自伝・評伝(99)
「『エンタメ』の夜明け」

amazon副題が「ディズニーランドが日本に来た!」。
ホイチョイ・プロダクションズのリーダー馬場康夫の書き下ろし。日本のエンタテインメント・ビジネスを「始めた人」へのオマージュであり、日本のエンタテインメント草創期の記録でもある。
まず文章がいい。事実との距離のとり方が絶妙。客観的で独白的でハードボイルドだ。たぶん(たぶんだけど)森山周一郎の声を意識して書いたんじゃないかな(笑)。彼が読むとびったりハマル感じ。そんな文章である。変に熱いドキュメンタリーにせず、ちょっと上から硬派かつ冷めた目で俯瞰している。これはたぶん著者自身がこの題材に惚れ込んでいるからこそ、なのだろう。いくらでも熱く書けるからこそ、逆にきっちり客観的に距離を置いた感じ。そしてその手法は成功している。
内容は、小谷正一と堀貞一郎という2人のプロデューサーを軸にしたノンフィクション。
ふたりとも広告会社の電通にいて大阪万博、そしてディズニーランドの立ち上げに関わった。その半生と仕事を丹念に追った上で著者はこう言い切っている。「ディズニーランドの出現ほど、日本の行方を変えたできごとはなかった」と。このちょっと鼻白む結論もこの本を読んだあとだとすとんと胃の腑に落ちる。そして一般的には「無名」であるこのふたりが日本にボディーブロー的に与えた影響の大きさに感動するのである。
あえて言えば、盛り上げたあげくのディズニー誘致顛末を多少端折ったのが残念。そこがこの本の骨ではないとはいえ、ちょっとだけはぐらかされた感も残る。また、小谷正一の記述ももう少し読みたい。特に引退前後からの記述が(資料が少ないとはいえ)もう少し欲しいのも事実だ。
ホイチョイでの活躍を含めて、著者は「時代の空気とそれを作っている人々」が本当に好きなんだろうな。時代の観察者として馬場康夫という逸材を持っている我々はとても幸せなんだろうと改めて思う。
これからエンタメを目指す若手は特に必読。現在普通に享受しているエンタメの裏にある歴史を知りたい人もぜひ読んで欲しい本。
2007年4月10日(火) 19:28:11・リンク用URL
「魂の森を行け」

amazon副題は「3000万本の木を植えた男」。森を作るために植樹を続ける超人・宮脇昭の人生と主張を丹念に描いた傑作である。必読。
どこかの雑誌で「人類は植物に寄生する動物にすぎない」という主張を読んだのがボクにとっての宮脇昭との出会いである。目ウロコだった。確かに人類は植物(もしくは森)を最大限利用して発展してきた。守られもしてきた。なのに植物や森を上から見て蔑んでいる。守ってやる、という不遜な態度すらとっている。このスタンス自体が大きく違っていたのである。寄生する立場なのだ。
その後、数々の植樹活動も知り、急いでこの本を買った。そしてその考え方と実行力に感動したのである。宮脇昭自身、単なる活動家でなく、日本を代表する植物生態学者なのだが、彼の「宮脇方式」による森の増やし方のなんと理にかなっていることか。その土地のもともとの植生に沿った森作り。だから最初の3年ほど手入れしてやればあとは永遠にメンテナンスフリーなのである。日本だけでなく中国やアマゾン、アフリカでも宮脇方式が広まっている。日本では「鎮守の森」にその土地の植生がそのまま残っている。ものすごい勢いで減りつつある鎮守の森を再び増やす活動も彼の目標のひとつである。
信念と行動と狂気の人・宮脇昭の破格な人生をなぞるだけでも刺激になる一冊だが、その発言、実行、そして成果を知るためにも是非読むべき本である。読後、「人間が森と共生することで、結果として地球環境が守られるのだ」というシンプルな構図が見えてくるだろう。木を植える。森を作る(宮脇方式だと5メートル幅あれば森が出来る)。そういったゴールがクリアに見えてくるノンフィクション。
なお、宮脇昭自身「木を植えよ!」という本を書いているが、それよりも先にこの評伝を読んだ方がわかりやすいと思う。
2007年1月30日(火) 12:42:51・リンク用URL
「迷いと決断」

amazonソニー元会長兼CEOの出井氏の本。
副題に「ソニーと格闘した10年の記録」とあるように、社長就任前の仕事歴から就任時の顛末、就任後の様々な苦難・格闘を自伝的に描いている。
世界トップブランド&世界的コングリマットの社長である、という希有な経験をした数少ない日本人であるので、彼の「とはいえ社長ってこんなに大変なんだよぉ」「意外と迷うんだよぉ」「決断も大変なんだよぉ」という経験談はやはり面白い。成功談も多く、優れた経営者であることもよくわかるし、あぁ大変だったんだろうなぁと素直に思う。でも逆に言うと内容がほぼそれだけなのが残念だった。
やはり、ある時期日本が誇った経営者であるだけに、その希有な経験を活かした新しい視点、強い覚悟、世界的な鳥瞰などを明確に我々に与えて欲しかった気がする。まぁそれは他の本で書くのかもしれないが。
2007年1月29日(月) 9:13:31・リンク用URL
「世界の果てのビートルズ」

amazon人口が900万人しかいないスウェーデンで75万部売れたというベストセラー。
素晴らしかった。短編の積み重ねで綴って行く自伝的小説なのだが、そのリアリティと小説的ジャンプとのバランスが良く、自伝のくせに先行きが想像つかないのだ。プロローグ、そして最初の三章を読んで、一回本を閉じた。これは読者自身の想像力を試される本でもある。電車とかで読むのはもったいない。どこか旅先でゆっくり読みたい感じ(まぁ家のベッドで大事に読んだのだけど)。
それにしても活き活きと描かれる村の生活の魅力的なことよ。
フィンランド国境に近いド田舎の村パヤラ。世界の果て。そこで暮らすヘンテコな男たち女たち。少年が起こす事件の数々。サウナと酒と衝撃的体験としてのロックンロール。いまやパヤラはこの本のおかげでちょっとした観光地らしいが、それもわかる。是非とも景色や空気感を共有してみたくなるほどだ。
ちなみに原題ではビートルズではなくて「ポピュラーミュージック」と書いてある(Popularmusik fran Vittula)。でも邦題もなんか詩的でなかなか良いかも。
2006年10月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL
「100歳まで生きてしまった」

amazon100歳以上の老人をセンテナリアンと呼ぶらしい。この本はそのセンテナリアンを著者がインタビューしまわった本である。
インタビューしたのは19人。著者はインタビューしながら、わりと正直に「つまらない」「頭が痛くなる」「何言っているかわからない」など書いているが、読んでいる側も同様で、全体に心躍るものはなく、なんだか老人の戯言につきあわされた思いが残る。センテナリアンならではの知恵や含蓄や到達点が示されるわけではなく、単に100年以上の人生が淡々と提示され、そこに著者自体の人生と感想が重なるだけなのだ。
100歳以上というのはいろんなことがシンプルになってしまっていて、インタビューしてもすべて同じようなものなのかもしれない。センテナリアンをインタビューするからこそ本になるのだが、老人に人生の知恵を語らせるなら、もうちょっと生に色気があるであろう80歳代とかにした方が面白いかもしれない。まぁなんつうか、そんなに得るものがない本だった。
2004年1月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「二列目の人生 隠れた異才たち」

amazon一列目の人生が超有名人の人生だとすれば、この本は二列目、つまり歴史に埋もれた無名の異才・天才の人生を16人取り上げて、短くまとめたものである。
たとえば南方熊楠や牧野富太郎の陰でまるで忘れ去られた市井の植物学者大上宇市をはじめ、島成園、モラエス、中谷巳次郎、西川義方、高頭式、秦豊吉などなど16人。地元でも忘れ去られた彼らに光をあて、丹念に淡々と書いてある労作だ。
もともと無名な素材ゆえ、ドラマにも事件にも乏しいので物語にしにくい部分があったのだろう。かなり淡々。だから、面白いかと言われると「うーむ」である。ただ、妙にせつなくなるし、妙に奮い立ちたくもなる。ある意味「プロジェクトX」を観た後のような感じに近いか。二列目の人生とはつまり「地上の星」なのだ。日本人のありがちな心情から考えると、ウソでも感動物語を作って浪花節的に泣かせて欲しいところであるが、それをあくまでも淡々淡々と書いたところがこの本の魅力でもあり欠点でもある。
2003年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「ヤスケンの海」

amazon2003年1月20日他界したスーパーエディター安原顯(あきら)、通称ヤスケンの評伝。
彼の葬式で幻冬舎社長見城徹が村松友視に「書くしかないでしょ」と言ったのが始まりで、同年5月のスピード出版になった。
著者は中央公論の文芸誌「海」編集部当時ヤスケンの同僚だった間柄で、いわゆる親友。他界後まもなくという動揺や親友であったという心情、そしてスピード執筆という悪環境を感じさせない落ち着いた筆致で読者をヤスケンの世界に連れて行ってくれる。
個人的にはまゆみ夫人や娘さんの描写がもっと読みたかったし、ヤスケンの体臭に近い部分の記述が少ないとも思った。著者との仕事関係を中心とした内容になっているので、ヤスケンの表面的な部分しか浮かび上がってこない評伝になってしまっている。しかも死後評伝一番ノリを目指した出来の荒さもちょっとある。ただ、著者はヤスケンが中央公論にいた頃のエピソードを誰よりも知っているので、その辺の話は実におもしろい。
ヤスケンの人生を追った評伝にしないで、ヤスケン-ムラマツの編集魂血風録みたいな感じにテーマを絞って書いていたら傑作になったかもとちょっと思う。
まぁでも、そういうことを除いても十分な質と量かもなぁ。いろいろ条件を考えると。
ヤスケンの書評は、個人的にもっとも信頼していた。本書の中にヤスケンの言葉としても書かれているが「こと文学・芸術に関しては送り手(編集者)の偏愛以外、頼れるものはない」と考えているヤスケンの書評はまさに偏愛に満ち、ダメな物は心底ダメと切り捨てる刀の切れ味も素晴らしく、その激しさに戸惑いつつも参考にせざるを得ない説得力に満ちていた。あぁあの書評がもう読めないのだなぁと悲しみつつ、彼の一貫性のある半生に感動する。ヤスケンの生き方も、著者の書き方にも、拍手を送りたい。
2003年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
「ビデオで世界を変えよう」

amazonポップアートに憧れて渡米したひとりの日本人女性(著者)が、当時ソニーから出たばっかりだったビデオに偶然出会い、ビデオ・ドキュメンタリーを世界でほぼ初めて手がけ、キューバやベトナムへもビデオかついでアメリカ初取材を単独敢行し、テレビ報道の世界にも多大な影響を与え、夫のジョン・アルバートとともに今日のビデオ・ジャーナリズムを創始し繁栄させたってことを知ってた人〜?と、誰彼なく聞いてみたくなる。
そうか、ビデオジャーナリズムって日本人が始めたんだ〜!と誇らしくなること間違いなしの、彼らの半生の活動記録が本書。つか、へぇ〜の連続。知らなかったなぁ。
誇らしい部分はいろいろあるが、彼らが自分たちだけで開発し取得したビデオ技術や機材を独占せず無料で多くのアメリカの若者たちにワークショップで教えることを長年続けてきたことや、キューバやベトナムといういわゆるアメリカの敵たちの素顔をビデオならではの視点で描き平和に貢献しつづけたことなどは特に感動的。というか、「世界を変えよう」という意志が感動を呼ぶ。ビデオに限らず、どんな手段でも可能なはずだ。そのさりげない意志に感嘆する。
半生記っぽい本なので、エンターテイメント性は特になく淡々としているのだが、これからの人生を考えるに当たってとても刺激になるいい本だった。少なくともボク個人にとって。
2003年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
「ラッキーマン」

