった。その半生と仕事を丹念に追った上で著者はこう言い切っている。「ディズニーランドの出現ほど、日本の行方を変えたできごとはなかった」と。このちょっと鼻白む結論もこの本を読んだあとだとすとんと胃の腑に落ちる。そして一般的には「無名」であるこのふたりが日本にボディーブロー的に与えた影響の大きさに感動するのである。

あえて言えば、盛り上げたあげくのディズニー誘致顛末を多少端折ったのが残念。そこがこの本の骨ではないとはいえ、ちょっとだけはぐらかされた感も残る。また、小谷正一の記述ももう少し読みたい。特に引退前後からの記述が(資料が少ないとはいえ)もう少し欲しいのも事実だ。

ホイチョイでの活躍を含めて、著者は「時代の空気とそれを作っている人々」が本当に好きなんだろうな。時代の観察者として馬場康夫という逸材を持っている我々はとても幸せなんだろうと改めて思う。
これからエンタメを目指す若手は特に必読。現在普通に享受しているエンタメの裏にある歴史を知りたい人もぜひ読んで欲しい本。

2007年4月10日(火) 19:28:11・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV4 「アフリカにょろり旅」

青山潤著/講談社/1600円

アフリカにょろり旅
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幻の熱帯ウナギ捕獲のためにアフリカ奥地に入り込んだ東大の研究者による冒険記。

とはいえ研究の書ではまるでなく(題名でわかるか)、いわゆる「爆笑紀行」的趣き。特殊すぎるその体験のすべてが事細かく書かれてあり、読者は日本のベッドで彼らの地獄の日々(そーとー地獄)をウヒヒと笑いながら追体験できる。なんていい世の中なのだろうか(笑)

世界に存在するウナギは全18種類。東大の研究室はそのうち17種を採集し終わっていた。だがアフリカに生息するラビアータという種類だけがどうしても手に入らない。それを採集するために、著者青山潤と相棒の渡邊俊がふたりで灼熱のウナギ捕りツアーを敢行する。マラウイ、ジンバブエ、モザンビーク。アフリカ南部奥地でひたすらウナギを探す毎日。次々に起こるアクシデント。灼熱。危険。焦燥。体力の限界。友情。それら全部引っくるめて「にょろり旅」。ひたすら明るい筆致が救いとなり、読者は気楽に旅を楽しめる。著者は意識していないかもしれないが、もう少しでも筆致が暗かったらと意外と読んでいて厳しかったかもしれない。そのくらい過酷さが行間に感じられた。

この本はお笑い系ではあるが、実はこのウナギ研究班、ちゃんとスゴイ。世界で初めてニホンウナギの産卵場をほぼ特定したりしている。そういう理系学者がこういうハードルの低い本を書いて研究の現場を面白おかしく紹介してくれたこと自体が素晴らしい。こういった本がもっともっと増えるといいなぁ。最先端の研究の現場ほど面白いものはない。ちゃんとボクら素人にもわかるように翻訳して楽しく書いてくれれば、これほど知的冒険に満ちた題材はないだろう。

2007年4月10日(火) 18:26:29・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , , 雑学・その他

LV5「気まぐれコンセプト クロニクル」

ホイチョイ・プロダクションズ著/小学館/2310円

気まぐれコンセプト クロニクル
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1981年からコミック誌「ビッグコミックスピリッツ」で連載を続けている広告業界4コマ漫画「気まぐれコンセプト」を四半世紀分まとめてまとめた974ページの超大作。
結果的に「日本現代風俗史」的趣きになっており、これを見れば当時の流行りがすべて肌実感できる作りになっている。さすがホイチョイ。まぁ映画「バブルへGO!!」公開との連動販促的な部分もあるとは思うが、実際こうやって四半世紀分を読み返してみると実に貴重。小分けにして出さず、ドカンと辞典的に出したあたりにセンスを感じる。

「気まぐれコンセプト」は1984年にも単行本が出ている(もちろん持っている)。
このクロニクルはそれ以降1984年〜2007年までのセレクト集になっている。ボクは1985年に広告業界に入ったので、ほぼボクの入社以来の広告業界史がこの本に入っていると言っても過言ではない。もちろんホイチョイ特有のデフォルメはされているのだが(いや、本当にめちゃめちゃデフォルメされてます)、とはいえその「デフォルメ具合」がその時代の空気を表していて、これらの4コマを読むだけで相当リアルに当時の空気が思い出されるのだ。「わかるなぁ」「あったなぁ」の連続だ。

ホイチョイは他にも「見栄講座」「OTV」「東京いい店やれる店」「私をスキーに連れてって」「彼女が水着に着替えたら」などで、「その時代そのものを本やフィルムにきちんと定着させておいてくれた」。それは本当に有り難く、とても感謝している。しかもそこに変に意味を持たせず、ミーハーに徹したアプローチ。素晴らしい。並のセンスでは出来ないことである。

ま、厳しく言えば、2007年現在の「広告業界の今」を捉えきってはいないかも。少しワンパターンになりすぎている。でもそれも長く続けてきたからこそだし、ワンパターン漫才を楽しむような「味」にはなっているからいいのだが。

2007年3月21日(水) 18:53:03・リンク用URL

ジャンル:漫画 , ノンフィクション , 雑学・その他

LV5「魂の森を行け」

一志治夫著/新潮文庫/438円

魂の森を行け―3000万本の木を植えた男
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副題は「3000万本の木を植えた男」。森を作るために植樹を続ける超人・宮脇昭の人生と主張を丹念に描いた傑作である。必読。

どこかの雑誌で「人類は植物に寄生する動物にすぎない」という主張を読んだのがボクにとっての宮脇昭との出会いである。目ウロコだった。確かに人類は植物(もしくは森)を最大限利用して発展してきた。守られもしてきた。なのに植物や森を上から見て蔑んでいる。守ってやる、という不遜な態度すらとっている。このスタンス自体が大きく違っていたのである。寄生する立場なのだ。

その後、数々の植樹活動も知り、急いでこの本を買った。そしてその考え方と実行力に感動したのである。宮脇昭自身、単なる活動家でなく、日本を代表する植物生態学者なのだが、彼の「宮脇方式」による森の増やし方のなんと理にかなっていることか。その土地のもともとの植生に沿った森作り。だから最初の3年ほど手入れしてやればあとは永遠にメンテナンスフリーなのである。日本だけでなく中国やアマゾン、アフリカでも宮脇方式が広まっている。日本では「鎮守の森」にその土地の植生がそのまま残っている。ものすごい勢いで減りつつある鎮守の森を再び増やす活動も彼の目標のひとつである。

信念と行動と狂気の人・宮脇昭の破格な人生をなぞるだけでも刺激になる一冊だが、その発言、実行、そして成果を知るためにも是非読むべき本である。読後、「人間が森と共生することで、結果として地球環境が守られるのだ」というシンプルな構図が見えてくるだろう。木を植える。森を作る(宮脇方式だと5メートル幅あれば森が出来る)。そういったゴールがクリアに見えてくるノンフィクション。

なお、宮脇昭自身「木を植えよ!」という本を書いているが、それよりも先にこの評伝を読んだ方がわかりやすいと思う。

2007年1月30日(火) 12:42:51・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 教育・環境・福祉 , ノンフィクション

LV5「Gファイル ー長嶋茂雄と黒衣の参謀」

武田 頼政著/文藝春秋/2000円

Gファイル―長嶋茂雄と黒衣の参謀
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TVで移籍会見する日ハムの小笠原道大選手に向かって「よりによって巨人に行くな〜!」と叫んでしまうのは、今年になって妙に北海道と縁が深くなったからだけではない。このところの巨人に嫌気がさしているからでもない。どうせなら阪神に来て〜というファン心理でもない。この本を読んだからである。
まぁどのチームに行っても実はそんなに変わらないのかもしれないが、読売ジャイアンツという巨大泥船にわざわざ選んで乗り込むことはない。このチームはどうやっても変わらない。変われない。いったん浮かび上がるかもしれないが、また必ず沈んでゆく。この本に書かれていることが本当ならば。

この本は、アメリカ仕込みの最新スポーツ理論をもとに(ちょっと「マネー・ボール」を思い出した)、長嶋巨人のメークミラクルを長嶋茂雄の陰の参謀として完璧に演出した、河田弘道という人間のノンフィクションである。彼が「誰にも知られていない長嶋茂雄の陰の参謀」として在職した期間(94〜97年)に実際に長嶋監督(当時)に指示・提供した5000ページにも及ぶ膨大な「G FILE」を元に書き起こした労作だ。

長嶋茂雄の快活・苦悩・成功の裏側・実像、 選手・他チーム監督達の素顔、 優勝の裏側・確執・ドタバタ、 選手トレードの暗闇、 読売ジャイアンツという伏魔殿の裏の裏、 今後も変われないであろう組織の疲弊と老害、などを粘っこい筆致で活写している。というか、読み終わってまず感じたのは、日本の組織のどうしようもない閉塞感みたいなもの。結局改革に挫折していく河田弘道の絶望感がもう少し濃く描かれていれば、もっと普遍的なテーマになっていたかもしれない。

長嶋ファンは一読ちょっと呆然とするだろう。
でもボクは彼が「常勝軍団として勝ちにこだわる監督」から「日本中で愛される長嶋茂雄」を演ずる方に方向転換&妥協したことを責められない。家族よりも自分を取ったことも責められない。天性の性格、しがみつき、義理など、いろんな要素があるとは思うが、あえてその役目を負った部分もあると思うのだ。それはそれで立派なことである。日本は彼の笑顔でずいぶん救われても来たし。

勝つための冷徹なサイエンティストとしての河田と、娯楽&人気商売&自分を優先したエンターティナーとしての長嶋。彼らふたりが完璧な二人三脚で歩いていたこと自体が奇跡であり、その後の決別は必然だったのだろうと思う。ま、そこに渡邉恒雄氏が絡んでくるので大変複雑な様相を呈すのだが。

個人的にはPNFという最新スポーツ医科学(手技)が興味深かった。PNFを受けた日の松井秀喜は実に7割の打率を残したという。いまもアメリカで受けているかなぁ…。

2006年11月23日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , スポーツ

LV5「ココロミくん」

べつやくれい著/アスペクト/1000円

ココロミくん
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人気サイトデイリーポータルZには人気ライターが何人もいるのだが、その中でもボクの一番のお気に入りである「べつやく れい」による連載を単行本にしたもの。

題名通り、いろんなココロミをするものである。
「逆さまになって食べても胃に入るのかココロミる」「頭にバックミラーをつけたら便利かココロミる」「ルーズソックスで人文字になることをココロミる」「キューキューいうサンダルの工作をココロミる」「ガンコなラーメン屋に叱られることをココロミる」……って、こう書くとつまらないな。でも実際はとても面白い。彼女の目の付け所とセンスが素晴らしい。デイリーポータルZ自体が脱力系「大人の実験室」なので、基本は実験&工作であるのだが、そこに彼女の絵と独特のセンスが入り込むといきなり数倍面白くなるのである。

マンガには実写が縦横無尽に組み合わされ、読んでいて飽きない構成になっている。まぁサッと読めてはしまうのだが、べつやくファンにはたまらない一冊。ちなみに著者はあの別役実氏の娘さんらしい。

2006年11月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:漫画 , 雑学・その他 , ノンフィクション

