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エッセイ(165)

LV3「ぬるい生活」

群ようこ著/朝日新聞社/1260円

ぬるい生活
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エッセイの名手である著者による「女性もこの歳になるといろいろつらいぜ」的エッセイ。更年期のつらさ、ダイエット、広がる毛穴の問題、ホメオパシーの効き目、悪霊とりつき系、などなど。カラダの不調とココロの不調がわりと静かな筆致で書かれていく。章ごとにバラバラに進むのかと思ったら、意外と連続性もあり、まとまりはよい。

たぶんこのエッセイに一番共感するのは、更年期前後を迎えた女性たちだろう。
ボクは男だし、もうちょっとだけ若いので、その点でいうと共感しにくい部分は出てくるのだが、読者に身近な部分から離れずに上手に書いてくれているので飽きずに読める。でもまぁ、ボクは読者ターゲットではないなぁ(笑)。ターゲットの人にはわりといい本だと思う。きっと共感がいっぱいある。

2007年1月26日(金) 9:00:13・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「優しい子よ」

大崎善生著/講談社/1300円

優しい子よ
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2005年の2月5日付けの日経新聞に大崎善生氏の「守られている」という長いエッセイが載っていた。
NYに在住する人からメールで教えていただくまで気がつかなかったのだが、探し出して読んでみるとそれはとても感動的なエッセイだった。筆者の奥さんである女流棋士とそのファンである不治の病に冒された少年との手紙の交流を書いたもの。ボクは会社のデスクで人目を忍んで泣いた。いまでもその日の新聞はデスクの上に乗っている。捨てられないのである。

そのエッセイが、先月末に発売になった大崎善生氏の短編集「優しい子よ」の表題作として私小説になっている。
というかこの私小説を元にあの日経エッセイが書かれたという経緯かな。ボクとしては日経のエッセイの方が抑えた筆致で好きだが、それでも家のリビングで家族に気がつかれないように泣き濡れてしまった。

ボクはいろんな愛や優しさを出し惜しみしている。心の中の密閉容器にしまい込みすぎている。照れとか損得とか自分本位とかで出しそびれてる。でもそんなのっていったい何のための人生だろう。もっともっと表出すべきなんだ。みたいな想いが読むに従って激烈に溢れてくる本である。繰り返すが日経新聞のエッセイの方がよい。その点がちょっとだけ残念であるが、心に強く残る一冊であるのは間違いない。

2006年7月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「がんから始まる」

岸本葉子著/晶文社/1600円

がんから始まる
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40歳で虫垂がんになった岸本葉子の静謐かつ希望に満ちたエッセイ。
再発の不安に震える心。死を目前に意識したとき、人はどう思い、どう生きるのか。仕事はどうするのか、治療法をどう選ぶか、など、実際に経験した人でないとわからない様々な思いと迷いが静謐な文体で描かれ、いつしか読者も必死に自分に当てはめて考えているだろう。

全体に素晴らしいのはその客観性。この落ち着きと抑制。惚れ惚れ。そして構成の妙や心の動きの的確な流れに唸る。全内容が心にすぅと入ってくる。その上で自分を試される。作者と全く同じ歳なこともあって自分の問題としていろいろ心を試されるのだ。

闘病記はいろいろあるが、その中でも出色の一冊だろう。最近超寝不足なのだが、寝不足なこと自体楽しめそうな気分である。さて。街に出よう。仕事をしよう。生を称えよう。

2004年3月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 健康

LV3「本人の人々」

南伸坊著/南文子写真/マガジンハウス/838円

本人の人々
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言うなればナンシー関や高橋春男の実写版である。
15分もあれば読み終わってしまう本かもしれないが、内容は実に濃い。顔マネでは定評がある南伸坊がいろんな「本人」になりきって顔を作って写真に写り、「本人」になりきって文章も書いている。

文章もさすがだが、なんといっても顔がすごい。特徴の切り取り方が尋常ではない。イチローの口元、新庄の目、石井一久の口、寺原隼人の眉(あれ、野球選手ばかり)などの形態模写もすごいが、性格そのものを(ある種の悪意を持って)映し出したその技がまたすごい。村上龍や清原、養老孟司、手嶋龍一、加藤紘一、山崎拓、宮崎駿……いややめよう。ひとりひとり例を挙げても仕方がない。中にはハァ?という模写もあるが、8割方絶品に似ている。

コピーライターになりたてのころ、コピーのコツとして「他人になったつもりで書いてみる」というを習ったことがある。このコピーを長嶋ならどう書くか、林真理子ならどう書くか、桑田佳祐ならどう書くか、など、本人になりきって書いてみるのだ。そうすると意外なほど発想が広がったのを覚えている。この本の効用もそんなところにあるのかもしれない。

2004年1月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集

LV4「主婦は踊る」

青木るえか著/角川文庫/400円

主婦は踊る
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「主婦でスミマセン」の続編。
あら〜前作よりパワーダウンかなぁと感じつつ前半を読み終わり、あぁ主婦日記かぁ…ありがちかもなぁと中盤を読み終わり、そそくさと終盤にさしかかったのだが、この終盤で大逆転大スマッシュが待っていたとは! 

「主婦と情熱」と銘打たれたその章は、涙と笑いが詰まっている傑作であった。
OSK(大阪松竹歌劇団)に雪崩を打って嵌りこんでいくその様たるや、なんつうかSFファンタジーみたいであった。浮世離れと自分でも思いつつリアルに恋愛していくダメ主婦るえか。あぁ笑った。というか泣いた。著者には会ったことないが、もう3年分くらい会った気になった。おもしろし。

ちなみに、OSKは今年5月で解散。81年の歴史に幕を閉じた。著者は存続運動のボランティアをやっているようだが、その後どうなったのだろう。自力公演の話も書いてあるが…。笑って泣いただけに、他人事ではない感じ(笑)。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「翻訳夜話2 サリンジャー戦記」

村上春樹・柴田元幸著/文春新書/740円

翻訳夜話2 サリンジャー戦記
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うーん。前作の「翻訳夜話」でお腹いっぱいかな、ボク的には。あっちの方が数倍面白かったし、知的興奮があった。

今回は「サリンジャー戦記」ということで、村上春樹が訳した「キャッチャー・イン・ザ・ライ」の訳出裏話になっているのだが(他にもサービス原稿いっぱいなのだが)、なんだか(厳しく言えば)言い訳と苦労話と自慢が感じられてちょっと鼻についてしまった。著者は両者ともに尊敬しているボクだが、これは蛇足だったのではないかなぁ。「キャッチャー」に(著者との契約で)訳者あとがきを載せられなかった村上春樹が、せっかく書いた原稿の行き場を作りたくて対談もつけてしまった、みたいな見方すらしてしまうボク…。

もちろんサリンジャーマニアなボクだし、著者両者ともに好きなので、内容自体を楽しまなかったかと言われるとウソになる。
あぁこういうことだったのか、とか、なるほどなるほどー、とか、でもさぁ、とか、いっぱいあって十二分に楽しんだ。でもね、やっぱ蛇足だと思うのです。柴田元幸も、村上春樹を前にすると妙に軽薄でイヤ(笑)。つか、好きな素材が揃いすぎていて、なんか気分的に天の邪鬼になってしまったかも。そんな複雑な気分デス。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論 , エッセイ

LV3「もっとコロッケな日本語を」

東海林さだお著/文藝春秋/1095円

もっとコロッケな日本語を
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東海林さだおを好きな人は多い。ボクももちろん好きだが、どちらかというと消極的に「嫌いではない」といったスタンス。なんかね、決して敵を作らない内容と文章が、どこかでウソっぽく感じられてしまい、好きになりきれないのだ。とかいいつつ、たまにこうして彼の本を読むとやっぱりうひゃうひゃ笑って楽しんでしまう。うーむ。結局嫉妬に近い気持ちがあるのかもしれない(笑)。

この本は「オール讀物」に連載されたものをまとめたもので、例によって食事関係の章も多いが、この本に限ってはそれ以外が面白い。特に好きなのは「ドーダの人々」シリーズと「なにわ七低山めぐり」。大笑いである。また、対談も面白かった。イラストも絶品。そう、結局とても面白い本なのです。まぁなんというか、老後に取っておきたい作家ではあるなぁ…。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 対談 , 食・酒

LV5「かえっていく場所」

椎名誠著/集英社/1400円

かえっていく場所
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帯に「シーナ版私小説の集大成」とある。いつものシーナ文体ではない、ちょっと静かな家族私小説だ。
ひどく小学生的な感想を言うと、この本を読んで初めて「椎名誠もいろいろ大変な思いをしているのだな」と意識した。というか、人生を楽しみきっている人なのだろうなとなんとなく感じていたので、ここまで真情を吐露されると少しびっくりしてしまう。冷静に考えれば当たり前のことなのだが、それぞれみんな大変なのだな。あは。マジで小学生みたいな感想だな。ちなみに野田知佑の乱れを書いたところなど少々衝撃的だったかな。いったい幸せに生きるってなんなんだろう。

静かな文体がとてもいい。妻娘息子に投じる視線も自然体で気持ちいい。読みやすく美しく、なんともホッと出来る本であった。ただ、椎名誠の人生もいろいろ大変なのだというこのイメージは、これからの「シーナ」にとってどうなのだろうとは思う。明るいエッセイを読んでも裏の苦労が見えてきてしまう。それは作家にとってどうなのだ? わざわざ私小説を書かなくても良かったのではないか? そんな心配が少し。

2003年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , エッセイ

LV1「フラッシュ・バック」

高樹のぶ子著/文春文庫/533円

フラッシュバック―私の真昼
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「私の真昼」という副題をもつ著者のエッセイ集。
前半は長めのエッセイ。後半は1ページ程度のエッセイ。出典が明記されていないのでどういう雑誌に載ったエッセイかわからないが、単行本自体が1991年に出たものらしいので、エッセイが書かれた時代はもうちょっと古いのだろう。時事的ネタなどさすがに古さを感じるものもある。
それなりに面白くいい時間を過ごせるエッセイで、心に残る描写や言葉もいくつかある。でも、全体に玉石混淆すぎる部分があり少し残念。ファッションの話、ライアンの娘の話など、実にいい文章がいくつかあるので、記憶にとどめたい本ではある。

2003年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「魂の自由人」

曽野綾子著/光文社/1500円

魂の自由人
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たまに曽野綾子が読みたくなる。
真面目で平明で敬虔で、そしてあくまでも自由なその言説を、たまらなく読みたくなる。そう、彼女の魅力は何ものにもとらわれまいとするその自由な精神なのだ。などと思っていただけに、その魅力をひと言で言い切った題名の本を書店で見つけたらそりゃあ買うのである。この本は「魂の自由人」であるために、どう生きていけばいいかを著者が丁寧に説いた平明かつ有益な本である。

いわゆる「生き方を書いた本」についてはボクはわりと眉に唾つけて読むタイプなのだが、どうも曽野綾子とは相性がいいらしく、とっても共感する部分が多い。特に今回の本は、目新しい言説はないのだが、自分の不自由さに窒息しつつあった状況にもはまり、とても感じるものがあった。短いエッセイだが、熟読玩味していかにして自由を獲得するかをしっかり考えたい一冊。

2003年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV5「毎月新聞」

佐藤雅彦著/毎日新聞社/1300円

毎月新聞
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まぁなんつうか、サスガですね。
毎日新聞で連載しているときから読んではいたが、こうしてまとめるとまた面白い。新聞という形式を借りたエッセイ集なのだが、形式が新聞(ニュース媒体)であることをちゃんと計算に入れた構成で飽きさせない。相変わらずの知能犯ぶり。社会に対する視点の新しさや理系的実験(三角形の内角の和とか)の楽しさはこの著者独自のものだなぁ。
そのうえ最近は知能犯的部分だけでなくブンガク的な部分も出てきて、なかなか泣ける回(「真夏の葬儀」)もある。「ねっとのおやつ」や「日本のスイッチ」みたいな別企画の発想が生まれる様も見えたりして、いろいろ面白いのである。

マジでうまいなぁと思うのは「こういう発想だったらボクでも出来るかも♪」と読者がギリギリ競えるバランスで止めておいているところ。この人の本質はこういうバランス感覚なのだろうと思う。

2003年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 時事・政治・国際

LV2「自然をつかむ7話」

木村龍治著/岩波ジュニア新書/740円

自然をつかむ7話
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以前ムツゴロウさんが「佐藤さん、私このごろ、いろんなものがどんどん結びついてきましてね」と語ったことがある。日常の些細なことと生物学者的研究と動物の行動と経済と政治と犯罪と教育と……世界で起こる様々な事象がすべてつながって感じられるようになった、というのである。

海洋研究所所長を経て初代気象予報士会会長でもある著者が書いたこの本をひと言でいうとそういうことかなぁと思う。
著者の学者的視点が、趣味や日常の些細な出来事・疑問に結びついて1話をなしている。そういうのが7話入っている本なのだ。著者は「日常のなにげない事件から話を始めて、ふつうの人には思いつかないような点に目をつけ、話を大きくふくらます」寺田寅彦の手法をまねた、と本の中で書いているが、まさにそれ。そういう本が面白くないわけがない。わけがない。わけがないのだが、ちょっと平易さと魅力に欠けるんだよなぁ(がくっ)。雑談レベルの日常の出来事の描写が魅力的じゃないのだ、残念ながら。惜しいなぁ。岩波ジュニア新書なので、そこらへんは特に大事なはず。惜しいのだ。

2003年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:科学 , エッセイ

LV4「コットンが好き」

高峰秀子著/文春文庫/724円

コットンが好き
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高峰秀子のエッセイを読んだことある人はみんな、彼女が『捨てる人』であることを知っている。
身辺を整理しすぎるほど整理して、シンプルに生きていることを知っている。その中で彼女が捨てていない(捨てられない)小物たちを集めて、その写真とともに小文にしているのがこの本である。指輪、はんこ、飾り棚、腕時計、風呂敷、台本……著者が思い出とともにそれらを語るわけ。著者ファンなら見逃せないでしょ?

とても滋味溢れた名文揃い。
実は1983年に出された単行本の復刻版文庫なのだが、2002年(ほぼ現在)に書かれた「あと書き」も瑞々しい。彼女は鴨長明みたいな暮らしと精神性に憧れているようだが、ボクにとっては彼女の生き方こそ憧れだ。女優業のときの栄光を捨て、身丈にあったシンプルな暮らしを心がけ、人の評価などどこ吹く風と自分の生き方を貫いている潔さ……。人気稼業にいた人で、歳取ってもなかなか「人気の魔力」から逃れられない人がいるが(人気稼業ではなくても、他人の評価で自分の価値を決めている人は多い)、そこともっとも離れたところで生きている彼女。見習いたし。

2003年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「どこか古典派」

中村紘子著/中公文庫/552円

どこか古典派(クラシック)
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「ピアニストという蛮族がいる」以来、エッセイには定評がある著者であるが、本業のピアニストと通底するリズム感みたいなのが気持ちいいのかな、読んでいて苦にならず、短い中にひとつふたつ上手にサビを入れ、終わり方もピシッと決まる。なかなか堂々たるエッセイストぶりに拍手を送りたくなる章多し。
ただ、なんとなくイメージ的に米原万里と通底する匂いがあり、ボクの中ではどこかバッティングしてしまうので、著者にとってはちょっと不利かも。さすがに米原万里と比べられるとエッセイ的には物足りないんだもの。もうちょっと刺激的なナニカを求めてしまうし、それが書ける人ではあると思う。

2003年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「坂崎幸之助のJ-POPスクール」

坂崎幸之助著/岩波アクティブ新書/740円

坂崎幸之助のJ‐POPスクール
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THE ALFEEの坂崎の、フォークや歌謡曲に対する並々ならぬ知識と情熱を知ったのはボクがまだ高校時代(25年近く前)、吉田拓郎のラジオ(「ヤンタン」)とか聞いていてたまにゲストで出てきて拓郎のマネをしつつその周辺をパロったりしていたあたりから「こいつ何者?」という感じであった。背景に深いものを持ったオタクしか出来ない技と話題を持っていた。

そんな著者が書いた「自分の半生記とそれにシンクロするJ-POPの流れ」がおもしろくないはずがない。はずがない。はずがないのだが、異様に期待した分、ちょっとはずしたかも。
もっともっともっとオタクに書いてよかったのだよ坂崎ぃ〜!という叫びが読後に出てしまった感じ。読者に日和らなくてもいいのだ。もっとオタクに書けばいいのだ。誰もついてこれなくてもいいのだ。ものすごく美味しい味噌汁なのに、わざわざうすーく薄めて減塩にしてしまった感じ。ちょっと惜しいなぁ。新書ではなく、単行本で濃ゆ〜〜いのを読ませて欲しいと切望する次第。

2003年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 音楽

LV4「最後の波の音」

山本夏彦著/文藝春秋/1600円

最後の波の音
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しつこくイジワルに(でも目は笑って)世の中とは人間とはをボクたちに教えてくれていた昭和のおじいさん、山本夏彦が2002年10月23日に87歳で死去した。著者の本は近年のものは結局ほとんど読んでいるのかな。これはその最終作。癌と闘いながらの執筆であった。

近年の作品をだいたい読んでいるヒトには「はいはい、そのお話もすでに伺いました」 が多い本。
それはここ数年の出版作には常につきまとっていたお約束みたいなものなので特に不満はない。それを承知で買っているし、しつこいジジイというスタンスを楽しんでもいたから。と、思っていたら巻末にそういうしつこさは「寄せては返す波の音と思え」とあった。そうか……でも、しつこく寄せる波の音は、もう二度と聞こえない。こんなに淋しいことはめったにない。淋しさのあまり彼が通ったという銀座の「Jolly」に行って酒を何度か飲んだ。でも波の音は聞こえない。

最後に、著者から学んだことの最大は「ふまじめ」ということだとボクは思っている。誤解を恐れず、自分の中だけでのまとめを言えば、著者の言説はこのひと言に集約されるとさえ思う。これからも精一杯ふまじめに生きようと思います、先生。

2003年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV3「旅路のはてまで男と女」

林真理子著/文藝春秋/1190円

旅路のはてまで男と女
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週刊文春で著者が長く連載している「今夜も思い出し笑い」2001年10月〜2002年12月分を集めたもの。
思えばこの時期の週刊文春はわりと読んでいたので、既読なものが多かった。特に田中真紀子批判の強烈な回は印象深かったのでとてもよく覚えている。同感同感!と膝をうったものだ。
改めてこうしてまとめたものを読み返すと、やっぱり林真理子はうまいなぁと思う。俗悪の一歩手前で上手に立ち止まる技、自慢と謙虚をバランスよくやりくりする術、急な怒り、たまに入れる泣かせ、全体に平易な読み易さ、すべてに手練れな感じ。刺激的なものは何もないが、寝床でダラダラ読むには最適の本。

2003年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「できるかな」

西原理恵子著/角川文庫/619円

できるかな
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できるかな、というとこんなサイトを思い浮かべるのがネット人の常識であるが、これは西原の「できるかな」である。
つか、いつものように、企画として筋が通っているのは最初の方だけ。あとはどんどんわけわかんなくなっていくのだが、それもこの著者の魅力。今回は原発の話とタイの話が白眉。現ダンナである鴨ちゃんとのきっかけみたいなのもそこはかとなく出てきて、のぞき見的興味も満たしてくれる。

初期の西原はすべての著作を読んでいたが、このごろは長旅の車中とかでの時間つぶし程度にしか読まなくなった。でも読むとやっぱりおもしろい。でも読まなくなった。なぜだろう。たぶん多作な感じが「いつでも読めるしいいや」につながっているのかな(一時の群ようこみたいに)。もうちょっと出し惜しみしてもいいかなと思う。

2003年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「落語的生活ことはじめ」

くまざわあかね著/平凡社/1400円

落語的生活ことはじめ―大阪下町・昭和十年体験記
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副題は「大阪下町・昭和十年体験記」。
著者は落語の台本を書く仕事をしている。で、「台本書いていてカンテキや火鉢、箱膳などの道具の細かい点がよくわからない。他の小道具でも使ってみてはじめてわかる発見があるのではないか…。それじゃぁ落語的な古い生活をしてみようではないか!」と思ったがこの本のキッカケ。