amazon言わずと知れたハリウッド大スター、マイケル・J・フォックスの自叙伝。
まぁあれだけのスターなのだから本が売れるのはわかるが、この本がアメリカで大ベストセラーになったのには違う理由がある。著者にとって人生の頂点でもあった30歳のとき、彼はパーキンソン病に冒され、俳優生命もあと10年持たないと告知されたのである。その内情を含め、これからの人生、仕事、家族への思い、闘病生活などが彼のスターな半生とともに語られるのだもの、そりゃ売れるわ。そしてボクも買ってしまった。それほどファンでもないのに。
パーキンソン病に冒されたのに、題名がラッキーマンである理由を彼はこう言っている。
「この病気にならなければ、ぼくはこれほど深くて豊かな気持ちになれなかったはずだ。だから、ぼくは自分をラッキーマンだと思うのだ」。
思い上がっていた大スターとしての生活から一変してどん底へ。そして人生の深みを知りそれを本にする……厳しく言えばとってもありがちな本でもあるのだが、この本がそこらへんのありがちな回顧本と違うのは、文章と内省具合とその後の立ち直り、そしてパーキンソン病への理解と貢献がとてもよく書けているから。これは彼の性格の良さもあるのだろう。
2003年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「私の仕事」

amazon副題は「国連難民高等弁務官の十年と平和の構築」。
そう、あの「日本一格好いい女性」緒方貞子が自分の仕事を振り返って書いた本である。うはーこりゃ激務だー!とビックリする仕事日記や回顧録、各地での講演、若い人達への提言など、内容は盛り沢山。じっくり読んでいくとそれはそれは立派な仕事と主張が散りばめてあり、圧倒されるし偉いなぁと客観的に思う。どういう仕事をしているかを知るためだけでも読む価値はあるかもしれない。特に「はじめに」で書かれている著者の基本スタンスは熟読に値する。
が、偉いなぁと感心していることを前提に、敢えて苦言を呈したい。
まず、学者が書いた本みたいになってしまっていること。国際政治学者や記者向けならこれでいいが、一般向けであるならある程度の噛み砕きは必要。忙しいだろうが、後進や若者のために、いかに意義深くすばらしい仕事かをやさしくわかりやすく書くことに大きな意味があると思う。何人かのトップクラスの科学者が科学用語を使わずに自分の仕事をきっちり紹介し若者たちを啓蒙しているようなことを著者にも期待したいのだ。
今のままではある程度の知識がある人以外とはコミュニケーションしようとしていない文章と言わざるを得ない。読み進めるのに国際政治の広い知識が必要な本であるのが非常に残念だ。また、全体にお行儀が良すぎて、教科書を読んでいるような気分になった。各方面に気を遣いつつ失言を避けて発言しないといけない仕事だということはわかるが、そういう発言を集めて本にしても読む側はいまひとつ乗れない(過去の出来事であるから特に)。「世界へ出ていく若者たちへ」と題された若者への提言の文章もとても硬い。彼女にこそ、自分の言葉で熱く訴えて欲しい。
もちろん、ちゃんと書く時間がないからこうしてまとめたのだろうし、出さないより出した方が著者の仕事への理解・普及になるからいいのであるが、著者だからこそ、期待してしまう。いい本であることを前提としてだけど。
2003年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「三人噺 志ん生・馬生・志ん朝」

amazon中野翠がどこかで「美濃部一家こそ日本のセレブ」みたいなことを書いていたが、志ん生(美濃部孝蔵)とその息子である馬生(清)・志ん朝(強次)の人生を、志ん生の娘である美津子が書いたこの本を読み終わるとまさにその感に満たされる。
落語の世界そのままのどん底貧乏長屋生活を送った志ん生の半生を中心に、美濃部親子の人生が淡々と綴られている。貴重な話も笑えるエピソードもいろいろ出てくる。ゆっくり味読するにたる実に魅力的な本だ。ラストの志ん朝の死の場面では涙を通り越して嗚咽を漏らしてしまった(←歳ですな)。
中身とは直接関係ないが、口絵の写真を何度見ても見飽きない。特に志ん生。こんな顔のジジイになりたいと熱望する。無理だろうが。
2002年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL
「ダライ・ラマ自伝」

amazonさて、ダライ・ラマが書いたものに対して、ボクが好き嫌いを言うことが許されるのかどうか。彼の深遠も深淵も神園もなにも理解していない(であろう)このボクが。 これって例えば聖書に好き嫌いを言うようなことなのかも、ってちょっと思ったり。
でもまぁ正直に言おう。
彼の半生を彼とともに追っていく旅は面白かった。チベットの姿にも触れられたし彼がどう世界を見ていたかもよくわかる。が、ボクは「自伝」という題名からもっと深い思想みたいなものに触れられると期待していた。それはこの本からは見つけられなかった。そういうことだ。淡々と半生を語っていくその淡々さこそ彼の深遠さかもしれないが、そのわりには精神論や祈りもたまに語る。そこらへんはちょっと中途半端な感じなのだ。
ダライ・ラマ関係の書物は3冊くらいしか読んでないが、外から語る彼の実際の方が、読み物としては面白い。史実・史料としてはもちろん貴重。
2002年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「不肖の息子」

amazon副題が「歴史に名を馳せた父たちの困惑」。
偉大な父と、そういう父を持ってしまった息子(たいていがしょーもない)の人生を集め、ざっと鳥瞰した構成だ。
「ジョー・ケネディとその息子エドワード」「エジソンと息子トーマス・ジュニア、ウィリアム」「カポネと息子ソニー」「ヘミングウェイと息子グレゴリー」「ロックフェラーと息子ネルソン」……。
著者は淡々と必要最低限の事実を並べて父と息子の人生を追うのだが、それが実にいいリズムとペーソスを生んでいる。いろいろ突っ込みたくなる出来事満載なのだが、中途半端に突っ込まない態度がこの本をいいものにしている。すごすぎる父を持った息子の人生、というとなんか特殊な例のようだが、これだけまとめてそういう例を読んでいくと、人の生のある普遍が見えてくるのもおもしろい。
2002年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「ユカリューシャ」

amazon副題は「奇跡の復活を果たしたバレリーナ」。
著者は東京バレエ団のプリマ・バレリーナで、この世界では有名な人。題名のユカリューシャはロシアにおける著者のニックネームだ。
著者の、バレエに賭けた半生の記である。
バレエとの出会い、ソ連のボリショイ劇場での日々、ボリショイのプリンシパル・ダンサーであるニコライ・フョードロフとの結婚、出産、致命的なケガ、復活の「ジゼル」…と、話の前後がたまにわからなくなる部分があるのだが、劇的な人生が冷静な主観で書かれており、とても興味深い。バレエを真剣に観た回数が少ないボクにも内容はわかりやすく、また、もっといろいろ観てみたい気にもさせる。
著者は謙虚なので苦労の部分はそんなに大仰に書いていない。が、日本人ダンサーがボリショイで踊ったりするには並大抵でない苦労があったはず。半生を振り返るに(といっても著者はまだ35歳だが)いい思い出しか浮かばなかったのかもしれないが、ドロドロした内面にもう少し踏み込んでくれたなら、この本はもっとコクのあるものになっていただろう。その辺がちょっとだけ物足りない。
2002年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「ファッキン ブルー フィルム」

amazon著者の個人サイトで毎日つけられていた日記を元に構成された本。
元の日記にはなかった描写も出てくるが(そして元の日記にあった描写が削除されているところもあるが)、基本的には日記そのままのノンフィクション。田口ランディの「アンテナ」はこの著者をモデルにしている。で、この日記の一部を無断使用して盗作判決を出されてた。様々なすれ違いがあったようだが、この本のあとがきは田口ランディが書いておりベタ褒め。発売段階(01年4月)では問題はまだ顕在化してなかったらしい。映画化も進行中でありいろいろ話題の本である。
著者はバイセクシャルでSMの女王様(つまりS)を仕事としている。
読み始めてすぐ、SMクラブに来るノーマルでない客たちの描写に驚愕し引き込まれる。そして著者の彼女や彼氏とのエロい日常を楽しみ、キワモノ的日常を売りにした本と自分の中で位置づける。が、読み進むに従ってそんな低いレベルの本ではないことに気づいていく。そのへんの進行が自然で見事。そのうえ、日記なのにせつなくも美しい結末まで待っている。脚色的に構成したのではないとはいえ、一編のよくできた小説を読み終わった気分。ただものではない。
なにより著者の人間に対する視点が近来になく心地よい。それを意識して演出してないところに震える。素の言葉でここまでやられてしまうと小説家は立場がないだろうな。読後、ちょっとした人間愛に包まれつつ、なんというか「いつ死んでも一緒だな」的刹那感におそわれた。ヒトという個がソコニアルカタマリとして見えてくる。オススメだ。
2002年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「"全身漫画"家」

amazon人気漫画家江川達也が、その半生とどうやって作品を生みだしているかを自らが語った本である。
「BE FREE」「まじかる☆タルるートくん」「東京大学物語」「ラストマン」など、ヒットを連発する漫画家が自らその創作の目的ややり方を明らかにしたいう意味では、ファンにはたまらない本かもしれない。ボクもファンの端っこにいるので、それなりに楽しんだ。
ただ、帯にあるような「超人気漫画家の発想はわれわれとどこがどう違うのか」とか「彼の創造の源泉はどこにあるのか」とか「江川流売れる漫画の極意満載」とかみたいなのを期待すると裏切られるだろう。
取材・執筆・構成は別の人(鈴木隆祐氏)がやっていることもあって、きっちりそこら辺まで詰められた本にはなっていない。江川達也自身が一人称で自分のアピールを書くのと、誰かが三人称で評伝・評論として書くのの中間を選んでしまったことがちょっと中途半端に終わってしまった要因かな。これではインタビュー記事以下にしかならない。インタビューにおけるインプロビゼーションすら起こらない。ちょい残念。
2002年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「舌づくし」

amazon季刊誌「四季の味」での著者のコラムを集めたもの。
すべてのコラムが料理や味の思い出に収束しているから一見食べ物が主役の本のように思えるがさにあらず。テーマは確かに「味」ではあるが、ある時はメインディッシュになり、ある時は付け合わせになり、ある時は調味料になり、著者の半生というお皿を様々に彩る役目しか得ていない。であるから、味エッセイと括ってしまうと的を射ないことになる。というか、そう括ってしまいたくない魅力に溢れた名エッセイ集だ。
フルブライトで留学し、毎日新聞社を経てサンデー毎日の編集委員などを歴任した著者は、とにかく経験豊富。世の中の見方も一元的ではなく、たいへん「大人」である。そしてまたそれを静かで味わい深い文章に託せる筆力を持つ。菊池寛賞や日本推理作家協会賞、新潮学芸賞などを受賞しているのもうなずける文章力。一読魅了されてしまった。
ほとんど半生記に近い構成である。このエッセイを読むことで著者の半生は浮き彫りにされてくる。淡々とした名文で綴られたそれは季節と味と様々な人生が交錯して飽きさせない。決して派手ではないが、着飾らない素朴で滋味溢れる食事をしたあとに感じるような深い満足感。折に触れ読み返したい本になった。
2002年2月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL
「怒りのブレイクスルー」