LV1「100歳まで生きてしまった」

ニーナ・エリス著/実川元子訳/新潮社/1600円

100歳まで生きてしまった
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100歳以上の老人をセンテナリアンと呼ぶらしい。この本はそのセンテナリアンを著者がインタビューしまわった本である。
インタビューしたのは19人。著者はインタビューしながら、わりと正直に「つまらない」「頭が痛くなる」「何言っているかわからない」など書いているが、読んでいる側も同様で、全体に心躍るものはなく、なんだか老人の戯言につきあわされた思いが残る。センテナリアンならではの知恵や含蓄や到達点が示されるわけではなく、単に100年以上の人生が淡々と提示され、そこに著者自体の人生と感想が重なるだけなのだ。
100歳以上というのはいろんなことがシンプルになってしまっていて、インタビューしてもすべて同じようなものなのかもしれない。センテナリアンをインタビューするからこそ本になるのだが、老人に人生の知恵を語らせるなら、もうちょっと生に色気があるであろう80歳代とかにした方が面白いかもしれない。まぁなんつうか、そんなに得るものがない本だった。

2004年1月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV3「無名」

沢木耕太郎著/幻冬舎/1500円

無名
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あの沢木耕太郎が無名の人である実の父親の死について書いたというのだもの、読まざるをえないだろう。
でも、実はあまり期待しなかった。沢木耕太郎はある冷たい客観性を持った上で対象物に(仕事として)熱く近づいて行くときにこそそのチカラを発揮すると思うから。父が対象物というのは少し出発点がウェットになりすぎ、著者のいい部分が活かされないのではないかと予想したのだ(名作「深夜特急」も、彼は基本的に対象物に冷たい。そしてそれを熱めに書く。逆のように思っている人も多いと思うが、ボクはそう思う。まぁ時間を置いて書いたらしいのもあるかもしれないが)。

ボクの予想はある部分当たりある部分はずれた。どうも父親に対してもともとウェットではなかったようだ。だから彼の文章の良さはキープされていた。が、熱く近づくには苦しい対象物だったようで、ぐっと胸に来るチカラが全体を通して感じられなかった。たぶん著者自身、抑制を効かせることを意識していてそれが効き過ぎたのかもしれない。また著者ならではの掘り下げがいまひとつなのも不満。全体にまぁまぁ良かったのだけど、沢木耕太郎が書くならもっと何かを期待してしまう。そんな感じ。

2003年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV3「美麗島まで」

与那原恵著/文藝春秋/1600円

美麗島まで
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著者が、亡くなった母親、そして家族の歴史を、沖縄〜台湾(美麗島)までゆっくり静かに追ったノンフィクション。
と書くと硬派っぽいが、ちょっと須賀敦子のような静かな筆致と地道なルーツ探しや地味だが豊かな旅などが重なり合ってとても味わい深く優しい一編に仕上がっている。母親を追っていく過程でさまざまな出会いをし、偶然としか思えない巡り合わせもあり、著者はこの本の中でゆっくり成長しているようである。
読み進むうちに、沖縄と台湾の歴史も副産物的に理解される。家族を追いその周辺を描写しながら、結果的に戦前戦後を日本と台湾に挟まれながら生きた沖縄人たちの姿まで浮き彫りになってくる。著者は東京で生まれ育った沖縄二世。沖縄人でも大和人でもない視点からこの本を書くことで自分の精神的ルーツを確立したい気持ちもあったのだろうと思う。美麗島までの旅は、著者にとって自分への旅でもあったのだ。

2003年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV5「一九七二」

坪内祐三著/文藝春秋/1800円

一九七二―「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」
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著者に指摘されるまで意識もしなかったが、確かに1972年というのは時代の変わり目だ。前書きにも書いてあるが「はじまりのおわり、であり、おわりのはじまり」なのだ。ここまで顕著に時代の境目ってあるのね、とまずそれにビックリした本である。

1972年に何があったか、例をいくつか上げよう。
札幌オリンピック。連合赤軍浅間山荘事件。横井庄一グアム島で発見。沖縄返還。佐藤栄作引退。田中角栄「日本列島改造論」発表。「四畳半襖の下張」発表。日本プロレス中継終了。「ぴあ」創刊。日中国交回復。カンカン・ランラン到着。ローリングストーンズ幻の初来日。森昌子新人賞……まぁ詳しくは本書をお読みいただくとして、これらひとつひとつの事件がすべていろんな事象の境目になっているのである、という分析を細かく緻密に著者は書いていく。
それらがこじつけに感じられないのは著者の筆力のおかげでもあるのだが、実際そうなのだろうと納得が行くもの。1972年あたりに中学高校大学を過ごした人たちには実感をもって「あぁ、あそこが曲がり角だったのか」と肌感覚でわかることだろう。個人的には浅間山荘前後の記述の掘り下げ方が少々くどいもののいろいろ発見があって面白かった。

ちなみに坪内祐三の本は読後感がいつも尻切れトンボである。
彼自身三部作と言っている「靖国」「慶応三年生まれ七人の旋毛曲り」そしてこの「一九七二」もその感があり、厚さを倍にしてもいいからキレイに満足させてほしいと読後に思った(この本も400ページ超でいい加減長いのだが)。きっと著者としても収拾つかなくなっちゃうのだろう。テーマも素材も膨大ゆえに。

2003年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 評論

LV5「ヤスケンの海」

村松友視著/幻冬舎/1600円

ヤスケンの海
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2003年1月20日他界したスーパーエディター安原顯(あきら)、通称ヤスケンの評伝。

彼の葬式で幻冬舎社長見城徹が村松友視に「書くしかないでしょ」と言ったのが始まりで、同年5月のスピード出版になった。
著者は中央公論の文芸誌「海」編集部当時ヤスケンの同僚だった間柄で、いわゆる親友。他界後まもなくという動揺や親友であったという心情、そしてスピード執筆という悪環境を感じさせない落ち着いた筆致で読者をヤスケンの世界に連れて行ってくれる。

個人的にはまゆみ夫人や娘さんの描写がもっと読みたかったし、ヤスケンの体臭に近い部分の記述が少ないとも思った。著者との仕事関係を中心とした内容になっているので、ヤスケンの表面的な部分しか浮かび上がってこない評伝になってしまっている。しかも死後評伝一番ノリを目指した出来の荒さもちょっとある。ただ、著者はヤスケンが中央公論にいた頃のエピソードを誰よりも知っているので、その辺の話は実におもしろい。

ヤスケンの人生を追った評伝にしないで、ヤスケン-ムラマツの編集魂血風録みたいな感じにテーマを絞って書いていたら傑作になったかもとちょっと思う。
まぁでも、そういうことを除いても十分な質と量かもなぁ。いろいろ条件を考えると。

ヤスケンの書評は、個人的にもっとも信頼していた。本書の中にヤスケンの言葉としても書かれているが「こと文学・芸術に関しては送り手(編集者)の偏愛以外、頼れるものはない」と考えているヤスケンの書評はまさに偏愛に満ち、ダメな物は心底ダメと切り捨てる刀の切れ味も素晴らしく、その激しさに戸惑いつつも参考にせざるを得ない説得力に満ちていた。あぁあの書評がもう読めないのだなぁと悲しみつつ、彼の一貫性のある半生に感動する。ヤスケンの生き方も、著者の書き方にも、拍手を送りたい。

2003年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV5「不肖の息子」

森下賢一著/白水社/1900円

不肖の息子―歴史に名を馳せた父たちの困惑
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副題が「歴史に名を馳せた父たちの困惑」。
偉大な父と、そういう父を持ってしまった息子(たいていがしょーもない)の人生を集め、ざっと鳥瞰した構成だ。

「ジョー・ケネディとその息子エドワード」「エジソンと息子トーマス・ジュニア、ウィリアム」「カポネと息子ソニー」「ヘミングウェイと息子グレゴリー」「ロックフェラーと息子ネルソン」……。
著者は淡々と必要最低限の事実を並べて父と息子の人生を追うのだが、それが実にいいリズムとペーソスを生んでいる。いろいろ突っ込みたくなる出来事満載なのだが、中途半端に突っ込まない態度がこの本をいいものにしている。すごすぎる父を持った息子の人生、というとなんか特殊な例のようだが、これだけまとめてそういう例を読んでいくと、人の生のある普遍が見えてくるのもおもしろい。

2002年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV5「謝々!チャイニーズ」

星野博美著/情報センター出版局/1400円

謝々!チャイニーズ―中国・華南、真夏のトラベリング・バス
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「転がる香港に苔は生えない」で大宅賞を取った著者のデビュー作。写真集をふくめて著者の本はほとんど購入しているボクであるが、デビュー作が一番最後になってしまった。

で、感想はというと「一番おもしろいじゃん!」である。よくデビュー作にはその著者のすべてが入っているというが、まさにそんな感じ。訥々とした静かな語り口と、若くして人生の軸がぶれない安定感が全編を貫き、読者は安心して星野博美ワールドの中に埋没していくことが出来る。

副題は「中国・華南、真夏のトラベリング・バス」。
ベトナム国境の街東興(トンシン)から上海までバスを使って彷徨っていくノンフィクションだ。トラブル続きのバス旅行。いまの流行で行けば、ハイテンション・カルチャーギャップ紀行文にするのが一番お手軽なのだろうが、著者は性格の暗さ(?)もあって、じっくり足を踏みしめる。そのことが、この本を「こんな旅行をした」という単なる紀行文ではなく「こんな人生を生きた」という著者自身の物語にしている所以だろう。何度か読み返してみたくなる名ノンフィクションである。

2002年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション ,

LV5「ファッキン ブルー フィルム」

藤森直子著/ヒヨコ舎/1800円

ファッキンブルーフィルム
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著者の個人サイトで毎日つけられていた日記を元に構成された本。
元の日記にはなかった描写も出てくるが(そして元の日記にあった描写が削除されているところもあるが)、基本的には日記そのままのノンフィクション。田口ランディの「アンテナ」はこの著者をモデルにしている。で、この日記の一部を無断使用して盗作判決を出されてた。様々なすれ違いがあったようだが、この本のあとがきは田口ランディが書いておりベタ褒め。発売段階(01年4月)では問題はまだ顕在化してなかったらしい。映画化も進行中でありいろいろ話題の本である。

著者はバイセクシャルでSMの女王様(つまりS)を仕事としている。
読み始めてすぐ、SMクラブに来るノーマルでない客たちの描写に驚愕し引き込まれる。そして著者の彼女や彼氏とのエロい日常を楽しみ、キワモノ的日常を売りにした本と自分の中で位置づける。が、読み進むに従ってそんな低いレベルの本ではないことに気づいていく。そのへんの進行が自然で見事。そのうえ、日記なのにせつなくも美しい結末まで待っている。脚色的に構成したのではないとはいえ、一編のよくできた小説を読み終わった気分。ただものではない。

なにより著者の人間に対する視点が近来になく心地よい。それを意識して演出してないところに震える。素の言葉でここまでやられてしまうと小説家は立場がないだろうな。読後、ちょっとした人間愛に包まれつつ、なんというか「いつ死んでも一緒だな」的刹那感におそわれた。ヒトという個がソコニアルカタマリとして見えてくる。オススメだ。

2002年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV3「印刷に恋して」

松田哲夫著/内澤旬子イラスト/晶文社/2600円

印刷に恋して
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印刷の現場をルポルタージュした本。
詳細かつわかりやすいイラスト(内澤旬子)が効いている。「本とコンピュータ」という、興味あるヒトはみんな知っている季刊誌に連載していたコラムをまとめたもので、消えゆく運命にある(?)活字・写植の世界を中心に、変わりゆく印刷業界への哀惜を込めた名ルポになっている。

印刷所は新入社員のときコピーライターをしていた関係でボク自身何度も出入りした。あの頃はまだ活版だった。魔法のように刷り上がってくるのを見ていちいち興奮したのを覚えている。色校正の現場も職人ぽくて格好よく見えたものだ。
そんなこともあってボクは普通の人よりは印刷的な知識があると言ってもいい。惜しいのは、そういうボクにとっても、ちょっと難解な本になっていたことだ。専門用語をいちいち説明してはいられないだろうが、著者は読者を置いてきぼりにしてどんどん深く印刷の世界に入っていってしまう。印刷にちょっと興味がある程度の読者にはかなり辛いのではないだろうか。