具体的には(江戸時代的生活はさすがに無理なので)昭和十年と設定。
冷蔵庫なしテレビなし電話なし。電球は40ワット。昼は着物。寝るときゃ浴衣。銭湯使って足りない物はご近所や大家さんに助けてもらう。ご飯は羽釜、おかずはカンテキ(七輪)で作る。机の横には火鉢があって、かけてあるヤカンからは常に湯気がシューシュー……それを一ヶ月やってみようというのだ。すばらしい。そういう発想大好き。で、そういう発想をするヒトだもの、本も当然おもしろい。日記風のルポになっていて一緒に昭和十年に生活しているようである。厳しく言うと、終わり方が中途半端なのと、どうせなら最低半年、そして厳冬も体験してほしかったと思うのだが、読者のわがままだな。充分おもしろいし、自分でもやってみたくなる。

たった65年前、日本人はみなそういう生活をしていたのだが、 いまそれをしようと思うとぶち当たる壁が非常に多いのもよくわかる。死語かつ死道具のいかに多いことか。日本が過去の豊かな価値観をいかに惜しげもなく捨ててきたかをわかると同時に真の豊かさとは何かを考えるキッカケになる。はやりのスローライフ的読み物としても秀逸。オススメ。

2003年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , アート・舞台 , 雑学・その他

LV5「主婦でスミマセン」

青木るえか著/角川文庫/381円

主婦でスミマセン
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わかりやすく説明すると「史上最弱なるダメ主婦のダメダメな日常を赤裸々に書いた爆笑エッセイ」ということになるのだろうか。
解説もそんな感じで書いてある。が、どちらかというとそのダメぶりで笑わせる(共感を得る)というよりは、「ダメ主婦が開き直って史上最強を手に入れた!」というイメージに近いかなぁ。なんというか、ここまでダメだと逆に強いよなぁと思わせる毎日を送っている著者の日常ルポなのだ。はっきり言っておもしろい。書いている内容もおもしろいが文章がまたおもしろい。軽妙かつのんびり、そして深淵(←深遠ではない)。この淵にはあまり近寄りたくないが、淵の深さだけはわかる、底に豊かなものがあるのもわかる、みたいな感じ。

で、この本を読み終わる頃には「ダメって何?」とみんなきっと思っているだろう。世間体とか常識とか清潔とかって一体何? 実に些末で、まったく本質に関係ないことではないか。どうしてそんなことに汲々として生きているのだろう?と不思議になる。そういう意味で、著者は自分を(世間常識的に)貶めることで、ボクたちに本質を見る勇気を与えてくれている。381円でそれが買える。るえか。すばらしい。

2003年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「勝見洋一の美食講座」

勝見洋一著/海竜社/1500円

勝見洋一の美食講座
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日本を代表する美食家である著者が正面切ってこういう題名で出してきたからにはこれは読まねばなるまい。
読めば読むほど、美食は才能である、との思いがひしひし。金持ちも才能であると同じ意味で。うはは。ほとんど嫉妬してます。まぁ正直ボクには彼と同じレベルの美食は無理だな。財布的にも環境的にも人生的にも。

ま、それは置いておくとして、内容的には「美食講座」という題名から予想されるものではなく、著者の美食遍歴の一端が上質なエッセイとして披瀝されているもの。こういう食べ方・生き方を美食と呼ぶのだよ、という静かな主張が行間ににじみ出ている。けど、文章がいいので嫌味ではない。そこらへんがこの著者の強み。

場所によって味が変わって感じられるワインの話や、ラセールでのダリの話など、印象的な話も多い。各章最後に書かれているおまけの文章もとても良い。全体にオススメな本なのだが、うーん、題名がちょっとなぁ。もっとエスプリの効いた題名にしてくれたらバイアスかからず読めたのにな、と、少し残念。

2002年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , , エッセイ

LV4「にんげん住所録」

高峰秀子著/文藝春秋/1238円

にんげん住所録
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名人高峰秀子の最新作。
相変わらず読んでいて気持ちよく、自然と「足るを知る」気持ちにさせるエッセイ。そろそろ著者の本も読めなくなるだろうという気もしており(知り合いの担当編集者が「これが最後かもしれません」と言ってたし)、読み終わるのが惜しかった。

正直言うと、いままでの著者が書いた名エッセイ群に比べるとちょっと切れ味が落ちる。でも彼女のエッセイを楽しみにしている常連読者たち(ボクを含む)にはそんなこと気にもならない。だって、ちょっと低調とはいえ、そこらのエッセイの数倍は面白いから。そして、今この歳になったから書けるいろいろな総まとめが哀しくも美しいから。ファンとの交友を綴った「住所録」、黒澤明のことを書いた「クロさんのこと」、木下監督のことを語った「私だけの弔辞」など、淡々としながら、読んでいる側が思わず背筋を伸ばしてしまうような名エッセイの数々。ぜひゆっくり味わって欲しい。

高峰秀子の本を読むたびに、持ち物少なく思い出も少なくきれいに老いたい、という気持ちに満たされる。そして現在の身の回りの複雑さ・煩雑さを顧みて、自分の至らなさにがっくりくる。ボクは彼女のようにきれいに老えるだろうか。5年ごとに再読して確かめたいエッセイ群である。

2002年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「南の島に暮らす日本人たち」

井形慶子著/ちくま文庫/600円

南の島に暮らす日本人たち
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小さな会社を経営し走り回って生きてきた37歳の著者がある日偶然に癌の可能性を指摘され、いつかはこうしようと考えてきた長期的人生計画を狂わされると同時に、「走り回っただけで終わるのか、こんなはずではなかったのに」と絶望する。結果的には良性腫瘍だったのだが、「もうしたいことを我慢しない、もう自分をみじめにも不幸にもしない」と誓う著者は「すでに南の島でやりたい人生を臆面なく選んでいる人たち」に興味がふくらみ、手術後ひとり南の島に旅に出る。そして、サイパン、テニアン、ロタ、パラオ、ヤップ、と、そこに住む日本人たちの人生に次々に触れていく、というノンフィクションだ。

南の陽光のもとを旅しているのに、とても内省的で静かな文章だ。
著者の人生と日本軍の過去と南の島で生きる孤独などが行間から浮かび上がって来る分、ちょっと重めなのだ。が、しかし、この旅は沈んだまま終わらない。希望をしっかり見せてくれる。最終的に「人はなんでも出来る」という強い自信とともに帰京するのである。ある種「いろんな人生を選んでいいんだよ」という読者励ましの本にもなっている。

2002年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ ,

LV4「何もそこまで」

ナンシー関著/角川文庫/476円

何もそこまで
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友達には絶対なりたくないけど敬愛していた作家、ナンシー関。
ボクが週刊文春を毎週読んでいた頃と、彼女がいきいき連載していたころが重なるので、ある時期のボクの人生にとって欠かせないパーツであった。彼女が今年の6/12に亡くなると同時に、日本の芸能界&テレビ批評は終わりを告げたと言ってもいい。時代の空気をお茶の間から掬い取り、ある毒としてテレビや芸能人にぶつけていた彼女だが、単なるテレビ批評に終わらず、それが時代評論としても普遍性を持っていた点が偉大だったと思う。あの時代の空気のつかみ方、表現の仕方は舌を巻くしかない。タレントの肝をひと言で表現するように、時代すらも彼女は乱暴に言ってのけていた。

この本はその週刊文春での連載をまとめたもの。
おなじみの筆致、おなじみのテイストでつづられる。消しゴム版画作家としてのすばらしさもあるが、こうして過去の著作を読んでいるとまぁ惜しい人を亡くしたものだと嘆息する。もっともっと読みたかったなぁ。他にもたくさん本は出ているのだが、なんだか読む気にならないくらい著者を惜しんでいる。

2002年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論 , 映画・映像 , 写真集・イラスト集

LV3「世界音痴」

穂村弘著/小学館/1365円

世界音痴
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39歳独身総務課長代理、な、歌人である著者のさえない日常を淡々とつづったエッセイ集。
恋人も持たず、青春の明るさに乗れず、都市の暮らしに馴染めず、とにかく世界全体に適応できない彼の静かな告白的文章が続く。まさに世界音痴。題名はとてもナイスだ。

それぞれのエッセイの自分自身を見る目はとても確かで、ああそういう気持ちよくわかる、の連続である。文章も独特で味がある。いいエッセイ集だと思う。
ただ、各エッセイの最後に短歌がつくのだが、この短歌がエッセイを超えていれば(少なくともエッセイを強烈に引き立てていれば)、もっともっといい本になったと思う。桝野浩一だったらそれを果たすだろう。エッセイでなさけなさを書いておいて、短歌でそれを逆手にとって読者になにかを残そうとするだろう。寒川猫持も上手に計算してそれをすると想像する。
でもこの著者はそうしない。そこが味でもあり不満でもある。エッセイはおもしろいのに(後半のエッセイはいまひとつなんだけど)、全体として印象がいまひとつなのはそのせいかもしれない。この本を出した時点で、ある意味著者のなさけない日常は「売り」のひとつになったはず。そこを独自の視点で切り取ったいい歌を、ボクは読みたい。贅沢かな?

2002年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 詩集・歌集など

LV2「一生、遊んで暮らしたい」

中場利一著/角川文庫/438円

一生、遊んで暮らしたい
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相変わらず著者の岸和田話はおもしろい。
週刊プレイボーイに連載したエッセイをまとめたもので、「岸和田少年愚連隊」に出てくる愛すべき登場人物がいろいろ出演するので、あのシリーズが好きな読者にとってはそれだけでも買いである。久しぶりに彼独特の暴力描写や筆致をボクは楽しんだ。

とはいえ、岸和田話はどうやっても「岸和田少年愚連隊」のパワーを超えられない弱みを持つ。
初作の勢いを短い連載エッセイで超えようというのがまず無理である。そして、週一連載ということで書き殴っている章もある。それも仕方がない。そう、著者の話はおもしろいのだが、質はどうしても落ちている。ま、この後、著者は創作に精力を傾けだしたらしいので、そちらに期待したい。というか、「バラガキ」を読もうと思って忘れていたよ。注文しよっと。

※というか、書いてから気がついたけど、ずいぶん前に同じ本の単行本を買って書いていた。二度買い。あらら。

2002年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「47歳の音大生日記」

池田理代子著/中公文庫/629円

47歳の音大生日記
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1999年に「ぶってよ、マゼット」という題で出された単行本の改題文庫化。
同じ内容だとしたら文庫の題名の方が数倍わかりやすく内容を言い当てている。つまりは、あの「ベルサイユのばら」「オルフェウスの窓」の池田理代子が47歳にして一念発起し、東京音大の声楽を受験し、受かり、4年間の学生生活を送る顛末が書かれている本なのだが、その間、彼女は結婚もし旅もしライブもし病気もする。かなりハードな4年間である。その4年を主観的すぎず客観的すぎず、威張りすぎず謙虚すぎず、とても上手に描写している。

読者的には「47歳から始めて人生を変えた大御所漫画家の熱意と勇気の物語」的に期待しちゃったりする人が多いかもしれない。実際はもっと気楽な本だ。
冒頭のあたりにこんな文章がある。「『自由であるっていうことはね、何も一切期待しないということよ。期待するから、人間は捉われてしまうの』 この言葉で私は、捨て身になって人事を尽くしきる勇気を与えられた」 この本の芯はここにあると思う。著者は「自分が47歳にして何かを成した」ということから自由だ。何にも捉われていない。だから教訓くさくなく、読んでいて気楽なのだ。この辺の「読者に教訓・説教と思わせない筆致」って実は高等な技だと、ボクは思う。

2002年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , エッセイ

LV4「フランス田舎めぐり」

大島順子著/JTB/1500円

フランス田舎めぐり 単行本
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フランスの田舎を旅行するための適切なガイド、なのだけど、同時によく出来たエッセイ集にもなっていて、読み終わると実用的知識プラス「フランスの田舎で数日過ごしたような満足感」に浸れる。
こういうサービス精神満点の本にもともとボクは滅法弱い。書いている人のメンタリティまで想像できて「うー惚れそう」くらいまで行ってしまう。うはは。ちゅーことで、LOVE!なのである。

いや、でもボクのそういう趣味は置いておいてもいい本である。フランス好きや旅行好き、田舎旅のエッセイなどが好きな人はもれなく満足するであろう。文章もいいし構成もなかなか良い。ボクはプロバンスのリュベロン地方を回って帰ってきた後これを読んだのだが、先に読んでおけば良かったとずいぶん悔やんだ。普通のガイドでは教えてくれない、コアでエンスーな旅がこれを読めば体験できるであろう。

2002年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV5「天文学者の虫眼鏡」

池内了著/文春新書/680円

天文学者の虫眼鏡―文学と科学のあいだ
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毎日新聞で古館伊知郎が「目から鱗の名著」と書いていたのを思い出して本屋で購入。
1999年出版の本で、内容自体は96〜97年に「図書」に連載されていたもの。著者は自称「文系」天文学者。様々な文学作品をひもといたエッセイなのだが、着眼点が非常に面白く、知的興奮度は抜群である。

例えば「コップ一杯の水にニュートンの脳細胞を作っていた原子が4000個も含まれている」とか「超自然的な力が働くように思える予知夢であるが、偶然に予知夢を見る人を確率論で計算していくとたった一日で日本に26人もいるはず」とか、文学を起点にこんな面白い話まで発展していくのか、という話が満載なのである。漱石の猫を分析した章も興味深いし、カエサルのローマ暦の話もわかりやすい。
新書はこうあるべし、という見本のような本である。面白い章と面白くない章の差が顕著なのが残念だが、かなり楽しめる。おすすめだ。

2002年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 科学

LV5「君の鳥は歌を歌える」

桝野浩一著/角川文庫/590円

君の鳥は歌を歌える
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自称「日本一の特殊歌人」桝野浩一が、他人が作った映画や小説やエッセイや演劇をその内容をふまえつつ短歌にしてみた、という「鳩よ!」連載の企画を一冊にまとめたもの。題名はビートルズの「And your bird can sing」から。ボクがビートルズの曲の中でもっとも愛する一曲である。それにも惹かれて熟読。

実際、熟読に値する。 もともと実にクレバーである著者が、彼が良いと思って選んだ元ネタのエッセンスを抽出してくれたうえに、その本質を短歌にしてくれるわけで、つまりは人生のエッセンス満載なのだ。なんというか赤ペン持って線引きながら読みたい気分になるくらい啓示的な文章に満ちている。
そして肝心の短歌が実にしっくりくるのも参る。名作もいくつかある。いや、いくつもある。読み終わるのに4時間かかるような本より、一行の短歌の方が強いことがあることを改めて知った気分。著者のファンたちにとっては今更何を褒めているのだ?だろうが、まぁ今更にしろ、彼にちゃんとのめりこんでみたいとちょっと思ったのでした。

2002年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:詩集・歌集など , エッセイ

LV4「旅行者の朝食」

米原万里著/文藝春秋/1524円

旅行者の朝食
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名エッセイスト米原万里。「彼女のエッセイにハズレなし」はすでに定説で、ボクは過剰な期待をもって読み始める。この本もその例に漏れず。期待が過剰すぎてちょっとガクッと来たが、エッセイとしての出来はほぼ完璧。いつもはあるはずの哄笑する部分が今回はない、というところだけが不満なのである。気楽に読み流すエッセイとしてはとてもいい時間をボクたちに与えてくれるだろう。

いつもの如くロシアの話題が中心であるが(だって著者はロシア語通訳だから)、今回は「食べ物」に焦点を絞っている。不勉強にもジャガイモの普及の話は知らなかったのでその章が特に印象に残っているな。話題を食に絞ってしまったせいか、いつものキレがない部分もあるが、楽しいエッセイ集ではある。

2002年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , , エッセイ

LV5「まれに見るバカ」

勢古浩爾著/洋泉社/720円

まれに見るバカ
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章立てをご紹介すると、第一章 バカはなぜ罪なのか 第二章 バカ本を読む 第三章 現代バカ著名人列伝 第四章 現代無名バカ列伝 第五章 わたしの嫌いな10のバカ言葉 第六章「あとがき日付」一言バカの諸君 第七章 バカを寿ぐ、である。

実に面白そうではないか。
んでもって著者はなーんにも遠慮せずバカをバカと呼び、バカにし切り捨てる。しかも上から見てバカにするのではなく、下から仰ぎ見てニャンニャンじゃれついてバカと呼ぶのでもなく、しっかり同じ地平に立ってバカにする。しかも「こういう本を出している自分が一番バカでして」みたいな自虐やおもねりがない。それが一番潔く気持ちよい。

バカ本、現代バカ著名人列伝のあたりは、遠慮がない分、実に鋭い書評・人物評になっており、特におもしろい。
無名バカ列伝も良い。社会をバカという切り口で切ると実に爽快だということがわかる。ただ、バカにバカというバカはバカに違いない的な二重三重四重構造に時たま著者が陥り、読者もなにがなんだかわからなくなってしまうところがあるのだが、まぁバカ本だからそれもいいか。細かく異論がある向きもあろうが、勢いがあってボクは気に入った。

2002年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV3「もう消費すら快楽じゃない彼女へ」

田口ランディ著/幻冬舎文庫/571円

もう消費すら快楽じゃない彼女へ
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実は小説でない田口ランディを読むのは初めてなのだが(つか、小説も「コンセント」しか読んでない)、この本のようなエッセイだと、なんというか、読者に嫌われないためにずいぶん気を使って書いているなぁという印象を受ける。もっと高慢に書いた方がキャラ立ちするなぁとも思うし、意外と普通っぽくて好ましく思う部分もある。ただ、読者がついてこれるか心配で論の展開をくどくしてしまっているような部分がある。これはウェブで書いていたという出自がそうさせるのかもしれない。不特定多数に対しての文体。本にして売った時点で「田口ランディを買うタイプの人しか読まなくなる」ので、そこまで気遣わなくてもいいなぁとちょっと思った。

内容的には面白かった。特にノリコという友達には瞠目。彼女の「人をなぜ殺してはいけないか」に対する答えの中の「感情は思考より劣ると信じ込んでいるのはナ〜ゼ?」は名文句だ。他にはロックに対する考察、無内容に対する考察など、刺激になる部分が多々あった。

2002年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「ぬるーい地獄の歩き方」

松尾スズキ著/文春文庫/514円

ぬるーい地獄の歩き方
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面白い。世の中にある「公然とつらがれない地獄」、つまり「ぬるい地獄」に焦点を当てて、ぬるい地獄のまっただ中にいる人(もしくは経験者)と対談しながら、そこでの地獄のぬるぬる具合を楽しむ、という企画自体がまず面白い。

たとえば「子役」の世界。
どうやら地獄らしいが、公然とした地獄ではない。いったいどういう世界なのだ?みんなどこに消えた?そして消える前になぜ太る? そんな疑問を胸に著者は子役出身の訳者にインタビューしていく。「ぬるい地獄ってなんだ?」と読者は思って読み始めるが、読み始めてさえしまえばその意味はすぐわかる。そんな説明しがたい環境に、著者ははじめて焦点を当てた……。

そう、企画は面白いのだ。だが、出てくるテーマがどれも突っ込み不足でもうひとつなのがこの本の難点。惜しい。企画は最高なのに…。痔や若ハゲや付き人はわかる。ぬるい地獄だ。が、メディカルアートってなんだ? いじめや失恋は本当にぬるいのか? もっと他にテーマはないのか?
とても好きなタイプの本なだけに惜しいなぁ。いくらでも突っ込める題材なのに。倍くらい厚くして、テーマもより吟味して、改訂版を出して欲しいと切に望むボクなのである。

2002年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 雑学・その他

LV3「印刷に恋して」

松田哲夫著/内澤旬子イラスト/晶文社/2600円

印刷に恋して
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印刷の現場をルポルタージュした本。
詳細かつわかりやすいイラスト(内澤旬子)が効いている。「本とコンピュータ」という、興味あるヒトはみんな知っている季刊誌に連載していたコラムをまとめたもので、消えゆく運命にある(?)活字・写植の世界を中心に、変わりゆく印刷業界への哀惜を込めた名ルポになっている。