amazon不可能と言われた青色発光ダイオードの画期的発明で、いまノーベル賞に最も近い技術者として著名な著者が書いた半生記と日本告発の書。
彼はいま日本を捨ててカリフォルニアに住んでいる。胸が圧迫されるような閉鎖感に満ち満ちた日本で、その状況を疑いもせずサラリーマンとして働き続けた半生、徳島の片田舎の小さな会社でたった一人で成し遂げた数々の研究開発のブレイクスルー(現状打破的飛躍)、会社とのケンカ、報酬の少なさ、そして、日本への絶望と海外雄飛……ノーベル賞に最も近い男と言われるにはちょっと記述が幼く、構成もスッキリしてなく、イイタイコトも分散してしまってはいるが(編集者の責任だと思う)、彼の心の奥からの怒りは真っ直ぐに伝わってくる。
彼ははっきり書いている。「外から眺めてわかったこと。それは、日本がむしろちっぽけで、くだらない国だという事実でした。社会の価値観も画一的。しかもそれを無理矢理に押しつけてきます。人を見かけで判断し、肩書きが幅をきかせています。民主主義が機能せず、真の意味の自由はありません……」 そしていま著者は会社を相手に20億円の賠償訴訟を起こしているらしい。
確かに例えばイチローの技術に対する対価に比べて世界的発明の対価はお話にならないくらい低すぎる(特許料2万円のみ!)。企業は技術者を優遇すると言いながら搾取しかしていない現状。著者はむしろ温厚な家畜的サラリーマンであった。その著者をここまで怒らせてしまった日本というシステム。
著者も、そして例えばイチローも、日本というシステムを憎んでいる。もう日本には帰ってこないだろう。同じ時期に読んだ「コリア驚いた! 韓国から見たニッポン」と共に、かなり落ち込まされた。が、著者の本意は「もっと怒れ!もっとキレろ!」である。諦めてしまうことこそ、一番愚かな結論なのだろう。
2002年1月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
「セブン・イヤーズ・イン・ジャパン」

amazon副題は「僕が日本を愛した理由」。
名古屋グランパスで大活躍し、日本人に忘れ得ぬ思い出を与えてくれたストイコビッチ(愛称:ピクシー)の自伝である。活字が大きく文章量も少ないので1時間もあれば読めてしまう本だが、ピクシー・ファンなら充分楽しめる本であろう。ボク自身そんなに頻繁にJリーグを観る方ではないが、ピクシーはなぜか好きで彼のプレーはわりと追っていた。そういう意味ではボクにはわりと楽しめた本である。
子供の頃の話や、日本に来てからの様々な出来事への感想も親近感を持って読めた。ただ、彼しか書けないことはきっともっとあったはずだし、日本に対する言及も表面的でありがちな内容だし、読み終わっての残尿感がかなりあったことも事実。サッカーの本質、Jリーグへの提言、W杯の彼なりの捉え方、などなど、もっと腰を据えてしっかり書いてもらいたかった。
2001年12月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「16歳のセアラが挑んだ世界最強の暗号」

amazonEU青年科学者大賞を暗号の研究でとった16歳のレディの顛末記というか自伝というか(数学的説明の一部は父親と一緒に書いたようであるが)。
彼女が純粋なる数学的興味のもとに開発してしまった暗号は世界最強の暗号と言われているものを凌ぐ可能性すらあり、暗号専門家の度肝を抜いた。数学との出会いから、その暗号を提出課題にし研究するまで、達意の文章でやわらかく読者を導いていってくれる。文章はとても良い。
特に数学との出会いの辺りは素晴らしい出来。例に上げられているクイズも興味深く、知的興奮に満ちている。ただ「mod」に言及する辺りからかなーり難しくなってくるので、数学音痴としては辛かった。でもそこらの章は読み飛ばしてもなんら大筋に影響ないので、音痴さんでも大丈夫。
原題は「In Code : A Mathematical Journey」。
邦題、オーバー過ぎないか? なんというか邦題イメージほど「挑んだ系ド根性の物語」ではなく、ずっとスマートな物語なので、読者は(邦題のせいで)少し肩透かしを食わせられるところがあるかもしれない。もっとなにげなく成功しちゃうのだ。しかも成功かどうかもまだ判断保留だったりするのだ。
行間から感じられるアイルランドののびのびした教育環境がかなりうらやましい。移行年やアルバイト制度など学ぶべき点はいっぱいある気がした。
2001年11月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り」

amazon約550ページの労作。
「大」労作になるはずだったのに、途中で著者自身飽きてしまい、尻切れトンボで終わっている。それでも労作ではあるのだが、置いて行かれた読者はどないすればいいねん、って感は残る。
慶応三年に7人の偉人が生まれている。
夏目漱石、正岡子規、尾崎紅葉、幸田露伴、斉藤緑雨、宮武外骨、南方熊楠。
彼らの人生をそれぞれ並列に追うことで、近代日本の歩みを解き明かしていこうという野心作で、目の付け所は素晴らしいのだが、どうにもこうにも構造上散漫になっていくし、膨大な原文資料を読み解いていくのが難解であるし、7人という多人数を並列に追う無理が途中からモロに出て来ちゃっているし、緑雨や熊楠はあまり登場しないし、盛り上がりなく時系列的に平坦に読んでいくのが(読者的に)だんだん苦痛になってくるし、で、まぁなんというか、労作なのだが、辛い本になっちゃっているのが残念。
個人的には尾崎紅葉の実際みたいなものが知れたのが収穫。面白いエピソードも多数あり、文学史的にはいい本かもしれない。
でもなー、破綻しちゃっているよなー。著者の筆力ははなはだ評価しているが、ここまでの本を書くのには、少しタイミングが早すぎたのかもしれない。もっと筆力がついてから書いてほしい題材であった。とても期待しただけに、残念。
2001年10月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「精霊流し」

amazonさだまさし初の小説。TV番組「関口宏の本パラ!」での仕掛けに乗って書いた書き下ろしである。
ほとんど自伝と言ってもいい作品で、短編8つからなっているが、どのエピソードも密接に関わり合っており、全体でひとつの作品になっている。8つのエピソードはすべて「死」を題材にしている。そういう意味では8つの精霊船と言えるかもしれない。この本自体が、彼の人生での精霊流しになっているのだ。
期待はしなかった。一部で「泣ける!」「初めて小説を書いたとは思えない」「感動にふるえた!」との評判があったし、中学高校時代にさだまさしをかなり聴いていることもあって興味はあった。ただ、さだまさしは自分の中で封印した過去なので「今」の彼の小説を読むことにちょっと抵抗があったし、照れくさい感じがあった。
結果から言うと、いい本だった。ラストは確かに泣けた。参ったなぁ。実際かなりうまいとは思う。推敲が足りないんだろう、とか、ちょっと自慢めいて鼻につく、とか、ちょいと格好よく書きすぎじゃない?な部分はいろいろある。説明しすぎたりキレイゴトにしすぎたり。でも全体に彼のいい時のいい歌を心を澄まして聴いているような、静かな時が流れる。思ったよりサビを歌い上げず、あっさり書いているのも成功している。表現者としてある意味熟成されているのだ。著者の様々な歌の主題も結果的に解題され、彼の歌をいろいろ知っている人には特に興味深い部分も多いだろう。
読後、さだまさしのCDを無性に聴きたくなる。これは歌の延長なのだ。8曲入ったアルバムなのだ。彼の中では、表現手段として、歌と小説の区別はあまりなかったのだろうと思われる。
2001年10月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「オールド・ルーキー」

amazon副題は「先生は大リーガーになった」。
アメリカの田舎の35歳の高校教師が大リーグの最年長ルーキーになった、という実話を、本人であるモリスともうひとりの著者エンゲルが組んで書いた本。ディズニーによる映画化も決定しているらしい。いかにも映画になりそうなストーリーだからねー。
ま、先生、というところがわりと強調されている分、学園感動ものかと思われるが別にそうでもなく、実は先生であるというよりは「いままですべてに中途半端だった主人公の、野球をめぐる半生記」みたいな趣。学校がからんでくるのは最後の頃だけである(大リーガーになったあと、思ったより生徒たちが登場しない。なぜだろう?登場させたらより感動的なのに…。映画ではもっと絡むことであろう)。
淡々と正直な著者の記述も好感もてるし、いたずらにお涙演出していないところも心地よい。まぁまぁなのだ。でもまぁまぁ止まり。ノンフィクションとしてはいい話しだし、全米でも話題になったトゥルーストーリーらしいが、なんか物足りないなぁ。
2001年9月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「クリント・イーストウッド」

amazon副題は「アメリカ映画史を再生する男」。
親しくさせていただいている芦屋のワイン店「リブ・ゴーシュ」の細谷店長がメールをくれて「私は以前よりイーストウッドを全米No.1(もちろん現役の中で)映画監督と考えていましたが、この本を読んでその思いをより強くしました」と薦めてくれた本。
うーむ。実はイーストウッドをちゃんと追っかけていないヘボ映画ファンなボクなのだが、この本を読んでとにかくイーストウッド作品が観たくなった。つうか、この本を読んでイーストウッドの出演作品・監督作品をすべて見返したくならない人がいるだろうか。実に良くできたイーストウッド評論であると同時に、ハリウッド映画の総括にもなっている名著。
なるほど、読めば読むほどハリウッド映画の「由緒正しき後継者」としてイーストウッドを認めたくなる。逆に、それほどのもんだったっけ?という想いもあるのだが、最近の作品は確かに名演出だし、ドン・シーゲルの流れを汲むB級具合もバランスいい。映画の魅力とはそのB級度合いだと(いい意味で、ね)、肌でわかっている数少ない人なのだろう。
2001年9月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「ビビンバ家族」

amazon副題「それでも妻は韓国人」。
著者が韓国人の妻を持つまでそして持ったあと、のノンフィクションである。
題名が良い。購入動機はそれ。かなりの期待を持って読み始めたが、題名の勢いが本文にはなく、そういう意味では少し残念。
わりとボソボソ語る文章でそれなりに味はあるし、語っている内容も肌で感じた等身大の韓国という感じで好ましいし、赤裸々に綴られた妻の姿や姑との確執もよく伝わるし、なかなかいい本なのだが、題名の勢いを潜在的に求めてしまう分、全体に弱く感じるのが難。
内容的に「妻が韓国人」というところに留まっていて、もっとビビンバ的に「混ぜた方が美味しくなる感じ」のところまで突っ込まれていないのも惜しい。混ぜた結果どうなったのか、のところまで書かれていないのだ。やっぱりビビンバみたいに混ぜてこんなに美味しくなりましたー!という結論が欲しい気がする。
2001年7月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL
「ピカレスク 太宰治伝」

amazon三島由紀夫伝「ペルソナ」、川端康成&大宅壮一伝「マガジン青春譜」に続く、著者三部作らしい。
著者の本は初めて。評判が高いのは知っていたが、なんとなく粘着質っぽいのが苦手で避けて通っていた。けど本作は、中学時代にあそこまで凝ったダザイの評伝なので、期待して読んだ。
かなりな労作。太宰の本質を外堀からじわじわ埋め込んでいくその粘着質さはさすがなもの。というか評伝ってこのくらい粘着質じゃないと無理だよねー。
「井伏さんは悪人です」という太宰の遺書の謎を解くことが一応の終着点なので、井伏鱒二の本質にもかなり斬りこんでいて、個人的にはそちらの方が興味深かった。肝心の太宰については、期待した以上に詳細かつ突っ込んだ描き方になっていて(特に前半生)満足はしているが、後半生の彼の心の動き、特に自殺間際の心の動きがいまいち見えてこないのが残念(わざとそうしたのだとは思うが)。
全体に、客観と主観が入りまじり、ちょっと不思議な空気感になっている。膨大な事実の積み重ねに基づく客観と、著者の太宰に対する主観が同程度に混ざっているので、どこまでが事実でどこまでが著者による演出なのかが見えにくい。評伝だからそれはそれでいいのだが、事実の多さに惑わされて、読者は著者の太宰観を絶対的に受け入れざるを得ない感じ。
いや、それはそれでいい。そういう本だから。でも、なんというか、テレビで見る著者の論法そのままだよなーと思って。ちょいと高圧的な「これでもお前は反論するのか!」を感じさせる感じ。ま、面白かったからいいのだけど。
2001年7月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「それがぼくには楽しかったから」