印刷技術の歴史と現状はなんとなく理解できる。未来はこうなっていくのだろう、という展望も見える。これをもうちょっとだけ素人にもわかりやすく書いてくれたら……。本好きな素人層は意外と印刷に興味を持っているものだ。そこらへんを取り込むいいテーマであっただけにちょっと惜しい。

2002年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

LV3「暗号解読」

サイモン・シン著/新潮社/2600円

暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
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「フェルマーの最終定理」を書いたサイモン・シンが、今度は暗号に取り組んだ……というだけで「フェルマー…」を読んだ人にとっては是非とも読みたい一冊になるだろう。
そのくらい「フェルマー…」は面白かったし、著者の取材力と再構成力は信頼がおけるのである。ただ、前回と違うのは、「暗号」というメソッドの複雑さがボクの理解をかなり超えるということだ。「暗号理論を学びながらその歴史と現状を理解し最前線を知る」ということが、数学得意でないボクにはどうにも苦痛になってしまうのである。

「16歳のセアラが挑んだ世界最強の暗号」も暗号を扱っていたが、これは非常に簡略化して素人でもわかるように書いてあり、ボクは「暗号の現状ってこうなんだぜ」と知ったかぶりしてヒトに話したくらいである。が、サイモン・シンのこれは、確かにわかりやすく咀嚼して書かれてはあるものの、玄人の領域まで突っ込んだ記述になっていて途中で混乱してしまう。つまり詳しすぎてわからなくなっちゃうのだ。うーむ。

こういう題材が好きな人には大オススメ。相変わらずの構成力と筆力で粘り強く語られているそれは感動的ですらある。暗号のことが(具体的数式を除いて)すべてわかると言っても過言ではない。が、ご自分の数学的素養に疑問を抱いているヒトにはあまり薦めない。分厚いし、苦痛なだけだと思う。

2002年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 科学

LV5「食物語」

野地秩嘉著/光文社/1300円

食物語―フードストーリー
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副題は「フードストーリー」。
著者の本はずいぶん前に「キャンティ物語」を読んだことがある。とても印象的だった。その著者がいろんなレストランや旅館、バーなどで生きてきた人間くさい人々を書いているノンフィクション。料理人がほとんどであるが、ブリュッセルの豆腐職人や熱海のレストラン兼業医師、沖縄のバーのオーナーなど、変わり種も多い。とても静かで落ち着いたタッチのノンフィクションで、その人の人生がじんわり伝わってくる。

料理人を取材して書いた本はゴマンとあるが、その中でも出色の出来だと思う。必要以上に崇めていないのが気持ちいい。いい距離感なのだ。職人の半生として等身大に描けている。だから泣ける。特殊の才能がある職人ではなく、ひとりの人間の人生として書いてあるからだ。題名が普通すぎるのが難な気もするが、この普通さは狙いかも。そういう本だ。

2002年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 食・酒

LV3「目撃 アメリカ崩壊」

青木冨貴子著/文春新書/680円

目撃 アメリカ崩壊
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9.11をワールドトレードセンタービルからたった13ブロック北のアパートで体験した著者による、迫真のレポート。

ピート・ハミル氏の奥さんでもある彼女の記事は冷静かつクレバーでわりと信頼しているが、このレポートも冷静な良さを残しつつ、実体験した人でないと書けない迫力に満ちていて貴重だ。
特にビル崩壊の現場での記述は力がある。思わず阪神大震災を体験した記憶が蘇ってくる。そして現場にいたからこその様々な怒りも蘇る。冷静な自分と怒りに身を任せている自分・・・大災害現場にいた人のそんな複雑な心境が著者にも見え、共感は強かった。著者自身のアフガンに対するフェアな視点や、たったひとりアフガン空爆に反対したバーバラ・リー議員に対する賞賛などのジャーナリスト的視点に、本能的怒りと恐怖が混じってくる微妙なニュアンス。

ただ、スーザン・ソンタグやノーム・チョムスキーがテロ直後に出した声明のような、圧倒的に冷徹な視点が欲しかったと思うのは贅沢か。アメリカという強大国に住む日本人トップジャーナリストのひとりとしての独自のスタンスを求めるのは贅沢か。感情に左右されたりウェットになったりすることなく冷徹に現場を見る視点がもっと欲しいと思うのは贅沢か。迫真のレポートだけで終わらず、一歩も二歩も踏み込んで欲しかったという贅沢な思いをこの本には持っている。

2002年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 時事・政治・国際

LV5「転がる香港に苔は生えない」

星野博美著/情報センター出版局/1900円

転がる香港に苔は生えない
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2000年4月初版の本で、大宅賞もとっており、前から読みたかったのだが本屋で見つけてやっと読んだ。581ページの大部。中国返還の前と後、激動の香港の、現地人でも住むのをためらうような地域に2年間住み込んだ著者の貴重なノンフィクションである。

取材目的で入ったのではなく人生生活として香港に入ったことがノンフィクションに厚みを与えている。しかも著者は現地語(広東語)がある程度しゃべれる。危ない場所や汚いところもあまり物怖じせず入っていく。そして現地の人とかなり濃いふれあいを重ねている。そういう貴重な体験を、ちょっと内省的だが素直で精緻な文章で表現し、ボクたちに伝えてくれている。対象を客観的かつ肌感覚で捉えられ、それを静かな筆致と心地よいリズムで表現できる日本人の書き手があの時期の香港にいたことを、同国人として幸せに思う。

題名がいい。動的で勢いのある題名なので中身もそうかなと思って読み始めるが、中身はわりと静かで分析的。そのギャップに戸惑いながら読み進むと、だんだん著者が題名に込めた思いが見えてくる。そして「さざれ石の巌となりて苔のむすまで」変わらない安定を望む日本人との鮮やかな対比が(結果として)見えてくる。

これはあの時期の香港を語った都市的ノンフィクションというよりは、「苔むす」日本人である著者が「苔の生えない」香港人の中に混じることで自分を見つけていく(もしくは見失う)、模索と喪失の物語だ。だから美しく切ない。堪能した。著者の視点と同化して他にもいろんなものを見てみたい。他の作品も読んでみよう。

2002年2月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション ,

LV1「イチローUSA語録」

デイヴィッド・シールズ編/永井淳・戸田裕之訳/集英社新書/660円

イチローUSA語録
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帯に「全米が感動! 日米二カ国語同時収録」とある。対訳付なのだ。英語の勉強にもいいかもね、と思って買った。アメリカのメディアに載った彼のコメントを、シアトル在住の作家が丹念に拾い集めた本である。

2001年のイチローは、大リーグ初挑戦にして、首位打者、MVP、新人王、盗塁王など、輝かしい戦歴を残した。アメリカでは、そこまで成功した彼の寡黙な一言一言を「サムライ・プレイヤーの深遠なる言葉」として受け取っている人が多いらしい。まぁあぁいう謙虚さはアメリカでは新鮮なのだろう。いや、もっともっと自己主張すべきところで全くそれをしない彼の言動は、新鮮を越えて理解不能なのかもしれない。

わりとガッカリさせられるのは、2001年の6月頃までのイチローの言葉しか載っていないことだ。2001年のシーズンを通しての語録じゃないと意味ないじゃん。6月頃までの語録でもアメリカでは十分面白いのだろうが、やっぱ首位打者とか取った後どういうことを言っているか、もないとねぇ。アメリカ版でなかったのなら、出版が12月であったこの日本版では付録にでも「その後のイチロー語録」として載せるべきである。付録には「2001年イチロー全打席データ」がついているが、それより語録でしょう、この本を買った読者が期待するのは。

2002年1月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:スポーツ , ノンフィクション

LV3「ファストフードが世界を食いつくす」

エリック・シュローサー著/楡井浩一訳/草思社/1600円

ファストフードが世界を食いつくす
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アメリカでベストセラーになった本である。
マクドナルドに代表されるアメリカの巨大ファストフードチェーン産業が目指す「世界中同じ味」「安価であるための効率至上主義」の経営方針が、伝統的な食文化や多用な農業形態を壊し、食の工業化を招き、産業構造自体を破壊し、他国の文化をも破壊していく過程をじっくりと描いて、読者に戦慄を与える本だ。

マクドナルドやケンタッキーがいかに生まれいかに大きくなったかの伝記的部分はわりと面白い。
そしてそれが目指す効率主義のため、食が工業化されていく実態、食肉処理場の劣悪かつ不衛生な現状、人間の労働環境を根底から変えるシステムの是非、フライドポテトに使われる天然香料のウソなどが、どんどん白日の下に晒されていく。そして、ファストフードが安価であることのカラクリも見えてくる。見た目は安価だが(だって65円だもん)、肥満解消にかかる費用や医療費、廃棄物が川や海を汚し牧場が森林をなくしていくことによる環境破壊による負の費用など、社会が負担するコストの高さも明らかにしてくれる。

問題意識を喚起するという意味においてこの本は素晴らしい。ただ、後半、問題点が分散してしまい、印象が散漫になってしまった。導入はいいのに詰めが甘い。題材はいいのに収束点がぼやけている。話題性十分なのにイイタイコトが伝えきれていない。せっかくいい本なのに~と地団駄踏みたくなる。また、巨大ファストフード産業がやったイイトコロももっときっちり評価して、そのうえで冷静に結論を導いて欲しかった。と、いろいろ惜しい本だけど、興味がある方にはとっても面白いと思う。

2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 食・酒 , 時事・政治・国際 , 健康

LV3「アフガン褐色の日々」

松浪健四郎著/中公文庫/743円

アフガン褐色の日々
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ある掲示板で薦められた本。著者が1975年から3年間、アフガンで生きていた頃のノンフィクション・エッセイである。83年初版の少々古い本で本屋には置いてないだろうが取り寄せて読むことは出来た。

松浪健四郎~?と最初は懐疑的であったが、読み終わって、アフガンも著者自身も身近に感じている自分に気付く。アメリカ同時多発テロ事件の時節柄、他にもアフガン関係の書物はいっぱい出ており(この辺が日本人の好奇心の健全さを表しており頼もしい)、それらのきちんと突っ込んだアフガン分析に比べると本書はかなりお粗末に感じられるのも確かだが、ここには著者が肌で感じたアフガンの空気がある。シズルがある。平和の美しさがある。
著者自身、文庫版あと書きで「当時の情感のまま筆をとどめておくべきだと考え」直さなかったと書いていることでもわかるように、文章的には若く稚拙で、分析も甘い。でもその良さがいい方に出て、臨場感たっぷりの好著となった。

それにしても松浪健四郎が日本人初の国立カブール大学講師とは知らなかった。そしてこれだけ(まさに)肌でアフガンに接してきたとは…。時節柄、アフガン先駆者としての著者の「いまの」意見を聞きたいと思うのだが、マスコミに何故かほとんど彼の露出はない。マロムセイ、もっと発言を!