印刷所は新入社員のときコピーライターをしていた関係でボク自身何度も出入りした。あの頃はまだ活版だった。魔法のように刷り上がってくるのを見ていちいち興奮したのを覚えている。色校正の現場も職人ぽくて格好よく見えたものだ。
そんなこともあってボクは普通の人よりは印刷的な知識があると言ってもいい。惜しいのは、そういうボクにとっても、ちょっと難解な本になっていたことだ。専門用語をいちいち説明してはいられないだろうが、著者は読者を置いてきぼりにしてどんどん深く印刷の世界に入っていってしまう。印刷にちょっと興味がある程度の読者にはかなり辛いのではないだろうか。

印刷技術の歴史と現状はなんとなく理解できる。未来はこうなっていくのだろう、という展望も見える。これをもうちょっとだけ素人にもわかりやすく書いてくれたら……。本好きな素人層は意外と印刷に興味を持っているものだ。そこらへんを取り込むいいテーマであっただけにちょっと惜しい。

2002年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

LV2「石垣島スクーター遊々記」

青井志津著/四谷ラウンド/1400円

石垣島スクーター遊々記
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4月に石垣島へ行って来た。
ボクは現地限定的出版物に非常に弱いので行けば必ず何冊か購入する。そのうちの一冊がこれ。重度の皮膚病を患い、治療法として日光浴が必要な著者が、51歳のときに東京から沖縄は石垣島へ移り住み、スクーターを移動手段としつつ南の島の生活を楽しんでいる様子を描いたエッセイである。琉球新報や八重山毎日新聞に書いたコラムをまとめたものらしい。

なんというか、ゆったりと著者の日常に浸れるいい本だ。ただ、ゆったりさ加減もおもしろさ加減もさすがにちょっとプライベートすぎて読んでいてつらいところはある。でも決して嫌いな本ではない。というか好きである。遠き石垣に著者が毎日暮らしていることが感じられるだけで、心にほのかな灯りが点る。嗚呼、石垣島、また行きたいなぁ。

2002年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ ,

LV3「木立ちのなかに引っ越しました」

高木美保著/幻冬舎文庫/571円

木立ちのなかに引っ越しました
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病院の待ち時間1時間ほどでササッと読めた本ではあるが、わりと文章もよく、好感が持てた。
ご存じの通り、高木美保は女優である。昔NHKのドラマでチェリストをやった演技が印象に残っていたりして、好きな女優のひとりではある。そんな彼女が都会から那須に引っ越した動機、顛末、そして自然に触れたり農業したりする日々の生活の魅力が書かれている。

内容的にはありがちとも言えるが、品がよくハシャギのない文章は気持ちよく、読んでいてゆったりした気持ちになる。特に田舎に引っ越そうという人や、ファーミング(農業)を始めたいと思っている人にとってはいい参考になるのではないだろうか。都会生活者がはじめて田舎に住む戸惑いなどもよく書けている。

2002年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「銭湯の女神」

星野博美著/文藝春秋/1524円

銭湯の女神
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「転がる香港に苔は生えない」で大宅賞を取った著者の受賞第一作。
香港から帰ってきて日本に違和感を感じたまま書きつづった日常エッセイだ。「転がる香港…」がとても気に入ったボクは、続けてこれも読んでみた。結果的には予想を裏切らぬ好エッセイであった。

焦点は銭湯とファミレスに当たっている。
このふたつを中心に、彼女の回りに起こる様々な物事を通して世の中を、そして違和感だらけの日本を分析している。同じ題材を群ようこが書いたら抱腹絶倒ものになるであろうが、星野博美が書くととても内省的なものの見方になる。お昼のワイドショーとラジオ深夜便くらいは静かさが違う。もともと活発なタイプでないのだろうが、その活発でない部分を自分の中で肯定的に捉え、積極的に前面に押し出しているのが彼女の個性である。無理に明るく書くエッセイストが多い中、すがすがしくさえある。さすが写真家(本業)というべき描写力もなかなか良い。
明るい日常エッセイはそこらじゅうに溢れているが、この本のようなエッセイは著者しか書けない。その武器を最大限に使用している気持ちのよいエッセイであった。次も読みたいな。でも寡作なのだろうな。

2002年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「人生を救え!」

町田康・いしいしんじ著/毎日新聞社/1500円

人生を救え!
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町田康が毎日新聞紙上で連載した人生相談をまとめたものが前半。後半はいしいしんじと一緒に浅草とかを歩きながら対談したものだ。

前半の人生相談が圧倒的に面白い。
なんつうか、まぁしょーーーもない相談が多いのだが(スカートがはきたいとかネコがいなくなったとか何をやっても続かないとかうちのテレビが壊れたとか)、そのしょーーーもない相談に町田康が例のパンク文体で確信犯的生真面目さでトツトツと答えていくのが笑える笑える。特に、展開が読めない書き出しの妙、が見事。相談への答えなのに、質問を受けないで文章が始まる。そこらへんがうまいなーと思わせる。

いしいしんじ氏については実はよく知らない。要注目作家らしい。後半の散歩対談はそんなに面白く感じなかった。

2002年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 対談

LV3「たのしい不便」

福岡賢正著/南方新社/1800円

たのしい不便―大量消費社会を超える
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副題は「大量消費社会を超える」。
毎日新聞西部版での人気連載を一冊にしたものらしい。簡単に言うと「不便を実践してみた」という連載だ。具体的には「電車や車を使わず自転車で通勤する」「自動販売機で物を買わない」「外食をしない(弁当を自分で作る)」「エレベーターを使わない」「野菜や米は自給自足する」などなど。んでもって、そこに見えてきた生活の楽しさ・充実さを語っている。

・・・と紹介すると、ストイックな「べき論」的本かと思われがちだが、そうではない。
著者は連載の早い時点で「楽しめなければ長続きしない」と気づき、ストイックさから離れていく。そこらへんの等身大な感じがいい方に働き、とても良い本になった。後半は「消費社会を超えて」と題し、野田知佑を初めとしたナチュラリスト系(と一括りにするのは大変失礼な面子だが)との対談。いろんな考え方に触れられ、タメになるし、視野が広がる。

この本で展開している論を一言で言うと「現実感とは何か」ということかもしれない。現実感が日々なくなっていっているこの日本で、いかにして現実感を持って生きるか。言葉が固く見出しも固く新聞記者ぽくなりすぎている文章が難と言えば難だが、身の回りの現実感を再度見直し発見してみたくなる良書である。

2002年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 時事・政治・国際 , 教育・環境・福祉

LV3「贅沢入門」

福田和也著/PHP研究所/1250円

贅沢入門
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著者がWebマガジン「JUSTICE」に連載していた「福田和也の『目』」というコラムをまとめたもの。
食・遊・知・旅といった分野での著者のいろんな贅沢趣味を少々の嫌味を顧みず書いたもので、ウェブ上のコラムということもあり、かなり気楽にプライベートに書いている印象を受けた。独善的にすら感じられるコラムもあるが、実用的な贅沢に役に立つことはもちろん、ある種精神的ハイソに毎日を送る術がしっかり書いてあって面白い。

しかし、かなり「贅沢」ではある。読んでいて鼻白む部分もずいぶんある。きっとくだらないことには徹底してお金を使わないのだろうが、ある意味お金の使い方として迫力を感じた。そしてそういう「贅沢」が自らを刺激し、自らのクオリティも高めてくれることを著者はしっかり自覚している。自らを高めるためにちゃんと贅沢しなさいよ、と読者に語りかけている本でもあるのだ。

2002年2月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , , エッセイ

LV5「舌づくし」

徳岡孝夫著/文藝春秋/1714円

舌づくし
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季刊誌「四季の味」での著者のコラムを集めたもの。
すべてのコラムが料理や味の思い出に収束しているから一見食べ物が主役の本のように思えるがさにあらず。テーマは確かに「味」ではあるが、ある時はメインディッシュになり、ある時は付け合わせになり、ある時は調味料になり、著者の半生というお皿を様々に彩る役目しか得ていない。であるから、味エッセイと括ってしまうと的を射ないことになる。というか、そう括ってしまいたくない魅力に溢れた名エッセイ集だ。

フルブライトで留学し、毎日新聞社を経てサンデー毎日の編集委員などを歴任した著者は、とにかく経験豊富。世の中の見方も一元的ではなく、たいへん「大人」である。そしてまたそれを静かで味わい深い文章に託せる筆力を持つ。菊池寛賞や日本推理作家協会賞、新潮学芸賞などを受賞しているのもうなずける文章力。一読魅了されてしまった。

ほとんど半生記に近い構成である。このエッセイを読むことで著者の半生は浮き彫りにされてくる。淡々とした名文で綴られたそれは季節と味と様々な人生が交錯して飽きさせない。決して派手ではないが、着飾らない素朴で滋味溢れる食事をしたあとに感じるような深い満足感。折に触れ読み返したい本になった。

2002年2月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , エッセイ , 自伝・評伝

LV2「ラーメンを味わいつくす」

佐々木晶著/光文社新書/700円

ラーメンを味わいつくす
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「TVチャンピオン第7回ラーメン王選手権」で優勝した著者のラーメンエッセイ+お奨めラーメン店350店リスト。

ボク個人は、実は、あまりラーメンに固執していない。世のラーメンブームでいわゆる「天才ラーメン職人」が多々輩出しているのをかなりネガティブに見ているくらいで、なんというか、ヒトが言うほどラーメンに「舌の上の芸術」的深みを感じないのだ。経験不足もあるだろう。まだラーメンにビックリさせてもらったことがないのが大きい。早くラーメンでビックリして、世のラーメン好きといろいろ話をしてみたいとは思うのだが…。

ということもあって、ラーメン本というよりは、ある食に凝った著者のエッセイとして読んだ。
さぬきうどんや沖縄に凝った経験上、その方向性は共感たっぷりである。で、この手のラーメン本がほとんどラーメン道みたいなものに偏りすぎているのに比べて、この本はわりと客観的に凝った軌跡が書かれているので、ラーメンの味自体に共感持てないボクでも胸焼けせず非常に面白く読めたのである。
巻末の350店リストを見ると、行っている店もわりとある。うーむ…。これは!と思わされるラーメンを探してもうちょっと食べてみよう。淡々とした文章だがなんとなくラーメン欲が出るいいエッセイであった。

2002年2月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , エッセイ

LV2「本屋はサイコー!」

安藤哲也著/新潮OH!文庫/486円

本屋はサイコー!
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副題は「本を売る仕事はこんなに面白い」。
題名はタモリの懐かしい番組「今夜はサイコー!」のもじりかな。うーん、別にもじらなくても良かった気はするが…(つか、いまではネタ元がわからない人も多数いよう)。

佐野眞一の「だれが『本』を殺すのか」を読んで以来、往来堂書店の安藤店長(現在はbk1の店長)はかなり気になっていた。個人的に「本屋という商売」にすごく興味があることもあるが、旧来システムに対するブレイクスルー例としても興味があった。その著者による本屋奮闘記であるこの本は、そんなボクの興味を満たしてくれた点においては満足のいくものであった。

著者が本屋商売にはまっていく過程はおもしろい。書棚工夫やキャンペーンの張り方も、素人にわかりやすく、成功例としておもしろかった。読後、本屋に入るたびに書棚の並びをチェックしてしまう自分がいたりする。が、(贅沢かもしれないが)内容がそれだけなのが寂しい。著者の体温が伝わってくるような記述がもっとあったら、もっと共感は増えた。奮闘記というものは奮闘する人の体温が感じられないと単なるハウツーものに終わってしまいがちなのだ。その辺が残念。

2002年1月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 経済・ビジネス

LV3「自転車生活の愉しみ」

疋田智著/東京書籍/1700円

自転車生活の愉しみ
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自転車通勤を夏以来続けているボクはもちろん著者のサイトを何度か見ている。自転車通勤の世界では有名な人である。で、この著者、TBS「ブロードキャスター」のディレクターらしいが、国会私的諮問機関である「自転車活用推進研究会」(←京都議定書に対応したもの)の唯一の民間人メンバーだったりもするのである。

だからだろう、この本には個人的自転車普及視点と公人的自転車普及視点とが混在している。まだまだ低い自転車の社会的地位を向上するためにも自転車普及的な発言は必要だし有効だ。ただ「本」としての魅力だけを考えると、スタンスがちょっとお上的な分、どうしても少し魅力が落ちてしまう。ヨーロッパの自転車生活と比較して大上段に振りかぶられた途端に、ひそやかな愉しみ的に読み進んできた気持ちが妙に萎える。たぶん、自転車仲間の目をかなり意識した主張になっているのだとは思うが(オピニオン・リーダー的に)、自転車初心者に向けての啓蒙書とすると、そこに矛盾が生まれてくる。自転車生活を愛する個人の視点で貫いてくれた方が結果的に読者に届くものが多くなった気がする。

出だしが素晴らしい。自転車の絵の描き方から始まり、「この本の目的は、一言で言うと、この絵をソラで描けるようになることにある」と続く。うーむと唸って喜々として読み進んでいったのだが、結果から言うとこの目的は中途半端に終わってしまった。もちろん得たものはいっぱいある。自転車のメンテはもちろん、ヨーロッパの自転車事情についてもモグラの目を開かれた。が、至極親密に始まった著者との自転車行の楽しみは読むに従って消え、自転車をソラで描けるようになる、という素敵な目的(自転車との恋愛の始まり)は達せられなかった。惜しい。題名も普通すぎるのが惜しい。全体に惜しいなぁと何度も感じた本である。

2002年1月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , スポーツ

LV3「面目ないが」

寒川猫持著/新潮文庫/438円

面目ないが
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毎日新聞に連載していたコラムを中心に編まれたエッセイ集。
毎日新聞のはリアルタイムで読んでおり、また、著者の短歌自体は折に触れ目にしていたので、どことなく懐かしい気持ちで読んだ。山本夏彦のエッセイで彼のこの本(単行本当時)が取り上げられベタ褒めされたりしていたのが個人的には印象的であるが、これを読むと、公私ともに山本に師事していたようではある。そう思って読むと、確かに文体が非常に似ており(特に連載初期などあからさまに似ており)、ちょっと微笑ましかったりする。

著者独特の自己憐憫と自己悪口が鼻につく読者もいるかもしれない。自分の情けなさをネタにして歌を詠む著者の視線はエッセイでも同じように働いており、結果として常に自分しか見ていない独特のエッセイ世界が出来上がっている。そこが売りでも味でもあるので仕方がないのである。
と、こう書くと批判しているように読めるかもしれないが、さにあらず。なぜか大変気持ちよく読めたので喜んでいるのである。悪意を持たれぬ筆の運びは、突然出てきてすでに名人の域である。さすがなものだ。
ちなみに著者のエッセイより著者の短歌の方がボクは好きである。

2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「アフガン褐色の日々」

松浪健四郎著/中公文庫/743円

アフガン褐色の日々
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ある掲示板で薦められた本。著者が1975年から3年間、アフガンで生きていた頃のノンフィクション・エッセイである。83年初版の少々古い本で本屋には置いてないだろうが取り寄せて読むことは出来た。

松浪健四郎~?と最初は懐疑的であったが、読み終わって、アフガンも著者自身も身近に感じている自分に気付く。アメリカ同時多発テロ事件の時節柄、他にもアフガン関係の書物はいっぱい出ており(この辺が日本人の好奇心の健全さを表しており頼もしい)、それらのきちんと突っ込んだアフガン分析に比べると本書はかなりお粗末に感じられるのも確かだが、ここには著者が肌で感じたアフガンの空気がある。シズルがある。平和の美しさがある。
著者自身、文庫版あと書きで「当時の情感のまま筆をとどめておくべきだと考え」直さなかったと書いていることでもわかるように、文章的には若く稚拙で、分析も甘い。でもその良さがいい方に出て、臨場感たっぷりの好著となった。

それにしても松浪健四郎が日本人初の国立カブール大学講師とは知らなかった。そしてこれだけ(まさに)肌でアフガンに接してきたとは…。時節柄、アフガン先駆者としての著者の「いまの」意見を聞きたいと思うのだが、マスコミに何故かほとんど彼の露出はない。マロムセイ、もっと発言を!

2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ , 時事・政治・国際

LV1「『タンポポの国』の中の私」

フローラン・ダバディー著/祥伝社/1600円

「タンポポの国」の中の私 ― 新・国際社会人をめざして
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副題は「新・国際社会人をめざして」。
いつもサッカー日本代表監督トルシエの横にいる背の高い謎の外国人が、著者である。題名は、彼が伊丹十三の映画「タンポポ」を愛するあまり来日したことに由来する。日本への愛が、そのあまりの憎も含めてよく書かれている本である。訳者がついてないのを見てもわかるとおり、ちゃんと日本語で彼自身が書いているようだ。すばらしい。

内容的にはイイコトは言っている。でもどの命題についてもちょっと表面的な言及になっているので欲求不満は残る。数年の日本滞在&日本語勉強でここまで言及できれば充分というのはわかっているが、本として読むとやっぱり説得力が足りない。もう少し自分のなかで醸成させてから出版した方がよくはなかったか。
サッカーやラグビーへの想いはよく伝わってくる。でもここらへんについても、もう少し深い話が聞きたかったなぁ。

2001年11月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , スポーツ , 評論

LV3「思い通りの家を造る」

林望著/光文社新書/700円

思い通りの家を造る
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客観的な視点と独自の主観を常に維持している著者による「我が家建築論」である。
例によってイギリスの家についての言及から始まるが、独自の主観的意見が要所要所できっちり入ってくるのでやっぱりオモシロイ。外国の状況だけを語って誉めあげる本が多い中、外国の状況を踏み台に自分の土俵に勝負を持ち込んできて展開させる技量はさすがなものだ。というか、そういう当たり前のことが出来ていない本が多すぎると言うべきか。

実は、彼の家論はボクのそれとかなり似通っている。おととし、ボクはボクなりの思想を持って家を建てたが、この本を読んで「あぁすればよかった、こうすればよかった」という後悔に迫られることは少なかった。敢えて言えば、妻が嫌がったためにやめたドラム式洗濯機にすれば良かったかなということと、ソーラー発電に最初からすれば良かったか、というあたり。今は、おんぼろすぎるクルマを新しくするのをやめて、ソーラー発電にその分のお金をつぎこもうかと相談しはじめたところである。うん、この本は実用にもとてもいい。これから家を建てる人には必読の一冊でもあろう。

2001年11月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:実用・ホビー , エッセイ

LV1「パリのトイレでシルブプレ~」

中村うさぎ著/角川文庫/400円

パリのトイレでシルブプレー!
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おもしろくないわけではない。
94年~96年にかけて「電撃王」という雑誌に書かれたエッセイを集めたものだというから、雑誌のターゲット的にはこういった文体で正解だろう(書き下ろしも半分くらいあるのだが)。そして各エッセイの末尾に現在の感想を追記しているのもそれなりの効果を上げていると思う。でも、なんちゅうか、全体に「Too Much」なのだ。酷暑の中で読むと暑い!