amazonLINUX(リナックス)の生みの親、リーナス・トーバルズの自伝。
共著のデイビッド・ダイヤモンドと章ごとに交代して主観と客観を上手に使って織り上げた構成。まだ31才の男の自伝、しかも(皮肉な意味ではなくて)得意の絶頂にいる男の自伝なわけで、なんというか嫌味な部分もあるんだけど、この著者、やっぱり根が「オープンソース」なのだろう、自分を「たいしたことがない単なる素材」と扱って「どうとでもこの素材にパッチを当ててよ」って感じが(そのままでないにしろ)随所に感じられる。最初の1/3はちょっと嫌味な部分もあったが、だんだんその感じが読者側にじわじわ伝わってきて、最後にはなんとなくファンになってしまう。そんな感じだ。
オープンソースの演説な場面は(個人的には勉強になったが)ちょいと冗長。ま、世界11ヵ国語に翻訳されるらしいし、話題のスーパースターだから大ベストセラーは間違いないだろう。注目されるスターの自伝としては、うまく凌いだ、という印象。Mac派には辛い言葉も出てくるが、読後思わず「LINUXを導入してみたい」気持ちになったことも白状しておきます。
2001年7月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL
「高峰秀子の捨てられない荷物」

amazon冒頭の文章が素晴らしい。あのまま行ったら傑作であった。
いや途中まではかなりイケルと思っていた。が、途中から著者の対象(高峰秀子)に対する過剰な愛と、自己憐憫的自虐表現が鼻につきだす。いったいこの著者は読者に「高峰秀子」を伝えたいのか「著者の対象に対する赤裸々な愛」を伝えたいのかわからなくなる。評伝なのであれば困った展開だし、著者の自己満足であるならちょっと中途半端。著者が勝手に盛り上がってしまって読者が置いて行かれる状況が続く。この本を買った読者は著者の自虐が読みたいわけではない。高峰秀子の人生が読みたいのだ。そこらへんを著者はごっちゃにしているのではないだろうか。
高峰秀子自身の傑作「わたしの渡世日記」の続編たるべきエピソードに溢れてはいるので、彼女のファンにはそれなりに楽しめる。上手に対象をあぶり出しているなぁと感じられる所も多い。
筆力も構成力もあるのに、惜しい。つうか、もうちょっと対象と距離が離れてから書いた方が良かったかもしれない。近ずぎる対象を書くのは手練れでも至難のワザであろう。
2001年6月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「放浪の天才数学者エルデシュ」

amazon先月読んだ「フェルマーの最終定理」が面白かったから今月も数学者ものを探した。そこにちょうど新刊。藤原正彦の数学に関するエッセイ(「心は孤独な数学者」とか)はほとんど読んだりしていたから、もともと好きなのかもね、数学者噺。
で、エルデシュ。ファインマンなみに変人として有名な人だけあって、エピソード満載。そのエピソードを追っているだけでめちゃくちゃ面白い。ここまで破天荒な人も珍しい。これだけの素材、上手に扱えばそのエピソードだけで人は読む。
が、「フェルマーの最終定理」は数学がわからない人でも楽しく読めるのに対して、この本は中盤かなり数学的に突っ込んだ記述もなされていて、それが辛い人には辛いかもしれない(辛い人=ボク)。
このぐらい突っ込まないとつまらないという人もいるかもしれないが、その論がエルデシュと遠いところでなされているのが問題だ。エルデシュ周りの定理とかなら読者ももっと我慢しただろう。最終定理を解いたアンドリュー・ワイルズに対する記述もかなり出てきて、個人的には先月とうまく繋がって面白かったけど、もう一息って感じの本。
2000年7月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「岡本太郎の世界」

amazon自分を「異化」したい、と、切実に思う今日この頃。岡本太郎の芸術にたどりつくのは必然であったのだろうと思う。
「芸術は気持ち悪くあるべきだ」という彼の主張が、この歳になってやっとわかってきた。理解できてきた。ずっと「ただ美しくあればいい」と思ってきたが、違和感なくしてなんの芸術であろう。見ている人の心を異化し、そこに二次的ななにかを生み出すこと。技術に頼った芸術や安易な感動を呼ぶアートとは一線を画す岡本太郎の凄み。彼のすごさを味わうなら、この本は過不足なく出来ていると思う。
この写真集&研究書&伝記を熟読した後、車窓から太陽の塔を眺める機会があった。年月が経ち、妙に景色と同化してしまった太陽の塔。これは太郎の意思と反するのだろうな、と妙な感慨を覚えたのである。
2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「聖の青春」

amazon1998年、わずか29歳で他界した天才棋士村山聖(さとし)の伝記である。
「本の雑誌」で茶木氏が「今年一番の大感涙物!」とベタ誉めしていることもあって読んだが、感涙を目的にするという意味ではイマイチであった。泣けない。ただ、ネフローゼという難病に冒されながら憑かれるように将棋にのめりこんでいった彼の青春の日々はボクの心に確実に何かを残したのだと思う。読み終わってからも妙に彼が脳裏から離れない。彼が生きた大阪は福島界隈をそぞろ歩いてみたくなる。彼が毎日食べた定食を食べてみたくなる。そんな感じ。
著者は彼と親交のあった将棋雑誌編集長。こなれた文体で外から内から村山聖をしっかり活写している。労作。
2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「ロケットボーイズ」

amazonNASAの元技術者が書いた自伝。
全米でベストセラーを記録し、映画にもなった(邦題「遠い空の向こうに」)。アメリカの田舎の炭坑町で、ロケットに憧れ、ロケットを飛ばすことを夢見た高校生たちの実話である。
ソ連のスプートニク打ち上げで宇宙開発に一歩後れをとったアメリカの当時の雰囲気や田舎の炭坑の様子が活写され、劣等生たちがロケットを飛ばす夢をどうやって叶えていったか、ちょっと「アメリカン・グラフティ」みたいな雰囲気の中、清冽に描かれていく。ケネディの時代、夢が夢であった時代、そんなノスタルジィもあるのだろう、ちょっときれいに描きすぎているきらいはあるが、登場人物たちが魅力的なこともあって(父や母や先生たちといった脇役のキャラが立っているのだ)、飽きさせない。淡々とした筆致で静かに物語が進むさまも好感が持てる。
歌い上げている自伝は基本的に苦手であるが、題材がとてもいいのだからもうちょっと歌い上げても…と思わせる感じがこの本にはあった。また、キーになるロケット技術の描写を端折りすぎているのも気になる。読者はかなり興味を持って読んでいるので、例え少々専門的になろうとも、もうちょっとでいいから描写してほしかったと思うのである。
2000年5月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「食の女」

amazon副題は「食のプロと呼ばれる女性十人の生きる知恵」。
岸朝子、今田美奈子、本間るみ子などの著名な食の女(ひと)を生き方、そしてその半生をさらりとルポタージュした本だ。
読めばその人の大ざっぱな半生や考え方は知れる。それはそれでこの本の目的は達しているのだと思う。十人の中に無名な人もいるから、そういう意味では総花的にその人を紹介せざるを得ないのもわかる。字数が限られているという事情(雑誌の連載コラムをまとめたものらしい)もわかる。それらをわかった上で書くが、その総花的さ加減がやっぱり物足りない。手のひらでさらりと撫でるだけなら履歴の域を出ない。食の女ばかり十人インタビューしたのだから、あるテーマを持って(たとえばそれは「なぜ食なのか」でもいいし「男社会を生き抜く辛さ」でもいいし「プロ根性」についてでもいい)掘り下げて欲しかった。
求心力があまりなくて、さらりと他人の半生を読まされて、読み終わっての印象がほとんど残らないのが残念。
2000年2月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
「炎の仏師 松本明慶」

amazon運慶・快慶を越えると噂される天才仏師の存在をご存知だろうか。
京都の仏師松本明慶。
彼のドキュメンタリー番組を撮ったテレビスタッフが書き下ろしたその半生と語録、である。頭で考えた温室の言葉ではなく、まさに彼本人の経験に基づいた野性の言葉。直接的に胸に響いてくるこの言葉たちが非常に興味深く面白い。
檜山秀樹が取材し、かぜ耕士が構成執筆した本。そう、昔の深夜放送ファンには懐かしい名前ですよね、かぜ耕士。いまはドキュメンタリー番組の構成作家をしているだけあって、本の構成も見事だし、文章もナレーションを読んでいるようにすぐ頭に入ってくる。この本に残念な点があるとすれば写真が少ないこと。明慶師の彫った仏像の写真がもっとふんだんに使われているとずっと楽しかったと思う。なお、かぜさんについてはこちらにくわしい情報を載せています。
2000年1月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「のり平のパーッといきましょう」

amazon今年の1月25日に亡くなった喜劇役者三木のり平の「聞き書き一代記」。のり平の言葉がしゃべり言葉でそのまま書かれているのがユニークかつ素晴らしい。そのしゃべり言葉のリズムを読むだけでも儲けモノの一冊だ。
三木のり平に特に思い入れのない人々(ボクを含めて)が読んでもピンと来なかったり面白くなかったりする部分は確かに多いが、その豊富なエピソードから浮かび上がる昭和という時代がとにかく面白いのだ。書かれているギャグとかはイマイチずれちゃっているんだけど、そんなこと読んでいる間はまるで気にならない。
後半の手紙の引用や途中で出てくる芸事に対する一家言、喜劇やネタに対する考え方など、彼でなければ語れない言葉も多く、なるほどこういう人を失ったのだな、と改めて残念な気持ちになる。ひと言で言えば非常に「粋」な本だ。
1999年12月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「路地裏」

amazonあまり語られることのなかった黒征の一生がきっちり本人の口から語られている。
それだけでも個人的には買い。梁石日(ヤン・ソギル)についてはまだ著書を読んでないから思い入れがないのだが、著者ふたりの体臭みたいなものがしっかり匂ってくる対談・エッセイ集で、ボクはとても興味深く読んだ。いや、興味深いなんてもんじゃない。かなり刺激を受けた。
文章の端々に彼らの根っこが見えてくる。彼らの行き方の骨みたいなものが浮かび上がってくる。「ろくでもない人生」を精一杯「おもしろがって生きている」彼らの背筋の伸び方にうらやみを感じない人はいないだろう。ボクは嫉妬した。でも「まだ間に合う、まだやれる、まだ追いつける」とも思った。黒田征太郎は60歳。20歳以上年上である。20年あったらなんでも出来る。20年後を見ていろよ。久しぶりにめちゃめちゃ前向きにさせてくれた一冊。
1999年9月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「女盗賊プーラン」

amazonインドのカースト制度の現実が肌に迫って感じられる、有名な女盗賊の自伝。
村八分、白昼のレイプ、犬以下の扱い、そして復讐のため盗賊へ…。プーランの半生が淡々と綴られていく。実際にあった話とはいえ彼我の人生の差をいろいろ考えさせられる一冊。文体的にも展開的にも特に際だった物はないからオススメかどうかと言われれば、うーん、だが、その事実自体の衝撃度はなかなかボクの中に重く残った。ただ、インドの投降制度がよくわからなくて最後の方はわりと冷めてしまったかも。
ノンフィクション好きで自分と全然遠い人生を読んでみたい方にはわりとおすすめ、かな。
1999年7月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「コマネチ!~ビートたけし全記録」

amazonしばらく前に出た「新潮45別冊」の文庫化。
松本人志、今村昌平、古田敦也との対談や、映画「HANA-BI」が出来上がるまでのドキュメント(監督手法が面白い)や、吉川潮や中野翠という手練れが書くたけし論や、軍団によるたけし評とか、フォトアルバムや賞罰一覧、年譜など、目一杯「たけし」が浮かび上がる「雑誌」となっている。
対談もたけし論もおもしろいが、やっぱり要所要所で出てくるたけし語録が一番おもしろいし刺激的だ。こうして読んでいるとたけしって「過剰の人」ではなくて「省略の人」なんだな、と再認識。うーむ。
「おいらの好きな小説」という項で1位が「次郎物語」だったのを見てなんだか北野武がよくわかった気がした。実はボクも「次郎物語」が一番かも。ちなみにたけしの2位は「青春の蹉跌」。3位は「罪と罰」。洋画の1位は「フェリーニの道化師」(わかるー!)。洋楽の1位はビートルズの「ドン・レッミー・ダウン」(これまたわかる!)
1999年7月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「ミア・ファロー自伝 去りゆくものたち」