2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ , 時事・政治・国際

LV5「痴漢犯人生産システム」

鈴木健夫著/太田出版/1500円

痴漢犯人生産システム
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ある朝、いつもの通勤満員電車の中で突然「痴漢よ!」とえん罪を着せられた著者によるノンフィクション。
えん罪はどうやって起こるか、警察による一方的な決めつけ、失礼な取り調べ、留置場での生活、裁判の過程、会社の理不尽で冷たい対応……いやはや、背筋がゾゾゾと冷たくなる本である。怖すぎる。実に怖い。(秀逸なる)表題通り、痴漢犯人生産システムに乗ってしまったら、もう起訴有罪まで一直線である。

著者は逆転無罪を勝ち取るまで戦ったが、それは全くのラッキーでありいろんな状況証拠が有利に働いただけのこと。現実にはもっとえん罪がはびこっていると想像させられる。一部上場の会社をクビになりいまでは日雇労働者であるという著者。全くのえん罪で人生がすっかり変わってしまった例である。会社はなんにも守ってくれない。しかも国からのえん罪賠償金はすべて合わせても75万円程度。こわ~。

著者の体験記が前半、それを弁護した弁護士による述懐と対処方法が後半である。
ま、ボクはもう「満員電車に乗ったら両手をつり革、もしくは上の手すりに」と決意したが、それでも疑われた場合、「とにかく駅長室に行くな!」ということだけは守りたい。駅長も警察もすべて女性側の味方なので、駅長室に行った時点で有罪確定である。真面目な男ほど「警察に行って話せば誤解とわかるはず」と思って率先して駅長室や警察に行くらしいが、警察は絶対わかってくれないことがこの本を読むと怖いほどよくわかる。

決して痴漢を受けた側の女性の気持ちを無視するわけではない。ただえん罪だった場合、人生はそこで終わる。やりきれないではないか。男女ともに注意すべき事柄だろう。読むべし。

2001年11月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 時事・政治・国際

LV4「闘うプログラマー」

G・パスカル・ザカリー著/山岡洋一訳/日経BP出版センター/上下共1359円

闘うプログラマー
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副題に「ビル・ゲイツの野望を担った男達」とある。ウィンドウズNTの開発のものすごさ(死の行軍)を書いたノンフィクション。言うなれば、ウィンドウズNT版「プロジェクトX」である。
なんとなくソフト開発物語が読みたくて探して買った本だが、実は初版1994年である古い本。そのことに途中まで気がつかない辺りが、ボクのウィン系への疎さを感じさせますな ←マック派だしさ。

ま、確かにその開発行程はすさまじい。
でも「アラこの程度?」とも一方で思っちゃうくらいはボクも忙しい時期があったので、なんだろう、ある種死の行軍をしたもの同士の連帯感が出演者と読者であるボクの間に芽生えたり。はは。でも、死の行軍を終えた彼らが「疑問ももたずに長時間勤務を受けいれる純真さを失った」と書いてあるところがあるが、ここらへんは特に共感しちゃったのだった。

内容的には面白いし、マイクロソフト・オールスターズがいきいきと動き回ってくれるので、MS嫌いなボクであっても、なんとなくMSを見直したり。じぃっとプログラミングの様子を追っていたりするのでどうしてもノンフィクションとしては中だるみや退屈な部分も出てくる(だって動きがないしさ)。そこらへんが欠陥ではあるが、興味のある向きには面白い本だろう。でもラストをもう少し盛り上げてもいいと思ったな。原題は「SHOWSTOPPER!」。うぅ。個人的にドキッとする原題なんです、はい。心臓に悪いです。

2001年10月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 経済・ビジネス , IT・ネット

LV4「オールド・ルーキー」

ジム・モリス、ジョエル・エンゲル著/松本剛史訳/文藝春秋/2000円

オールド・ルーキー―先生は大リーガーになった
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副題は「先生は大リーガーになった」。
アメリカの田舎の35歳の高校教師が大リーグの最年長ルーキーになった、という実話を、本人であるモリスともうひとりの著者エンゲルが組んで書いた本。ディズニーによる映画化も決定しているらしい。いかにも映画になりそうなストーリーだからねー。

ま、先生、というところがわりと強調されている分、学園感動ものかと思われるが別にそうでもなく、実は先生であるというよりは「いままですべてに中途半端だった主人公の、野球をめぐる半生記」みたいな趣。学校がからんでくるのは最後の頃だけである(大リーガーになったあと、思ったより生徒たちが登場しない。なぜだろう?登場させたらより感動的なのに…。映画ではもっと絡むことであろう)。

淡々と正直な著者の記述も好感もてるし、いたずらにお涙演出していないところも心地よい。まぁまぁなのだ。でもまぁまぁ止まり。ノンフィクションとしてはいい話しだし、全米でも話題になったトゥルーストーリーらしいが、なんか物足りないなぁ。

2001年9月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝 , スポーツ

LV5「エンデュアランス号漂流」

アルフレッド・ランシング著/山本光伸訳/新潮文庫/781円

エンデュアランス号漂流
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1914年に南極大陸横断に挑戦した英国人冒険家シャクルトン一行28名。その遭難から劇的なる全員生還までを乗組員の日記や詳細な取材などに基づき忠実に再現したノンフィクション。
故星野道夫の座右の書ということもあり98年に邦訳された、幻の名著の文庫化である(原著は1959年に書かれている)。どうやら来年ウォルフガング・ペーターゼン監督によって映画化公開されるらしい。あっちでも見直されているノンフィクションなのかな。

帯のコピー「これ以上危機的な遭難はない!これ以上奇跡的な生還はない!」は決してオーバーではない。
淡々とした進行だが、その切羽詰まった状況は十分衝撃的かつ迫真のものだ。ラストの生還場面など、文章的にはちっとも歌い上げていないのにやたら感動的で、しばらく動けないほどだ。暑いだの寒いだのつらいだの眠いだの、日々文句を言っている自分が恥ずかしくなる。想像するだにすさまじい。

文章的には淡々としすぎている部分もあるが(現代作家ならもっと書き込んでしまうだろう)、結果的には上手にはまっていると思う。導入部は取っつきにくいかもしれないが、どんどん引き込まれるので、ノンフィクション系が不得意な方もぜひ。
ちなみに、エンデュアランス号の乗組員募集の新聞広告コピーは広告界ではちょっと有名だ。「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛を得る。」……かっこいい! 5000人もの男が殺到したらしい。で、この壮絶な遭難である。うーむ。

2001年8月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV2「ビビンバ家族」

日高博著/海拓舎/1400円

ビビンバ家族―それでも妻は韓国人
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副題「それでも妻は韓国人」。
著者が韓国人の妻を持つまでそして持ったあと、のノンフィクションである。

題名が良い。購入動機はそれ。かなりの期待を持って読み始めたが、題名の勢いが本文にはなく、そういう意味では少し残念。
わりとボソボソ語る文章でそれなりに味はあるし、語っている内容も肌で感じた等身大の韓国という感じで好ましいし、赤裸々に綴られた妻の姿や姑との確執もよく伝わるし、なかなかいい本なのだが、題名の勢いを潜在的に求めてしまう分、全体に弱く感じるのが難。
内容的に「妻が韓国人」というところに留まっていて、もっとビビンバ的に「混ぜた方が美味しくなる感じ」のところまで突っ込まれていないのも惜しい。混ぜた結果どうなったのか、のところまで書かれていないのだ。やっぱりビビンバみたいに混ぜてこんなに美味しくなりましたー!という結論が欲しい気がする。

2001年7月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝 ,

LV4「忘れてはイケナイ物語り」

野坂昭如編/光文社/1200円

忘れてはイケナイ物語り
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野坂昭如や黒田征太郎を中心にプロジェクト化された「戦争童話集」。その一環として公募された「戦争話」の中から野坂昭如が選んだ30編。戦争体験者たちによる短文を集めたものである。

こういった戦争ドキュメントはいろんな角度のものを定期的に読むようにしているが、やっぱり生の声はこたえる。
ドラマや小説のデフォルメされた叫びとは本質的に違う淡々とした叫びがそこにある。淡々としているからこそ、こたえる。これからもこういう生の声を定期的に読んでいこうと思う。
が、年々体験者は少なくなっていくのが現実である。「語り継げ」と大声では言わないが(語り継げと言った時点でなにか変質する気がする)、読み継ごうとは思う。で、子供たちにも読み継がせようと思う。

2001年6月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 時事・政治・国際

LV4「だれが『本』を殺すのか」

佐野眞一著/プレジデント社/1800円

だれが「本」を殺すのか
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未曾有の出版危機、ということをテーマにノンフィクションで450ページ強も書いてしまうこの筆力! まずそこに驚く。
読み始めるとどうして分厚くなってしまったのかの理由はわかってくるのだが、でもやっぱり200ページくらいにまとまるんじゃないか、という思いもある。こういうテーマの本こそ、1000円くらい、かつ、程よい薄さで出版することが本を殺さない一助になったりするのでは、という気もしたり。

内容的には、「本を殺そうとしているのは、出版社なのか編集者なのか取次なのか書店なのかデジタルなのか著者たちなのか、それとも読者なのか…」ということを数多くのインタビューを交え、ルポタージュしていくもの。
取次や再販制度など、著者にとっては常識の言葉を読者に説明せずに使っている不親切さは多々あるが、ぐいぐい本質に迫っていく力はさすがなもの。面白い。また、本好きな身として、いままで知らなかった配本の仕組みや客注の謎がいろいろわかったのもうれしい。暗澹たる気持ちになったり、展望が開けたり、忙しい本であるが、本を殺したくないという著者の気持ちは切実に伝わってくる。

個人的には「ネットが常時接続ブロードバンドになり広く接続料が意識されなくなった時点で、本、CD、ビデオなどの旧来媒体はすべて再編を余儀なくされる」と思っている。取次問題もこの「外圧」で変わらざるを得ないだろう。でもこれは「殺し」ではないだろう。きっと「活かし」になるはずだ、と、本好きのボクは楽観視しているのであるが…。

2001年5月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 評論

LV5「誰も教えてくれない聖書の読み方」

ケン・スミス著/山形浩生訳/晶文社/1800円

誰も教えてくれない聖書の読み方
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実に面白い。
聖書がいままでいかに都合の良い部分だけ取り出されて脚色ふんだんな読み方をされてきたか、がまったくよくわかる。いろんな脚色をゼロにして「聖書原典を書かれているとおりに読んでみるとどうなるか」がこの本で明らかになるのだ。こ、こんなトンデモ本を西洋は長きにわたり繰り返し読み信じてきたのか! 神様ってこんなに残虐非道で心根の狭い自意識過剰オヤジだったのか! イエスやパウロってこんなイカサマっぽい奴らだったのか! き、教会の神父って本当に最初から最後まで聖書を読んだことあるのか? き、キリスト教って…ダイジョブなのか? など、ちょっと愕然とする思いだ。

当然キリスト教徒たちから轟々たる非難がまきおこってるらしいが、著者はシラッと「だって聖書にそのとおりに書いてあるんだもん」と自信たっぷりに言うだけらしい。
そう、著者はただ現代風視点から読み進めただけなのだ。なるほどー。ボクは「マンガ聖書」は読み通したことがあり筋はだいたいわかっているつもりであったが、いま思うとキリスト教に都合のいい部分だけ抜き出したまとめ方だったのね、あれ。

この本をよりユニークにしているのは「アイコン」の存在。
例えば出エジプト記のこんな場面。「神さまはモーゼに、神の祭壇には絶対に階段をつくるなと命令。階段をのぼってる人の性器が見えちゃうかもしれないから」てなところには「なんじゃそりゃ?」アイコンがついてたりするのだ。他に「残念でした」とか「おいおい」とか「おせっくす」とか(旧約はセックス描写だらけ)、いろいろついていて面白い。

ちなみに訳もよい。著者の言い逃げ感がよく出ていて良い。あ、ちなみに聖書を最初から最後まで読まされちゃう本ではないです。聖書のトンデモナイ部分を抜き出してあるからとっても読みやすい。その点は大丈夫。オススメ。

2001年3月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界 , 雑学・その他 , ノンフィクション