中村うさぎの魅力は、タカビーな部分と大ボケの部分のギャップの激しさである。うまくハマるとそのギャップがめちゃおもしろくなる。
が、この本では、過去のエッセイに自らツッコミをかけちゃっている。そこが敗因かなぁ。この頃の他の連載(週刊文春とか)が低調なのも、自分ではかなり完成された技だと思っているであろう自分ツッコミのせいだとボクは思うな。中村うさぎは、自分にツッコまず「ひたすらタカビーにボケていく」べきだと思う。それは自分ツッコミよりずっと高度な技。これが出来る数少ない作家のひとりゆえ、期待している。

2001年8月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「南島ぶちくん騒動」

椎名誠著/幻冬舎文庫/457円

南島ぶちくん騒動
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石垣島で買い、石垣島で読んだ。
著者の監督により、石垣の白保海岸で撮った映画「うみ・そら・さんごのいいつたえ」のロケ日記的趣きの本である。120ページ程度の薄さにモノクロ写真ふんだん、という体裁なので、あっっっという間に読める。でも椎名節は八重山ののんびり空気に合っていて、薄くてもあっという間でも不満はあまりないのであった。

文中、「南の島の魅力はなにか?ひとつだけあげよ」という命題で、著者は「沖縄の子供たち!」としている。卓見、そして共感。あの目の輝き、あの身体中から発散される楽しいぞオーラは尋常ではない。たぶん著者も自分の子供時代に重ね合わせて見ているのだろう。つか、重ね合わせて見られる子供が東京にはもういない、ということか。著者撮影の写真はそんな子供たちをよく捉えている。目線が近いせいだろうか。

2001年8月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , , 写真集・イラスト集

LV1「さんずいづくし」

別役実著/白水社/1600円

さんずいづくし
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本屋で立ち読みしたときは「これは面白そう!」と思ったのだが、購入していざじっくり向き合うとちょいとううむ…。

さんずいがついた漢字を48文字取り上げて、それについてひとつ数頁ずつ考察(エッセイ)する構成だが、そこは別役実、たんなる漢字ウンチクにとどめない。なんというか「フィクション」が入るのだ。つまりウソが入る。デタラメも入る。真実も入る。その辺の微妙なバランスを著者は「どうよ?」とばかり楽しんでいるのだが、読者であるボクは「別に?」という感じでいまいち面白くなかったのでした。

なんだか頭のいい人が自分の頭の良さ具合をひけらかしているような印象が残ったのが特に残念。そんな人でもないと思うのだけど・・・。あまりあざとくしない「さんずいエッセイ」を勝手に期待したボクも悪い。うん。

2001年5月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 雑学・その他

LV5「ロシアは今日も荒れ模様」

米原万里著/講談社文庫/495円

ロシアは今日も荒れ模様
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前に読んだ「不実な美女か貞淑な醜女か」も相当面白かったけど、デビュー作のそれにくらべてこれは慣れてきたのかもっとこなれていて、なんか安心して楽しめた感じ。
相変わらずどのエピソードも選り抜きで、ロシア人とロシアという国の素顔をよく伝えてくれていると思う。著者自身の感性に「ロシア的小話」が深く入り込んでいるようで、小話的「我を笑う」視点がそこここに出ているのが特によい。そういう感性もなく、文章も下手な人がこういう題材を書いたら(ありがちだよね)、自慢めいてめちゃめちゃつまらないものに仕上がっただろう。ボクたちは「ロシアという文化の翻訳者」に米原万里を得て、実に幸せなのである。

それにしてもこのなかにたくさん描かれているロシア人の酒量についてのエピソードには愕然とした。
その中のひとつ、実話らしいが、ソ連宇宙総局の幹部3人(というとわりとお年寄りだろう)が六本木のあるバーの飲み物を最後の一滴まで飲み干したというエピソードには特に。だって「ウィスキー15本、ウォトカ5本、ブランデー5本、ワインとビール数知れず」だって言うんだから……。3人で、だぜ。うーむ、ボクは若い頃「ウィスキーのボトル1本なら軽いです」って自慢してたけど、井の中の蛙とはまさにこのことだなぁ。

2001年3月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 時事・政治・国際 ,

LV5「Sydney !」

村上春樹/文藝春秋/1619円

シドニー!
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村上春樹によるシドニーオリンピック観戦記である。
いや、観戦記というよりシドニー街紀行の趣の方が強い。ちゅうかシドニー滞在日記、かな。その滞在期間中にたまたまオリンピックがあった、みたいな距離感で書かれている。その距離感がボクには心地よかった。オリンピック賛歌にしてないし、熱くもなっていないし、無理矢理感動もしていない。
著者自身告白しているが「オリンピックは退屈である」という認識が原点になっているので(共感するなぁ)、作家の好奇心は当然別のところへ広がる。コアラや食べ物や潜水艦やオーストラリアの歴史へ。その辺の広がりをそのまま書いていることが実にいい効果を上げている。そして、ある感動的な出来事によりシドニーの街(オーストラリア人の意識)が変質化していく様の捉え方は、「アンダーグラウンド」以来醸成され続けてきた彼の主題に近いせいなのか、ちゃんと深く掘り下げてあって面白かった。

導入部と〆の部分もとっても良い。これらがあったからこの本は「作品」になったのだと思う。オリンピック選手という「オリンピックを最大の非日常」と置いている人たちの描写で、「オリンピックは退屈な日常」と思っている著者の日記を挟み込む、というその構成。それによって、この本は単なる日記と違う緊張感を得ている。
全体に軽妙でいいテンポ。習作的比喩の多用が作家の日常の努力をかいま見るようで興味深い。それにしてもあれからたった半年なのに、もうすでにずいぶん遠い昔みたいだね、シドニー五輪。

2001年3月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , スポーツ , エッセイ

LV3「似顔絵」

山藤章二著/岩波新書/940円

カラー版 似顔絵
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なるほどねー。『似顔絵は「そっくり絵」ではありません。盛り場でよく見かける、商売としての似顔絵はそれでいいのですが、自己表現としての似顔絵は別の方向を向いています。相手の方に近寄るのではなく、逆に、自分の手元に全部引き寄せてしまう。「オレにはこう見える」という「人物論」--それがぼくの考える似顔絵です。』(本文より) これにすべてが言い尽くされているなー。「似顔絵=自己表現」。うーん。とっても共感する。そう、どんな発信も自己表現なのだ。結局自分がどう見たかなのだ。

この本を読んでそこらへんの感じが一気にクリアになり氷解した。
ありがとう、わかりやすく解いてくれて。そんな気持ち。
時代を意識したテクニックやジャーナリズムじゃなくて「オレにはこう見える」・・・。そういう目で改めて彼の作品群、似顔絵塾塾生の作品群を見ていくとまた違ったものが見えてくる。「似てるねぇ」と単純な感想ではないものが見えてくる。テレビの物まね選手権がつまらない理由も一気にわかったボクなのであった。

2000年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:写真集・イラスト集 , エッセイ , アート・舞台

LV5「馬鹿でよかった」

久住昌之著/演劇ぶっく社/1500円

馬鹿でよかった
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いいなぁ、この本。
なんじゃろう、単に「この本、好き」で書評を終わりたい気分。不便を不便と感じることがアイデアの元である、みたいな言葉があるけど、なんというか著者は誰もが普段そう感じながらも見逃しているそういう小さな小さな感情を逃さず表現していく。その観察力、バカ正直さ、想像力が素晴らしい。そして読者を共感の渦に巻き込んでいくその技術も(さりげなく)素晴らしい。

この本を「ぼくは静かに揺れ動く」の後に読んだのだが、「ぼくは静かに揺れ動く」がどうにもうざったいのは「馬鹿でよかった」と違って読者を信用しないで説明しすぎるところなんだろうな。そう。つまり「馬鹿でよかった」は読者を信用してのびのびと意識の流れを書いているのだ。その信用の仕方と著者自身の自信が素晴らしい。その自信の持ちようこそ「馬鹿」じゃないと出来ないこと。うーん、著者が馬鹿でよかった。はは。いいなぁ、この本。

2000年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「そうだ、村上さんに聞いてみよう」

村上春樹著・安西水丸絵/朝日新聞社/940円

「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?
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副題が「と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?」という長いもの。まぁ内容はそういうことです、はい。

村上朝日堂のホームページに寄せられた読者からの質問に著者が丁寧に答えていったもので、その質問は多岐に渡る。じゃー村上ファンしか面白くないかと言われれば、それはそうなのだが、答えが丁寧なのでファンじゃない人も「なるほどねー」的納得は随所にあるだろう。まぁ端的に言って、ボクにはとても面白かった。創作に秘密にもずいぶん答えているしね。「なるほどねー」的納得感がボクにはとてもあったのである。

ちなみに村上朝日堂のホームページは以前愛読していたが(いまは著者による更新は終了している)、さぬきうどんの話題もいっぱいあって、その中で読者のひとりが「さとなおのページのさぬきうどん紀行が面白い」と村上さんに推薦してくれていて、ボクはドキドキと村上さんのそれに対する返事を待ったのだけど(数%の確率で公開返事として掲載されるのです)、それには無反応だったな。ま、当たり前か。そんなことを唐突に思いだした(笑)

2000年9月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「私の部屋に水がある理由」

内田春菊著/文春文庫/552円

私の部屋に水がある理由(わけ)
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1993年に出た単行本の文庫化。
まぁずいぶん前の本ですね。題名が素敵なのと、久しぶりに著者のエッセイが読みたくなって買った。いくつか記憶があるエッセイがあるのはたぶん週刊文春に連載時のものだろう。本音で書く人は多いが、その本音の出し方が当時はわりと「目うろこ」的だったので印象深いのだ。そう、あれからこういう春菊タッチで書く人は増えた。ある意味、室田滋とかもそうかもしれない。

個人的には、常識に縛られている人生のつまらなさをよくわからせてくれるところが好きである。
常識って何なのさ。それにがんじがらめにされているボクって何なのさ。いや、著者に常識がない、という意味ではなく、彼女は実に平明に人生を見ている、ということ。あー、滑稽だろうな、そういう目で見ていたら。環境の違いもあるが、心底うらやましいのである。つうか、オレも見習おう。
あ、それと、文体も視点も違うが、その「人生を平明に照射する感じ」が菜摘ひかるに通じるものがあるとちょっと感じた。

2000年8月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「南へ」

野田知佑著/文春文庫/600円

南へ
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1992年から1995年まで「本の雑誌」に連載した文章の文庫版。
「新・放浪記2」と副題にある。最初の「放浪記」は単行本で読んだ記憶があるが、「新」は読んでなかったと思うので、「新・放浪記1」は読み損なっている気がする。まぁいいや。特に筋がある本ではないし。

野田知佑はやっぱり半年に一回は読まないといけない作家のひとりであるなぁ、というのが読後感。
こういう暮らしの記録を継続的に読まないと、東京というシステムがいかに異常なものか、都会というものがいかに狂乱なものか、生きていく目的とはなんなのか、自分のためだけに気持ちいいことをなにかしているか、などという根本的なものを忘れてしまう情けなさなのだ。
あ、日本の河川問題についても。河川問題についてはボクはなにもしていないに等しい。読んで理解しているだけならバカでもできる。激しく共感しているのだからなにかすればいいのだ。現地に出かけて活動するのはとても無理だから、なにかボクの立場で協力できることを探していきたい。
・・・などと、ちょっと精神が思わぬ方向に開かれる。そんな効き目が彼の本にはあるのである。

2000年8月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ , 教育・環境・福祉

LV5「虫の目で人の世を見る」

池田清彦著/平凡社新書/720円

虫の目で人の世を見る―構造主義生物学外伝
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副題が「構造主義生物学外伝」。難しそうだし題名的にも哲学的だが、内容は全然そんなことはない。

以前「昆虫のパンセ」という著者の本を読んだことがあるが(いま再読中)、この本はその時の印象よりかなり軽妙。非常に程のよいエッセイ集になっている。いいなぁ、こういう感じのエッセイ。新しい視点・経験を与えてくれつつ、お気楽・適当に読み飛ばせる。そして読後には世の中が読む前よりほんの少しだけ豊かに見えてくる…。簡単そうに見えて、こういうエッセイは実は難しいのである。
で、さりげなく「イイタイコト」を混ぜ込んである。「客観は普遍ならず。主観の中にこそ普遍はある」…。なるほど。確かに虫やら猫やらに人間の客観(例えば科学・数学)は通じない。つまり客観が普遍だというのは人間の大いなる傲慢なのであるか。なるほどなるほど。

虫屋という言葉があるのは知っていたが、それにしてもすごい世界だなぁ。その昔(小学生低学年)、昆虫博士と友達から呼ばれていたボクであるが(ホント)、あの世界を年寄りになるまで引きずって歩いている人がいっぱいいるのだねぇ。はっきり言って素晴らしいと感嘆しつつ読み進んだのでありました。なお、終盤は河童の話になるが、これは洒落っぽくクソ真面目に書いてある。

2000年7月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 科学 , 哲学・精神世界

LV5「耳そぎ饅頭」

町田康著/マガジンハウス/1500円

耳そぎ饅頭
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雑誌「鳩よ!」に連載されていたエッセイをまとめたもの。
エッセイより小説の方が面白いと思っていた町田康であるが、このエッセイ集はとても良かった。「偏屈」というキーワードのもと、著者の世間に対する目線、普通に暮らしてみようと試みる奮闘が実にリズム良く描けており、最後の方になるとこのリズム感から離れるのが惜しくてもっともっと読みたくなってしまう麻薬性すら感じさせる。ま、ちょっとだけくどいところとかもあるんだけど、このパンクのリズムに乗れる人ならまず楽しめると思う。

例えばお馴染みのゲームソフト「タワー」を描いた章など、この著者の筆力の底力を見た気がした。自分なら同じ題材でこう上手に書けるだろうか。もちろん書けるはずもないのだが、題材が身近なだけに彼我の差がより浮き彫りにされてしまう。うーむ。

2000年6月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「パチリの人」

伊藤礼著/新潮社/1300円

パチリの人
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文壇囲碁界というものがあるらしい。なんだか恐ろしくも近づきたくない世界ではあるが、本書はその文壇名人戦で三連覇した著者による囲碁エッセイ。囲碁については門外漢なボクではあるが興味はある。そのうえ著者は数年前にわりと楽しんだエッセイ集「狸ビール」の作者。なんとなく楽しめそうなので、買った。

中盤までは退屈。著者の文章リズムに馴染めずに、諧謔的なところも笑えずダラダラと続く。
が、一度馴染んでしまうと意外なほど気持ちの良いエッセイになった(単に著者の調子が中盤からやっと出てきたという説もある)。一度気持ちが良くなってくるとなかなか味がある文章だと気がつく。最後の方はかなり楽しんだ。題名も装丁もいい。飄々とした書き口も気に入った。次作も楽しみである。

2000年6月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「小さな農園主の日記」

玉村豊男著/講談社現代新書/660円

小さな農園主の日記
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ウェブで日記を読むのに似て、やはりダラダラと日記を読むのは快感なのである。
ただ、著者はここで「日記作家宣言」をしているがが、日記文学というものは(いまや)同時性がかなり重要になっている。書いた1年後に出版される日記はやはり鮮度が薄れ、どんなに文学的昇華がなされていようとも腐りかけていることは確かなのである(紫式部日記的な古典的価値・歴史的価値があるものは別)。リアルタイムの日記をリアルタイムで読む。その同時性がウェブ時代では求められるであろう。著者が日記作家を目指すのであれば、まずウェブで始めて欲しい。そして同時性という有史以来初めての文学的イノチを上手に昇華してほしい。

まぁそんなようなことをアタマでは思うのだが、賞味期限を越えていても人の日記は面白い。この本もそれなりに面白い。同時性があったらもっとだな、と贅沢を思うだけなのである。

2000年6月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「書斎の造りかた」

林望著/光文社カッパブックス/838円

書斎の造りかた―知のための空間・時間・道具
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パソコンという超便利道具が出来て以降、書斎のあり方は確実に変わった。とはいえ、ハイテク城を書斎にするような極論ばかりが跋扈してもいまいちときめかない。そういう意味で、一番バランスが取れていて、かつ、実用的合理的な書斎論がやっと現れたと言える。しかもこういうことをウンチク込みで嫌味にならない程度の自慢を混ぜつつ語らせたら著者は日本一である。

書斎の造り方は、もちろん、生き方にも関係してくる。だから、この本ではさりげなく人生論が散りばめられていて、それがとてもクリアで面白い。人生論は文章論、教育論までも波及していき(もとが書斎論だからこそ)熱くならずにドライに語られている分だけ逆に説得力が増してもいる。

書斎の造り方に限って言えば、だいたい考え方は似ていた。まぁ掘り炬燵にすることとオフィス用コピー機を置くスペースを考えなかったのが、この本を読む前に家の設計が終わってしまった悔しさかな。

2000年4月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 実用・ホビー

LV1「ただの私に戻る旅」

横井久美子著/労働旬報社/1800円

ただの私に戻る旅―自転車でゆくアイルランド私の愛した街
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副題が「自転車でゆくアイルランド・私の愛した街」。
1995年に出た本だからもうずいぶん前という感じ。アイルランド好きなもので、なんとなく買ってあった本。やっと読んだ。

歌手である著者が20周年記念コンサートを終えて抜け殻になったココロをアイルランドのひとり旅で癒していく過程を書いたもの。
著者が感じたこと、気付いたこと、悟ったこと・・・そういったものになるべく寄り添って静かに読んでいったのだが、結局「自分に対してだけ書かれた自分本位の独白」の域を出ていないから、なんというか読者が入り込む余地がないのが残念。自費出版の本などによくあるような自己完結型文学に近い感じ。それの良し悪しは一概には言えない。ただ著者は読者になにを伝えたいのだろう? アナタは確かに苦しんだ。ひとりでよくがんばった。なにかを掴んだ。それはよくわかった。でも、それでどうしたの? で、だから何なの? 皮肉でなく、真剣にそう問いかけたい。
歌手なら心に届かせる術を知っているはず。それが文章に活かされていないのが残念。

2000年4月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV3「食べる--七通の手紙」

ドリアン・T・助川著/文春文庫/543円

食べる―七通の手紙
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七人に宛てた手紙型エッセイ。叫ぶ詩人の会のドリアン助川が、食べ物に触発されて書いた手紙エッセイなのだ。

宮沢賢治、川崎のぼる、ポル・ポト、兼高かおる、青島幸男、チャールズ・ダーウィン、そして無名のギンズバーグに似た釣り人…。
語りかけ文体と独白文体が混ざり合って不思議な手紙になっているのだが、体温の高いその文章は読者にある種の昂揚感をもたらす。著者の個人的体験と読者の個人的体験が重なったときは特に強いカタルシスを感じさせる力がある(ボクにとっては川崎のぼるの項)。おもしろい。
でも、リズムに乗り切れないときもあって、そういうときは著者は平気で読者を置き去りにする。残念といえばそこらへんが残念。リズムにだけは乗せてほしかったな、と思うのだ。

2000年3月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , エッセイ

LV1「菊次郎とさき」

ビートたけし著/新潮社/1000円

菊次郎とさき
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ビートたけしが父母について書いたエッセイ。
評判の高いエッセイだが、これがビートたけしの本でもなく、著者に好意を持ってもいなければ、やっぱり駄作かもしれない。
いや、駄作まではいかないか。要は普通、であった。著者に対して「一目を置いて」読んだり、最初から好意まるだしで行間を探っていったりすると、なかなかに感動的な部分もあるのだが、一歩距離を置いて読むと…。

残念なのは、あれだけ表現力が多彩な人なのに、非常に陳腐な比喩や言い回しをたまに使うこと。それも展開の骨の部分で。えー、そういうふうな表現でこの文章を締めるわけー?とがっかりすることも多々あった。
ビートたけしだからこそ厳しい目で読んでいる部分もある。一目置かれたり、厳しく読まれたり、著者もいろいろたいへんなのだ。でも、なんだか「いまオイラが母親を語ったらとりあえずせつなくはさせられる」みたいな安易さを感じてしまった。ちょっとイジワルな視点でゴメンだけど。

2000年3月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「知の休日」

五木寛之著/集英社新書/640円

知の休日―退屈な時間をどう遊ぶか
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五木寛之を読むのって「青春の門」以来かも。
副題は「退屈な時間をどう遊ぶか」。人生は短いのに退屈は長い、という矛盾を、遊ぶ、という切り口でさらっと書いているのだが、まぁ敢えて言うなら「退屈」であった。
ただし、退屈を楽しもうというコンセプトの本だから、この退屈は正しい退屈であって…、まぁ著者は上手に逃げている気がするな。退屈な本を書こうという確信犯的著述なのかもしれない、とちょっと思わせる。

著者のエッセイを面白いという人は年輩の方に多い。エッセイはこれしか読んだことないのだが、どうなのだろう。著者に興味がないせいもあるが、なんともはや中途半端な読後感が残った。