amazonボクはミア・ファローが好きである。
知らない人もいるのかな? 実に素晴らしい映画女優だ。どちらかといえば地味系。真面目系。で自伝を読む限りにおいて本当に地味で真面目で真摯である。でも。でもでも。結婚相手が派手なのだ。一人目がフランク・シナトラ、それからアンドレ・プレヴィン、そしてウッディ・アレン。あ、ウッディ・アレンとは長年に渡る同棲だけど。
で、シナトラやプレヴィンとのエピソードも興味深いが、なんといってもアレンによる性犯罪の赤裸々な記録が書かれているのがショッキングである。文章が静かで達意なのであまりワイドショー的にはなっていないが、十分扇情的。あら、結局告発の書だったの? と、そんなことをまるで期待していなかったボクはちょっと鼻白んだんだけど、個人的にはビートルズとのインドでの共同生活やアレンの監督手法が読めたのが特に面白かった。
ちなみに訳者は椎名誠と渡辺一枝の娘。労訳です。
1999年5月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「熊谷キヨ子最後の旅」

amazon「熊谷突撃商店」の続編。
前作からもう2年半も経つのか、と驚いてしまうくらい主人公のキヨ子の印象は強く心に残っていた。だからすっと物語に入れる。
基本的にはノンフィクションで、女優熊谷真実・美由紀の母の最期をキヨ子の妹・佐智子の視点からじっくり追っている。
やり方は成功していると思うし、前作をきれいに納めたかったのだろうということもわかるが、前作ほどキヨ子の魅力が光っていないのがどうしても弱い。前作に使用したエピソードでもいいから、若い時のキヨ子の魅力をもう一度描き、読者にカタルシスを感じさせながらストーリーを進めて欲しい、と思った。直球だけど、コースもスピードも甘い、そんな感じ。
1999年5月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「五体不満足」

amazon大ベストセラー。
本屋に行くと平積みドサドサ。テレビにも出演してどこでも常に乙武スマイルで、それはそれでとっても喜ばしいことだと素直に思う。
両手両足がない著者が書いた半生記なんだけど、愚痴らない、嘆かない、ハンデを特徴と考える、みたいなプラス思考かつマイペースで生きていく様がストレートに書かれている。大学生なのに非常に文章もうまい。達意の文章だ。なのに読んでいて感じるこの違和感はなんなんだろう。なんだかピンとはりきったピアノ線みたいな危うさを感じる。がんばりすぎてない?
身障者ということで暖かく批評するのは簡単だが、本当にこの本から著者の半生が見えてくるだろうか?
なんというか体臭・体温みたいなものが伝わってこない。内にこもりがちな身障者達へのメッセージでもあるのだろうが、ただ笑顔なだけでは「特殊な性格な例」として片づけられてしまわないとも限らない。そりゃめちゃくちゃ立派よ。立派な本人、立派な家族、立派な周囲、の例なんだけど、そこに読者側として入り込む余地がない。共感しにくい。想像はできるけど。この「想像はできる」という部分をもうちょっと書き込んでより実感をもたせてくれたら、と贅沢を思う。
1999年4月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「Me キャサリン・ヘプバーン自伝」

amazon名実共にハリウッドの女王、大女優キャサリン・ヘップバーンが書いたある女の一生。
努力家なのだな、上巻から下巻に移るあたりからきっちり自伝のコツを掴みだして、非常に文章がうまくなってくる。下巻なんか自伝の文章としては出色なる出来だと思う。
ただ、自分の人生を辿る、という意味よりはよりエッセイに近くなってきていて、この大女優の人生を正確に辿りたい人には不満が残るかもしれない。記録という意味ではね。まぁそれは彼女の死後にでも伝記作家が書くだろうからそれまで待ちましょう。
これだけの大女優なのに、日本ではいまいち人気がなかったんだよなぁ。公開作もすぐに消え、ビデオもそんなに手に入らない。でも、若干の演出やウソはあるにしても、いい人生を送ったよ、キャサリン・ヘプバーン。あの頃の映画のエピソードはもちろん山ほど出てくるので、映画好きな人は読んで損しないと思う。久しぶりに「旅情」とか「アフリカの女王」とか観たくなった。
1999年3月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「日本フォーク私的大全」

amazon60年代~70年代に若者達が持っていた唯一の言語「フォークソング」。
その創世記からずっとフォーク界にいる著者がエピソード満載で書いた「内部から見たフォーク史」である。
高石ともや、高田渡、遠藤賢司など、そのころを少しでも知っている人には懐かしすぎる名前がどっさり出てきて、いつしか読者は中津川フォークジャンボリーの会場にいたりするのである。フォーク大全としながらも著者の半生記になっているところもなぎら健壱っぽくて好ましい。
とにかく知ってる人ほど楽しめる名作だ。コレクターでもある著者のジャケット・コレクションも見事。
1999年3月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「ふるほん文庫やさんの奇跡」

amazonなにしろ「奇跡」なのであるからして、かなりの奇跡を期待するのであるが、本書は裏切らない。まぁ本来の意味の奇跡というよりは「奇」なる「足跡」という感じではあるが。
とにかく面白い。一気に読める。内容はくどくどしているし文章も勢いのみであるが、この著者の場合、その人生・生き方が面白すぎてその他の要素がなにも気にならなくなるのである。
「文庫本のみの古本屋」をまさに波瀾万丈なる半生の後に開き孤軍奮闘する様を著者本人が書きまくっているのだが、約7年間1日240円の食費で過ごしたり、結婚を一回の電話だけで決めたり、愛知から福岡への本屋移転を結婚と同時に即決したり、もうめちゃくちゃ。しまいには給料ももらわず、この本の印税も計画中の文庫本のみの図書館「としょかん文庫やさん」にすべて寄付するという無私無欲。
「全身全霊を尽くす」とはどういうことなのか…。子供の頃読んだ偉人伝の登場人物でなく、同じ時代に生きている人の身近な例として、ボクは初めて知ったような気がする。
1999年2月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「大人のための偉人伝」

amazon直近に読んだ「ふるほん文庫やさんの奇跡」の著者がある意味「偉人」なので、えぇと昔読んだ偉人さんたちってどんなだったかなぁ、と急に興味が湧き、本棚をひっくり返したらこの本が出てきた。故に再読。買ったのはずいぶん前だからいまでは定価も違うかもしれない。
題名通り、大人のための本である。子供たちに偉人伝を独占させておくのはもったいないという考えから書かれている。賛成。リンカーン、エジソン、ナイチンゲール、キュリー夫人、野口英世…久しぶりに読んだら実に面白く、昔読んだ印象と違う人もいた。皆に共通するのは「可能な時間をすべて全身全霊対象物に捧げるその集中力・情熱」だ。それは決して特別な才能ではない。ただ、心を尽くすこと。まぁ「そういう対象物が見つかったラッキーな人々」という冷めた見方をする人もいるかもだが、この人たちはその分野でなくても名をなしただろうな。心を尽くせば対象物も見つかるものなのだ。
そういえばシュワイツァーの自伝は読んだことあるけど、ヘレン・ケラーのはなかったなぁ。子供用に超訳されたのではない実物のそれを近いうちに読んでみよう。
1999年2月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「霞町物語」

amazon帯とか広告で「著者自身の物語」と書いてあるのを読まなければもっともっと楽しめたかも。
非常に良く出来た青春の1シーンなのだが、「主人公=著者」と思って読んでしまうと白けてしまうのだ。やることなすこと格好良すぎる。よく自分でこんなの書けるなぁ、と逆に感心してしまう。含羞がなさすぎてちょっとついていけない部分がある。祖父や親父を描いたところはとってもいい。が、彼自身の描写になると読んでいる方がこそばゆくなってくる。
うまいんだけどなぁ。でもこれは、自分の半生を自分に酔いながら歌いあげる演歌歌手と変わらない。いろいろなエピソードは心に残るのだけど…。
1998年10月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「どつきどづかれ」

amazon今月は中場利一を2冊読んだ。
クスリで著者が捕まってしまい「もうチュンバを読めないのか!」と嘆いたボクであったがなんとか新作を出してくれ、それだけで幸せ気分。そのくらいは著者が好きである。
副題は「岸和田ケンカ青春記」。
岸和田3部作の外伝みたいなものだ。岸和田シリーズのファンにとってはたまらないエピソードが続く。今月もう一冊読んだその3部作の完結編は父親のことを書いたせいかちょっと歯切れが悪いのだが、これは大丈夫。チュンバ節がしっかりよみがえっている。ただ厳しく言えば、昔より考えオチみたいのが少し多くなったかな。しょうがないんだけど。
これからもちゃんと書き続けて欲しい作家のひとり。
1998年8月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「岸和田少年愚連隊~望郷篇」

amazon「岸和田少年愚連隊」3部作の完結編である。
暴力と笑いバリバリのこのシリーズであるが、この完結編は父親のこと・家族のことを書いたせいかちょっと歯切れが悪い。おなじみの登場人物の幼少期やら小学生の頃の著者の姿が読めて面白いことは面白いのだが、なんかひとつ抜けきれていないところがあるのが残念。まぁ気持ちはわかるし、こういう傑作シリーズの完結編が多少ウェットになるのもわかる。収め方としてそっちの方が落ち着く場合もある。でも、このシリーズの場合は最後まで暴力と笑いバリバリで駆け抜けきって欲しかった。あの破天荒なまでの前2作の抜け方がない。うーん、ちょっと残念かな。
1998年8月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「オードリー・ヘップバーン」

amazon副題に「永遠の妖精。その真実の人生を知る伝記決定版!」とある。
ヘップバーン・ファンなら誰しも知りたがる彼女のプライベートが書いてあり、各出演映画でのエピソードも満載。それなりに労作であろうが、残念ながら上下巻を通して読んでも彼女の生身の姿は浮かび上がってこなかった。
エピソードを充実させようとするあまりか、出てくる名前が膨大な数に上り、読んでいる方としてはかなり混乱がある。
ファーストネームとラストネームが混在していたりするのもつらいところだ。また、これは「オフィシャルな(遺族が認める)伝記ではない」らしいが、それならもう少し自由に突っ込めるのではないか、と思われる箇所が多々ある。なんかちょっと中途半端な印象だ。
ボクは周辺情報をかなり掴んでいる方なのでわりと楽しめたが、そうでない人にはちょっとつらいかもしれない。
1998年7月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「わたしの渡世日記」

amazon名作の誉れ高かった著者の自伝の復刊である。
最初の出版が昭和51年であるから、ええと、何年前だ? まぁいいや。とにかく昔の本である。が、その頃から高峰秀子は名手だったのがよくわかる。もともとスターとして生きてきた半生自体が一般人には興味深いものなのであるが、それを抜きにしても実に面白い自伝だと思う。
自分を遠くから眺めおこすその視点がとても心地よい。変に謙虚ぶったり変に偉ぶったりせず淡々とイキイキと自分を語っていく。なかなか出来るもんじゃない。
そして母親との確執も迫真と客観を入り交えて上手に描き切っている。もちろん著者に関わってくる人生折々のスターたちのエピソードも興味深いが、彼らに対する著者の観察眼の鋭さはまた格別。
総じて上質なるエンターテイメントなのである。
1998年6月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「初年兵の沖縄戦記」