LV5「東京アンダーワールド」

ロバート・ホワイティング著/松井みどり訳/角川書店/1900円

東京アンダーワールド
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導入部はもうひとつ。あぁこういう風に事実を羅列して「東京の裏側にこんな奴らがいたぜ」みたいなルポルタージュとして終わるのかなぁ、とちょっとうんざりしつつ読み進めていたら、1/4あたり、そう、力道山やニック・ザペッティが出てくるあたりから、物語は一気に活気を帯びだし、あとはもう最後のページまで息も尽かせぬ勢いで駆け抜ける。ふぅ、面白かった。

主人公はそのニック(六本木のニコラの店主)で、戦後すぐから20世紀最後あたりまでの東京の裏の世界を「東京のマフィア・ボス」と呼ばれた彼の行動を中心に活写しているのだが、これがなんというかやけにイキイキと面白いのである。
生々しく蠢く周辺人物もいいし、著者が海外からの視点で書いていることで、妙に客観的な匂いもついて、読者を浮遊状態にさせてくれるのもうれしい。当時の日本の流れも著者特有の断定的見方がユニークでいろいろ感心もさせられた。いろんな史実が絡み合ってくるのでちょいとゴチャゴチャしているし、たまに時系列もわからなくなるのだが、そのゴチャゴチャ感も東京ぽくてよろしい。うん。とっても面白かった。

2001年2月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV4「癌 --患者になった5人の医師たち」

黒木登志夫他著/角川oneテーマ21/571円

癌-患者になった5人の医師たち
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癌にかかった医師たち5人の文章を寄せ合って作った新書本。
一人の患者として、人間として、どう癌を受け止めたのか、どう闘っていったのか、そして医者としてどう変わっていったのか。生の言葉でしっかり書いてある。かりそめの健常者としてそれを読むことは、一種のグラウンディング(地に足をつけること、自分を知ること)の作業になり、とても有効であった。良い企画に感謝する。

死に至る病は人間を、いや自分を、どう変えるだろうか。
いやもちろんボク自身、死に至る病にかかっている。1分1秒死に向かって時は進んでいく。そういう意味では著者たちとボクになんの立場上の違いはない。深く沈降し、自分を捜し出さなければいけない。癌にかかっていようとかからないでいようと。個人的には「ゲルソン療法」が興味深かった。もしボクが癌にかかったら「必ず」告知して、療法そして生き方(死に方)を選ばせてくださいね ←近親者へ私信。

2001年2月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:健康 , ノンフィクション

LV0「『希望の国のエクソダス』取材ノート」

村上龍著/文藝春秋/1143円

『希望の国のエクソダス』取材ノート
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わりと酷評してしまった「希望の国のエクソダス」だが、あれは小説としては酷いと思うが近未来シミュレーションとしてはよく出来ていたと思う(中学生が独立する、というシナリオを除いて)。この本は、その近未来シミュレーションのもととなった取材ノート。つまり「村上龍の勉強帳」である。シミュレーションの元ネタをしっかり読んでボクなりに近未来を展望してみたかったから、買った。

経済学者からディーラー、現役中学生、経歴未詳の不良まで、13のインタビューを収めている。
が、まぁ当然といえば当然なのだが、著者は小説のストーリーに沿った答えを引き出すべくインタビューしているので、インタビューされた側が必ずしも彼らの本音を吐露しているわけではない。というか、村上龍が喜びそうな方向で答えを出している。そういう意味ではちょっと拍子抜け。彼らのせいでも著者のせいでもなく、企画のせいか。つうか、そんなこと最初からわかってたんだから、買うなよ、オレ。もちろん中にはとても有意義なインタビューもあった。不良へのインタビューが一番面白かった。

2001年2月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV1「キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか」

北尾トロ著/鉄人社/1238円

キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか
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要は表題の如く、勇気を持って誰かに何かを言うときにヒトはどういう行動をとるか、を著者自身が実験台になってやってみてルポしたもの、である。
「死ぬほどまずい蕎麦屋に『マズイ』と伝えてみる」とか「友達に貸した2000円を『返せ』と言ってみる」とか「電車で知らないオヤジに『飲もう』と誘ってみる」とか、まぁかなりの勇気がいる題材を14編、自己実験してみている(中にはつまらない題材もあるが)。

企画、題材、文章のとほほ味、それぞれ良い。でも著者自身が妙に小心者かつ普通のヒトを演じてしまっていて、そっちの方面から読者の共感を引き出そうとしすぎているのが残念だ。こういう本は著者が破天荒な演出をした方が面白いのだ、きっと。例えば西原理恵子にこの手の本を書かしたら、きっと5倍は面白いものにしていただろう。読者におもねず、著者の勢いで読者を引きずりまわしていたら、きっともっと面白くなったと思う。企画がいいだけに、ちょっと残念。

2001年2月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:雑学・その他 , ノンフィクション

LV5「46億年の100大ニュース」

渡辺健一著/フジテレビ出版/2000円

46億年の100大ニュース
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あまりに「読めない」状態が続いていたので、昔読んで超絶に面白かったこの本を本棚から引っぱり出して再読。結果、やはり名著であることを確認。いやいや、やっぱり面白かった!

これって1993年初版だからもう古本屋でしか手に入らないかなぁ。
著者は放送作家であり、このネタ自体フジテレビ(当時全盛)で5時間スペシャルとして流されたものを全面的に書き下ろしたもの。放送自体は見ていないがたぶん本の方が出来はいいだろう。なにしろ「驚きと発見」の連続なのだ。ヘタに映像がない方がイメージが広がって面白いし、テレビと違って何度も反芻できるではないか。

内容は「地球史上100大ニュース」である。
ただ、視点として面白いのは「今のボクたちから見た大事なニュース」であり、歴史上大事なニュースとは一線を画していること。しかしまぁ、過去のあの事件が現在のボクたちの生活にこういう風に影響を及ぼしているのねーと驚くことしきり。今現在の生活がすべて歴史的裏打ちのもとに総括できる快感。歴史的考証がちゃんとなされていないものもあるかもしれないが、ざっくりと断言した蛮勇はとても評価できる。文章も実に軽く平明。ちょっとホイチョイが入っていて、ボクたちにはちょうどよいのだ。こういう風に歴史を教わったら、どんな子供でもついてくるだろうなぁ。

いろんな意味で大変な労作である。なぜもっと評価されないのだろう。持ってない人、読んでない人、すぐ古本屋へ走れ!!

2000年11月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 雑学・その他

LV5「フェルマーの最終定理」

サイモン・シン著/青木薫訳/新潮社/2300円

フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
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友人が面白いよと貸してくれた本。うん、面白かった。
フェルマー系の本は他にもいろいろ出ているが、この本がすごいのはかなりつっこんで数学を書いていること。ある意味フェルマーの最終定理を起点にした数学史になっている。で、その数学史が面白い。身近な命題を持ち出してなんというか「面白い数学の授業を聞いているような」気分になってくる。うーん、数学をちゃんと勉強しておけば良かったよー。こんなに面白い学問、他になさそうな気になってくるではないか。そこらへんがとてもうまい本なのである。ピタゴラスについて突っ込んだ章なんか面白かったな。

もともとはイギリスのテレビ番組のための取材が基本になっている。だから文章も要所要所が映像的で面白い。知的興奮と快感を適度に感じさせるバランス感覚もテレビ的である。そのへんもこの本の成功要因であろう。
日本人の我々にとっては「谷山-志村予想」に深く突っ込んだ章などなかなか愛国心をくすぐられてうれしい。インド系の著者はマイノリティ人種を全く差別しないのも素晴らしい。面白くためになり知的好奇心も満足させてくれる一冊である。おすすめ。

2000年6月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 科学

LV4「サラリーマン転覆隊 門前払い」

本田亮著/フレーベル館/1600円

サラリーマン転覆隊門前払い
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傑作シリーズの最新刊。
サラリーマン転覆隊の面々が日本そして世界の様々なる川をカヌーで下っていく(今回は富士山をMTBで滑落していく章もある)お笑いカヌー紀行であるのは前作と変わらない。相変わらずのおもしろ文体と上手なデフォルメでしっかり笑わせてくれる。まぁ川は変わろうがネタ的には変わらないので、だんだん吉本新喜劇を見ているような趣になっていくが、「サラリーマンの生き方とはなんだ? 元気に生きたっていいではないか! もっと遊ぼうぜ日本のサラリーマン!」みたいなプレゼンテーションが読者に伝わってきて「よくやるよ」と思いつつ知らず知らずに元気になっている自分に気がつく。

ただこれは良し悪しで、あまりに「サラリーマン」を強調しすぎて、今回は少し説教くさくなっているかもしれない。
あとがきに「サラリーマンの応援歌として書く」とあったが、そういう匂いが前面に出てくるとシリーズの爽快さが消えてしまうかもしれない。結果論的に応援歌になるならいいのだが、意図を持ってそのように書くのはやめた方がいい気がする。ちなみに著者はボクと同じ会社のヒトなんですね。お会いしたことないけど。

2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , スポーツ , ノンフィクション

LV3「被差別部落の青春」

角岡伸彦著/講談社/1700円

被差別部落の青春
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ある仕事のきっかけがあって同和問題についてかなり考える時間を持ったのだが、その流れで読んだ本。
仕事の中でたくさんの被差別部落出身者と出会ったが、みな陽気でいい人ばかりである。彼らと話しているとまるで暗くはない。でもいざ世の中に向けて発信されるとなぜか暗いものとなる。その理由もいきさつもすべてわかった上で言うが、この本のような身の丈レベルの話がもっともっと前面に出てくればなにかが確実に変わるとは思う。そういうきっかけにはなる本だ。

ただ、少し残念なのは行間にまだ重苦しさが感じられること。無闇に明るく書けと言っているのではないが、事例取材などの語り口が淡々としていて、著者(被差別部落出身者)の思考の健康さが活かされ切っていないところがある。なにか重いものに引きずられていく感じが中半から後半にかけて漂った。惜しい。

被差別部落、という単語がまず重いよなぁ。なんというか、「誇り高き陽気なマイノリティ」的括り方はないものだろうか。過去の歴史から言っても無責任なことは言えないのだけど…。これからもいろいろ考え続けていきたい課題である。

2000年4月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV2「ニューヨークの錠前屋、街を行く」

ジョエル・コストマン著/常盤新平訳/グリーンアロー出版社/1857円

ニューヨークの錠前屋、街を行く
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著者自身が実際にニューヨークの錠前屋である。
つまりこの本はノンフィクション的小説で、錠前屋が街のいろんなところで経験するちょっと小洒落たエピソードを14編集めた短編集となっている。

硬質な文章で上手にニューヨークの空気を再現しているとは思う。ニューヨークというある種特殊な街に生きる普通の人々が活写され、錠前屋主観のその文章は、被写体との距離感が見事に取れている。でもなぁ、でもでも、なんつうかこういう「ボブ・グリーン的世界」ってちょっと古くない? つうか、飽きない? あ、ボクだけ? よくわからないけど、よく出来ているとは思うけどつまらなかった、みたいな印象。錠前屋、という職業にはとても興味が湧いたけど。

ちなみにこの頃ちょっとだけ常盤新平の著書・訳書にアタリは少ない、と思い始めている。なんだか「ぬるい」のだ。

2000年2月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , ノンフィクション

LV1「科学鑑定」

石山いく夫著/文春新書/660円

科学鑑定―ひき逃げ車種からDNAまで
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最近読んだ「ボーン・コレクター」は科学捜査を駆使したミステリーだった。こういうのを読むと俄然「科学捜査」や「鑑定」についていろいろ読みたくなる性分のボクは、早速本屋に出かけていき、まさに読んで字のごとし、希望にピッタリの本をここに見つけたわけです。