2000年3月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「恋は肉色」

菜摘ひかる著/光文社文庫/495円

恋は肉色
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なんというか、生きる姿勢みたいなものを見直させられる本。オーバーに言えば「生きるということに対するプロ意識」を思い起こさせられる。
ウェブの世界では有名な彼女のホームページ(「菜摘ひかるの性的体験」※著者の死去により閉鎖)は、ずいぶん前から(日記猿人に登録するずっと前から)の愛読者であるボクだが、こうして一冊にまとまったものを読むとまた面白い。オレは誇りを持って生きているかなどと急に見直しモードに入ってしまったりして。

いや、内容的には決して重くない。というか軽い。さらっと読める。風俗嬢である著者の毎日が書いてある日記エッセイに近いもの。
でも、風俗業界の裏がわかるとか、風俗嬢の本音が覗けるとか、そんなことではなくて、起きて遊んで仕事してクソして寝る、というような普通のことに対しての背筋の伸び方が行間から立ち上がってくるところがスゴイ。まぁ個人的に彼女の生き方が好きなのだろうな。この頃の日記より、この本の頃の日記の方が好きではあるが。

あと、職業にではなくて、職業に対するプロ意識にこそ貴賤はあるんだ、みたいなことを思った。

2000年3月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「もてない男」

小谷野敦著/ちくま新書/660円

もてない男―恋愛論を超えて
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ああ、この本って評判いいんですよね。「本の雑誌」では99年ベスト10の3位に入っていたりする。
でもなぁ。だからなーに?って感じがぬぐえない。確かに新たな恋愛論ではあると思うし、ある切り口を読者に提供&再認識させてくれている。ただ、論文とエッセイの間的な中途半端さや、いろんな本からの引用で論を進めているあたりの持って行き方がちょっとどうかと思う。こういう論は自分の言葉でこそ読者の目を開かせて欲しいのだ。赤裸々な書き方、イコール、本質をついている新しい視点、ではないと思う。

途中の赤裸々な性表現なども(別に上品ぶったりイイコぶったりするわけでは全然ないのだが)露悪的でそんなに感心しない。ああいう直接表現をあんまり使わずに展開してくれたらまた違ったのに、と思う。論文ならそれでもいい。でも著者本人はエッセイと位置づけている。うーん。ちょっと中途半端な気がした。なんでこんなに世の中に受けているんだろう。

2000年1月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「誰か『戦前』を知らないか」

山本夏彦著/文春新書/690円

誰か「戦前」を知らないか―夏彦迷惑問答
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副題が「夏彦迷惑問答」。

雑誌「室内」の連載をまとめたもの。
20代女性の聞き手と著者が会話するというカタチで進行するが、聞き手がなかなか上手で著者の味を見事に引き出している。この会話形態は著者の成功パターンのひとつであろう。一人称ぼやきエッセイより格段にリズムが出るし、なにより読者が置いてきぼりをくわずにすむ。注意して避けてもくどい説教になってしまう時がある題材なだけに、特に若い読者(この著者の場合50歳以下すべてか)にとっていいと思う。時になかなか笑えるし(著者が意識しているほどではないのだが)。

内容的には「戦前真っ暗史観」を実に明快に切り崩していて気分がよい。
戦前戦中共に飢えてはいなかった。これも明快。その他、忘れ去られつつあるいろんな物事を釣瓶落としに語ってみせる術は驚異的なものだ。資料としてもある意味一級。この著者がなくなるともう昭和ですら「時代劇」になってしまうのだろうな、とちょっと薄ら寒くなる。

1999年12月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 時事・政治・国際 , 評論

LV1「機長の700万マイル」

田口美貴夫著/講談社/1600円

機長の700万マイル―翼は語る
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「機長の一万日」の続編である。

普通この手のノンフィクション・エッセイは処女作の方が面白いと相場は決まっている。が、この二冊に関しては続編の方がずっと面白い。珍しいパターン。書き慣れもあるだろうが、前作で書いた内容を簡単にレジメして、それ以外のエピソードなどに内容を絞ったのがより面白くなった要因だろう。
前作はある意味「機長という仕事とはどういうことか」という説明から始めないといけなかった分、理屈っぽくなっている。初歩的説明でかなりのページ数を取られている感じ。続編のこっちの方がいい意味ワイドショー的で、飛行機や航空機業界、機長の生活などにミーハーな興味しか持っていない読者(つまりボク)には手っ取り早い感じだ。

まぁどちらにしても単行本で買うほどではないかも。文庫になるのを待ってから買った方が賢いかも。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

LV5「ショッピングの女王」

中村うさぎ著/文藝春秋/1238円

ショッピングの女王
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週刊文春で連載しているものの単行本化。

連載もいつも楽しみに読んでいるが、こうしてまとめて読んでみるとあらためて著者の知能犯的「自分あざ笑い文体」の心地よさに気がつく。この本からある種の「癒し」を受ける読者も多いだろうな。ここまで見事に自分をあざ笑っている人はそうはいないからね。しかも頭の中で精神的に自分をあざ笑っているだけでなく、実際に金もべらぼうにかかっている。自分の暮らし自体をあざ笑っているのだ。いや、ここまで来ると時代をもあざ笑っているな。身と生活をもって時代をあざわらっているこの態度。これを賞賛せずにいられましょうか。

そしてその表現技術。とりあえず「平成自分あざ笑い文体」は確立させたと思う。そう、自分をあざ笑うその手法だけでなく、話し言葉と書き言葉のめちゃ具合のいい合体の仕方や突っ込みの入れ方、男っぽい語尾など、どれをとっても感心してしまう。特に開き直った後半が見事。「平成自分あざ笑い文体」と「超高価な買い物&借金生活」と「連載慣れしてきたイキオイ」が三つ巴になって読者に迫ってくる。うん、やっぱり三ツ星、でしょう。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「機長の一万日」

田口美貴夫著/講談社/1600円

機長の一万日―コックピットの恐さと快感!
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副題は「コックピットの恐さと快感!」。「機長という仕事」についてのノンフィクション・エッセイである。

著者はJALの現役ベテラン機長。数々の経験を踏まえてやわらかいタッチで機長の仕事を綴ってくれている。飛行機での旅が多い人にとっては「なるほどあのサインはこういう理由でこうなのか」「ああいう揺れはこういう事態なのか」みたいな、機内でのナゾがちょこちょこ解ける一冊だ。ただ、マニアックと初心者向けの中間って感じでちょっと中途半端なのが難。それと、エッセイとしての面白さに欠ける。続編「機長の700万マイル」の方がエピソードがユニークでまだ面白い。

何の気なしに二冊買って読んだが、どうやら山崎豊子の著書発売以来この手の航空機業界本はちょっとブーム化しているようだ。なんだかブームに乗ってしまったようで悔しい。全然違うのに。

1999年11月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

LV5「ムツゴロウの動物交際術」

畑正憲著/文藝春秋/1524円

ムツゴロウの動物交際術
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以前畑さんの家で「そのマジックみたいな動物の手なづけ方をそのうち公開してください」とお願いしたら「いま書いているんですよー」とおっしゃった。あれから3年。そんな本が出たらすごいものだ、と思っていたらついに出た。

「この本では僕の企業秘密をすべて公開している」と書いているだけあってまさに秘伝の技がそこかしこ。動物とつき合うのと人間とつき合うのとはそう違いはないのだなという不思議な実感も最後にはあってなかなかに深いのであった。最後の方が少しダレルが、全体に動物とのつきあいのノウハウは世界一盛り込まれていると思う。

いま著者はテレビとかからちょっとキワモノ的に扱われているところがあるが、動物関係学においては世界でもトップクラスの知識&現場のノウハウを持っている天才。もうちょっと評価されてしかるべきである。

1999年10月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:雑学・その他 , エッセイ , 実用・ホビー

LV3「バスにのって」

田中小実昌著/青土社/1600円

バスにのって
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コミマサがいろんなところに発表した日記風エッセイを一冊にまとめたもの。

別にバスを主題の紀行エッセイではない。
その脱力した文体は実にさばさばしていて読みやすく、読者を気持ちよく弛緩させてくれる。
なにせ内容的に何もなく(そこがいいのだが)、ヒトに薦められるかと言われればノーなのだが、ボクはこのコミマサ・ワールドを至極楽しんだ。あとがきで「これでおしまいかもしれない」などと弱気を書いているがまた書いて欲しいな。ダラダラと。こっちもダラダラと読むからさ。

1999年10月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「カープ島サカナ作戦」

椎名誠著/文春文庫/448円

カープ島サカナ作戦
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週刊文春に連載しているエッセイ「新宿赤マント」をまとめたシリーズの最新刊。

わりと文春は読んでいるからここに収録されたものもほとんど読んでいたが、海外出張の友としては軽く読めるので助かるのだ。
そう、椎名は海外出張にとてもいい。読み捨てられる上にテンションが上がるのだ。話題も縦横無尽に広がるし、文体も気分も安定しているし、なによりも面白いから。マンネリという声もこのごろある。が、著者はマンネリを一番畏れているみたい。文体の節々にそれを感じる。で、椎名誠はそれに成功しているとボクは思うぞ。こんなに多作なのに、たいしたものなのだ。

1999年9月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ ,

LV3「決定版快楽温泉201」

嵐山光三郎著/講談社/1800円

決定版(とっておき)快楽温泉201
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「週刊現代」にグラビア連載していた温泉紀行が一冊になった。
写真もふんだんな実用書だが、あれを読んだことがある人はわかるだろうが単なる温泉紹介ではない。作者の視点がしっかりそこに根付いていてちょっと文学的ですらある。卓越した温泉人生論だ。

前書きに「私は大学を中退してどこかの山の湯の下足番でもやろうと考えていた。いまでも、私と同年代の湯守りに会うと『ああ、この人は私だったかもしれない』と思う」とある。『ああ、この人は私だったかもしれない』という感慨はボクの中にも常にあって、そういう感慨で温泉を見られる人の書く文章は普通以上にボクの中で響くのである。

本にまとめるにあたって「とびっきり8」という大オススメ温泉を抄出したのも感じが良い。どの温泉も結局気持ちがいいのだ、というような予定調和で終わっていないところが特に。

1999年7月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV3「メイク・ミー・シック」

山田詠美著/集英社文庫/419円

メイク・ミー・シック
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時間つぶしのために書店に入り題名が気に入って買ったのだが、短編集かなと思ったらエッセイ&写真集の文庫化だった。

山田詠美ファンにはたまらないであろう写真がいっぱい入っている。
ああボクは山田詠美ファンかも、と再確認してしまった。内容的には恋愛指南的エッセイが多い。ちょっと時代的に古いのが難だが、作者がやんちゃに書いている様が匂ってきて好ましい。一般的に恋愛指南的エッセイは愚劣な物が多くほとんど読まないボクであるが、山田詠美が書くとひと味違って感じられるから不思議だなぁ。

退廃、自堕落、享楽的…、そんな生活の中でしっかり地に足が着いていて流されない生き方。恋愛指南と別の面でなんだか参考になってしまった。

1999年7月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集

LV3「指揮のおけいこ」

岩城宏之著/文藝春秋/1524円

指揮のおけいこ
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世界的指揮者である岩城宏之が指揮に関するいろんなエピソードを軽妙に語ったエッセイ集。

「オーケストラとの確執」「大物指揮者に見せるには」「楽譜の覚え方」「カッコイイ燕尾服の作り方」などなど、とにかくいろんな職業上のヒミツを照れながらも素直に語っていて好感が持てる。
本当に指揮者になりたい人やマニアが読んでも役に立つような専門的な内容も適度に入れ込んであるが、基本的には一般クラシック・ファン向けで読んでいて楽しい内容。指揮に対して長年疑問に思っていたことどもが次々氷解していき、ボクにはとても役に立った。
ちょっと文体が軽すぎるかなとも思ったけど、一般向けならこういうことでもいいのかもしれない。

1999年6月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , エッセイ

LV0「電脳暮し」

水上勉著/哲学書房/1900円

電脳暮し
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高齢にして原稿用紙をコンピューターに換え、電脳の恩恵に預かりだした水上勉がその顛末を書きつづっている。

当然読者はそこに著者なりの電脳生活への考え、想い、思想、人生観への影響、などを期待する。
が、すべてはもろくも裏切られるであろう。普通すぎる。思わせぶりにこんな題名をつけないで欲しい。字のサイズがめちゃくちゃ大きいのは許容するが(逆にDTP的シズルがある)、この内容と字数で1900円は暴利だと思う。高すぎる。内容も繰り返しが多く、うんざりする部分が多い。著者が悪いのではない。編集者が悪いのだ。そう思う。

1999年5月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「憂鬱な希望としてのインターネット」

村上龍著/メディアファクトリー/1400円

憂鬱な希望としてのインターネット
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「人間はなんでこんなにコミュニケーションしたがるのだろう」という実感はボクにもある。実質的には妻や子供とのコミュニケーションだけで満足している面もあるのだが、こうしてホームページやら何やらで「さもしく」「憂鬱に」コニュニケーションを広げようとしている。
そして、インターネット上でのコミュニケーションが増大すればするほど、実生活上の家族以外の人とのコミュニケーションが面倒になっていっている。人間のコミュニケート量は上限があるのか? コミュニケーションにも満腹中枢があるのか? でも満腹だけど、食欲はあるぞ。この感覚はどうなっているんだ?

人間という存在はコミュニケーションそのもの、と考えるならば、インターネットは素晴らしい道具だ。
なんやらかんやら文句を付けてこの道具を使おうとしない人たちはコミュニケーションということを軽視している。ただ、満腹だけど飢餓である、というある種の病気にかかりやすくはある。そこらへんが著者にとっても「憂鬱な希望」なのかもしれない。

1999年4月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:IT・ネット , エッセイ

LV0「君等の人生に乾盃だ!」

山口瞳著/講談社/1700円

君等の人生に乾盃だ!
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95年に亡くなった山口瞳の「新刊」である。
というか、編集者よ、頼むからこんなもの出すな。サントリーの広告に書いたものを含めていろんなところに掲出した文章から警句・名言と言われそうなものだけ短く引っ張ってきただけのもの。帯に「スピーチ、贈る言葉に最適」とある。笑止千万。

というか、いくら山口瞳ファンだからって、こんなの買うなよオレ。山口瞳全集まで持っているのに。なんというか、本屋で山口瞳という背文字を見ただけで舞い上がって買ってしまったんだけど、こうして部分部分だけ抜き出したものを読むと、これはボクの好きな山口瞳ではない、という苦い後味が残るだけ。著者も草葉の陰で泣いておろう。

1999年4月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「死ぬの大好き」

山本夏彦著/新潮社/1400円

死ぬの大好き
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山口瞳の「男性自身」亡き後、週刊新潮の良心と言ってもいい長寿コラム「山本夏彦の写真コラム」の何回目かの単行本化。

まぁ長いこと愛読しているコラムで(週刊新潮はコレを読むために買うことが多い)、わざわざ単行本を買わなくても大体内容は知っているのだが、こうしてまとめて読むとまたいろいろ目をこするところがあって、精神を平明・公平・明鏡に保つだめにはやっぱりたまには山本夏彦をまとめ読みする必要がある、と実感するのである。

山本夏彦とか曾野綾子とかは、ボクのような定見のないものにとっては薬である。定期的に服用したほうがいい。もちろんすべて効くとばかりは言えないのだが、自分の視点を持つきっかけを作ってくれるのだ。

1999年3月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「またたび回覧板」

群ようこ著/新潮文庫/476円

またたび回覧板
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群ようこって、相性悪いのかな。
一作くらい(題名忘れた)すっげー面白いのを読んだ気がして、それ以来たまに読むんだけど、なんだか当たらない。でもこんなに人気がある。男にはつまらないタイプのエッセイなのか? 
日常密着型エッセイとしてはまとまりもいいし親密感もあるんだけど、どうも気持ちがはじけない。まぁ新幹線とかで読み飛ばすには最適ではあるんだけど…、電車を降りた途端に内容を忘れてしまうなぁ…。

1999年3月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「満天の星 〜勇気凛凛ルリの色」

浅田次郎著/講談社/1600円

満天の星―勇気凛凛ルリの色
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週刊現代に連載していたエッセイ「勇気凛凛ルリの色」の四巻目にして完結版。
「鉄道員」以来どうにも作風・方向に納得行かない浅田次郎だが、エッセイは三巻目の後半から復活していて、とても充実したものだったから終了はちょっと残念。

このエッセイ集の中に「ひとりでも多くの人に、小説を読んでほしい。むろん私の小説を、という意味ではなく、テレビも映画もいいが小説という娯楽を持ってほしいと思う」「『読む人だけが読めばよい』という作家の姿勢は小説をいずれマニアックな、特殊な文化に変形せしめる」「すぐれた芸術は常に大衆とともにあり、そうした普遍性のない芸術はまがいにちがいないからである」といった展開がある。
彼が一部古参浅田ファンや評論家に誹られながらもお涙頂戴的極甘小説を書き続ける理由がやっとわかった。彼は直木賞作家として小説を復権させるため、わざと「大衆に求められるもの」を書き続けているのだ。

そしてそれは成功しつつある。うちの母まで読んでいる。すごいことだ。
彼の感涙小説を酷評ばかりしたボクだが(そしてこれからも急に評価をあげることはないかもしれないが)、そのことについてはめちゃくちゃ認めます。偉い、浅田次郎!