amazon第二次世界大戦の沖縄戦で戦った兵隊さんの手記。負傷しながらほぼ奇跡的に沖縄南部戦線で生き残った初年兵の戦記である。淡々と事実を綴っているが、非常に感動的。もちろん文章を生業としている著者ではないのでかなりこちらの想像をたくましくしないといけない部分はある。が、実体験の迫力がそれを補って余りあるのだ。
こういう本を読んだからって「戦争はいけない」などと大声で叫ぶ気はない。ただ、こういう汚辱にまみれた戦争の現場を生の声で聞いておくのは戦争の次の世代である我々の義務でもあるかな、と思う。
1998年5月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL
「私のひめゆり戦記」

amazon沖縄戦の第三外科壕、今のひめゆりの塔がある場所で奇跡的に生き残った著者の手記である。
沖縄出張の予定が入ったボクは沖縄戦についてあまりに知らないのを恥じて、まずこの本を読んだのだが、途中つらくて読めなくなるところが数カ所。淡々と綴ってある分だけ文章の意味は重く心にのしかかってくる。もし手に入ったらぜひ読んでほしい本だ。
ただ、これを読むとわかるのだが、彼女らは立派な戦士であった。女学生だからということで後生の人がお涙頂戴的に「ひめゆり」などと名を付けてたたえたことについてはちょっと違和感が残る。
1998年5月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL
「ひめゆり教師の手紙」

amazon第二次世界大戦の沖縄戦で、「私のひめゆり戦記」の著者である宮良ルリなどと同じ壕にいて女子学生などを指導した教師・玉代勢秀文。宮良ルリと共にガス弾からは奇跡的に助かったがその後消息を絶ったこの教師が宮崎に疎開した妻に送り続けた手紙を中心に、妻がその想いを綴っている。
「私のひめゆり戦記」や「初年兵の沖縄戦記」などと比べるとどうしても逼迫した感が薄いのだが、切々とした想いが静かに伝わってくる。沖縄戦の現実を外から感じることが出来て、これも必読だろう。
1998年5月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL
「サリンジャー」

amazon副題「伝説の半生、謎の隠遁生活」。
高校時代にあれほどのサリンジャー中毒にかかっていなければきっといまのような本好きにはなっていなかったと思うくらいボクはサリンジャーに影響を受けていて、研究書もかなりの数を読んでいるんだけど、そういうボクからしたらこれは「既成評論の単なる焼き直し」であり「新しい発見もなにもない推測本」であり、そのうえ各作品に対する解釈も納得できないものが多いという、なんとも困ったなの一冊だった。ちょっと厳しいけど。
隠遁生活の謎についてはこの本の最後のほうにちらっと著者の所見が述べられているのだが、その「ちらっ」のためにここまで内容を水増しすることはないだろうと思う。全体にちょっと困った。
1998年4月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「スイングジャーナル青春録~大阪編~」

amazonジャズ専門誌「スイングジャーナル」の元編集長がその音楽遍歴を中心に書きつづった青春記。
などと聞くと、音楽遍歴のすごさとか自分のセンスの良さとかをひけらかす内容が想像されるが、さにあらず。平明な文章で実に等身大なる快作に仕上がっている。この等身大というのは実はとても難しい技だと思うのだが、著者は嫌味にもならず冗漫にもならず実に素直にそれに成功している。敢えて言えば、ちょっと笑いをとるのが下手みたいだけど。
ただ、「大阪編」とあるように下巻として「東京編」が秋に発売されるらしいのだけど、「このまま等身大だけで終わるんではないだろうな?」とちょっと心配にもなる。雑誌「スイングジャーナル」の編集長としてのボクたちにない視点も(読者とは勝手なもので)求めてしまうからである。「東京編」が待たれる。
1998年4月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「弔辞」

amazon映画監督である著者が、杉村春子、勝新太郎、田村孟、松本清張、岡本太郎、甲斐庄楠音、絲屋寿雄、横井庄一ら8人の思い出をつづる覚え書き的「弔辞」。
しめやかにはならず、かといって大上段に人物論をうつわけでもなく、とにかく静かに淡々と故人を偲んでいる。
そのひそやかなる風情がこの本のイイトコロだ。ひと事で言えば「枯れている」。8人目の横井庄一だけはシナリオの再録という形を取り異質な扱い。でもこれは一番の「弔辞」かもしれない。
1998年4月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「心は孤独な数学者」

amazonわかりやすい文体とワクワクさせる切り口でいつも楽しませてくれる著者(本職は数学者)が3人の天才数学者の生涯をたどる紀行エッセイ。
取り上げたのはニュートンとハミルトンとラマヌジャン。
ニュートン、ハミルトンはともかく、インドの大天才ラマヌジャンについては初めて知った。それを知っただけでも収穫だ。残念ながらボクは数学の美しさを知らないまま数学を諦めた口であるが(しかも早くも中学生のときに)、こういう本をあの頃読んでいたらまた数学に対する見方が変わっていただろうなぁと残念に思う。ただ、惜しむらくは、紀行文としても数学エッセイとしてもそれぞれ突っ込みが中途半端だ。惜しい。
表題もちょっと疑問。数学者の孤独はわかるのだが、それを表題にするのは違うと思う。著者も数学者だけにちょっとナルシスト的な嫌らしさが匂ってしまう。内容がいいだけに残念。
1998年1月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「マイ・ラッキー・スターズ」

amazon副題が「わがハリウッド人生の共演者たち」。
映画好きにはたまらない本だ。シャーリー・マクレーンが自らの映画人生について、そして数々の共演者たちについて赤裸々に語り尽くしている。ディーン・マーチンに恋したりロバート・ミッチャムと愛の日々を送ったりした日々のいわゆるゴシップ系のネタも面白いが、映画撮影現場でのもろもろの心の動きなどもまたたまらない臨場感で実によく書けている。彼女特有の「霊魂ネタ」はラストに少し出てくるだけなので、その系統にアレルギーのある人でも大丈夫。
彼女はボクのフェバリット女優。そして彼女の全盛期ごろのハリウッド映画も大好き。そのうえ彼女の「アウト・オン・ザ・リム」以来の霊魂系著作もすべて読んでいる僕としては、実に楽しめる本だった。
1998年1月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「天才になる!」

amazon天才アラーキーの初の自伝だそうだ。インタビューでまとめたアラーキーの半生である。
ボクが初めてアラーキーの写真集を買ったのは6年前の「センチメンタルな旅・冬の旅」である。
以来ちょこちょこ買い続けているくらいはファンなのだが、実はその半生など知りたいと思っていなかった。写真で十分だったのである。
しかし読んで良かったな、これは。彼がなぜ極私的生活を写真で追いまくっているのか、ちゃんと秘密が書いてある。要は「時代の奴隷にはならない」ということだったんだな(こんなこといわれても読んでいない人にはなにがなんだかわからないでしょうね。すいません)。ふーん、とかなり共感することの多かった一冊である。
この本に刺激されて、佐藤家では何度目かのアラーキー・ブームである。全集にいま取り組んでいる。これも、面白い。
1997年11月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「ベートーベンの耳」

amazonベートーベンの耳は聞こえていた!
二重構造を持った本で、基本的には著者の難聴者としての半生記。
聴覚障害者の生活を迫真の記述で読ませる。そしてそれと並行して、ベートーベンの耳についての推理が進行していく。
楽聖ベートーベンは実は耳硬化症(著者の病気)であって人の声は聞こえにくくともピアノやオーケストラの音は聞こえていたのだ、ということを自らの経験を元に読みといているのである。たいへん興味深かった。「ベートーベンは耳が聞こえなかった」という史実に何の疑問も挟まなかった自分が情けない。全く聞こえなかったはずがないのだ。
まぁベートーベンに興味がなくても聴覚障害者の実感部分を理解するために読んで欲しい本ではあります。
1997年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「わが夫、大山倍達」

amazon別に極真空手のファンでもなんでもないのであるが、何となく「空手バカ一代」大山倍達の奥さんは彼をどう見ていたのかが知りたくて買ってしまった。なにせ伝説の大山倍達であるからその私生活の実際も知りたかったし。
著者のインタビューをまとめたものだが、本の性格上、ある程度大山倍達ファンが読むであろうことを前提として書いてある。
だからボクみたいな素人にはちょっとわかりにくい箇所があった。でも、大山智弥子というキャラクターがそんなことを全く気にさせないくらい魅力的なのである。そういう意味では全く突っ込みが足りないインタビューで歯がゆいばかり。題材はいいのに構成が悪い典型かもしれない。
1997年10月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「夢を食った男たち」

amazon天才・阿久悠が70年代の歌謡曲界を振り返った快作である。
副題に「スター誕生と黄金の70年代」とあるように、お化け番組「スタ誕」を軸に、花の中三トリオ、伊藤咲子や黒木真由美、岩崎宏美、ピンクレディ、そして都倉俊一をはじめとする仲間たちを描いたもので、歌謡曲という素晴らしい虚構の世界をその鋭い視点で熱く語り尽くしている。
ボクはもともとこの世界が好きだしかなり詳しい。そういう意味で特に楽しめたということもあろう。
が、ちょっと大げさに言えば、これは日本が熱かった時代を音楽で切った貴重な証言集でもあるのだ。まだ戦後という言葉が生きていた時代を、歌謡曲というジャンルがあった時代を、この本で再体験して欲しい。でもあの当時の事情をほとんど知らないヒトにはつまらないかもしれないなぁ。
1997年9月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「ぼくのマンガ人生」

amazon天才手塚治虫の講演を編集したもの。
著者の半生を振り返った前半部も大変面白いが、それよりも子供というものの本質や今の教育への疑問、家庭のあり方に言及した後半がなかなか説得力があって目を開かされる。
特にテレビの子供たちに対する影響を述べた箇所など、参考になったなぁ。彼の漫画と同様、平易な文章でとても読みやすいし、お説教な内容もお説教臭くないところが著者の真骨頂だ。
1997年8月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「本の雑誌血風録」

amazon「哀愁の町に霧が降るのだ」「新橋烏森口青春篇」「銀座のカラス」と続いてきた著者の自伝的青春大河小説の最新版である。
「本の雑誌」の創刊前後、作家としてのデビュー前後のエピソードてんこ盛りで非常に面白い。いつのまにか椎名ワールドに組み込まれてしまった椎名マニアにとっていろんな「既知の事件」の確認にもなり重層的に楽しめる。
が、普通の小説として読むと構成が場当たり的で(それが魅力でもあるのだが)雑な印象が否めない。このシリーズだけはもっと大事に書いて欲しかったのだが。
でもまぁとても面白いです、はい。
1997年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
「警視庁刑事」

amazon昭和63年に退職した名物デカ鍬本實敏(くわもとみとし)をインタビューした傑作ドキュメント。
熟読するほどに感嘆。玩味するほどに悔恨。我々は素晴らしい時代を捨ててきたのである。
そう、これは単なる職人刑事の仕事録だけにおさまらず、「昭和」という人の情が残っていた素晴らしい時代の貴重な証言でもあるのだ。まぁそこまで大上段に振りかぶらなくてもいいけど、とにかく刑事という仕事の本当を知りたい方は是非読んでみてください。ちなみにすべて彼の記憶だけを頼りにインタビューは進んでおり、その記憶のコンピューターぶりにはただ舌を巻かされる。
それにひきかえ、装丁はなんとかならないのか。これだけの内容なのに、地味で古臭いイメージ。若い読者が寄りつきそうもない感じ。
1997年7月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
「ウォルト・ディズニー」

amazon娘を持って以来、急に観る機会がふえたディズニー映画。
ところでいったいどういう人なのだろう、有名だけど本人について何も知らんな、と気になっていたらやっと伝記を見つけた(95年12月初版)。
期待せず読み始めたらこれが面白いの何の。
著者はたんたんと書いているのだが要を得て無駄がない。伝記としてはピカイチの出来だろう。素晴らしい。各映画のエピソードやディズニーランドのエピソードなどファンにはたまらない本ではあろうが、ボクみたいにファンではない人間(どちらかというと嫌い)でも最高に楽しめる一人の精力的な男の人生。まさに今世紀を代表するクリエーターの人生を、あなたも読みたくない?
1997年6月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL
「ジャズと生きる」