が、一読するのに時間がかかったことといったら! 
なにせ専門的すぎる。漢字も多い。読み慣れない専門用語にキョトキョトしながら読み進めるが、その専門用語自体が画数の多い漢字で、そのうえ著者が熟語を多用するからなんか文章がめちゃめちゃ詰まった感じになって非常に辛かった。ボクに読解力がないといえばそれまでだが、学術論文でも専門書でもなく「新書」でしょ? もっと噛み砕いてよ、もっと平易に書いてよ、興味ある初心者に対してもっともっと易しく書いてよ…つうのは贅沢なのか? 内容は誠意あるものだったが、やっぱり読者に対しての親切に欠けると思う。

ちなみに著者名の「いく」は日かんむりに立。漢字検索でもなかったのでご勘弁。

2000年2月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:科学 , ノンフィクション

LV4「不肖・宮嶋 踊る大取材線」

宮嶋茂樹著/新潮社/1500円

不肖・宮嶋 踊る大取材線
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週刊文春の愛読者なら誰でも知っている不肖宮嶋カメラマン。
彼のフリーカメラマンとしての修羅場の数々がここに書かれていて非常に面白い。関西弁そのままに書いた文章はちょっとアクが強すぎて長く読んでいると飽きも来るが、内容がいいから許せる。フライデーや文春でスクープした時の裏話が特に興味深い。あぁあの何気なく見飛ばしているグラビアページの裏にはこういう攻防があってこういう苦労があるのかぁ、と初めて知ったボクである。知らない世界のことを知るのは面白いなぁ。そういう読書的快感が味わえる一冊だ。

ただ、やっぱり文体がちょっと下品めかも。文春のルポで読む彼の文章にはわりと格調(日本人が失った戦前文体的な)を感じたものだが、書き下ろしとしての文章はイキオイを重視したのか、格調は感じられない。だからといってその分面白くなっているかと言われるとそれもハテナ。それだけが残念、かな。

2000年1月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , ノンフィクション

LV3「どこまで続くヌカルミぞ」

俵孝太郎著/文春新書/690円

どこまで続くヌカルミぞ―老老介護奮戦記
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副題は「老老介護奮戦記」。

キャスターである著者の老老介護の毎日がこれぞ赤裸々とばかりに書かれているのだ。儒教以来の親孝行精神を受け継ぐ人が読んだら卒倒するような、親に対しての厳しい言葉の数々。ただ、子供からの一方的な視点から書かれているとはいえ、ドラ息子ならぬ「ドラ親」を持つ苦労は読むに従ってどんどん身につまされていく。また兄弟との確執もすごい。なんというか、まぁでもよくここまで書いたなぁ。

人間は年をとるに従って人格が完成されていくのではなくて、単に若いときの性格が煮詰まるだけなのだな、と妙に納得させられる。これから日本人がいままで経験したことがない介護社会が出現するが、ここに書かれているような問題が各家庭個別毎に違ったカタチを持って起こってくるのだ。おっそろしいことだ。これでは備えるのは無理である。在宅介護制度自体をやはり見直す時がそのうち来よう。

それはともかく、一人っ子で良かったと実感をもって感じてしまった。兄弟の存在が問題を余計にやっかいにしていく様は目を覆うばかり。

2000年1月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉 , ノンフィクション

LV1「料理研究家たち」

宮葉子著/NHK出版/1400円

「料理研究家」たち
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題材よし。藤野真紀子、有元葉子、上野万梨子、北村光世、枝元なほみというそれなりに名前のある料理研究家をインタビューして、その生き方をルポしたものだ。近頃人気の職業だけに時事性には申し分ない。また、ルポとしては浮ついてなく静かな筆致でしっかり書かれており、ある種の好感は持てる。

が、問題は、なんか読んでいてときめかないことだ。静かすぎる。暗い、と言ってもいい。5人の料理研究家たちはそれなりにはずんだ人生を送っているのだが、どうもそれが伝わってこないのが致命的だ。表現的にも、ちょっと純文学調も入ったりして、どうも自己陶酔的ニュアンスを感じてしまう。題材はいいんだけどなぁ。

1999年12月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , ノンフィクション

LV1「機長の一万日」

田口美貴夫著/講談社/1600円

機長の一万日―コックピットの恐さと快感!
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副題は「コックピットの恐さと快感!」。「機長という仕事」についてのノンフィクション・エッセイである。

著者はJALの現役ベテラン機長。数々の経験を踏まえてやわらかいタッチで機長の仕事を綴ってくれている。飛行機での旅が多い人にとっては「なるほどあのサインはこういう理由でこうなのか」「ああいう揺れはこういう事態なのか」みたいな、機内でのナゾがちょこちょこ解ける一冊だ。ただ、マニアックと初心者向けの中間って感じでちょっと中途半端なのが難。それと、エッセイとしての面白さに欠ける。続編「機長の700万マイル」の方がエピソードがユニークでまだ面白い。

何の気なしに二冊買って読んだが、どうやら山崎豊子の著書発売以来この手の航空機業界本はちょっとブーム化しているようだ。なんだかブームに乗ってしまったようで悔しい。全然違うのに。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

LV1「機長の700万マイル」

田口美貴夫著/講談社/1600円

機長の700万マイル―翼は語る
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「機長の一万日」の続編である。

普通この手のノンフィクション・エッセイは処女作の方が面白いと相場は決まっている。が、この二冊に関しては続編の方がずっと面白い。珍しいパターン。書き慣れもあるだろうが、前作で書いた内容を簡単にレジメして、それ以外のエピソードなどに内容を絞ったのがより面白くなった要因だろう。
前作はある意味「機長という仕事とはどういうことか」という説明から始めないといけなかった分、理屈っぽくなっている。初歩的説明でかなりのページ数を取られている感じ。続編のこっちの方がいい意味ワイドショー的で、飛行機や航空機業界、機長の生活などにミーハーな興味しか持っていない読者(つまりボク)には手っ取り早い感じだ。

まぁどちらにしても単行本で買うほどではないかも。文庫になるのを待ってから買った方が賢いかも。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

LV5「おじいちゃん 戦争のことを教えて」

中條高徳著/致知出版社/1400円

おじいちゃん戦争のことを教えて―孫娘からの質問状
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全日本国民は刮目して読むべし! などと書くと右翼っぽいか。えーと、もしあなたがボクの言うことを少しでも信頼してくださっているのなら、絶対読んでください。っていうか、読め! 必読! 日本に少しでも愛があるなら、読め! いや、愛がない人こそ、読め!

正式題名は「〔孫娘からの質問状〕おじいちゃん 戦争のことを教えて」である。ある日、アメリカに住んでいる孫娘から著者のもとに手紙が届く。ハイスクールの歴史の授業課題で「身近な戦争体験者に話を聞く」というのが出て、おじいちゃんが経験した戦争についての細かい質問状が届くのである。これに著者は姿勢を正して真摯に丁寧にわかりやすく答えていく。戦争当時の日本人の考え方、空気、状況が実に細やかに著者の人生を通して書かれていくのだ。

で、これがまたまるで説教臭くなく、押しつけがましくもなく、実に達意の文章で書いてあるのである。著者の目を通して、もやもやしていた近代史が実にクリアに見通せるようになる。まぁ確かにこれは著者という戦争体験者の個人的意見ではあるのだが、ボクはこの意見を、歴史の捉え方を支持する。というか、いままでずっと疑問に思ってきたことがこの本でかなりクリアになったのだ。

自虐史観に陥っている日本人に、いまこそ読んでほしい達意の名著である。少なくとも、戦争とは何か、を考える始点にはなるだろう。

1999年5月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 教育・環境・福祉 , ノンフィクション , 児童・ティーンズ

LV3「歌謡界一発屋伝説」

宝泉薫編著/彩流社/1200円

歌謡界「一発屋」伝説
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いつか誰かにやって欲しいなぁ…誰もやらなかったら自分でやろうかなぁ、と思っていた企画。やっと出たか、という感慨だ。

70年代・80年代の一発屋たちをテーマ別に取り上げ詳しく検証している物で、題材によっては突っ込み不足と思われるが(ボクみたいなオタクに言わせると、だけど)全体的にはとてもよく出来たバランスいい仕上がりだ。
詳しすぎる人には不満だろうけど、上手に一般向けになっているのだ。ただ、じゃぁ詳しい人より一般人の方が買うのか、と言うとそれは違う気もするので、もっともっとマニアックに走ってみても良かったかもしれない。

とにかく、懐かしくなってしまってカセットを家捜しして聴きまくってしまった。

1999年3月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , 雑学・その他 , ノンフィクション

LV2「チャリング・クロス街84番地」

ヘレーン・ハンフ編著/江藤淳訳/中公文庫/533円

チャリング・クロス街84番地―書物を愛する人のための本
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副題が「書物を愛する人のための本」。
1970年に刊行された世界的ベストセラーである。

NYの本好きの女性とロンドンの古書店の往復書簡をそのまま編んであるもの。先輩から譲られなければ読まなかったかもしれない本だが、しっかりした事実が裏にあるだけになかなか感動的であった。
ボクたちは、こういう「ちょっといい話」が世界的ベストセラーになった時代からずいぶん遠いところに来てしまったなぁという感慨をボクは持つ。素直ではないのか? いや、とっても素直な感慨だと思う。ある意味、甘い時代の物語なのだ。

1999年1月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV0「マサチューセッツ工科大学」

フレッド・ハプグッド著/鶴岡雄二訳/新潮文庫/552円

マサチューセッツ工科大学
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世に名高いMIT。
明治維新前にボストンでたった15人の生徒で発足していつしか世界の頂点に立ったこの専門学校をオタク生徒たちのエピソードや内部レポートでつづっていった本なのだが、つまらなかった。
エピソードにしてもファインマン先生ほどのものは望まないものの、もうちょっといろいろ読みたいし、内部レポートみたいなものも散漫で一向にMITの姿が浮かび上がってこない。中途半端な本だ。スコット・トゥローの「ハーバード・ロー・スクール」や「ファインマン・シリーズ」みたいなものを期待すると痛い目にあうかも。

1999年1月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 教育・環境・福祉

LV2「約束された場所で」

村上春樹著/文藝春秋/1524円

約束された場所で―underground〈2〉
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副題が「underground〈2〉」。つまり、地下鉄サリン事件の被害者たちをインタビューした分厚い本「アンダーグラウンド」の続編にあたる。

今度は加害者側をインタビューしており巻末に河合隼雄氏との分析対談もある。
インタビュアーが黒子をやめて一歩前に出てきた感じだ。それは小説家として正しい態度であると思うが(前作ではその点が少々物足りなかった)、今度はバイアスのかかり方が最初からいくぶん加害者否定になっているところが不満である。常識家ならそれでいいのだが、小説家がそれでいいのであろうか。

また、サンプル数が少ないのも不満。前作はその飽きるほどのサンプル数が結果的に全体を浮き彫りにしたのだが、今回はそういう作用がなかった。単に「特殊な人々」という見え方にしかならないサンプル数である。

評価すべきなのは「この時期に出した」ということ。もう一度あの問題を根本から考え直すのに最適のタイミングではなかろうか。

1999年1月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 対談

LV4「絶対音感」

最相葉月著/小学館/1680円

絶対音感
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素敵な出だしを持つノンフィクション。
絶対音感について様々な角度から調べてあり労作である。

が、評判ほどには面白く感じなかった。いや、面白くはあったのである。絶対音感というものに対する認識も新たに出来たしそれについて何日も夫婦間で話題になったりした。いろんな意味で良く出来たルポタージュであると思う。
ただ、絶対音感がある人の哀しみだったり、絶対音感がない人の苦労だったりを、人間ドラマとしてもう少し読みたいと思うのはボクだけだろうか。全体に優れた報告書ではあるがいまひとつ血が通っている感じがしない気がする。人間のヒダヒダに触れる部分の突っ込みがもう少し欲しいと思った。