1999年3月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「入浴の女王」

杉浦日向子著/講談社文庫/467円

入浴の女王
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簡単に言うと「全国銭湯巡りエッセイ」である。
銀座金沢新潟大阪…とにかく街に密着した銭湯を味わいその街のエッセンスをしっかり栄養としていく道中。文章は独特のリズム感。ここまで著者に蕩々と遊ばれちゃうとなかなか読んでいて気持ちがいい。特に酔って浸かって騒いだあげく、ふやけきった文章を書いている部分がところどころにあるのだが、これがまたいい。行間に湯気・色気まで漂ってとってもぬくもるのである。
別に「銭湯を無くすな」と声高に叫ぶことはしていないしそういうつもりもないのであろうが、読み終わったあとの「銭湯衝動」は結果的に銭湯保存に役立つだろう。

ちなみに銭湯は小学生以来行っていない。子供を共同風呂に慣らすためにもちょっと行ってみようかな、と思って調べてみたのだが…、歩いていけるところにはないようだった。減っているよねぇ。

1999年3月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ ,

LV1「昭和恋々」

山本夏彦・久世光彦著/清流出版/1600円

昭和恋々―あのころ、こんな暮らしがあった
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この超絶共著でこの評価、というのは、期待をかなり裏切った、ということです(期待しすぎ?)。

書き手抜群。昭和という故郷を失った我々が、昭和を恋々と懐かしむ際の語り部として彼らはまず最良の人選。題材も抜群。いまこそ「昭和」を語るべき。写真もなかなか良し。あー、ボクたち(S30年代以前生まれ)の小さい頃はこうだったよなーとの感慨…。

だのに、なんでこんなに面白くなかったんだろう。
古い記憶自慢大会みたいになったからかなぁ、「懐かしのメロディ」的番組を見ているような行き場のなさを感じてしまった。「懐メロ」としては良く出来ている。この本の役割も価値もわかる。だが、このふたりの書き手を擁しておいて「懐メロ」に終わらせるのはもったいなさすぎるのだ。「老人のマスターベーション」に終わらせるには、書き手も題材も良すぎるのだ。惜しい。

1999年2月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集

LV4「見仏記 海外編」

いとうせいこう・みうらじゅん著/角川書店/1900円

見仏記 海外篇
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「見仏記」のファンとしては海外編も当然読む。

古寺仏閣少年だったボクは仏像に対してある種の愛情を捧げてきたが、みうらじゅん氏のような卓越した仏像の捉え方は、自分の中の仏像観の崩壊であり、そしてなにより「物事を自分の視点で見ること」の象徴でもあった。それまで世間一般的な仏像の見方をしていたボクは、それほど彼の仏像の見方にショックを受けたのである。そのショック以降、「見仏記」はボクの中である種特別な位置を保っているのだが、これはその海外編。韓国・タイ・中国・インドと、仏像伝来逆ルートを歩いて行く。

いとうせいこう氏の文章が海外取材のせいかがんばっちゃっていて少々理屈っぽくなった気もするが、みうら氏は相変わらず肩の力が抜けていて良い。今月タイに出張しておきながら(仕事の忙しさにかまけて)仏像をあまり見なかった自分が疎ましくなる。

1999年2月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ , 雑学・その他 , アート・舞台

LV1「似顔絵物語」

和田誠著/白水社/1700円

似顔絵物語
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まぁなんというか、サラサラした本だ。まるで著者の似顔絵のようである。
山藤章二が書いたら濃厚にして毒のあるものになろうし、高橋春男が書いたら饒舌でデフォルメされたものになるだろう。そういう意味では画文一致。著者の本はほとんど読んでいるが、今回ほどそれを顕著に感じたことはなかった。

不満としては、似顔絵にまつわるいろいろをなぞっただけの内容の薄さと、挿し絵(似顔絵の例)の少なさ。著者による映画についての本などの内容の濃さ・着眼点の素晴らしさに比べるとどうしても見劣りがする。自分の本業な分だけ書きにくかったこともあろうが、もう少しつっこんで書いて欲しかった。

なお、表紙の絵はパターンを変えて5つこの本の中に出てくる。著者からのサービスですね。

1999年2月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集

LV2「リンボウ先生ディープ・イングランドを行く」

林望著/文藝春秋/1762円

リンボウ先生ディープ・イングランドを行く
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ボクたち夫婦は新婚旅行でイギリスを24日間に渡ってレンタカーで旅した。

そういうこともあって、かなりイギリスびいきである。
だから、ということもあろうが、かなりこの本は楽しめた。著者自身の手による写真も素晴らしく、ディープ・イングランドが存分に楽しめる。ただ、意外とすぐ読めてしまうことと(こういうエッセイはだらだら長く楽しみたい)、イギリスにほとんど興味がない人を惹きつけるようなインパクトにはかける気がするのが残念。

でも次にイギリスに行くとき行ってみたいところが出来たのがうれしいな。個人的には。

1999年1月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV1「至福の境地―自分の顔、相手の顔」

曾野綾子著/講談社/1500円

至福の境地―自分の顔、相手の顔
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曾野綾子は好きだ。信頼している。
だからこそ、よけいに厳しくなってしまうのか、今回のエッセイはいつもより刺激が少なく、ちょっとがっかりだった。ところどころにさすがと思える視点があるのだが、はたと膝を打つほどのものでもないのが多い。ちょっといろんな本・連載を書きすぎているのではないだろうか。

1999年1月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「ムツゴロウのどこ吹く風」

畑正憲著/潮出版社/1200円

ムツゴロウのどこ吹く風
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日本という狭い世間からは過小評価され続けている天才、畑正憲。彼のエッセイ集だ。

何が天才ってその「生き方」「面白がり方」「科学的分析力」「真理を掴む力」などが常人とはかけ離れているし、それこそ動物に対しての理解・問題意識はもっともっと評価されるべきだろう。どうも日本人はああいう「特別な人」を認めないばかりかバカにしてしまう。失ってから気付くなよ。もうすぐ死んじゃうぞ(かなり失礼)。

あ、この本の話の話ですね。ええと、いつものエッセイです(←なんじゃそりゃ!)。
いや、だから、動物王国をめぐって起こる事件を著者の視線で解剖して快調に読ませるのだ。ただ、読みやすい分、なんというか残りにくいところがある。もっとゴリゴリ重く書いてほしいなぁ、彼には。

1998年12月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「蕪村春秋」

高橋治著/朝日新聞社/2300円

蕪村春秋
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ここ2カ月間の「寝酒」みたいな本。寝る前に1~3コラムくらい読んで蕪村の世界に浸りつつ眠った。蕪村を、いや俳句自体をほとんど知らなかったボクとしては、この本に非常に感謝している。

もともと朝日新聞で連載していたものらしい。
与謝蕪村の俳句を季語に沿って110コラムに渡り取り上げて(句にしたら375句)エッセイにしたものだ。冒頭、著者はこう語る。「のっけから乱暴なことをいうようだが、世の中には二種類の人間しかいない。蕪村に狂う人と、不幸にして蕪村を知らずに終わってしまう人とである」 つまり、蕪村を知れば必ず蕪村に狂う、ということだ。わかる。実に広大で芳醇な世界がそこに広がっている。それが著者の卓越なる視線によって浮き彫りにされているから、ボクみたいな俳句無知にも実に楽しく蕪村の世界が読み取れ、もう一歩踏み込んで行きたくなるのだ。

いいなぁ、蕪村。芭蕉が想像力のない朴念仁に思えてくるようなその色彩感覚と映像感覚。もちろん著者の誘導もあるのだが。
ちなみにこの本、現代の俳句界に対するすぐれた批評の書にもなっている。

1998年12月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 詩集・歌集など

LV3「活字博物誌」

椎名誠著/岩波新書/640円

活字博物誌
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著者が読んだ本を起点にいろいろ派生した妄想・出来事・感想をエッセイしているもの。
「活字のサーカス」(岩波新書)の続編に当たる。なぜ新書なのか?という疑問は最後までぬぐえないくらい、いわゆるいつものシーナ節。文庫の趣が強く、岩波新書ぽさはまるでない。読書感想文に絞ったということがまぁ新書ぽいのか。

いつものように自然科学系の本に対する言及が多く、またまたいつものように読み飛ばせる快調な筆致。
こんなに書き散らしていて筆が荒れないか心配になるが、出張の新幹線の3時間で読むには適切なる娯楽である。

1998年12月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「表現者」

星野道夫著/SWITCH LIBRARY/3200円

表現者
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星野道夫の死に捧げるオマージュ本。
400ページにも及ぶ長大な弔辞のようなもの。まぁ写真がたくさん掲載されているからすぐ読めてはしまうけど。

星野道夫を好きだった人なら時間を忘れて楽しめるだろう。
「ひとりの人間が亡くなることは、ひとつの図書館が焼け落ちること」 文中に彼の言葉としてこんな言葉が紹介されているが、まさにそう言わざるを得ないような彼の死であった。

彼の死を悼む人達と、しばし一緒に語らいたい。そんな読者にはうってつけの本。まぁ難を言えば題名がどうだろう。彼なら、こういう含羞がない言葉を、使わなかったと思う。

いい言葉に出会った。著者の好きな言葉だったらしい。「人生とは、何かを計画している時起きてしまう別の出来事のこと」~Life is what happens to you while you are making other plans.

1998年11月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ , 写真集・イラスト集

LV2「本に読まれて」

須賀敦子著/中央公論社/1600円

本に読まれて
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この頃「須賀敦子追悼企画」みたいなのが多すぎてちょっと辟易。
いや、彼女が書いた文はなんであれ読みたい。でも、彼女はこういう形での出版を絶対認めなかっただろうな、と思われるようなお手軽企画が多すぎる気がする。ある意味、彼女の著作の全体レベルをさげてしまう出版が続いている。

これは生前著者がいろんなところに書き残した書評集、そして読書日記。
いい出来のものもあれば、おやどうしたの? と思わせるものもある。こうしてそれをモザイク状に並べても散漫な印象しか残らない。彼女の遺したものは読みたい。でもなんだか読みたくない。そんな複雑な想いで読み終えた。

1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV2「一生、遊んで暮らしたい」

中場利一著/角川書店/1300円

一生、遊んで暮らしたい
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大好きな作家になりつつある中場利一だけど、エッセイはイマイチかも。
著者自身、めちゃめちゃ戸惑っている。特に前半は目も当てられない。後半にはかなり持ち直し、調子を取り戻している。でも、あの小説で見せる才気やギャグのキレがあまり見られない。

多分、「喧嘩と遊びで暮らしている中場利一」という枠を自ら作ってしまっていて、その枠内でそういう中場利一を演じてしまっているのがおもしろくない要因だろう。そういう背景のもとで著者がどう感じ、どう生きているのかを読者は読みたいのに、その背景説明の域をあまり出てこないのがつらいところ。
小説もそう。そろそろ「喧嘩」という枠から出て書いてみたらどうかなと思う。才能はとてもあると思うのだけど…。

1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「老人力」

赤瀬川原平著/筑摩書房/1500円

老人力
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この造語をはじめて聞いたのはいつだったかな。「新解さんの謎」を読んだ頃だったか。「老人力」。こんなにいい造語はなかなかない。この本はこの造語から派生する諸問題に赤瀬川節でそれこそ「老人力で」踏み込んだ好エッセイである。

いつも全体にのほほんとしすぎて物足りないところのある彼のエッセイだが、この本に関してはそうでもない。老人力から人生観、世界観などに論を広げているところなど見事。現代の文明批評にもなっている。こういう新しい視点、好きだなぁ。

1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「へらへらぼっちゃん」

町田康著/講談社/1600円

へらへらぼっちゃん
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町田康という「文体」は、ストーリーもしくは決められた字数という枠組みがあった方がぐっとしまって活きる気がする。
この本はエッセイなのだが、あの文体がだらだら続く魅力は認めながらも、やっぱり要所の切れ込みというか唄で言うなら「サビ」がないから、読んでいて衝撃が薄いのだ。なんだか才能がドバドバ垂れ流されているような、そんなもったいなさを感じる。おいおい、こんなとこでそんなすばらしいフレーズ出すならそれ小説で使ってくれー!と叫びたくなったりして。

後半の書評とかはとっても面白い。そう、こういう風に制約があった方がいいのよ、町田康は。

1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「時のかけらたち」

須賀敦子著/青土社/1600円

時のかけらたち
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ボクの愛する須賀敦子が生前にいろいろな所に残した小文を集めたもの。
もう本当に最後の作品集かもしれないし相変わらず文体は静かで美しいからほめちぎりたいところではあるが、他作に比べて内容的にイマイチ質が落ちると思う。どこか散漫でまとまりきっていない印象を受けるのだ。
彼女自身作品集にしようとしなかった作品群かもしれないから何ともいえないが、もう少しこなれたものを読みたかったなぁ、最後の作品として。

1998年8月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「沖縄いろいろ事典」

ナイチャーズ編・垂見健吾/新潮社/1600円

沖縄いろいろ事典
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「とんぼの本」シリーズの一冊。大変良く出来た沖縄事典。

ナイチャーズとは「ナイチャー」(内地のヒト)から来ている。そう、沖縄に住んでいない人々が書いた沖縄である点がこの本の特徴であり成功点であろう。内地から見た沖縄を縦軸に、沖縄に対する遠い憧れを横軸に、とても豊かな沖縄紹介がなされている。
寄稿している人もなかなかバラエティに富んでおり、各項目の紹介の仕方も自由闊達。これは事典というより沖縄についての読んで楽しいエッセイ集だ。アタマから最後まで楽しく読み通せる。こういう百科事典、できないだろうか。

1998年7月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV3「にんげんのおへそ」

高峰秀子著/文藝春秋/1238円

にんげんのおへそ
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エッセイの名手高峰秀子の新作である。
まだ彼女が生きていて同じ時代の空気をすっていることにとりあえず感謝したい。

行動範囲が狭くなりつつあるのであろう、ちょっと題材に繰り返しが多く新たな視点が少なかったりするのだが、そこはそこ、向田邦子と幸田文と群ようこを足して3で割ったようなその文体の艶でなんなく読者を彼女の膝元へ誘き寄せてしまう。
内容的にはちょっとキレがなくなってきているが、読んでいて心底安心できるエッセイは貴重。また安野光雅の装丁も大変いい。

1998年7月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「辺境・近境」

村上春樹著/新潮社/1400円

辺境・近境
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辺境がなくなってしまった時代の辺境旅行記。
重い筆致と軽い筆致を取り混ぜながら、メキシコやらノモンハンやらさぬきうどん(!)やらアメリカやら神戸やらを著者が旅した記録である。時間をかけてじっくり書く小説群については超絶なる比喩や展開を軽々とやってのける著者であるが、このようにわりと軽く書いている本が思いのほか面白くないと感じるのはボクだけであろうか。例えば椎名誠や嵐山光三郎の紀行文を読むとその本を片手に同じところを旅してみたくなる。が、村上春樹のそれはどうもそういう気が起こらない。そこがこの本の問題点かもしれない。

最後の辺境は自分自身の内部だとしたら、村上春樹というヒトにはそこを旅してもらいたいものである。やはり小説が読みたい。紀行文にはあまり魅力を感じない。ちょっと厳しいか。

1998年7月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV5「ユーコン漂流」

野田知佑著/文藝春秋/1429円

ユーコン漂流
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アラスカのユーコン川をカヌーで下った著者のエッセイ。

on my own、つまり自分の幸福も不幸もすべて自分のせい、という著者の姿勢がすべての行間に滲み出ており、読者は彼とともに長い孤独の川を行くことになる。
安心できるのは、著者自身、孤独についてストイックではないこと。淋しくなったら淋しいと言い、長く何週間もアラスカの村にとどまる。孤独に縛られる修行のようなカヌー行でないところがいいではないか。自然である。そこらへんが著者の真骨頂であろう。

彼の本を読むと「人間の実力とはなにか」というような想いにいつも駆られる。サバイバルという意味の実力ではない。性別、国籍、実績、肩書きなどをすべて取り払ったときに残る裸の人間としての実力…。そして自分を見返して見たとき呆然唖然…。これを思い知るために、またボクは野田知佑を読み返すのだ。

1998年7月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV5「遠い朝の本たち」

須賀敦子著/筑摩書房/1600円

遠い朝の本たち
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98年3月20日に急逝された著者の遺作である。
ボクは本当に彼女の本を愛していたので悲しくてたまらない。これを最後にもう彼女の作品は読めないことになる。なんということだろうか。

内容は著者が若い頃に愛した本たちについての随筆である。相変わらず読者の心を静かにそして透明にしてくれるその筆致。名文の連続でありとても速読はできない。その「まやかしのない言葉の束」が読者の心に直接に入ってくる。そして読者をして「私ってこんなに感性豊かだったかしら?」と錯覚させてしまうような効果すらある。

手を洗って背筋を伸ばしてゆっくりページをめくりたい名作だ。
向田邦子のように小道具が散りばめられてはいないしオチもないのだが、どこかで彼女の静謐な魅力に通じるところがある。文体の素晴らしさがそう感じさせるのか…。とにかく、日本語をここまで品よく書ける人を我々は失ってしまった。実に哀しい。

1998年6月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「新解さんの読み方」

鈴木マキコ著/リトル・モア/1500円

新解さんの読み方
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「新解さんの謎」を読んだことがある人ならわかると思うけど、あそこにSM嬢というのが出てきたよね。何を隠そう、その方こそこの本の著者。攻めの辞書新明解国語辞典ブームの火つけ役はまさにこの方なのだ。

この本はあの名作「新解さんの謎」よりも一段と詳しく読みほぐした専門書の趣。一見それぞれのワードについて言及しているだけのように見えるけど、実は著者は「新解さん」と対談しながらエッセイをものにしているという知能犯。やり手だ。

いずれにせよ、四版と五版の比較を始め、気の遠くなるような手作業のすえに生まれた本であることは間違いがない。労作に見えない労作。新解さんに興味がある人にはたまらない魅力を有するが、ちょっとくどいと言えばまぁくどいかな。ボクは楽しめた。

1998年6月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 雑学・その他

LV5「最後の昼餐」

宮脇檀著/根津りえ絵/新潮社/1800円

最後の昼餐
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根津りえの絵と俳句がとてもいい。この挿絵がなければこの本の魅力は半減であろう。まぁこの絵自体が執筆動機なのだからそんな仮定はありえないのだけど。

根津りえが描いているのは、著名な建築家である著者との「料理絵日記」である。
どちらかが料理を作りそして彼女が描く。それがある程度まとまったので著者が文章をつけたわけだ。大変楽しそうな食卓がページに広がっていて読んでいるこちらも楽しくなる。では文章も浮かれきっているかと言えば、これはそうでもない。透明で静かな文章が続く。これは本の最後の方でわかるのだが、著者が癌に侵されてから書いたものだからだろう。

静かで充足したセンスのいい日常が終息していく様がここにある。まだ著者は健在だが、「一番愛していた時間」をこの本に凍結保存しておきたかったのではないか。読み終わってそう思った。

1998年6月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , エッセイ , 写真集・イラスト集

LV4「人生上達の術」

畑正憲著/マガジンハウス/1500円

ムツゴロウの人生上達の術
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ボクは著者の「術」が好きである。「ムツゴロウの青春記」を読んだ中学時代から彼の物事上達法に心酔し学んできたところがある。本質をつかみそこに到達する術を実にオリジナルに生み出す名人なのだ。

この本はそんな著者のノウハウ集と言ってもいい。アウトドア、スキューバ、釣り、乗馬、海外旅行、語学、競馬、麻雀、グルメ、ペット、ゴルフ、囲碁と、それぞれについて他人より充実した経験を誇る著者がオリジナルな「上達の術」を書いているのだから役に立たないわけがない。

が、残念なのは「紙数が少ない」ので手短すぎること。
これらすべてを語って317ページではとても足りない。ボクは彼の手短でない経験をきちんと読みたい。ここまでいろんな経験が豊富な超人はなかなかいないので、もう少し詳細に書いてほしいと(贅沢ながら)望んでしまうのだ。

1998年6月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「くりやのくりごと」

林望著/小学館/1365円

くりやのくりごと―リンボウ先生家事を論ず
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こういうことを自慢させたらこの人にかなうものはいない。普通の人なら嫌味に聞こえることもこの人が語るとそうでもなくなるのだ。
副題は「リンボウ先生家事を論ず」。つまりくりや(台所)を中心とした家事全般についての教育的指導エッセイだ。

ド頭から「ステンレスの無水鍋なんてものを、私は調理道具として喜ばしいものとは認めない」と始まる。
ステンレスの無水鍋を愛用しているボクはまず最初からギャフン(死語)なのだが、著者の語りにかかるとなんとなく納得してしまうから参る。それが偏見であってもここまで堂々と自論を開示されると押し切られてしまうのだ。

一事が万事この調子。もちろんその論旨は明解で理屈もあっており、そこらのハウトゥーものの数倍役に立つのだが。ただ、前半の快調さに比べて後半が少し「繰り言」めいたのが残念かな。

1998年6月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「不実な美女か貞淑な醜女か」

米原万里著/新潮文庫/514円

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か
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同時通訳って職業をいままであんまり意識したことがなかったけど、この本を読んでからはかなり意識して通訳を聞いてしまうと思う。ロシア語通訳としては第一人者でありニュースショーなどでコメンテーターもこなす著者の初エッセイで95年刊。ボクは今回初めて彼女を読んだ。

前半は初エッセイということもあるのかかなり肩にチカラが入っておりちょっと読みにくいが、ほかの同時通訳者のエピソードなどをちりばめた中盤以降かなり快調に読み進める。
同時通訳という職業の難しさなどを実例に即して読んでいるうちに言葉というものの摩訶不思議さまで突っ込んで理解されてくるあたりがなかなか上手。語り口も軽くなく重くなく素晴らしい。こういう新しい世界を覗かせてくれる本は好きです。

1998年5月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「福音について」

浅田次郎著/講談社/1600円

福音について―勇気凛凛ルリの色
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週刊現代連載中のエッセイ「勇気凛凛ルリの色」の第3巻である。

既刊に比べて身近な話題が多く、浅田次郎の世の中への目線を知りたいボクなんかにとってはちょっと食い足りない部分もあった。でもちょうど直木賞をとったあたりの連載が載っているのでなかなかに臨場感はある。新しくひとりの文豪が出来上がっていく瞬間瞬間のシズル感がとてもいい。まぁこれは作者の狙いではないだろうが…。
贅沢を言えば、既刊にあったような例えば沖縄に対する独自の見方みたいなエッセイをもっと読みたい。オーバーワークで大変だろうけど.。