amazon「世界のアキヨシ」の自伝。
日本で不当に評価されているこの著者の自伝は前から読みたかった。
文章の方は音楽と違い淡々としていてリズム感もスイング感もないが、その分だけ絞り出すような迫力が出てきていている。ただ時系列的な混乱、唐突に入ってくるエピソード、ジャズへの中途半端な言及、など、読んでいて辛いところはいっぱいある。そこらへんがもう少しこなれていればぐっと密度が濃厚になりいい自伝となったのに悔やまれる。
彼女のビッグバンドジャズは「ミナマタ」などのテーマ性の強さで敬遠していたがこれを機にまた聴いてみたい。
1997年5月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「オークションこそわが人生」

amazon本を読む楽しみに「違う世界を垣間見ることが出来る」があるとするとこの本などその典型。
オークションという今まで知らなかった世界をぐっとボクの人生に近づけてくれた。
TVの「なんでも鑑定団」「ハンマープライス」などの元はすべてこの人にあるといってもいい著者の半生記である。描写にタルイところがあるのは愛敬としてもなかなか読ませる。多分内輪うけ楽屋落ちなどいろいろ罠が仕掛けられているのだろうが、悲しいかな、日本人にはもちろんわからない。
1997年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
「チョコレートを1.2トン食べました」

amazon今年度題名大賞ノミネート作品だな。題名に惹かれて思わず買ってしまった。でもボクなら「チョコレート1.2トン食べました」と「を」を抜くな、どうでもいいけど。
チョコをいままでに1.2トンは食べた69歳のチョコ好きおじさんの半生記なのだが、この人チョコ以外にもいろいろやっていてなかなか興味深い。が、文章が作文レベルなのでちょっと辛い。きっちりした編集者がついてじっくり書いて行ったら倍は面白くなっただろうに。惜しいなぁ。ま、でもなかなか楽しみました。
1997年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
「北大路魯山人」

amazon「食べることが好きな人」なら避けては通れない伝説の巨人魯山人の一生を著者独特の切り返し手法(?)で綴っていく労作。
文庫になった機会に読んでみた。著者は悪意によって書き始めているが最後には尊敬愛慕の情で書き終わっている。魯山人に対する複雑な愛憎が伺えて誠に興味深い。
年代を追っていくという構成ではないので読みにくい部分もあるが迫真の彫り出しでインパクトの強い伝記になった。ただ魯山人のコンプレックスの部分をしっかり捉えて「小説化」したらもっともっと面白くなったのに、と悔やまれる。しかし納得だなぁ。なるほどこういうコンプレックスがこの人を突き動かしたのか…。
1997年4月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「ぼくが地球で会った愉快な人たち」

amazon「極値集合論」という数学の最先端を研究していて、その問題について世界に5人くらいしか話を出来る人がいなくて孤独を感じ、大道芸にのめり込んでいったという破天荒な著者の半生記、そしてエッセイ。
なにしろ11か国語を話し、数学オリンピックでは金メダル。大道芸人であり数学者。そんな彼の書くものだけに登場人物は多士多才でエピソードもそこそこ面白い。
が、これだけ数奇な人生を送ってきた人の書くものにしては「もうひとつ」という印象。読者が期待しすぎるのかもしれないけど、もう少し切れ味がほしかった。
1997年3月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「夢の靴職人 -フェラガモ自伝-」

amazonあんまりフェラガモとは縁がなかったんだけど、この前ニューヨークではじめて買った。ちょっと甲が低いスマートな作り。でも別に感心はしなかったけど…(男物だからか?)
この本を読むと、しかし、フェラガモの靴が無性に欲しくなる。
なんにせよ1代で財を築いた人っていうのはすごいものだが、この人もたいていすごい。そして本当の職人だったのだなぁ。フェラガモ=ミーハーブランドと思っていたボクにとってとても新鮮だった。特に「足を守る」ことにかける情熱がひしひしと伝わってくる。靴はフェラガモが最高、と読み終わる頃にはしっかり洗脳されること請け合い。余計な出費をしたくない人は読まない方がいいかもしれない。
まぁでも普段疑問に感じたことがないこと、すなわち「靴とは何か」という問題点を提起されるだけでも意味のある本だ。
この疑問はこの本で氷解するだろう。そういう意味ですごく役に立った。自伝という意味でもなかなかサジェスチョンに富んでいる。ただ怖いのはこれもフェラガモのふか~い陰謀で、顧客増やしの片棒を担がされているのではということだけ…。
1997年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「ぼくが料理人になったわけ」

amazon月刊「料理王国」の連載の単行本化。
道場六三郎、高橋徳男、井上旭、中村勝宏、片岡護など一流(と言われる)料理人を13人取り上げ、その半生をインタビューして仕上げてある。が、全体を通して散漫な印象はぬぐえない。せっかくこれだけの人達をインタビューしたのだから著者オリジナルの視点で構成し直して料理人像を浮き彫りにして欲しかった。この頃どこにでも転がっている料理人賛歌の評伝で終わってしまっている気がする。
もちろん好きな人には資料的な価値があるのだが。
1997年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「少年H」

amazon独特の細密イラストレーションで知られる著者初の自伝小説。少年がHするお話ではないですハイ。
上下二巻だが全く飽きさせない展開でものすごく面白い。
好奇心の塊(「河童が覗いた」シリーズの、あの脅威の好奇心!)である著者のルーツがしっかりわかる自伝なのだが、それよりもこの本は日本がどのように戦争に傾いていったか、国民はどのように戦時下を生きていったか、そしてどのように終戦を迎えたか、を神戸に住む子供の目で詳しく平明に綴った貴重な記録文学でもあるのだ。それをあの細密画のような描写で書き込んでいってしっかりエンターテイメントしているんだから、スゴイ! 総ルビというのも見識だし1月17日初版というのもうれしい。よし、ここで予言しよう。この本は「NHK朝の連続TV小説」になる!
本屋で上巻の扉を開けてみてください。そこに少年時代の河童さんがいるのだけど、この写真を見るだけで「この本は面白そう」という気になる。いやぁすごくいい顔しているのですよ、これが。
1997年2月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「和菓子屋の息子」

amazon副題に「ある自伝的試み」とあるように、著者自身の半生記でもあるが、戦前戦中の東京下町の姿を実家の和菓子屋の生活を通して具体的に活写した大変ユニークな下町文化記録本でもある。「記録目的エッセイ風半生記」とでもいうのかな。人称もどんどん変わっていくし、記録文と私小説の境が全くないのにとても自然で読みやすく、最後の方など大変叙情的でホロリとくる。
前半はその構成上カタルシスを感じにくく、著者の物としては珍しく取っつきにくいのだが、後半は実に良い。
ボクが東京育ちということも多分にあるのだろうが、読んでいてなんか愛する人が死んでしまうような感情を戦争で壊れていく東京(下町)に感じました。そうか、これは著者の東京に対する「片思い小説」でもあるのだな。
1997年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「亜星流」

amazon副題「ちんどん商売ハンセイ記」。
ここでいう「ちんどん商売」とはCM商売のことで、彼が関わったCMソングの仕事を中心に明るすぎるほど明るく軽く、半生を振り返っている。
著者のポジティブな生き方そのものが面白いのだが、この本は少々表層的になりすぎていて正直食い足りない印象。軽く書き飛ばさないで、じっくり腰を据えて書いてほしかったなぁと思う。CM界の貴重な記録になっただろうに。
1997年1月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「江戸前の男 ―春風亭柳朝一代記」

amazon副題通り、春風亭柳朝の一代記である。
江戸っ子芸人の生涯を描いた傑作だ。
小朝の師匠である柳朝はもう巷から忘れ去られていてテープなんかもあんまり出ていないようだが、読んでいるとどうしても彼の気っ風のいい落語を聞きたくなってくる。いや面白い本である。含羞と見栄と野暮嫌い。そんな天然記念物みたいな江戸っ子のお話を皆さんもぜひ読んでおくんなさい。
ただ後半、著者はちょっと息切れしたのかな。かなり柳朝に思い入れてしまった読者たちにとってはかなり物足りない描写だった。
1996年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL
「自走式漂流記 1944~1996」

amazon小説新潮・臨時増刊「椎名誠の増刊号」を焼き直した文庫オリジナル企画。
編集者としての彼、作家としての彼、監督としての彼、友人としての彼……いろんな角度からシーナを解剖していて、ファンには楽しい一冊だ。
興味深いのは19歳のときに創刊した「幕張ジャーナル」がそのまま載っていたり、高校3年のときに書いた小説(処女作?)が載っていたりすること。特に後者。「赤い斑点のまむしの話」という題名のそれは、並々ならぬ文章力をうかがわせる力作。「完全年譜」や「全自作を語る」など資料的にも良く出来ている。
1996年12月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「この人生に乾杯!」

amazon山口瞳好きの人には大オススメ。
奥さんをはじめ山口瞳ゆかりのそうそうたるメンバーがしっとり、そしてしっかり書き込んだ追悼文集である。
人間は死んだあとの「語られ方」でその人の本質みたいなものがはかれる。山口瞳を語るとき、筆者たちはみなとても静かにそして含羞と品をもって彼を語っている。下品な文章などひとつもない。追悼文に名を借りた自慢話などどこにもない。山口瞳とはそういう人なのだ。
なお、高原西蔵のペンネームで書いていた初期の文章やサントリー広告コピー集なども巻末についている。
1996年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「熊谷突撃商店」

amazon女優熊谷真実・美由紀の母であり、松田優作の闘病を見守った市井の超魅力人、熊谷清子さんの半生を直木賞作家が綴った……などと書くとワイドショー的でイヤだけど、そういう本。
まぁそんなこと知らなくても十分楽しめる痛快実録小説。というか、女優たちや松田優作が出てくると途端につまらなくなるくらい、普通の生活がよく描けている。逆に芸能人関係が出てくると、著者の筆が焦点をなくしてそっちの記述ばかりになり、主人公がどっかに行ってしまうのだ。おいおい。
まぁでも、そういうのを差し引いてもとても魅力的な本だ。あっと言う間に読めちゃう。描写が足りない部分も多々見受けられるが、全体の勢いの方を重視した感じ。なにしろ「突撃商店」なので。
1996年10月 1日(火) 12:00:00・リンク用URL
「ダンシング・オールライフ―中川三郎物語」

amazon駅のそばに「中川三郎ダンス教室」の看板を見たことがある人は多いだろう。この本は、その、中川三郎の半生を綴った本である。
いやぁ、中川三郎がここまですごかったとは知らなかった。中川三郎は日本のヒーローだったのだなぁ。
読み出したら止まらないエンターテイメントとして良く出来ている。おもしろい。でも、これだけの素材を活かし切ってはいない。中川三郎の自著などとダブルところは略したりしているのも残念。彼の本など読んだことない人の方が多いのだから、略さずにしっかり書き込んで欲しかった。力作なのだけど、本当に惜しい。
1996年9月 1日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「TVアニメ青春記」

amazonTVアニメ創世期から現代に至るまでを、アニメのライターとして知らない人はいない作者が書いた自伝兼年代記。
特に創世期の熱い雰囲気に触れたいかたは読んで損なし。
「ジャングル大帝」の脚本や「アタックNO.1」のシノプシスなども収録されており、好きな人にはたまらない本。ストーリーが行ったり来たりして冗漫になったのとアニメへの情熱が空回りして読みにくかったのが残念。希望をいえば、アニメにあんまり詳しくない人が読んでも面白い本に仕上げてほしかった。そういう本が日本には少なすぎる。
中学の頃からずっとペンネームだと思っていたけど「辻真先」って本名なんだって。知らなかったなぁ~。
1996年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「鳥を描き続けた男」