1998年7月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 音楽

LV5「文人悪食」

嵐山光三郎著/マガジンハウス/1800円

文人悪食
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労作にして名作。日本文学好きには堪らない本だ。
近代文学史を文士たちの食の嗜好によってたどってみようとするもので、まずその切り口に目丸。作家の食の嗜好はその作品と密接な関係があり、それを作者ごとにじっくり見ていくその労力に口開。そしてそしてそれぞれが非常に優れた作家論になっているその技に舌巻。

取り上げている作家は37人。それぞれに絶妙の作家論が展開されるが、それはそれ名手嵐山光三郎であるから、ひとつも小難しくなく読者を上手にその作家の世界にいざなってくれる。各作家ごとにかなりの文献・資料を読むせいだろう、著者の文体が微妙に違っていてそれもオマケ的に楽しめるよ。 なおこれは去年の3月初版のもの。

1998年6月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , ノンフィクション , 評論

LV5「敵対水域」

ピーター・ハクソーゼン/イーゴリ・クルジン/R・アラン・ホワイト著/文藝春秋/1714円

敵対水域
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冷戦時代の1986年。バミューダ海域でソ連の原子力潜水艦が沈没した。これはその関係者を詳細に取材して一編に織り上げたノン・フィクションである。

「泣いた」「感動に手が震えた」などと前評判が高い上に、表紙にトム・クランシーが「これほど深く胸に滲み入る潜水艦の実話を私はこれまでに読んだことがない」などと書いているもんだからかなり期待した。
たしかに内容は感動的。また、潜水艦内の油の匂いまで匂い立ってくるような迫真の表現で読者を飽きさせず最後まで引っ張る。だがどこかで気持ちが入り込みきれなかった。

その理由は「これって本当にノン・フィクションか?」というところ。
ストーリー自体は実話だろう。が、登場人物の感情の動きなどに必要以上に作者の筆が入り込み「感動を演出」している気がするのだ。別に演出してもいいんだけど、表紙などでここまで「実話」「ノン・フィクション」をうたっている上に前書きでも「その行動、交わした会話、そして各人が胸に抱いた密やかな思いにいたるまで、すべて本人が著者に直接語った証言に基づいている」と書かれているから突っ込みたくなる。ボクが気にしすぎなのかもしれない。でもノン・フィクションをうたうには作者の筆が走りすぎている。この本は事実に基づいたフィクションである、そう割り切って読めばもちろん充分に楽しめる。

1998年3月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV5「『Shall we ダンス?』アメリカを行く」

周防正行著/太田出版/1800円

『Shall weダンス?』アメリカを行く
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映画『Shall we ダンス?』が全米で公開になり、そのキャンペーンで18都市を訪れた周防監督の日記である。

基本的にはどういうインタビューを誰からどう受けこう答えた、という記録なのだが、大部なのに読者を飽きさせずさらっと読ませる。文章が平易。彼の映画そのもので「まずわかりやすいこと」を主眼に置いているからだろう。そして楽しく興味ある展開が次々あらわれる。

アメリカ公開に向けてどこを無理やりカットさせられたか、など、エージェンシーとの闘いは映画好きには必読だし、インタビューやキャンペーンがどのように繰り広げられるかに興味ある人も必読だ。
だがこの本の真骨頂は結果的に浮かび上がるアメリカ文化と日本文化の姿だろう。特にインタビューの質問を通してアメリカ人が思っている日本が浮かび上がってくるのが面白い。それを周防監督と一緒に受け止め、では日本とは一体なんなのだとこちらも考え始めていく。そこの過程がボクには新鮮で楽しめたのだ。

1998年3月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像 , ノンフィクション

LV3「ソラミタコトカ」

山本ちず著/フォレスト出版/952円

ソラミタコトカ―会社つぶれてしもたがな!
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副題「会社つぶれてしもたがな!」。
著者のホームページで連載していた抱腹絶倒の物語を出版したものだ。HP連載当時からボクはたまたま見つけて愛読していたので本屋で見つけたときはオオ!っと喜び、お祝いの気持ちも込めて購入した。内容はだいたい知っていたのだがHP(横書き・モニター上)で読むのと紙に刷ったもの(縦書き・冊子上)を読むのとで同じ内容でどう違うかというのも興味があったからだ。

結果としては本だといまいち笑えなかった。なんか本にすると手軽に前後のページに行き来できるせいか、HPを読んでいるときの「秘密のものを読んでいるようなワクワク感」がもうひとつない、というのもあるかもしれない。とにかく本にするならもう少し内容を突っ込んで厚みのあるものにするべきだったかも。題材がとてもいいし、HPではマジで抱腹絶倒だっただけに惜しまれる。

ちなみに、HPの内容を本にしたのは、世の中でこの本が一番早かったのではないだろうか。

1997年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV4「父・丹羽文雄 介護の日々」

本田桂子著/中央公論社/1200円

父・丹羽文雄 介護の日々
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作家・丹羽文雄の実の娘が、アルツハイマーに冒された父親と「まだらボケ」の母親を介護する様を、驚嘆するほど冷静かつ平明に描いたノンフィクション。

その客観的な筆致は淀みなく、見事に両親を浮き彫りにしている。ここまで肉親を赤裸々に書けるものか、と感心してしまうほどだ。こういう題材を暗く悲しく書くのは誰でも出来る。さすが文豪の娘、というべきか、どうだ、この明るく平明な描写は!

実はボクの祖父母もかなり痴呆が進んでいたので(去年死亡)、他人事でなく熟読した。ボクが当事者だったらここまで書けるかどうか…。

1997年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 健康 , 教育・環境・福祉

LV4「椅子がこわい」

夏樹静子著/文藝春秋/1238円

椅子がこわい―私の腰痛放浪記
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面白かったのである。
副題「私の腰痛放浪記」。3年間も腰痛に苦しみ抜いて一時は筆を折る寸前まで行った作家の闘病記だ。

効かなかった治療の数々、そしてその先生や病院名を実名で出しているところがまず良い。
が、決して告発しているわけではなく淡々としたノンフィクションになっているのが秀逸。最後は心因性と診断され、心の奥深くまで赤裸々に描いていくことになるのだが、ちょっとひと壁抜けたような冷めた筆致で心地よく読めた。どうやら腰痛体験は著者の筆にかなり良い影響を与えたようだ。

1997年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 健康

LV3「日本の牛乳はなぜまずいのか」

平澤正夫著/草思社/1600円

日本の牛乳はなぜまずいのか
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知らなかったぜ、日本がこんなに牛乳後進国だったとは!

ここに書いてあることが本当ならば(本当っぽい)大手牛乳メーカーはものすごい罪を犯しているなぁ。
厚生省や大手メーカーと単身闘った藤江才介という技術者のエピソードを中心に綴られていてなかなか面白いのだが、構成が悪く何度も同じ話に行き着いてしまうのが難。しかも要点がよくわからなかったりする。
が、全体には新しい発見に満ちた本だ。そうか、あの独特の粘っこい香りは「こげ臭」だったのか……あなたもこれを読んで日々飲んでいる牛乳に対する認識を新たにしてください。

1997年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , ノンフィクション

LV5「警視庁刑事」

鍬本實敏著/講談社/1900円

警視庁刑事―私の仕事と人生
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昭和63年に退職した名物デカ鍬本實敏(くわもとみとし)をインタビューした傑作ドキュメント。

熟読するほどに感嘆。玩味するほどに悔恨。我々は素晴らしい時代を捨ててきたのである。
そう、これは単なる職人刑事の仕事録だけにおさまらず、「昭和」という人の情が残っていた素晴らしい時代の貴重な証言でもあるのだ。まぁそこまで大上段に振りかぶらなくてもいいけど、とにかく刑事という仕事の本当を知りたい方は是非読んでみてください。ちなみにすべて彼の記憶だけを頼りにインタビューは進んでおり、その記憶のコンピューターぶりにはただ舌を巻かされる。

それにひきかえ、装丁はなんとかならないのか。これだけの内容なのに、地味で古臭いイメージ。若い読者が寄りつきそうもない感じ。

1997年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV2「消えたマンガ家」

大泉実成著/太田出版/800円

消えたマンガ家
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漫画界のタブーらしいのである。あのマンガ家は何故消えたのか。どうして消えなければならなかったのか。大手出版社のあまりにも非人間的なそのシステム。タブーらしいのである。タブーなら太田出版。なるほど面白かった。

「キャプテン」のちばあきお、「幽☆遊☆白書」の富樫義博、「マカロニほうれん荘」の鴨川つばめ、あの山田花子に伝説の徳南晴一郎……なぜ才能も人気もあった彼らは忽然と消えたのか。それをきっちり検証している。
題材よし。視点新鮮。取材ご苦労。ただここまで来たらもう少しスキャンダラスさを前面に押し出しても良かったのではないか。なんとなく読後感が物足りない。

1997年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 漫画

LV5「ええ音やないか」

橋本文雄・上野昂志著/リトル・モア/4500円

ええ音やないか―橋本文雄・録音技師一代
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副題が「橋本文雄・録音技師一代」。帯に「“耳”で映画を観る」とある。

戦後すぐの大映(溝口健二!)から日活黄金期、角川映画、最近の森田芳光、阪本順司監督作品に至るまでの長きにわたり録音技師として第一線で働き続けている橋本氏のインタビュー集である。
橋本文雄の一代記であるのみならず、貴重な戦後日本映画史の資料であり、技術録・録音ノウハウ集であり、撮影現場のエピソード集でもある。分厚い。645ページ。が、それだけのことはある。

読了するのに3ヵ月かかってしまったが、その濃い内容に圧倒された。
はっきり言って映画の見方が変わる。そして邦画をいろいろ見たくなる。川島雄三、斎藤耕一、中平康、澤井信一郎…それらでの橋本文雄の仕事を目の当たりにしてみたくなる。ハリウッドのカラフルな録音に比べてどうしてもモノクロチックな邦画の録音がいままで嫌いだったが、それが偏見なのではないかと根本から考え直される思いである。

よくぞ現役バリバリのうちにインタビューしてくれたと感謝したくなるような本だ。
敢えて言えば巻末に索引を作って欲しかった。なにしろ資料としても第一級であるのだから。

1997年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像 , ノンフィクション

LV4「アンダーグラウンド」

村上春樹著/講談社/2575円

アンダーグラウンド
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地下鉄サリン事件の被害者達をたんねんに拾いだしてまとめた分厚いインタビュー集。先月の「AV女優」に似た構成。もともとこういう構成の本は好きだ。リアリティが違う。

作家村上春樹は知る人ぞ知るインタビューの名手で前にジョン・アービングをインタビューしたものを読んで舌を巻いたことがある。
今回も簡潔に要点をついている。が、読んでいるあいだ中「何故この著者が?」という思いが離れなかった。それは最後に著者自身の言葉で語られてはいるのだが、答えにはなっていない気がする。

地下や井戸を重要モチーフにする著者にとって「その日東京の地下で何が起こったのか」は興味があるところなのだろうが、ジャーナリズムでも小説でもない新しいカタチが著者によってここで現われるのではないか、と期待した読者は肩すかしを食う。
ボクは「東京の地下で何が起きたか」よりもインタビューをすべて終えた後「村上春樹に何が起きたか」が読みたかった。労作だが力作ではない。今後の著者の栄養にはなっただろうが。
ただし、インタビュー内容は衿を正されるような迫力がある。

1997年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV5「オークションこそわが人生」

ロバート・ウーリー著/白水社/1957円

オークションこそわが人生
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本を読む楽しみに「違う世界を垣間見ることが出来る」があるとするとこの本などその典型。