1998年4月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「リンボウ先生遠めがね」

林望著/小学館/1600円

リンボウ先生遠めがね
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高尾慶子著の「イギリス人はおかしい」という「本当はイギリス好きだけど今のイギリスやっぱり嫌いよ」という内容の本(ちょっと違うか…)を読んだらなんとなくイギリス好きの大家の本を読みたくなり、続けてリンボウ先生の新刊を読んだ。

ここにはイギリスの話題はほんの少ししか出てこないが、彼が愛するイギリスは「古いイギリス」なのである。そういう意味では上記著者も同じなんだな。
この新刊は著者のいろんな好奇心を気軽な文体で表明しているもの。特に旅における食べ歩きの様が非常にボクの気分に近く面白かった。ただ、全体的にちょっと新鮮味が薄れているのも確かで、好奇心が細かいところ・わかりやすいところに入っていきすぎている気がする。もうちょっと大きな題材、独自の題材に取り組んで欲しいし、それを読みたい。贅沢だろうか。

1998年4月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV3「イギリス人はおかしい」

高尾慶子著/文藝春秋/1429円

イギリス人はおかしい―日本人ハウスキーパーが見た階級社会の素顔
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イギリス礼賛の本ばかり出ているし、またそういうのを好んで読んでいるので、たまにはイギリス非難本も読みたいと思い、探して読んだエッセイ。
副題に「日本人ハウスキーパーが見た階級社会の素顔」とあり、帯に「英国ベタ誉めはもう沢山!」とある。なかなか面白そうではないか。

内容は、著者がリドリー・スコット監督の家でハウスキーパーをした数年を中心に長年イギリスで暮らした経験を書いたリアルな英国生活体験記なのだが、スタンスが思ったよりも中立でもう少しエキセントリックなものを期待したボクにはちょっと大人しかった。
が、イギリスのいろんな問題点が一般人の目からきれいに浮き彫りにされており、日本という社会の良さをそれなりに見直す契機ともなる。サッチャー政権に対する批判もかなりしつこく展開されていて、ちょっとサッチャーの政策を調べ直してみたいなぁと向学心をくすぐられたりもした。

1998年4月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 時事・政治・国際 ,

LV1「東京見おさめレクイエム」

横尾忠則著/朝日新聞社/1600円

東京見おさめレクイエム
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視点や良し。日々変わって行ってしまう東京を「見おさめ」ようという。江戸川乱歩「青銅の魔人」の銀座、太宰治「犯人」の吉祥寺、吉行淳之介「大きい荷物」の田園調布…、などなど、その本や映画に描かれた東京を見おさめ、レクイエムをおくろうというのだ(そういう主題にまったく乗っ取らない章もあるが)。しかも著者ならではの霊的な視点もずいぶん入っている。

が、不満なのはそれぞれのものへの突っ込みがあまりに足りないこと。朝日新聞でのコラムだったらしいから字数など制限はあったろうが、それにしても題材がいいだけに読者としては非常に消化不良、欲求不満が溜まるのだ。惜しい。

1998年3月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「東京観音」

荒木経惟+杉浦日向子著/筑摩書房/2200円

東京観音
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アラーキーが写真を撮り、杉浦日向子が小文を書きながら東京の街の姿と観音像を巡っていく。その企画にまず拍手。

相変わらずアラーキーの視点がいいので飽きない。彼に撮られると観音様も急に人間味を持ち出すから面白い。杉浦日向子の文もいい。妙に色気がある。アラーキーに触発されている感じ。

という風に至極面白かったんだけど、この二人のそぞろ歩きであるならばもっともっと濃厚な構成でないと読んだ気がしない部分がある。もうお腹いっぱいってくらい写真と文を載せて濃厚きわまりなく構成してくれてこその二人だと思うのだが。ちょっと欲求不満が残るかも。

1998年3月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集 ,

LV5「寂しい国の殺人」

村上龍著/シングルカット社/1800円

寂しい国の殺人
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1週間ほどこの本を毎日読んでいた。1回30分程で読めるから持ち歩いていた。

「イン ザ・ミソ・スープ」の随筆版とでも呼ぶのかな。
物語に昇華していない分とてもわかりやすいテキストとして時代を読み解く鍵になる。居眠りしがちな問題意識を揺り起こすチカラがここにはある。今のボクにこの本に書かれていることがたまたま合致したということもあると思うけど。

「イン ザ・ミソ・スープ」を読んで現代に生きるということはどういうことなのかについて考え込んだ人には是非この本も読むことを勧める。

1998年2月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , エッセイ

LV3「わからなくなってきました」

宮沢章夫著/新潮社/1300円

わからなくなってきました
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名著「牛への道」で初めて知った著者の最新エッセイ集。
といっても97年の5月に出ているのでホントに最新かどうかは知らない。

相変わらずの新鮮きわまりない切り口。でんぐりがえった視点。まわりくどくこだわり続ける文体。それらが期待通りの面白さに昇華され存分に楽しめる。が、そういう面白さを読者側が望み作者がそれをかなえようとすればするほどマンネリに陥っていく。またそう陥りやすい系統の面白さなのだ。IQが高い笑いにありがちなことなのかなぁ?
ファンとしてはいまのままの宮沢節をずっと読み続けたい気持ちと、新しい境地を見いだして欲しい気持ちの板挟みになってしまう。著者にとっても分岐点ではないだろうか。

1998年1月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「新しい歌をうたえ」

鈴木光司著/新潮社/1300円

新しい歌をうたえ
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「リング」「らせん」の作者の初エッセイ。
エッセイを書くのに必要な才能として「自慢するのが上手であること」があると思う。嫌味にならず反感も買わず上手に自慢すること……たとえば玉村豊男や林望などはたいへん上手である。

この著者ははっきり言ってわりと下手。内容は悪くない。つぶりたい目を無理やりこじ開けるような強烈なメッセージも入っている。そのうえ題名もなかなかいい(とても共感する)。なのに、自慢下手なせいで全体がちょっと微妙な空気になってしまった。ちょっと残念かも。

1997年12月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「マンタの天ぷら」

松任谷正隆著/二玄社/1300円

マンタの天ぷら
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ユーミンの夫にしてアレンジャーにしてCGTVのキャスターでもある著者のはじめてのエッセイ集(ちなみに愛称がマンタ)。

期待しないで読んだ。で、前半は「ハ? やっぱりね、こんな程度かな」って感じだったけど、後半、実にきっちり取り戻したのである。筆圧の弱い文章でなんだかふわふわしているのだが、結果的に気持良く読了した。この人の持ち味なんだろうなぁ。慣れてくるとどんどん自分が出てくるタイプ。慣れるまではどうにも自分が出せない感じ。
だから最後の方はちゃんと体臭まで匂ってくる感じで楽しめた。ほとんど私生活が聞えてこないユーミンについての描写もボクには面白かった。

1997年11月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「ホーソンの樹の下で」

林望著/文藝春秋/1524円

ホーソンの樹の下で
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久しぶりに抑えた筆致で書き込んでくれた林望の本格随筆。
著者はこのところわりと軽くエッセイすることが多かったのだが、これをボクはとても残念に思っていた。背筋ののびたしっかりした随筆を書ける数少ない作家だと思っていたからである。
が、今回は題材も文体も切り口も著者ならではのもので、随所で読者をうならせ刺激を与えてくれる。これでエッチでお笑いな題材についても抑えた筆致のまま書いてくれていたらかなりの名作だったのになぁ。そういう題材のときだけ、照れてしまうのか、なんだか急に筆が軽くなるのだ。惜しい! 

1997年11月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「行きそで行かないところへ行こう」

大槻ケンヂ著/新潮文庫/438円

行きそで行かないとこへ行こう
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3年前に出た単行本の文庫化である。題名通り行きそうで行かない場所に行ってみる旅行記である。

でも思ったよりその場所に意外性がなくてがっかり。この企画の面白さはそこにかかっているというのに! でも「行きそうで行かない場所」ではないエピソード(つまり本筋から離れたエピソード)がわりとおもしろいので許す(例えば元マネージャーに会いに行くところとか)。文体も椎名誠と東海林さだおを足して2で割ったような語り口で、視点はとても宮沢章夫ぽい。そしたら解説を宮沢章夫本人が書いていたのでびっくり。やっぱり編集者もそう思ったのね。

面白いことは面白いがよくありがちなエッセイかも。まぁオリジナリティが出る前の面白くなりかけのオーケン、という感じかな。

1997年11月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV4「私の梅原龍三郎」

高峰秀子著/文春文庫/667円

私の梅原龍三郎
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隠れた名文家・高峰秀子の昭和62年出版本の文庫化。
彼女の良さは客観化がしっかり出来ている平明な視点と含羞の程よさである。そして筋が一本通っている生き方。そう、生き方自体が文章によく表れているのである。

この作品でもそれはしっかり出ている。感動するのは梅原龍三郎との近くなりすぎない距離感。それは彼の死まで変わらない。小説(随筆)的視点と実生活的視点がこれほど近い人も珍しいのではないか。新作が待たれる。

1997年11月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , エッセイ

LV3「父の威厳 数学者の意地」

藤原正彦著/新潮文庫/476円

父の威厳 数学者の意地
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新田次郎の息子であり有名な数学者の著者のエッセイはほとんど読んでいる。これで6冊目。どれも非常に面白い。ウィットに富み、切り口もなかなかに新鮮。年を追うごとに達意の文章になってきて快適だ。
頭の整理が出来ている人の本は時間の密度があがったような感覚があっていいねぇ。旧作を読み返したくなる。まだ藤原正彦を読んだことない人はこの本でもいいが「数学者の休憩時間」あたりから入ったらどうだろうか。

1997年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV0「あなたがいなくなった後の東京物語」

村上龍著/角川書店/1200円

あなたがいなくなった後の東京物語
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「あなた」とは読者ではない。ロンドンにいってしまった「あなた」である。その「あなた」にあてた手紙形式のエッセイ。

「週刊東京ウォーカー」に連載していたものをまとめたもので(だからあんまり東京に関係ないことばかり書いているのに「東京物語」なのね)、一応、映画「KYOKO」を監督する過程を追いながら書いているのだが、はっきり言って内容はスカスカである。この著者に限りこういう肩のちからが抜け切ったエッセイでも読みたいという読者はいると思うからそれをどうのは言わない。ただ単に面白くなかった。それだけ。ウェッブ上にこれよりおもしろい日記エッセイはゴマンとある。

1997年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「星にとどく樹」

舘野泉著/求龍堂/1545円

星にとどく樹―世界を旅するピアニスト
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恥ずかしながら舘野泉を知らなかった。
フィンランド在住の世界的ピアニストらしくピアノ教師をしている嫁などは「エ!?知らないの?」てな反応を示した。う~ん。でももう知ったもんね。副題は「世界を旅するピアニスト」。この副題に惹かれて買ったわけでそんな有名人とは知らなかった。

内容は、フィンランドのこと、演奏旅行のこと、作曲家たちのこと、などのエッセイなのだが、静かな文体でなかなか心地よい。彼のCDでも聴きながら(早速買いました)寝る前にゆっくりこの本の世界に浸るなんて、なかなか贅沢だ。

1997年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , エッセイ

LV5「牛への道」

宮沢章夫著/新潮文庫/438円

牛への道
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論評が難しい本である。
元「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」の作・演出者が書いた、ものすごく新鮮な視点を持ったエッセイなのだが、ひとつ間違えれば単なるうだうだ話になってしまうギリギリのラインを狙っているので、人によって好みが別れるだろう。

ただ、この本は笑える。
クスッとかウハハとかウヒヒとかいう笑いではない。敢えて言えば「グググッ」って笑いである。こんなことに笑ってたまるかと我慢した末に出る笑い。シュールでIQの高い笑いだ。心配なのはこの手の作風はうけを狙った途端に(頭でオチを作り出そうとした途端に)面白さをなくすという点だ。次作がそうならなければいいのだが。

1997年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「本の運命」

井上ひさし著/文藝春秋/952円

本の運命
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実に蔵書13万冊。知る人ぞ知る本の虫、井上ひさしによる本を巡る物語である。

幼い頃の読書体験からついに図書館を作ってしまうまで、本と共に生きたその半生をわかりやすく綴っている。
彼の本は「生きている」のが素晴らしい。単なる収集家ではないのだ。こんな人の手に渡った本達はホントに幸せ者だ。でも本にまつわるエピソードだけの本ではない。人間が好きなことを追って生きていくこととは何なのか、が、ぎっちり詰まった本でもあるのだ。

1997年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「死んでいるかしら」

柴田元幸著/新書館/1600円

死んでいるかしら
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ポール・オースターの訳者として初めて著者に出会って以来、彼が訳した本を見つけたらかなりの確率で読んできた。この著者の訳本はハズレが少ないからだ。そのうえ訳文のセンスも素晴らしい。エッセイも出していて「生半可な学者」はたいへん楽しんだ。

が、しかし、このエッセイはイマイチだ。
中にはなかなか面白いのもある。特に表題作などはいい味だしている。でも玉石混淆すぎる、というのが正直な感想。全く面白くないのも多い。ファンとしてはちょっと残念。

1997年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「勇気凛々ルリの色 2」

浅田次郎著/講談社/1600円

勇気凛凛ルリの色〈2〉四十肩と恋愛
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先月に「勇気凛々ルリの色 1」を取り上げたけど、この「2」は前作以上に充実した内容で読みごたえがある。よくは知らないが、エッセイはこの一本に絞っているのだと思う。そうでなければ書けない切れ味がそこここに感じられる。

オウム問題、沖縄問題、薬害エイズ問題などの時事ものにも独特の視点、「人倫としてどうなのか」という揺るぎない視点から書かれており刮目させられる。エッセイも名手化してしまった著者はいったいどこまでいくのだろう。

1997年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , エッセイ

LV5「勇気凛凛ルリの色」

浅田次郎著/講談社/1600円

勇気凛凛ルリの色
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週刊現代連載の浅田次郎のエッセイ集である。
ただいま絶好調の著者らしくこれもたいへん良いエッセイばかり。並々ならぬ実力をここでも発揮している。視点の明解さ。ボキャブラリーの豊富さ。そしてなにより「少なくとも読者を勇気づけることは、いやしくも言葉で飯を食う者の使命であろう」という言葉に象徴されるような著述姿勢。
もともと連載エッセイ向きな波乱万丈な生活をしている著者だ。面白くないはずがないのである。ちなみに、小説では泣かしは名人だが笑わしは下手であったが、エッセイでは笑わしもなかなか。

1997年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「室内40年」

山本夏彦著/文藝春秋/1472円

『室内』40年
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大変面白い。
著者が「室内」というインテリア雑誌を主宰していることを知らない人がいるかもしれない。その雑誌の40年を語ったインタビュー構成の本だが、著者の「確信犯的脱線」により戦後40年の日本が見事に浮かび上がってくる。昭和時代の語り部として著者は最高の役者なのである。
豊富なボキャブラリーと正確な記憶、平明な視点、批評の立脚点の確かさ。良く出来た芝居を読んでいるような気になってくる。聞き手の女性の素直なつっこみも面白く、ニコニコ読めて勉強にもなる。だいたいが説教口調の著者だが今回はすっとぼけた味が勝っている。

1997年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「ユルスナールの靴」

須賀敦子著/河出書房新社/1600円

ユルスナールの靴
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この人の本は必ず読んでいるが、今回はちょっと肩の力が入りすぎているようだった。
フランスを代表する作家ユルスナールの人生を縦軸に、著者の人生を横軸に、見事に紡ぎ上げてはいるのだが、思い入れが強すぎるのかそれともその構成に縛られ過ぎたのか、ちょっと全体に硬直して感じられる。静謐な文体は相変わらずだけど。
ちなみに出だしの一文は名文でした。

1997年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「クダラン」

中野翠著/毎日新聞社/1400円

クダラン
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ボクが団長を務める「ジバラン」と語感が似ているなぁ。関係ないけど。

その体温、考え方が似ていることもあってかなり無条件に信頼している数少ない人である中野翠の最新コラム集。
主にサンデー毎日・クレアに連載のものを集めたもの。題名通り、くだらないもの、嘆かわしいものに対する怒りの集積だが、そこに平明な知性というフィルターがかかっているだけでこうも痛快になるのか、と実感させる。相変わらずの切れ味で素晴らしい。

1997年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「にんげん蚤の市」

高峰秀子著/文藝春秋/1300円

にんげん蚤の市
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知る人ぞ知るエッセイの名人、高峰秀子による最新エッセイ集。
やさしい目線で鋭く切りつけるその手腕には毎回感心させられるが今回もとてもいいエッセイがいくつか。土門拳や木村伊兵衛のエピソード。中島誠之助という人間鑑定。司馬遼太郎とのついえぬ思い出。歯切れのいい(伝法調)文体で過去、人、想いを削り出す様は、並みの作家真っ青の出来だ。
ただ今回はちょっと散漫なエッセイも見受けられ残念。特にご主人との掛け合いはそんなに効果をあげていなかった。

1997年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「親子三人」

山口正介著/新潮社/1442円

親子三人
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山口瞳ファンとしては彼の親子関係とか普段の生活は覗きみたい。息子である著者がそれを息子の視点で書いてくれるのであれば是非読みたい。絶対読みたい。ということで購入。

言いたいことはよくわかる。でも、「山口瞳の子供でいることがどれだけ辛いかわかってよ、生まれながらに小説の登場人物なんだよ、だから僕はこうなっちゃったんだ」とかきくどく‘言い訳’と‘甘え’がずいぶんつらい。山口瞳を題材にするということは、山口瞳ファンを相手にするということだ。その辺を自覚して‘言い訳’と‘甘え’を出さずにきちんと書いてほしかった。ちょっとみっともない印象を持った。

「喫茶『風琴亭』のころ」という私小説も載せているが、随所に山口瞳の世界を意識して継承しすぎている部分が見られ、これもちょっとつらかった。ちょっと古臭い構成と題材。というか、こういう風に山口瞳と比べられてしまうこと自体のつらさを書いたわけで、うん、よくわかるよ。でもその辺は読者も承知している。大変だろうなと思っている。だからちゃんと書いてほしいと願うのだ。

1997年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 小説(日本)

LV1「孫ニモ負ケズ」

北杜夫著/新潮社/1030円

孫ニモ負ケズ
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どくとるマンボウによる老年エッセイ。
んー……、北杜夫もただのおじいちゃんになっちゃったな、というのが正直な感想だ。
どくとるマンボウにはずいぶんお世話になったので甘い評価にしたいが、この本は「北杜夫著」でなければなんの魅力もないただのジジイのろけエッセイかも。30分ほどで読み飛ばせる量で1000円もするし、挿絵もやけに軽く(ちょっとファンシー系)、馴染まない。文体も構成も往年の切れ味がない。なんだか辛かった。無理にこういうものを書かないで、ゆっくりゆっくりイイモノを書いてほしい大作家なのだが。

1997年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「海風通信-カモガワ開拓日記-」

村山由佳著/集英社/1900円

海風通信―カモガワ開拓日記
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千葉県の鴨川に住む著者の毎日を綴ったエッセイ。
写真やイラスト(著者)もふんだんできれいな本だが、いわゆる「田舎生活ってこんなに素晴らしいよ」本の域をそんなに出ていないのが残念。ちょっと全体に甘ったるくファンシーなのもボクの趣味ではない。わりと地に足のついた生活をしているのだからもっと浮つかずに書いて欲しかったな。それだけの力量がある著者だと思うし。
ちなみに「手作り味噌の作り方」はとても参考になった。

1997年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「ライオンは寝ている」

大貫妙子著/新潮社/1700円

ライオンは寝ている
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独自の世界を持つシンガーソングライターである著者が、ガラパゴス、南極、アフリカと旅をして書いた紀行文。というかエッセイ。

彼女の歌はなんか人を無口にさせる作用があるけど、この本もそんな感じ。
静かで自然体。ちっともはしゃがない(前半は少しミーハーなところもある)その文章は彼女の静謐な歌のように心地よい。こういう時、ヒトは環境がどうの、と大声で語りがちだが、著者はもっと含羞があって素敵だ。でもひとつ、前書きだけはちょっと説教くさかった。残念。3つの話の中ではアフリカでのエピソードが一番気に入った。