amazon鳥類画家小林重三の伝記。
おもに辞典に鳥の絵を書き続けてきた画家の一生を他の鳥類画家と共に丹念に書いたもの。
扱われる題材が珍しいこともあって飽きはしないが、もっとエンターテイメントに徹すれば映画の原作にも出来る題材だけに、作者の「単に真面目なだけ」の文体が残念。本作りも定価が高くなることを覚悟でもっと図版・写真をカラーで入れてほしかった。なにせ今でも日本一と言われている鳥類画家の伝記なんだから。
こういう知られていない人生を読むのって好きなので、どうせなら徹して欲しかった一冊。
1996年8月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「神童」

amazon戦後の廃墟から生まれた一人の天才バイオリニスト渡辺茂夫の、実際にあった物語を丹念に描いている。
「二十世紀のモーツァルト」とまで呼ばれた彼が7歳で初リサイタルを開き、あのハイフェッツに認められジュリアードに留学……筋を追うのは本意ではないが、著者が取り上げなければ一生知らなかったであろうこの少年の物語は感動的だ。
文章から立ち上がってくるバイオリンの旋律も実に魅力的で、読み終わってすぐバイオリン協奏曲を聞きたくなること請け合い。それも渡辺茂夫のをどうしても手に入れたいと思わせるのは著者の冷静な筆致と効果的な引用が功を奏しているからだ。でも手には入らない。その理由はこの本を読めばわかります。もひとつ渡辺茂夫の体臭みたいなものが書き込み不足で匂ってこないのを差し引いても、三ツ星。
※その後渡辺茂夫演奏はCDとして発売された。
1996年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「お葉というモデルがいた」

amazon副題に「夢二、晴雨、武二が描いた女」とある。あの竹久夢二の一連の美人絵のモデル「お葉」の生涯を静かに追った物語。多淫な悪女という世評に惑わされず丁寧に文献を調べて書いた労作だ。
実際ワイドショー的興味で読み始めたのだが、この主人公がたくましく生きていった時代の描写がわりとよく、とっても明治な気分になった。責め絵の大家伊藤晴雨の絵が見たいなぁ。そういえば団鬼六も同時期この「お葉」の物語を書いていて村上龍が絶賛していたなぁ。読んでみよう。ああそうそう、出来得ればもう少し写真を多く載せて欲しかった。
1996年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「戸板康二の歳月」

amazon中野翠著「会いたかった人」で書いたようにボクは山口瞳に無条件降伏しているのだが、彼の著書の中に繰り返し出てきたのが戸板康二の名前。「ちょっといい話」を書いた人、としか知らなかったし「とさかこうじ」と呼んでいたりして(本当はもちろん「といたやすじ」)非常識きわまりなかったボクなのだがこの本を読むともっと早く知っておくべきだったという後悔で一杯になる。
その含羞、都会的なエスプリ、紳士なる振舞い、そして知性。中野翠ではないけれど生きている内に「会いたかった人」だ。戸板氏を本当の意味で先生と慕っていた著者は悲しみに逆上することなく冷徹に彼を偲んでいて読者を静かな気持ちにさせる。山口瞳もいなくなっちゃったし、本当に昭和が遠くなったなぁ、と老人みたいにつぶやくこの頃なのである。
1996年7月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「星に憑かれた男」

amazonフランスはブルゴーニュ地方の三ツ星レストラン「ラ・コート・ドール」のシェフ、ベルナール・ロワゾーの半生記。
ただヨイショするだけの伝記物ではないところが買い。シェフの成り上がり物語だけでなく、厨房での毎日やチーズ、ワインの仕入れ、ソムリエをはじめとするサービス陣の裏側、ミシュランやゴーミヨなどの取材の実際など、適度な平易さで丹念に書き込んであり、あまりこの世界に興味ない人が読んでも十分楽しめる。
料理についての記述に突っ込みが足りないと思ったが、構成上この方が良かったのかもしれない。知識もつくし楽しめる一冊。
1996年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「僕の父はこうして死んだ」

amazonここでいう父とはもちろん作家・山口瞳のことである。となると山口瞳ファンとしては読まざるをえないじゃないですか。
息子として父の死を書くのがどれだけ大変なことか理解は出来るが、著者も作家のはしくれ、もう少し整理して冷徹に書いて欲しかった。そんなに著者に悲しまれては読んでいる方は入り込めない。編集者のディレクションもまずいのかもしれない。テーマが行ったり来たりするし、同じ描写が多々出てくるし最後の方なんかもうヨレヨレ。もっと時間を置いて冷静に書くべきだと思う。
1996年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「ポワルの微笑み」

amazon「わがパリ料理修業記」と副題にある。現在東京のホテルエドモントの総料理長である著者の自伝。
見習いが最後には見事独立してフランスで星を獲得するまでを書いていて宇田川悟の「パリの調理場は戦場だった」の自伝版とでもいおうか。ロワゾーの評伝「星に憑かれた男」を含めこの3冊を読むとフレンチ業界の通になれること請け合い。
ちなみにポワルとはフライパンのこと。ちょっと題名が気取っているけど、これもご愛敬。フレンチっぽいし。
1996年6月 1日(土) 12:00:00・リンク用URL
「ラブ&キッス英国」

amazon著者を知ってます? 実はあの伝説のロックバンド「サディスティック・ミカ・バンド」のミカなのだ。
この本は、彼女が加藤和彦と別れてイギリスのアッパーミドルに嫁に入り、そこも飛び出てあげくの果てフレンチのシェフになるまでを書いた「半生記」。
う~ん、すごい人生。
とはいえ、個々のエピソードはどれも表面的で食い足りない。おまけに英国の話を書きたいのか、自分の生き方を書きたいのか、シェフの話を書きたいのか(巻末にレシピが21も載っている)全然テーマが絞れていない。でもね、なんだか勢いがあって面白い本だった。特にアッパーミドルの生活はよく書けていると思う。英国好きのボクには特に興味深かった。
1996年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
「お金の思い出」

amazon漫画家・石坂啓の青春記である。
切り口は一応「お金」なのだが、もっともっとお金によったお話かと思ったらそうでもない。お金を切り口にしたユニークな青春記かな、とも期待したがそうでもない。そういう意味では全体にどっちつかずでちょっと中途半端かも。
彼女の漫画では「安穏族」シリーズに好きなのが何作かあるのだが、ボクが好きなのはどれも社会派的な題材の物。ああいうの書かせるととてもうまいので、これからに期待しよ、っと。
1996年5月 1日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「横尾忠則自伝」

amazon副題は「「私」という物語1960‐1984」。
画家横尾忠則のまったくもって面白い半生記。
読み始めたら止まらない。この人のすごいのはこんなに成功してもまだコンプレックスのかたまりで、ふつうの感覚を失わないこと。ものすごい交友関係・アート履歴・精神世界を、そこらの兄ちゃんみたいなさりげなさで書いている。でも逆にこれって大変な筆力がいるんだよね。さすがです。個人の青春記でもあり日本のアート青春記でもある傑作。
1996年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「ビリー・ワイルダー自作自伝」

amazonボクのフェイバリットな映画監督ビリー・ワイルダーの伝記。
「ビリー・ワイルダー・イン・ハリウッド」(モーリス・ゾロトウ著)という伝記が出ているが、それの数倍は面白い。なぜならワイルダーの言葉を著者が紡ぎあわせて構成しているからだ。
ワイルダーは言わずと知れた語りの名手。その言葉の集積だもの面白くないはずがない。でも、これは訳者および出版社の怠慢だと思うのだが、訳注がなさすぎる。日本人の我々には前後関係がわかりにくい事件がたくさん出てくるのだがそれらにひとつも訳注がない。物語の流れも興味もその度に止まってしまう。これは本当に惜しい。というか残念。せっかくいい本なのに。
1996年4月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「僕はこんな本を読んできた」

amazon副題は「立花式読書論、読書術、書斎論」。
本との出会いから、読書論、書斎・書庫論、本の整理の仕方、書評論、読書日記などなど、とにかく盛りだくさん。著者独自の「知の世界」構築のノウ・ハウが散りばめられている。しかも同時にこの希代の知識人かつ強烈な読書人の「半生記」にもなっている。
小説のつまらなさ、ノンフィクションの面白さを実感で語っていて共感させられる。確かに小説家の想像力なんて事実のあまりの異常さの前にはないに等しい。しかし、それにしてもこの人の書斎遍歴は面白い。それだけでも読む価値あり。
1996年3月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL
「さよならバードランド」

amazon副題は「あるジャズ・ミュージシャンの回想」。
村上春樹訳で和田誠の挿画が一杯入っていると言えば雰囲気わかるよね。1950年代のニューヨークで活躍したベーシストの自叙伝で、ジャズの名プレイヤー達の希少なエピソードを淡々と味のある文章で綴っている。ジャズファンにはたまらない本。ボクは読み終わってすぐCD屋に走りビ・バップ創成期のアルバムをいろいろ買い込んだ。とにかくジャズに浸りたくなるのね、この本読んでいると。
てなこと思っていたら!
この本のためのCDがVENUS RECORDから出ているではないか! おそるべし日本の音楽ビジネス業界。
ちなみに、巻末に村上春樹による超詳細レコードガイドがついていて、これだけでもお買い得。
1996年2月 1日(木) 12:00:00・リンク用URL
「檀」

amazonこの本を読んだ人は必ず「火宅の人」が読みたくなると思うのだが、読むとまた必ずがっかりすると思う。もうこの本自体が「火宅の人」の面白さを越えているからだ。
檀一雄の一代記をその二人目の妻ヨソ子を通して語った本書は、フィクションでもありノンフィクションでもあるような不思議な文体で書かれており、読み終わると結局だれにもカタルシスを感じられないもどかしさがある。遠近感がつかみにくいのだ。だがその文体自体がヨソ子の性格を表しており、読者は自然に「ヨソ子による世界」に導かれていくわけで、これはもう達人技と言ってもおかしくないうまさなのだ。
1996年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「エッセイスト」

amazonまだどちらかというと新進エッセイストとしてはなかなか勇気ある題名である。
エッセイストとはどういう商売か、いかにしてそれになるのか、収入はどうなのか、作者はどういう経緯でエッセイストになったのか…この本は作者の半生記でもあり、フリーライターの内部告発(?)の書にもなっている。エッセイストの内側の企業秘密をいろいろ暴露している本なのだ。作者独特のあの「自慢の一歩手前」という距離感も健在でラクに楽しめる好エッセイ。
1996年1月 1日(月) 12:00:00・リンク用URL
「新・放浪記」

amazon真の「自由」を求め続けた著者の半世紀。
『何でも見てやろう』(小田実)や『深夜特急』(沢木耕太郎)を思わせる青春放浪記だが、「とらわれない」ということに関しては著者が一枚上手だ。なにしろ「100%自分のルールで生きること」こそ彼の生きがいだからだ。
そして彼の愛する川下りのように絶えず風景が変わっていく人生を生きている。自分の人生はどうだろう。遠くまで景色が見えちゃってないか。自由の何たるかも知らずに死んでいくんじゃないか…呆然と見つめ直させる力を持った一冊。
1995年12月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL
「ニューヨーク竹寿司物語」

amazonいまではアメリカにも鮨が浸透してきたが、そんなアメリカ鮨界にも先駆者はいる。
東大を出てサッポロビールに勤めた著者が、会社を辞めて単身アメリカへ。そして1975年春、ニューヨークで最初の鮨屋を開くまでを描いた半生記。まさに裸一貫、NYで成功するまでの物語で、一編の青春記になっている。清々しく、楽しく読めた。誰かが「いま東京よりニューヨークの方がうまい鮨が食える」と書いていたが、その店はココらしい。食材を手に入れるのも大変、アメリカ人に理解されるのも大変、といった中、よくぞここまで辿り着いたものである。勇気と根性に敬服する一冊。
1995年9月 1日(金) 12:00:00・リンク用URL
@satonao310