オークションという今まで知らなかった世界をぐっとボクの人生に近づけてくれた。
TVの「なんでも鑑定団」「ハンマープライス」などの元はすべてこの人にあるといってもいい著者の半生記である。描写にタルイところがあるのは愛敬としてもなかなか読ませる。多分内輪うけ楽屋落ちなどいろいろ罠が仕掛けられているのだろうが、悲しいかな、日本人にはもちろんわからない。

1997年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV5「AV女優」

永沢光雄著/ビレッジセンター/2800円

AV女優
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一読呆然。再読唖然。
570ページという厚さの中にニッポンノイマがすべて入っているような気がして……自分の生活圏・価値観の狭さを思い知った。

なんか、「アメリカの小さな町」(トニー・パーカー/晶文社)という名作を思い出した。
この本は典型的なアメリカの田舎町のすべての住民をインタビューしただけの本なのだが、そこから見事にアメリカという国が浮き彫りされてきて読者を圧倒する。このAV女優42人のインタビュー集もそれに近い圧倒感があった。AVがどうの、好きだ嫌いだという前にただ読んで感じるべきである。批判もせず、ただ感じる。それがこの本にふさわしい読み方だと思う。
※ビレッジセンター版が絶版のようなので文春文庫にリンクしました。

1997年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV3「お父さんには言えないこと」

清水ちなみ著/文藝春秋/1200円

お父さんには言えないこと
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週刊文春の人気連載「おじさん改造講座」の番外編。

一見軽く見える本だが内容はとても重い。おじさん達を情け容赦なく切り捨てているように思える「おじさん改造講座」だが、実は近くて一番遠い存在である「父親」を理解するためのシミュレーションだったとは……気付かなかったぜ。で、会社のおじさん達を観察しているうちにわかったことが、つまり「父親も単なる未熟な1人の人間である」ということ。そこまでたどり着くのに娘たちはいかに苦労を重ねるか…。

著者は全国のOLを実際に訪ねて丹念に取材して書いている。労作。三ツ星級。でも、後半著者自身混乱してまとめ切らなかったようでものすごく散漫になってしまった。惜しいし残念。是非とももう一度腰を据えて取り組んでもらいたい。単純な感想としては、娘に暴力をふるう父親がこんなに多いことにビックリした。

1997年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 時事・政治・国際

LV5「和菓子屋の息子」

小林信彦著/新潮社/1400円

和菓子屋の息子―ある自伝的試み
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副題に「ある自伝的試み」とあるように、著者自身の半生記でもあるが、戦前戦中の東京下町の姿を実家の和菓子屋の生活を通して具体的に活写した大変ユニークな下町文化記録本でもある。「記録目的エッセイ風半生記」とでもいうのかな。人称もどんどん変わっていくし、記録文と私小説の境が全くないのにとても自然で読みやすく、最後の方など大変叙情的でホロリとくる。

前半はその構成上カタルシスを感じにくく、著者の物としては珍しく取っつきにくいのだが、後半は実に良い。
ボクが東京育ちということも多分にあるのだろうが、読んでいてなんか愛する人が死んでしまうような感情を戦争で壊れていく東京(下町)に感じました。そうか、これは著者の東京に対する「片思い小説」でもあるのだな。

1997年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV4「証言・臨死体験」

立花隆著/文藝春秋/1700円

証言・臨死体験
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前著である力作「臨死体験」で世界中の文献を元に臨死体験を検証(臨死体験とは何かを分析)した著者が、今度は前著で中途半端になった具体的体験事例の紹介をこの本で思う存分やっている。日本人の例ばかり、それも有名人が多いのでわりと感情移入でき大変心を動かされるインタビュー集だ。前著では結局著者は来世というものに否定的な態度をとったが、この本では少々それも揺らいでいるように見える。なぜなら木内鶴彦(天文学者)のような強烈な例があるからだ。いや、マジであのタイムスリップ体験談はインパクトある。体験は強い。検証を越える。興味がある人は必読。

1997年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界 , ノンフィクション

LV1「闇に消えた怪人」

一橋文哉著/新潮社/1680円

闇に消えた怪人―グリコ・森永事件の真相
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副題が「グリコ・森永事件の真相」で、帯が「犯人は分かっていた!」。こりゃ買ってしまうわ。

かなり期待して読んだんだけど内容はもうひとつだった。
一応労作と呼ぶのだろうけど、とりあえず内容の整理が出来ていない気がする。緻密さが足りないから読んでいて不満が残る。細部で問題を提起しておいてそのまま終わっちゃうのが多く、欲求不満が溜まるのだ。あまりに総花的にしすぎたのかも。巻末の資料、「かいじん21面相」の挑戦状集が一番面白かった、というと失礼かな。

1997年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV5「ハルビン回帰行」

渡辺一枝著/朝日新聞社/1700円

ハルビン回帰行
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著者が生まれた地、ハルビン。そこを訪ねる旅を静かに綴った小品。

地味な内容。盛り上がりもないし中国残留婦人に対する記述など内省的で、読んでて肩身が狭くなる。が、この本は読者を引きつけて離さないのだ。この本を読んで以来ボクの心の中にもハルビンが常にある。読者をそんな気持ちにさせる本はそうはない。

いったい著者は何者? その筆力からしてベテランだろうが他の著作など聞いたことないし…。と思っていたら新人みたいなものだった。というか、椎名誠の奥さんだった(笑)。だからって著作経験は新人なのだから関係ないが、うまい人ははじめからうまいんだなぁと唸った。オススメ。

1996年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション ,

LV5「チベットを馬で行く」

渡辺一枝著/文藝春秋/2200円

チベットを馬で行く
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「ハルビン回帰行」があまりに良かったので、他の作品もと思って読んだ。

この本もとてもいい。チベットを馬で旅をした毎日を日記のように綴って555ページ書き切り、しかも読者を全然飽きさせない。たいした筆力なのだ。チベットの旅が事件だらけならまだ書ける。宗教だの自然だのテーマがあればまだ書ける。でも著者は単にチベットが好きというだけでその単調な旅行の日々を555ページ読ませちゃうんだから。凄いでしょ。しかも教訓だの蘊蓄だのを少しも語らない。偉い!

著者は椎名誠の奥さん。その尋常でない行動力は夫の影響もあるのだろう。でもこうなるともう「だれそれの妻」と呼ぶこと自体失礼に当たるな。下手すると夫を超えたかもしれない、とっても魅力的な紀行文だから。

1996年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション ,

LV2「林檎の樹の下で―アップル日本上陸の軌跡」

斎藤由多加著/アスキー出版局

林檎の樹の下で―アップル日本上陸の軌跡
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副題に「アップル日本上陸の軌跡」とあるように、マッキントッシュ・ファンにはうれしいノンフィクション。
きちんと軌跡を追い直してあって良く出来ているのだがもうひとつ突っ込みが足りないのが残念。人物(特に外人)の性格描写などもう少し描き込んでいれば普遍性が出たと思う。いまのままだとマッキントッシュ・ファンしか読んで楽しくない。ボクはファンであるし、ずっとマッキントッシュを使っているクチなので、楽しかったし感慨深かった。現在のマックの迷走もさもありなんって感じである。

1996年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV5「ハウステンボスの挑戦」

神近義邦著/講談社/1700円

ハウステンボスの挑戦
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4月のはじめにハウステンボスを訪れたおりに、現地で売っていたこの本を軽い気持ちで買い求め軽い気持ちで読み始めたのだが、その面白さに眠れなくなり、せっかくのハウステンボスでの休日も寝不足で頭ガンガンという状態になってしまったのだった。

著者はハウステンボスを無から作り上げた人物。
村上龍曰く「夢をいかにして実現するか。すべてこの本に書いてある」と。ハウステンボスというテーマ都市に興味がない人でも十分面白く感動できる内容になっているのが立派。94年1月初版なので注文しないと手に入りにくいと思うが。

1996年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 教育・環境・福祉 ,

LV4「神戸震災日記」

田中康夫著/新潮社/1300円

神戸震災日記
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ボクは田中康夫があまり好きではない。だけどこれは読んで欲しい本だ。「自分のできる範囲」で「自分のできること」を「継続して」やった彼のボランティア日記なのである。
ボクが夙川に住んで被災したというのもカタルシスとして大きかったのも事実だが、とにかく忘れるのが早い日本国民にちょうど一年後の1月17日に出たこの本を読んで欲しい。後半がちょっと散漫なのだが、とりあえずボクは彼を見直しました。これは売名本ではない。彼にどこかでもし会えることがあったら、まずいの一番にこの行動についてお礼を言いたいと思う。

1996年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 時事・政治・国際

LV5「シャボン玉ホリデー」

五歩一勇著/日本テレビ放送網/1631円

シャボン玉ホリデー―スターダストを、もう一度
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副題「スターダストを、もう一度」。
テレビと日本がまだ青春していた頃の、貴重でバカ面白い記録である。テレビ創生期の名番組「シャボン玉ホリデー」。クレージーキャッツ、ザ・ピーナッツなどを中心とした、歌と踊りとギャグとコントを織り交ぜた、真のバラエティだったその番組の概要をわかりやすくまとめてある。写真も多いので資料としても一級。これを読むとテレビと日本は今や本当に年をとってしまったなぁ、と実感する。それもいい年のとり方じゃない。どちらかというと退歩しているなぁと実感させられる感じ。
昭和の証言であり、今のテレビへの警鐘であり、日本人への励ましであり、そして何より極上の青春記でもある。オススメ。ちなみに著者は「ごぶいちいさむ」と読む。

1996年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像 , ノンフィクション

LV2「山際淳司スポーツ・ノンフィクション傑作集成」

山際淳司著/文藝春秋/4893円

山際淳司―スポーツ・ノンフィクション傑作集成
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先日夭折した山際淳司の傑作選。約80編入っている。高価だがコストパフォーマンスは良い。

「江夏の21球」という超弩級スポーツ・ノンフィクションで実質的デビューを飾って以来、第一線で活躍してきた著者ではあるが、改めてすべてを読み返してみると、誤解を恐れずに言えば「この人は決してうまくない」と言わざるを得ない。もちろん、これは、と言う短編もある。でも「こんなにいい素材だったら他もっと面白くなるはずだ」と思わせるストーリーが意外と多いのだ。

そう、彼は素材採集の天才ではあったがライターとしては素朴なタイプだった。というか、変な「小説的技巧」や「バラエティ的盛り上げ」を排除した文体なのだな。その辺は逆に評価すべきなのかもしれないが、題材がスポーツであるだけに、スポーツ自体の派手さに文章が負けている部分が多いと感じた。そういう意味では、この本は文章より素材を読んで欲しい。「目からウロコ」がいっぱい詰まっている。

1996年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:スポーツ , ノンフィクション

LV4「犬たちの隠された生活」

エリザベス・M・トーマス著/深町真理子訳/草思社

犬たちの隠された生活
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これは動物行動学的体裁を整えているが、実は犬を通して人生を語った書でもある。
なぜなら著者は犬と人を分けて考えていない。「しがらむ」ということにかけては犬も人も同等なのだ。終盤、淡々と愛犬達の死を語ったところなど、下手な小説よりずっと感動的だ。これまたおすすめの一冊。

1995年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:科学 , ノンフィクション

LV1「犠牲」

柳田邦男著/文藝春秋/1450円

犠牲(サクリファイス)―わが息子・脳死の11日
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副題は「わが息子・脳死の11日」。
次男の自殺を正面から取り上げた勇気の書である。

ただ、完全に客観的に書けるわけがない題材ゆえ、第三者が読むには少々入り込みにくいところが多い。内容の迫力はものすごく、単純に評価できる本ではないが、純粋に「他人に読ませる文章」という視点からいうとかなり辛い部分はある。

1995年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

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