1997年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV1「麦酒主義の構造とその応用力学」

椎名誠著/集英社/1200円

麦酒主義の構造とその応用力学
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シーナによる短編12編。
相変わらずの椎名節だが、そもそも本としての求心力がないので散漫でバラバラ。読んでいてつらい部分があった。

小説を書きつつだんだんエッセイ化していくみたいな構成(またはその逆)が多い。そういう流れは独特だし面白いのだけど、やっぱりまとまりという点で欠ける。ちょっとどうかなぁというレベルの作品も中にまじっているし。筆力も魅力も群を抜いていると思うからこそ、ある程度レベルを揃えて出して欲しいと個人的には思う。

1996年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「私の小さな美術館」

新井満著/文藝春秋/2400円

私の小さな美術館
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著者が長年かけて蒐集した美術品たちを優れたエッセイと共に紹介している、文藝春秋に連載したコラムの単行本化。

美術品と言っても「著者の心を動かした品、思い出に残る品」をそう位置づけているだけなので決して値段的に高いものばかりではない。
でも著者にとっては何者にも代え難いもの達なのだ。これを読んでボク自身の「小さな美術館」に思いを馳せた。誰でも「小さな美術館」をもっている。なんかその回廊を歩きつつお酒でもあおりたくなってくる、そんな本。
なお、著者とは実は会社が一緒なので、共通する体験、共通する知人が出てきたりして、ボクにはそこも楽しめた。

1996年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , エッセイ

LV2「あのころ」

さくらももこ著/集英社/1000円

あのころ
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漫画「ちびまるこちゃん」の、漫画にならなかったこぼれ話を集めたもの。エッセイ。

すごい記憶力をもとにかかれていて感心する。相変わらずほんわかするどい視点でいろんな懐かしい話題を切っていて楽しい。そんな風に作者の感性については毎度感心しきりなのだが、この本に限って言えば「もものかんづめ」をはじめとする3部作に比べると切れ味にかけるかもしれない。ネタを少しずつ薄くのばして書いているような印象を少しだけ持った。ファンならどうぞ。(ファンなら勧められずとも買うか)

1996年11月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「ブラッドベリはどこへゆく」

レイ・ブラッドベリ著/小川高義訳/晶文社/1900円

ブラッドベリはどこへゆく―未来の回廊
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「ブラッドベリがやってくる」と2冊同時刊行された。ちなみに「やってくる」の方は先月書いた。
「やってくる」が小説の書き方指南、好奇心の羽ばたかせ方指南であるのに比べて、「どこへゆく」はいろんな事柄に対するブラッドベリによるエッセイ。「やってくる」よりより饒舌で自慢ぽく、ファンでなかったら辟易ものかもしれない。でもボクはとんでもなく大ファンだし、相変わらず眼からウロコの発想をいろいろ読ませてくれるから、何の文句もない。でもまぁ「やってくる」の方が好きかな。

1996年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「ブラッドベリがやってくる」

レイ・ブラッドベリ著/小川高義訳/晶文社/1600円

ブラッドベリがやってくる―小説の愉快
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副題は「小説の愉快」。創作の秘密をブラッドベリ自らが語るエッセイ集である。

ブラッドベリについて今さら語らなくてもいいとは思うが、ボクは「とうに夜半を過ぎて」や「10月の旅人」などの短編集が大好きで、何度も何度も再読しているくらいである。長編「火星年代記」「華氏451度」などよりも短編の方が好きかも。素晴らしいSF作家である。

その小説の発想の仕方からまとめ方、いかにして作家になったかまでいろいろ解き明かしたのが本書で、ブラッドベリ・ファンならずとも読みごたえがある。目からウロコが一杯つまった快エッセイ。なお「プラッドベリはどこへゆく」と2冊同時刊行。「どこへゆく」はいま読んでいるところ。

1996年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「幸田文の箪笥の引き出し」

青木玉著/新潮社

幸田文の箪笥の引き出し
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静かに「日本」を想いやれる小品。
幸田文の愛娘が書いた母親の着物を通した懐古の情であり、古き良き日本の美意識への賛歌でもある。母親への思いは痛いくらい伝わってくるが、この本が普遍性を持つのはその母親の存在が失われつつある日本そのものである点。この美しい世界に日本は二度と帰らないだろう。意識して捨てたとしか思えない。

文体も語彙も誠に美しい。ああ、こんな美しい言葉が日本にはあったんだなぁ、と過去形で思ってしまう自分に愕然とする。
「最後の日本人」……この母娘にそんな言葉を思い浮かべてしまう。幸田文の本を無性に読み返したくなる。

1996年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「魔の島漂流記―ガラパゴス諸島を行く」

畑正憲&ジェルミ・エンジェル著/フジテレビ出版

ムツさん ジェルミ 魔の島漂流記―ガラパゴス諸島を行く
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御存知ムツゴロウさんの新作。
TVでの姿しか知らない人がほとんどなのであろうが、ボクは彼の著作とともに青春を過ごした。ムツゴロウをバカにする人は彼の「青春記」「結婚記」などを読んでからいって欲しい。と、力みつつ、今回は去年の10月にこの欄で取り上げたこともあるジェルミとの共作である。短編が交互に出てくる体裁でガラパゴスをレポートしている。

文体が全く違うだけに最初は読みにくいが途中から文章が心を通わせ合いだすのが醍醐味。テンションが双方同時に上っていく感じ。共著的な甘さもあるが、ボクは好き。

1996年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV5「街を離れて森のなかへ」

駒沢敏器著/新潮社

街を離れて森のなかへ
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知らない世界で知らない仕事をしている人々に会うことで、価値基準の再構築をしていく著者の「フィールドワーク」。

営林署職員、ギター職人、海亀を守っている人、農村を追うカメラマン、気功の先生、本当の京野菜を作り続ける人、電子水の売る哲学者……いろんな職業があっていろんな価値観があって、いったい今ボクらが信じている価値観ってなんなんだろうと思わせる静かな力作。賑やかなだけのTV や雑誌に疲れたらこんな本を持って森に行きたい。そんな本である。

1996年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「新解さんの謎」

赤瀬川原平著/文藝春秋/1600円

新解さんの謎
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ボクも長い間「新解さん」とつきあっていたにも関わらず「新解さん」がそんな人とはつゆ知らなかった…。

「新解さん」とは攻めの辞書「三省堂新明解国語辞典」のこと。もしくはそこに「明解に」存在するひとつの人格のこと。
それを愛を持って分析したこの本はなにしろ面白い。抱腹絶倒といってもいい。辞書を一緒に読んでいくだけでここまで面白く出来るとは。赤瀬川文豪久々のスマッシュヒットである。もちろん「新解さん」自身が面白すぎるからなんだけど。

ただこの本の後半は全く別主題のエッセイになっており、そちらは申し訳ないけどつまらない。でも前半だけで三ツ星クラス。ちなみに我が家の「新解さん」は第3版だった。

1996年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 雑学・その他

LV5「会いたかった人」

中野翠著/徳間書店/1500円

会いたかった人
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のっけから関係ない話だが、ボクは向田邦子がかなり好きで、彼女の言うことなら無条件に信じてしまうところがある。厚かましくいえば、物の見方、その含羞、関心の方向性、基調体温などが似ているから信頼できるのである。他に無条件降伏している人に山口瞳、曽野綾子などがいるのだが、実はこの中野翠もその一人。中野翠の平明な知性をかなり信頼しているのである。

この本はその信頼に足る著者が「関心の方向が似ていてとても他人とは思えない」のにもう死んでしまって会えない人達を書いた本。つまりボクにとっても「会いたかった人」になるはずでとてもうれしい本なのだ。
オーウェルから左卜全、志ん生、露八に夢聲……またうれしくなるようないい選択。いい本である。

1996年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「ニホンゴキトク」

久世光彦著/講談社/1680円

ニホンゴキトク
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「死語」もしくは「半死語」の日本語を悼み、そっと涙を流すといった風情の本。著者独特のおセンチな文体が心地よい。

ただ取り上げられているのは「辛抱」「じれったい」からなんと「さよなら」まで、全然死語なんかじゃないよなぁ、といった言葉も多い。
多分その言葉が失いつつある体温みたいなものと「変わっていっちゃう古き良き日本」とを重ねてとらえ「キトク」と呼んでいるのだろう。だからこの本は「ニホン・キトク」でもあるのだ。

相変わらずの向田邦子フェチぶりを随所で見せてくれるが、ボクもフェチに近いところがあるので、それはそれで気持ちよかった。彼女のことをこういう風に書ける人は著者の他にいないから。

1996年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「種まく人」

玉村豊男著/新潮社/1680円

種まく人―ヴィラデスト物語
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副題は「ヴィラデスト物語」。

林望と双璧の自慢上手、玉村豊男の一年前の本。
何となく今まで読まなかった。他の本でもいっぱいネタにしている新居-ヴィラデスト-が出来るまでの物語だが、「死」を底流のテーマにしている分、他著とは違う。変に読者におもねっていない分とてもいいエッセイになっている。帯に「玉村豊男の人生論」とある。ちょっとオーバーな感じではあるが、生き方、という意味ではとてもよくわかる。内容の濃いエッセイ。

1996年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「リンボウ先生のへそまがりなる生活」

林望著/PHP/1500円

リンボウ先生のへそまがりなる生活
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林望の新作。著者が個人的に嫌だと思うことについてのエッセイである。

世の中全く怪しからん、とご意見老人みたいなへそ曲がり論を繰り出しながら、結局自分をヨイショするという手法に長けていてしかも嫌みに感じないという高等手法を身につけた著者だが、この本は少しだけ嫌みかな(笑)。「ハッハハ」「トホホ」「フーム」など著者がよく使用する合いの手の効果も初期よりだいぶ薄れたかも。面白いことは面白い本なのだが、林望ファンとしてはもう少し奮起を望む感じ。

1996年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「ラブ&キッス英国」

福井ミカ著/講談社/1600円

ラブ&キッス英国―イギリスは暮らしの達人
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著者を知ってます? 実はあの伝説のロックバンド「サディスティック・ミカ・バンド」のミカなのだ。
この本は、彼女が加藤和彦と別れてイギリスのアッパーミドルに嫁に入り、そこも飛び出てあげくの果てフレンチのシェフになるまでを書いた「半生記」。

う~ん、すごい人生。
とはいえ、個々のエピソードはどれも表面的で食い足りない。おまけに英国の話を書きたいのか、自分の生き方を書きたいのか、シェフの話を書きたいのか(巻末にレシピが21も載っている)全然テーマが絞れていない。でもね、なんだか勢いがあって面白い本だった。特にアッパーミドルの生活はよく書けていると思う。英国好きのボクには特に興味深かった。

1996年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 自伝・評伝 , 食・酒 , 音楽 ,

LV5「新入社員諸君」

山口瞳著/角川書店/1150円

新入社員諸君!
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昭和48年に出た本の新装版(96年2月発売)。
だから厳密には新刊とはいえないが、読んでみてあまりに「タメ」になったので取り上げたい。

時代が違うから語っていることもかなりずれてはいるが、その中にもふんだんに真実がある。新入社員なんかに読ませるには高等すぎる。10年選手以上にこそ読んで欲しい名著。初心を思い出して襟を正すこと請け合い。新鮮な気持ちで会社に行ける。

1996年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 経済・ビジネス

LV5「トリエステの坂道」

須賀敦子著/みすず書房/1890円

トリエステの坂道
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ひとを静かな気持ちにさせる須賀敦子の待望の新作。

「ミラノ霧の風景」「コルシア書店の仲間たち」「ヴェネツィアの宿」と、名作続きだし、ボクもとても好きな作家なのだが、今回も裏切らなかった。夜、家族が寝静まったあと、ゆっくりゆっくり紐解きたい本。電車の中で読むなんてもったいなさすぎる。

一見喧噪に満ちて見えるイタリアが、彼女にかかると静謐に満ちた神の地に思えてくる。得難い極上エッセイ。次作をすぐにでも読みたい。

1996年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「エッセイスト」

玉村豊男著/朝日新聞社/1575円

エッセイスト
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まだどちらかというと新進エッセイストとしてはなかなか勇気ある題名である。

エッセイストとはどういう商売か、いかにしてそれになるのか、収入はどうなのか、作者はどういう経緯でエッセイストになったのか…この本は作者の半生記でもあり、フリーライターの内部告発(?)の書にもなっている。エッセイストの内側の企業秘密をいろいろ暴露している本なのだ。作者独特のあの「自慢の一歩手前」という距離感も健在でラクに楽しめる好エッセイ。

1996年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 自伝・評伝

LV5「キジ撃ち日記」

遠藤ケイ著/山と渓谷社/2345円

遠藤ケイのキジ撃ち日記
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「キジ撃ち」とは平たく言って野糞のこと。
この酔狂なる日記は、都会を離れ房総の山中に移り住んだ作者・遠藤ケイが毎朝キジ撃ちをしつつ(作者の家にトイレはない)、その生きざまを素直につづったもの。野糞するためにしゃがむと目線がぐんと低くなる。その低さを保ったまま、地に足の着いた生活を書いている。

目線が低いので、変な環境提言みたいにはなっていない。著者自身アウトドアの専門家やナチュラリストを忌み嫌っていることもあるだろう。普通なら下痢するような木の芽なんぞを食べて、気が向くままにドラム缶風呂に入り…と、もうその生活自体がエッセイしているので行動を読むだけでおもろいおもろい。1993年刊だからちょっと古いけどお勧め。

1996年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「木をみて森をみない」

青山南著/同文書院/1325円

木をみて森をみない
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名訳者のエッセイ集。
ストーリー的にも文学史的にも作家論的にも上手に紹介できないが、おもしろそうなアメリカ小説や映画やコラムなんかを紹介はできるよ、でもこれって「木をみて森をみない」ってことだよね?…みたいな感じの、含羞に満ちたエッセイ集だ。
達意の文はここでも顕在だが、内容的にはもう少し突っ込んで書いて欲しかった。このほんわかした感じはとても好ましいのだけど、やはりちょっと食い足りないかも。

1996年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV4「書薮巡歴」

林望著/新潮社/1500円

書薮巡歴
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著者の書物への想いが切々と伝わってくる好エッセイ。
貧乏学生時代からの書物、学問修行の藪をどうやってかき分けて前に進んだかが詳細に描かれ、ちょっと感動的ですらある。
前作「書誌学の回廊」は書誌学とは何ぞやをわかりやすく書きつつのエッセイだっただけに、筆の歯切れが悪かったところがあったが、この本にはそれがない。格調高い文体の堂々たる好著。特に恩師や先人のエピソードなどよし。
箱入りの装丁もとてもよい。

1995年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「江分利満氏の優雅なサヨナラ」

山口瞳著/新潮社

江分利満氏の優雅なサヨナラ―男性自身シリーズ最終巻
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週刊新潮に32年間もの長きに渡り連載し続けたエッセイ「男性自身」シリーズの最終巻。
絶筆は死の三週間前とか。みずからの死を悟った彼の文章は、しかし少しも乱れず、冷徹で温かくわがままな山口瞳そのものの品を見せている。ボクは彼のことをある種日本の良心と見ているのだが、理由はその「含羞」、その「上品」、その「謙虚」、その「狎れない態度」が今の日本ではまことに得難いからと思うからだ。

この本は、もし今まで山口瞳を読んだことがなかった人がいたら、とりあえず読むのにとても適していると思う。彼のそんな部分が浮き上がって見えるような妙な迫力が文にあるのだ。是非一度読んでみてください。
なんだか山口瞳の死によって昭和がとても遠くなった気がする。(ちょっと年寄り臭い言い方だけど)

1995年11月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「山口瞳大全」全11巻

山口瞳著/新潮社

山口瞳大全〈第1巻〉
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フェイバリットな作家、山口瞳の全集。全十一巻。伊丹十三が題字を書いている。

日本初の市民小説(サラリーマン小説)を書いたと言われている作家である。
名もなき市民を江分利満(エブリマン)氏と名付け、主人公においたシリーズで売れた。その後「居酒屋兆治」「血族」「行きつけの店」や週刊新潮に長く連載した「男性自身」など、地味ながらも一部で熱狂的なファンを持っている。まぁボクもそのひとりではある。

作家の全集を自分のお金でちゃんと買ったのって初めてかもしれない。もちろん全部を通しで読むなんてことは(仕事の忙しさもあって)難しいのであるが、ぽつりぽつりと読むだけでもなかなか楽しい。
ということで、今月は山口瞳ばっかり読んでいたので他におすすめ本がない。この全集は小説はもちろん、広告文案家(昔はこう呼んだ)だったころの彼の作品や、エッセイもしっかり入っているので、著者を偲びながら拾い読みするのに最適だ。

それにしても、堅いようで柔らかく、柔らかいようで堅い、希有なバランスを持った作家だと思う。読んでいて気持ちいい。

1995年11月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , エッセイ

LV3「ジェルミ・エンジェルの野生誌」

ジェルミ・エンジェル著/読売新聞社/1529円

ジェルミ・エンジェルの野生誌
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ムツゴロウ動物王国に7年いてその後も日本に住み続けているジェルミ・エンジェルが書いた「自然とうまく暮らす法」。

海外も日本もよく知っている彼の、環境、地域、自然などに対する問題意識がばんばん脳に飛び込んでくるので、読んでいると日本に住んでいるのが嫌になるが、批判のための批判ではなく心からの叫びが多いから、何とかせねばと思ってしまう。自分の中に眠っている問題意識を呼び起こしてくれる本でもある。
世界中のいろんな動物についてのエッセイも読ませる。

1995年10月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 教育・環境・福祉

LV3「田園の快楽」

玉村豊男著/世界文化社/2548円

田園の快楽―ヴィラデストの12ヵ月
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副題は「ヴィラデストの12ヵ月」。著者が都会から移り住んだ長野県の田園。ヴィラデストと名前をつけてそこで生活を始めたのだが、その豊かで愉快な生活が活写されている。田園での理想の日々が描かれているのだ。テーマ上ちょっと自慢めくのは仕方ないが(特に都会人にはそう響く)、この著者、もともと自慢がうまいうえに(イヤミにならない)、昔より自慢が少なくなった。人もうらやむ生活を鼻持ちならなくなるギリギリの線で書きつつ、以前より客観的に書いている。とても上手だなぁと思った。んでもってたまらなくうらやましい…。
でも、なんとなく「長続きしないんじゃないかな」という予感もする。どうなんだろうか。

1995年10月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 食・酒

LV3「書誌学の回廊」

林望著/日本経済新聞社/1631円

書誌学の回廊
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書誌学なんて普通の人にはあまり縁がない学問なのだが、その面白さをわかりやすく説いてくれ、入口までスムーズに連れて行ってくれる。しかも別に書誌学の解説本に終わっているわけでもなく、そこからいろんな世界へ広げていってくれ、知識を得ることの楽しさまで教えてくれる。うん、たいへん面白い。

博物館に置いてあるあのデザインの悪い日本特有の出版物「古書」。あれって何なんだろ、って思ってる人に新しい世界を開いてくれる本。博物館に行くのが楽しくなること請け合い。

1995年10月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 教育・環境・福祉

LV5「旅をする木」

星野道夫著/文藝春秋/1550円

旅をする木
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アラスカを撮り続けているカメラマン・星野道夫の最新エッセイ。

人を静かな気持にさせるその文体で、今回も極上の時間を提供してくれる。都会でこうして忙しくしている今この瞬間にもアラスカの海では鯨が飛び上がってるかもしれない、そんな「もうひとつの時間」を居ながらにして感じたかったら、星野道夫に限る。ウィスキーと彼の写真集と本一冊あれば、あっという間に目の前に繊細な自然と豊かな時間が流れ出す。

ちなみに、彼のエッセイの中で一番好きなのは「イニュニック」(新潮社)。
彼の写真集はいろいろあるが、とりあえず「風のような物語」(小学館)が良いと思う。

1995年9月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ ,

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